魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第59話 「指針」

 戦いが終わり、アースラではなく月村邸に集まった面々は沈黙の中にあった。だがそれも仕方のないことだろう。彼らは先程の戦いで起こった事を、正確に理解できないような存在ではなかった。

 それでも、皆が黙ったままでは一向に先へと進まない。

 

「……最悪のシナリオとして、管制代理の離反及び暴走という事が確定すれば、リンディ提督が責任を取ることになる。もちろんハヤテもこれまで通りの生活を続けることは不可能だろう」

「……はい」

 

 マークの指摘に、はやては項垂れながらも返事をする。今後先輩の放った欠片が何らかの被害を出せば、この最悪のシナリオへ一直線だろう。

 

「だが、あくまで今回の問題を身内だけで片づけることができたら……」

 

 本局への報告は、せいぜい『身内のケンカであった』程度のものであったとなれば、そこまで大きな問題にはならないだろう。

 幸いクロノとマークが到着したのは戦闘が終わった後であり、管制代理はまだ管理局と事を起こしていないのだ。

 

「でも、そんなことしたら……」

「リスクとしては、失敗した時の罪状が増えるぐらいだな」

 

 そう、もし情報を秘匿して被害を出そうものなら現状とは比べ物にならない重罪だろう。それはかなりのハイリスクもいいところなのだ。だが現状が負けこんでいる以上、一発逆転を狙うにはそれ相応のチップが必要と言うわけである。

 そして最大の問題は……

 

「この手段を選ぶと僕とマークの手はもちろん、アースラの設備すら使えない……分が悪すぎると言わざるを得ないな」

「……はい」

「ちなみに次善の策は、管理局と協力して管制代理を討滅。僕らとはやては相応の罰を受ける……というのが最も危険が少ない」

 

 こちらは現状の負け分のみの支払いで済むが、最初に言われたように今までの生活を維持することはできないだろう。

 

「さて、現状把握は十分か?」

「この賭けに乗るか、それとも降りるか」

「わたしは……」

 

 心情的には先輩を助けたいと思うが、その賭け金がリンディ達の立場である以上容易な決断はできなかった。だが時間は待ってくれないし、一刻も早く決める必要がある。

 だから、はやてが最後の決断を下すための後押しを求めたことを非難すべきではないだろう。

 

「成功率は……マークさんは、もし私たちが賭けに出たとき、どれくらい勝つ可能性があると思う?」

 

 それは希望を振り切るためか、それとも万が一の可能性にすがるためか、本人ですらわからない問いかけであった。

 その選択を人に委ねる問いかけに対し、マークは少し失望しながらも正直に答える。

 

「そうだな……お前とナノハが組めば、大抵の無茶は押し通せるだろうさ」

「……はい?」

 

 つい聞き返してしまったことを責めることができる者はいないだろう。それほどマークの答えははやて達の予想からかけ離れたものであった。

 

「おい、何の根拠があって……」

「仮にも英雄と聖女だぞ? この程度どうにかできないでどうするんだよ」

 

 まるで結果がわかりきっている問題の答えを聞かれたかのような、むしろ『なんでこんな簡単なことがわからないんだ?』とでも言いたげなマークの答えは、反論をする気も失せるような確信が込められていた。

 だが、あまりの気負いのない言葉であったせいか、かえってはやては肩をすかされたような気分になってしまっていた。

 

「……でも、」

「ああ、結局そうなるのか……仕方ない、よく考えろ。管制代理を庇ったことは、ハヤテにとって間違えだったのか?」

 

 なお決断できないはやてに、マークは今回の件の根本を問いかける。はやてとしては、これは否定せざるを得ない。

 

「たとえ何度やり直すことになっても、わたしは先輩を庇ったと思う」

「間違えたなら正す必要があるが、正しいと思っていることを曲げる必要はない。……もちろん無知による決めつけや妄信は良くないがな」

 

 そう言ってマークは席を立つ。ここまで言ってしまえばはやても奮い立つだろうし、そうなればマークとクロノはここに居てはまずいのだ。

 

「まあ、頑張れ」

「え、でも、その、クロノ君……」

「ただのケンカだって言うのなら、さっさと仲直りしてくれ」

「……うん!」

 

 クロノも結局ははやての背を押し、マークに続いて部屋を出る。が、本当に後ははやて達に任せきるというわけではないから出てきたのだ。休暇を取って、個人的に動くつもりは満々であった。

 しかし、それもマークのせいで実行することは叶わなくなる。

 

「じゃあ、クロノはこれを使え」

「……何のつもりだ?」

「こういうつもりだ!」

 

 そう言ってマークはクロノにあるものを持たせて、はやて達の居る部屋へと踵を返した。

 

「あれ、マークさん?」

「いや違う。今から私のことは『シリウス』と呼んでくれ」

「……」

 

 突然戻ってきたマークに目を丸くするなのはの前には、思わず頭を抱えるクロノと、目元を隠す鋼の仮面を装着した自称シリウスが堂々と立っていた。

 

 

「え~と、じゃあマークさんじゃなくてシリウスさんと、クロノ君じゃなくて……そうやね、シロノ君でええか? は、わたしらに協力してくれると思ってええですか?」

「そっち仮面の名前はマルスの方が個人的にはいいんだが……ああ、そう思ってくれてかまわん」

「……せめてシロノにしてくれ」

「っぷく」

 

 仮面をつけただけで正体を隠したと言い張る、あまりの言い訳の適当さに思わず苦笑するはやて達であったが、そのことは一切気にせずマークもといシリウスが応える。その姿がどうやらツボに入ったらしく、フェイトがなのはの膝に伏せてプルプルしていた。

 ちなみにクロノもといシロノは、紺色に金の細工が施された仮面をつけている。

 

「……いいのかよこれ」

「知らん」

 

 そんな中マークの言動にかなり呆れ気味なヴィータたちが小声で話していたが、それもかなり投げやりなものであった。

 

「それで、目標はとりあえず管制代理を捕縛でいいのか?」

「えっと、先輩さんと……あとこっちの鎧の人とピンクのお姉さんを相手にすることになるのかな?」

「あと、闇の欠片ってあの人が言っていた奴だね」

 

 そう言ってなのはとユーノがデバイスに記録していた画像を見せる。マークとクロノは一通り画面を眺め、何が起こっていたのかを把握した。

 

「……先輩とやらの目的がいまいちよくわからないな。はやては何か心当たりがあるのか?」

「それは……」

「ふん、どうせ馬鹿らしい理由なのだろう」

「やっぱり知り合いなの?」

 

 映像を見てから何とも言えない渋い顔をしたマークは、思うところがあったのかつい茶々を入れてしまう。そしてそこを指摘されてしまえば、もう知らないでは済まされないだろう。

 

「……戦友の友人程度の知り合いだ。言葉を交わしたのは、片手の指で足りる程度しかないな」

「え、敵対しとったって聞いたけど?」

 

 それははやてが先輩から聞いていたマークとの関係。先輩は私欲により魔王を蘇らせてしまい、その末に隣国の王族に打たれたという事と、その王族とマーク等マムクートが協力関係にあったという話だ。

 

「間違ってはいないが……そもそもハヤテの言う先輩も皇族で、隣国とは同盟関係にあった。幼少のころは共に学ぶことがあったと聞いている」

「マークの戦友がその隣国の王族で、その王族とはやての先輩が友人、か……」

 

 それが魔王の復活と共に戦争がはじまり、最終的にはマークの戦友……後の『碧空の勇王』が魔王を討ち終戦となった。

 

「正直、話を聞いた限り皇帝の資質は皆無と言っていい甘ちゃんだ。今回のことも深慮遠謀があるとは思えん」

「……昔のことは知らんから何とも言えへんけど、今回の目的は『ちゃんと終わらせること』って言うとったよ」

 

 その内容は先輩の消滅を前提としたものであったこともあり、はやては詳細を聞くことなく拒否してしまったのだが、現状を鑑みると聞くだけ聞いておけばよかったと悔やまれる。

 

「理由がなんであれ捕縛するのに変わりはないし、適当に痛めつけてやれ。欠片も何が起こるかわからないし……ハヤテとナノハの二人で速攻で終わらせろ」

「では、我々は鎧の方を……」

「いや、ヴォルケンリッターには闇の欠片とやらの対処を頼みたいから、そっちはスズカに譲ってくれ」

「えっ!?」

 

 その振り分けに思わず一同がマークの正気を疑う。先程の戦いでは、すずかの剣は鎧の男を傷つけることができなかったのだから、その反応も当然だろう。

 

「自分の弟子を死なせる気か!?」

「いや、スズカの回避能力ならフォローできる奴を一人置けば充分だろ。そもそも『マーニ・カティ』ならあの守りを貫くのは可能だぞ? すずかの力を考慮すれば……数字で表現したらわかりやすいかな?」

 

 自分も鍛錬に付き合ったためか、シグナムもマークに怒鳴り詰め寄るのだが、涼しい顔で受け流される。

 

「えっと……あれの物理防御が大体30位で、スズカは基本20程度だけど、さっきも言ったように『マーニ・カティ』は特別だ。ちゃんと使えばあの手の相手には35程度の威力が見込める」

「じゃあ、アタシやシグナムはどうなんだよ! アタシらだって騎士なんだ! 剣を始めて一年たたない子供に劣るなんてありえねーだろ!?」

 

 ヴィータ達とて全力でこそなかったが、手を抜いていたわけではないのだ。それなのにすずかならダメージを与えられると聞いて、内心穏やかでいられるはずがない。

 

「えっと……ヴィータならグラーフアイゼンを持った素の攻撃力は35に届いてるぞ? ハンマーなら鎧を切らなくてもダメージは通せるから実質アレに対する効果は50は越えるとも言える」

「は?」

「まあ盾で防がれている以上、ダメージにならないのも道理だがな」

 

 つまり当たっていれば大ダメージは見込めたという事なのだが、うまく防がれていたという事だ。今までの敵と違い一切バリアを使われなかったので、なぜかダメージが通らないと錯覚させられてしまったのだろう。

 魔力を一切使わない武技に、完全に翻弄されてしまっていたというわけだ。

 

「ちなみにシグナムのレヴァンティンは30程度と鎧の防御力とほぼ互角で、ザフィーラが25位かな?」

「ほう、ちなみにマークの攻撃力はどれほどなんだ?」

 

 最初のすずかの数値には疑問が残ったが、続けられた数字には妥当性を感じたシグナムは興味深そうに尋ねる。

 

「ん~、俺……じゃなくて、マークの場合は武器によってだいぶ変わるからな……お気に入りの『ハルベルト』ならば、40位かな? もっと頑丈な武器ならもう少しいくだろうがな」

 

 物理攻撃においては最高クラスと言っていいだろう。ただしここで気を付けておきたいのは、武器さえ頑丈なら更なる攻撃力が望めるというところだ。この場でいうつもりはないが、マークが女神の加護を受けた『フライパン』を持てば、『ハルベルト』の攻撃力を上回る。

 もちろんシグナム達も武器の形状変更やカートリッジシステムを使用することで、更なる攻撃力の上昇が見込まれる。今話したのは基本的な目安でしかないのだ。

 

「ちなみにその基準で行くと、わたしらはどうなるん?」

「ハヤテは……使用術式にもよるが、魔法攻撃力なら30程度はいくかな?」

「へぇ……」

「ちなみにナノハのディバインバスターが33で、フェイトのザンバーフォームなら27かな」

 

 比較対象が無ければ分かりにくいだろうと追加された評価は、今一つだったようでピンと来なかったようである。

 

「う~ん、シグナムの魔法防御がシールドなしで20位。ザフィーラが28ぐらい……それにマークの『エルファイアー』が32ぐらいって言えばわかるか?」

「いま挙げた面子はみんなAAランク以上だし、もうちょっと一般的な基準を提示したほうがいいんじゃないか?」

 

 何とか理解させられないかといくつか例を挙げる自称シリウスに、自称シロノがアドバイスを送る。

 

「……魔王戦の時援護に来た部隊の隊長の魔法攻撃力が22位。ああ、ユーノの攻撃力が15位って言った方がわかりやすいか?」

「わ、わたし達ってそんなに強かったんだ……」

 

 正式な訓練を受けた部隊の隊長の五割増しという、管理局の中でも上から数えたほうが早いという攻撃力を実感し思わず顔が引きつるなのはであったが、ここで驚くのは早すぎた。

 

「ちなみに魔王戦で使用した二発目のスターライトブレイカーの威力は180オーバーだぞ」

「うわぁ……」

 

 もっともあれは周囲に散った魔力を再利用するという特殊な魔法であり、戦場によってはかなり威力が上下してしまう。特にあの時はマークの神器クラスの魔法が使われていたからこそであり、それが無ければだいぶ威力は落ちたと思われる。

 

「っと、話がずれたな……とにかく理論上はスズカでもダメージは与えられるんだ。戦うことに問題はない」

「だが実際傷一つつけられなかっただろ?」

「ああ、試験にはちょうどいいだろ?」

 

 話を戻したマークに反論するシグナムであったが、その目的を聞いて絶句する。

 

「馬鹿な! 実戦なんだぞ!?」

「訓練じゃ分からないこともあるだろ? 何よりスズカの意識の問題だしな……なあ、剣を使うのは怖いか?」

 

 マークの放ったその言葉は、すずかの問題を理解しているものの言葉であった。

 初陣で思わぬ活躍を見せたすずかに起こっていた問題……それは最後の一太刀、サイクロプスの首をはねた一撃であった。

 

「生まれながらの戦士には、魔法で戦うものには理解しづらい問題だろう。……こんなことを言う俺も理解しているとは言い難いが、生き物に刃を向けることにストレスを感じる者がいることは知っている」

「……はい、正直、甘く考えていました」

 

 マークの確認に、少し躊躇しながらもすずかは自身の感じている恐怖を認める。サイクロプスも魔物とはいえ、スケルトンやゾンビとは違い生き物と思えてしまったのだ。

 切った直後はまだ実感がわかなかったが、時間がたつにつれじわじわと生き物を切ったことを感じ、訓練での木刀すら振るえなくなってきたのだ。

 

「もし、屍相手でも戦えないようならそれまでだ。その時は剣を置け」

「わかり、ました……」

 

 有無を言わせないマークの裁定に、すずかは渋々と頷く。それからすずかのフォローにユーノ、ピンクの少女はクロノが担当することに決まり、残りのメンバーは自然と何が起こるかわからない闇の欠片対策という事になる。

 

「そう言えば、俺がこっちに来る前に捕縛したのがピンクの少女に似た衣装を着ていた。関係者かもしれないし、適当に対処しといてくれ」

「そういう事はもう少し早く言え! 違法渡航者ならエイミィ達にも話ができるし、第三者は早急にどうにかしよう」

「あの娘、管制代理のことを王様と言っていたのが気になるな……アレのことを知っていたのなら皇子になるはずなんだが」

 

 管制代理とは関係の薄いところならアースラのスタッフが手を出せると言うクロノに、マークが映像から気付いた点を述べる。

 管制代理の過去を知らないのに、迷わず彼に話しかけたという事は必ず何かがあるはずだ。

 

「そう言えばいい忘れていたが、管制代理はネクロマンサーだ。魔導師としての実力はもちろん、亡霊戦士の召喚も行うから油断するなよ」

「了解や!」

「わかりました!」

 

 こうして、クロノがアースラに戻る以外は必ず二人以上で動くように念を押し、行動を開始する。

 

 捕縛対象は管制代理にピンクの少女。

 討滅対象は重装鎧の屍と二十ある闇の欠片。

 

 

「……なんで、どうしてこうなったの!?」

「知らないよ、そんなこと」

 

 半ば狂乱状態にあるピンクの少女キリエと、呆れながらもはやてから切り離した闇の欠片を入念にチェックする管制代理は、話し合いをしているうちに重大な齟齬に気が付いたのだった。

 

「いわゆる並行世界って奴かな? おそらく、君の望んだものは僕たちの存在の対価として次元の狭間に消えたんだと思うよ」

 

 それは夜天の書が闇の書と呼ばれていた時から感じていたことだ。魔王と言う存在が闇の書に入る余裕があったのは、元々あった何かを押しのけたのではないかと、ずっと感じていたのだ。

 では押しのけられたものはどこへ行ったのか? 当然、マークが封印されていた門の中、すなわち世界と世界の狭間である。

 

「発見は……何百年かかるかわからないわねぇ~」

「君の体を見る限る不可能じゃなさそうだし、気長に頑張りなさい」

「そういうわけにはいかないのよ!」

 

 おざなりに慰める管制代理に反発しつつも、キリエは詳細を語らずに一人で思索を続ける。その顔には紛う事なき焦燥が浮かんでおり、元々お人よしな管制代理としては放って置けなかった。

 

「……一人、大抵の事は解決できる人を知っている。彼は半分神様だし、もし君が協力してくれるなら紹介してもいいよ?」

「なんか、すごく胡散臭いんだけど……でも、手段を選んでる場合じゃないわよねぇ」

 

 言葉を聞く限りはしぶしぶと、ただし表情はそれに伴っていなかった。得物を狙う猛禽のような鋭さと共に、目の前の男を見据える。

 

「条件は?」

「僕が敵対していた娘たちと戦うこと。ただし時間稼ぎが目的だから、怪我をさせないようにね」

「……了解」

 

 そしてここに一つの契約が成る。そして善は急げとばかりにキリエは出て行ってしまい、この場には管制代理と鎧だけが残る。

 

「消滅したとばかり思っていたけど、存外しぶといね」

「……」

「まあいいか……」

 

 返事が無かったことに少し失望しつつ、僅かに左腕を上げる。

 

「今度こそ……僕は、最後まで僕でいるために」

 

 その左腕には、鈍く輝く小手が填められていた。

 

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