魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第58話 「再開」

 アースラへととある連絡が行く少し前、その時……いや、つい先ほどまでマークは研究所におり、マニュアル片手に四苦八苦していたのだ。

 

「まったく……フェイト達が春休みに入るから、こっちにはしばらく来ないつもりだったのに」

 

 それにもかかわらず研究所に足を向けたのは、施設をしばらくあけるのにいくつかの処置が必要であったからなのだから仕方がない。理由があったとはいえしばらく忙しくしていたのだし、これからはちゃんとフェイト達に向き合っていこうと決意したのだ。

 それを初っ端から邪魔されたため、マークの機嫌はあまりよくなかった。

 

「微妙に覚えのある感覚なんだが……何だったかな?」

 

 処置を終えたらさっさと帰ろうと思っていたマークであったのだが、そこへかつてどこかで覚えた気配を感じ、わざわざ魔王戦で傷付いたままの翼を広げて来たのだが……

 

「何で武器を突き付けられなきゃならんのだ……」

「すみません! でもわたし急いでるんです! 申し訳ありませんが治癒術か……」

「そう思うんなら武器をしまえよ……」

 

 駆け付けた先に居たのは赤毛で青い服を着た少女であり、マークにとって見慣れない妙な武器……銃剣と呼ばれるものであった。

 少なくとも治療を頼む者の態度ではないなと判断し、マークは武器を取る。選んだ武器は『トマホーク』。重量があり扱うものを選ぶが、高威力であり、遠距離攻撃も可能な投げ斧だ。

 

「まあ、何を急いでいるのかは知らないが……とりあえず恐喝・障害未遂でいいか」

「え、ひょっとして役人さんでしたか!? い、いま捕まるのは非常に困ります! 早く妹を止めないと大変なことを……!」

「話は……そうだな、リンディかエイミィあたりにしてくれ!」

 

 早々に聞く気を無くしていたマークは無慈悲に言い捨て、その手にある『トマホーク』を全力で投げつけた。

 

「ちょっ! まっ!?」

 

 ゆっくり話をするつもりはなかったが、かといって戦闘をするつもりもなかった少女は目を見開き慌てて手に持った双銃を両手剣にして受け止めようとする。が、その一撃はあまりにも重すぎた。

 

(うそ! ホントにこの人は人間ですか!?)

 

 自身の不調を差し引いても、さすがにこれは無いと思えるほどの衝撃に受け止めることを諦めて弾き飛ばされるように後方に飛ぶことで何とか受け流すが、それは完全にマークに読まれてしまっていた。

 

「怪我については心配するな。ちゃんと加減するし、治療もしてやる」

 

 相手から離れることもできると思っていたが、いつの間にか接近して『ハルベルト』を大上段に構えるマークをみて、少女は詰んだことを理解しながらも大剣での防御を試みる。

 しかしその防御ごと叩き伏せるかのような衝撃が走り、次の瞬間には意識が闇に包まれてしまった。

 

「……思ったより脆かったな」

 

 そう言えば治療を求めるような言葉を発していた少女がマークの感じた実力に全く届かなかった為『やり過ぎたかもしれない』と冷や汗を流すが、地上に降りて確認すると幸いなことに目立った外傷はなかった。

 マークがほっと一息つきクロノに引き渡そうと通信を開こうとしたまさに時、目的の人物から連絡が入った。

 

「お、いいタイミングだ。今、変なのが研究所の近くにいたから……」

『なんでこんな時に! いや、いい、それは後回しにして八神家に向かってくれ。管制代理との戦闘が発生したらしい!』

「……もっと詳細を言え」

『ああ、こっちも情報をよこしたユーノが戦闘に入ったようで詳細はわかっていないんだ……とにかく、魔王の残した時限式トラップの可能性もあるし、一刻も早く頼む!』

 

 相当焦っているのか、言うべきことを言い終えたクロノはマークの足元に転がっている不審者に気付くことなく通信を即座に切ってしまう。一瞬だけ本当に後回しにしようかなどと考えてしまうマークであったが、せっかく無力化したのだしと、とりあえず担いで現場に向かうことにした。

 

「……体格の割には重いな」

 

 とてもではないが本人には聞かせられないような独り言をつぶやきつつ、マークは『リワープ』の杖を使い、短距離転移を行う。

 この時マークは自分では冷静であると判断していた。管制代理についてはある程度想像できていたし、八神家で事が起こったというのなら周りには守護騎士たちがいる。ユーノもいるとなれば、なのは達もいるだろうから大丈夫であると。

 だが、それは違った。マークは、この世界で目覚めて初めて自分の武器の存在を、投擲したまま回収していない『トマホーク』の存在を忘れてしまっていた。それは無意識のうちにこの件が大事になると感じていた焦りからか、あるいは、その場にいるだろう誰かのことを気にしすぎたためか……本人すら自覚していない感情に答えられるものはいなかった。

 

 

「ちっ、堅いな……」

「……ナンダ、ソノ程度カ?」

 

 シグナムのもう何度目になるかわからない直撃は、突如現れた重厚な全身鎧を装着した男に何の痛痒も与えられなかった。相手の存在が不鮮明であり攻めあぐねているのも事実ではあるが、これ程の守りを持つものはシグナムの記憶にもそういるものではなかった。

 

(主の相談と言うのはこれのことだったのか?)

 

 視線の先にいる守護騎士たちの小さな主はなのはやフェイト、それにユーノと協力して管制代理を務めていたらしい銀髪の青年と戦闘を行っていた。確認をしようにも戦局は劣勢であり、お互いに声をかけるような余裕はなかった。

 

「ヨソ見カ……死ヌゾ?」

「ッ!」

 

 実際はよそ見とは言えない程度の戦況把握であったのだが、この場においては違ったようである。シグナムは鎧の男により高速で突きだされた槍を打ち払い何とか回避するが、その装備にたがわぬ重さに抗い切れずに二の腕に手傷を負ってしまう。

 

「シグナム!」

「シグナムさん!」

 

 体勢を崩すシグナムの援護に入るのは同僚であるヴィータと、なのは達と同じように相談に呼ばれていたすずかだ。だがヴィータの一撃は盾に防がれ、すずかに至っては防御の必要性すら感じられなかったようで甲高い金属音を響かせるのみであった。

 

「たった二人相手にこれほど苦戦するとは……」

「ほとんど攻撃が通らないのが痛いわね……機動力が低いのがせめてもの救いってとこかしら」

 

 傷の治療のために引いたシグナムの代わりにザフィーラが前に出る。その間にシグナムとシャマルは打開策を模索するが、そもそも攻撃が通らないのだから難しいと言わざるを得ない。

 

「あの必殺技みたいのは駄目なんですか?」

 

 そこへ割って入ったのはアリサだ。彼女もまたはやてに相談を受けに足を運んでいたため、この戦闘に巻き込まれていたのだ。

 

「正面からは難しいな。隙を作ろうにも最大クラスの攻撃が必要になりそうだし……この人数では不安が残る」

「それに切り札を切ってしまったら、はやてちゃん達を助けに行くのも難しくなっちゃうし……」

 

 確実に倒そうと思えばシグナムのシュツルムファルケンとヴィータのギガントシュラークの挟撃がベストだが、アリサやすずかを守りながらの実行は困難であった。

 

《管制代理はあの重装騎士を召喚していた……下手に離れると新たに何か召喚される恐れもある》

《すずかちゃんのこともあるわ。あの回避能力はすごいけど、バリアジャケットも着てないし離れるのは不安ね》

 

 かといって後方にすずか達を下げればいいというわけでもなかった。鎧の男ははやて達との分断が役割のようで、下手にすずかやアリサを遠ざけようとすると守護騎士たちをおびき寄せるためそちらを狙って来るのだ。

 

(ともかく増援を待つのが最善か?)

 

 消極的な案ではあるが、増援が見込めるのであれば無理に勝負を急ぐ必要はないと判断したシグナムは治療を終えて再度剣を構えるが、次の瞬間にその案を放棄することになる。

 

「っく!」

「あぶねぇ!」

「すずかちゃん!?」

 

 確かにきわどい戦い方ではあったが、均衡を保っていたはずのすずかがいきなり膝をついたのだ。だが、それも仕方のないことだろう。なのはやフェイトと言う前例を見て守護騎士たちも失念していたのだが、もとより十歳の子供に前線で戦い続ける体力精神力を求める方が間違っているのだ。

 とっさにヴィータとシャマルがフォローに入るが、それはかえって連携を崩すことになってしまった。

 

「くそっ、ザフィーラ!」

「わかってる!」

 

 ザフィーラが即座に前面に出て三人を庇うが、鎧の男の槍を正面から防ぐのはさすがに難しかったようで、防御ごとすずか達のもとへはじき飛ばされてしまう。

 

「紫電―――」

 

 次の一突きで一か所に固まってしまった四人を突かれるわけにはいかないと、シグナムは玉砕覚悟でレヴァンティンを振りかぶり―――

 

「―――ッ一閃!」

 

 鎧の男へと振り下ろした。

 

「……やったの?」

「いや、確かに今までとは違い手ごたえはあったが……」

 

 反撃をせずに防御を固めたのだろうか、決定的な手ごたえまでは無かった。そのシグナムの言葉通り、今の一撃で数メートル後方に押しやられたが、鎧の男はいまだ健在であった。

 いや、それだけではなく、シグナムの一閃は確実にダメージを与えていた。

 

「っ、兜が……!」

 

 そう、今の一撃で鉄壁と思われていた鎧の一部を砕くことに成功していたのだ。だが、そこから出てきたものがまた守護騎士たちに衝撃を与えることになる。

 

「……屍……」

「アア、セッカクノ配慮ガ台無シデハナイカ」

 

 そう屍はその姿を見て青くなる少女を見下ろし、いかにも残念そうに言う。だが、逆に相手の実態を知り歓喜する者もいた。

 

「アンデットが相手なら炎が効くんじゃない!?」

 

 その一言はアリサのものであった。守護騎士たちは知る由もないが、ゲームの知識を咄嗟に言ってしまったのだが、結果としては間違いではなかった。

 屍は特に炎が効果的と言うわけではないが、魔法攻撃に対する耐性は物理防御に比べてそう高くなかったのだ。

 

「ま、試してみる価値はあるか」

「このまま増援を待つよりよっぽど良いな」

「……来イ」

 

 屍は一瞬だけ、炎を使うと聞いて離脱するすずかに目を向けるが、すぐにヴィータとシグナムを迎撃するために構える。次の瞬間には今までのうっ憤を晴らすかのような一方的な戦いになるが、それでも屍は最後まで倒れることなく、合流を防ぐという任を果たすことになった。

 

 

 その一方で、空では戦いとも呼べない展開が続いていた。

 

「プラズマランサー!」

「バルムンク!」

 

 フェイトの雷を纏った魔力弾であるプラズマランサーが管制代理の逃げ道を無くすように包囲するのに対し、それをはやてが魔力で形作った剣で迎撃をする。

 

「はやて!」

「はやてちゃん!」

「ごめん……でも待って! もうちょっと話を……!」

「だから、いくら話したって変わらないこともあるって言っているだろう?」

 

 管制代理を庇うはやてに対し、フェイトとなのはは責めるようでいて何とも言えない視線を向けるしかない。戦いながら少し事情を聴いただけではあるが、管制代理がはやての恩人であるのなら、戦いたくないという気持ちもわからないわけがないのだから。

 だが管制代理の強大な魔力を前に、戦わないという選択ができるほど甘くは無かったのである。

 

「『ミィル』」

「ディバインバスター!」

「先輩! なのはちゃん!」

 

 はやてに先輩と呼ばれた管制代理の放つ球状の闇魔法『ミィル』と、カートリッジを一つ使用したなのはのディバインバスターがぶつかり相殺される。そう、話し合いを望んでいるのははやてだけで、相手である先輩は今更話をするつもりなどなかったのである。

 

「さっきから言っているだろう? 話がしたければ、僕と戦って勝てばいいって」

「そんなの……! 第一、戦いの後なんてない、先輩は命の限り戦うつもりやろ!」

 

 どうやって実体を得たのか、それをはやて達が知る由もないが、よほど特殊な裏技を使っているだろうことはわかる。そしてその体が不安定であることも……

 だから、選択肢は二つに一つ。先輩と積極的に戦って消滅させるか、消極的に戦って消滅させるかである。

 

「やっぱり、説得しようなんてせず問答無用で戦うべきだったかな? ……まあ、君たちが戦ってくれないのなら仕方がない、別の相手を探すよ」

「させません!」

 

 戦線を離脱しようとした先輩をユーノがバインドを使って止める。とはいえ予想されていたのか、左手一本しかバインドをかけることができなかった。

 

「ユーノ君!?」

「ダメだよ……この場で決着をつけないと、はやてが夜天の書を完全に掌握出来てないと判断されるから!」

「ッ!」

 

 現時点でもすでに危うい……否、付け入る点を作ってしまっているのだ。万が一先輩が誰かに戦いを挑むことになれば、どれほどの問題になるかわかった物じゃない。

 

「責任を取るのは……はやてを庇っているリンディさんたちか、あるいはマークさんに責任が及べば、下手をすれば戦争になるかもしれない」

「そんな、何でそこまで……!」

「そうだね……魔王に食われるとき、このままでは死んでも死にきれないと思っていた。何もなさずに死ぬなんて、許されない事だとね」

 

 ユーノの指摘に愕然とするはやてであったが、続く先輩の言葉にある程度同意してしまう。

 はやてだって、魔王に飲まれた時はこのまあ死んでしまうなんて許容できなかった。

 

「こんな僕でも、まだやり残したことがあるんだ」

「で、でも……!」

 

 はやては言葉を詰まらせる。本当は山ほど言いたいことがあるのに、それをうまく形にできない。だが先輩ははやてが言葉を作るのを待つようなことはせず、『ミィル』の闇弾を準備する。

 

「先輩!」

「彼が贔屓にしている子は駄目だろうけど、それ以外だったら大丈夫かな?」

「ッ!」

 

 そう言って先輩はユーノへと『ミィル』を飛ばす。なのはがユーノを守ろうと動き始めるが、すでに準備を終えていた先輩の速度には及ばない。だが、速度に関して言えば、なのはを超える存在が隣にいるのだ。

 

「へぇ、今のを躱せるんだ」

「舐めないで……さっきから、戦えと言う割には本気じゃないんでしょ?」

 

 フェイトの指摘に、思わず先輩が関心の意を示す。しかし、気が付いていたのはフェイトだけではない。なのはだってそのせいで思いっきり戦えていないし、はやては先輩の目的を知っている。

 

「やっぱり、こういうのは向いてないね……仕方がないね、できればこういう事はしたくなかったんだけど……」

「何を……」

 

 そう言って、先輩は黒い光を放つ『なにか』を二十ほど周囲に展開した。それは攻撃力を持つとは思えない小さなものであったが、何とも言えぬ嫌な気配を放っていた。

 

「それは……?」

「これは『闇の欠片』だよ。まあ、ちょっと指向性を持たせて、発動したら戦闘行為を行うように設定したけどね」

「なっ!? 止め……!」

 

 先輩の考えを理解したはやてが止めようとするが時すでに遅く、二十の欠片は海鳴全域へと飛び去ってしまう。

 

「うん、これで僕と戦う理由ができたかな? 一定時間をおいて、もう一度欠片をばらまくと言えばもっといいかな?」

「先輩!」

 

 先輩を責めても、もう遅い。こんなことをしてしまえば管理局も黙ってはいないだろうし、何よりはやて自身も人を傷つけるような行為を許すわけにはいかない。

 

「……とりあえず、連行させてもらいます」

「できるものなら」

 

 ここまで来てしまえば、私情より優先しなければならないことがあると、フェイトがバルディッシュを構える。それに応えるように先輩も構えるが、ここでまた別の存在が介入する。

 

「なっ! バインド!?」

「はぁ~い、王様……でいいかしら? ちょっとお話があるのだけどお時間よろしくて?」

 

 フェイトはもちろんなのは達もバインドで拘束したのは、桃色の髪をした少女であった。さらに手に持った銃剣をなのは達に向け、先輩を『王様』と呼ぶ姿はどこか飄々としているが、その瞳の奥には確固たる意志をたぎらせていた。

 

「……いいだろう。やはり、様式美にはこだわるべきだろうしね。そこらへんに撒いた雑魚を倒してから来るといい」

 

 あまり遅いようなら次を撒いてしまうぞと付け足しながら、先輩は桃色の少女について戦場を去る。抜け目なく地上で戦っていた重装騎士も回収されていたのだから、本当に隙がない。

 あまりの急展開に呆然とするなのは達であったが、それも駆け付けたマークとクロノによって現実へと呼び戻される。

 静かになった戦場で、彼女たちが唯一わかったのは、また厄介な事件が始まったという事だけであった。

 

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