魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第60話 「決意の開戦」

「それで、マークの攻撃力の最高値っていくつなの?」

「今はシリウスと呼んでくれって……まあ、現状なら神器クラスの魔法で80に届かないくらいかな?」

 

 各々の役割が決まり別行動を始めたマークとフェイトは、ビルの屋上を飛び跳ねて闇の欠片を探していた。そしてフェイトは別行動になったのを幸いと、先ほどの話で語られなかった部分に踏み込んだのであった。

 それに対し呼び名を訂正するマークもといシリウスは、魔力が制限されていることを加味して答えるが、どうにもフェイトには納得いかないらしい。

 

「でも、なのはだって……」

「いや、あの子は特別だぞ? 俺が知る中でも、あれほどの魔法を扱うやつなんて片手の指で足りる程度しかいないんだから」

 

 マーク曰く、あれほどの高威力の魔法になると伝説となった神将や聖戦士などでも追随するのは難しいとのことだ。

 

「アイツらがナノハに負けるとは言えないが、単純な威力なら人族最強と言ってしまっていいだろうな」

「……」

 

 さらに続けられた言葉に、なのはが遠い存在になってしまったような心寒さを覚えたフェイトであったが、それを察したのかマークが少し乱暴に頭を撫でつける。

 

「マ、マーク?」

「別に、そうだと言って何かが変わるわけじゃない。俺のように、人と竜が結ばれた証だっているんだ。何の心配もいらないさ」

「……そっか、そうだよね」

 

 人と竜の共存の証であるマークを前にしたら、フェイトはなのはとの違いなど些細な事だと簡単に納得できた。

 マークに人族最強とまで言わしめたなのはの隣に立って本当にいいのかなど、馬鹿らしい不安であったと確信できた。

 

「ありがとう、マーク」

「……だからマークって呼ぶなって」

 

 フェイトが変わらず偽名で呼ばないことに呆れるようにしつつも、小声で感謝に対し返事をしたことをフェイトは聞き逃さなかった。

 その照れ隠しに思わず笑みを浮かべるフェイトであったが、それも軽く咳払いし本題に入るため引き締める。

 

「……それで、私はどこまでいけると思う?」

 

 それは、フェイトがずっと感じ続けていた劣等感の発露であった。万全の状態ではなかったとはいえ、魔法に出会ったばかりのなのはに敗れ、クロノにも負けて、その後も戦闘でまともに勝てた覚えがない。そんな事実がフェイトから自信を奪っていた。

 本来ならここで励ますべきなのだろうが、マークは戦闘関係についてはどこまでも厳しかった。

 

「フェイトは凡人だ。間違ってもナノハやハヤテと同レベルで考えるな」

「……」

 

 正直、フェイトはマークにこのような事を言われるとは思っていなかった。なのはやはやてほどの魔力量は無くても、同世代はもちろん、管理世界でも上位の魔力量があるのだ。攻撃力では劣っても速さなら勝ると、そう言ってもらえると思っていた。

 

「ナノハは攻防に優れた魔道師だ。確かにフェイトと比べ速さこそ劣るが、攻撃速度はカートリッジシステムでその欠点は埋まりつつある。さらに、攻撃を回避できなくても防ぎきるだけの防御があるし、機動力を必要としていないんだ」

 

 さらに補足すれば、なのははある程度攻防に使用する魔力を機動力に回せば、一時的とはいえフェイトに追随するほどの速度が出せる。流石に超えられたりはしないが、圧倒的なアドバンテージにできるほどの差ではなくなるのは春の決闘でも証明されている。

 今はまだ圧倒的な差ではないのでフェイトも勝ちを拾えるであろうが、あと五年もすれば、フェイトの適正ではダメージを与えることすら難しくなるだろう。

 先程おさまったばかりの感覚が再びフェイトを襲おうとするが、続くマークの言葉に霧散させられる。

 

「だけど、ナノハはフェイトの友達だろ? 共に戦うのなら力を競う必要はないし、何より才能ある奴らって言うのは才能が無いものが支えなきゃ立てない」

「それってどういう……?」

「言葉通りの意味だ。いくら才能があっても、発揮できる場面が用意されなければ意味がない」

 

 たとえばなのはの才能が『望んだ結果を引き寄せる』というものだったとして、なのはが最高の結果を望める状況を作り出すのは周りにいる者たちがいなければ意味がない。

 今のフェイト達の役割はいわば『発射台』とでも言えばいいだろうか。

 

「そして、その役割は誰にも代われない。……信頼が必要だからな」

「……」

 

 フェイトは静かに、その言葉がしみ込むのを感じた。しみ込み、理解した。

 

「はやてが『先輩』と存分に向き合えるようにするのが、今回のわたし達の役割」

「そういう事。どんな物語だって、脇役なしじゃ語ることはできないもんだ」

 

 ただやみくもに最善を尽くすのではなく目指すべき地を得た以上、フェイトの実力があれば失敗することはまずないだろう。

 そう確信したマークが改めて闇の欠片を探そうと視線を巡らせたとき、彼の眼に信じられないものが写った。

 

「どうしたの?」

「いや……古い……そう、古い戦友、いや世話になった人に似た人を見つけただけだ」

「え!?」

 

 その言葉に驚きフェイトはマークの視線の先に目を向けるが、さすがにどの人かはわからなかった。

 

「いい、今は関係のない話だ」

「で、でも……」

「優先順位を忘れちゃいけない。管制代理の件は、一刻も早く済ませないといけない事だ」

 

 どう考えても本人でないし、ただの他人の空似の可能性の高いのだ。マークはそう言って赤毛の女性から目をそらし、再び欠片を探すために移動を始める。

 だが、関係ないと言いながら、マークはリアクションが隠せなかったのだ。そう思うとフェイトにはどうしてもその背中が無理をしているようにしか見えなかった。

 

《……エイミィ、あそこにいた人たちの映像だけでも残しといて!》

《それはいいけど……あとから探すって、難しいよ!?》

《それでも! 万に一つかもしれないけど……マークと似たような状況の人なのかもしれない!》

 

 本当に万に一つの可能性を上げて、自身の行為の正当化を図る。マークが思わず目を見張るほどの衝撃を受けたのだ。まるっきり関係が無いとは言いにくいと感じたのだ。

 だがそれはそれ。今やるべきことを自覚したフェイトは意識を切り替えて、今度こそマークの背を追う。しかし、その足もすぐにまた止まることになってしまう。

 

「今度はどうしたの?」

「……魔封じの気配がする。まさか、これも闇の欠片なのか?」

 

 フェイトには分からなかったが、マークにはかつて相対した存在に似たものを確かに感じていた。マークの気配が探索のものから戦闘のものに変わったのを感じ、バルディッシュを構える。とはいえ、魔封じなるものが本当に居るのだとすれば、マークのとるべき選択はたった一つしかない。

 

「フェイトはナノハ達と合流してくれ。対象を確認してくる」

「でも、いくらマークでも一人じゃもしものことがあった時……」

「相手が魔封じなら、魔導師は近づくべきじゃない。それに、今の俺は魔法を使わない方が強い」

 

 確かに相手が本当に魔封じ……魔法を封じるものならば、魔導師であるフェイトでは足手まといにしかならない。人を呼ぶとしたら守護騎士達だが、マークとは不仲であるためこれも憚られる。

 結果として、フェイトはマークとここで別れて行動することになったのだが、マークからしたら装甲の薄いフェイトを一時的とはいえ1人で行動させることの方が不安であった。

 

「何もなければ、それに越したことはないが……万が一のためだ」

 

 そう言ってフェイトに一つの術をかける。より正確には、フェイトの右腕に。付加された術式は、確かに強力だが同時に危険性も高いものであった。

 

「遅滞魔法?」

「ただの活性……とは言えないか。まあ、気休めと言うかお守りみたいなものだし、気にするな」

 

 内容については誤魔化しながら、術式を付与し終えたマークは今度こそ移動を開始する。フェイトにしても、明確な目的を確認した直後であったため、もやもやしたものが少し残ったがこの場にとどまることなくなのは達のもとへと向かって飛び去って行った。

 

 

 一方そのころ、守護騎士たちは海上にて闇の欠片を捜索していた。彼女らの主曰く『先輩は、闇の欠片をぶつけてくるはず』と言う言葉を信じた結果、どこを探しても必ず欠片が見つかると考えたためだ。

 一応シャマルが探索を行いながらの移動であったので、警戒をしながらも余裕のあるヴィータがとある疑問を話し出した。

 

「なあ、ところではやてはなんであれのことを『先輩』って呼ぶんだ?」

「……そういえば」

「今までの主の中に、あのような者はいなかったはずだが……」

 

 自然と歴代の主の内の一人ではないかと考え即座にその考えを否定した騎士たちは、それではあれは誰なのかと首をかしげる。もっとも、闇の書時代のことは所々記憶を制限されているので、絶対にないとは言い切れないが……

 

「マークが彼のことを知っているようだったが……」

「つーことは、あいつらも古代ベルカの出身ってことか?」

 

 そのような予想を口にはしたが、内心ですぐさま否定する。使用する魔法体系が全く違うのだから、それはまずありえない。そうなると、やはり過去の主である可能性も限りなく低くなる。

 それならと次の可能性を検討しようとした時、シャマルがストップをかける。

 

「それについてははやてちゃんに後で聞きましょう? それより、来たわよ」

「来たか……できれば最初は様子見と行きたいが、時間が無い」

「よっしゃあ! 初っ端から全力でぶっ飛ばせばいいんだな!」

「だからと言って逸るなよ、ヴィータ」

 

 魔力を高ぶらせ結界を張り、戦闘の準備を整える騎士たちの前に現れた欠片は四つ。そしてその姿は、騎士たちもよく知る形をしていた。

 

「こいつは……」

「なるほど、さすがは管制代理と言うわけか」

 

 シグナム達の前に現れたのは、武骨な鎧をまとった見間違うはずもない自分たちの過去であった。

 

「趣味がわりーな……」

「だが、我等を足止めするには申し分ない存在だ。これは、流石に無視できない」

 

 ヴィータが自分と同じ姿をした欠片を嫌そうな顔で見るのに対し、ザフィーラがその有効性を語る。目の前にいる自分たちは、はやてに出会う前の自分たちである。はやての騎士となった今を是としている以上、名ばかりの騎士であった過去を嫌悪してしまうのは仕方のないことだろう。

 そして、嫌悪しているのはシグナム達だけではなかった。

 

『……決闘を申し込む』

「ふっ、一対一が希望か……いいだろう、私もお前のことが認められない」

 

 かけらの模した過去のシグナム達にとっても、戦いから遠ざかり、鎧すら纏わなくなった未来の自分たちを認めたくは無かったのだ。戦う事こそを存在理由としていたがゆえに、それを否定されることが許せなかったのである。

 

「待って! わたし達の目的は……」

「問題ない。すぐに終わらせる!」

「アタシらがニセモンなんかに負けると思ってんのか!?」

 

 シャマルの制止を振り切り、シグナムとヴィータが加速する。共に振りかぶり、最大の一撃を加えんとし……

 

「紫電一閃!」

『紫電一閃!』

「ラケーテンハンマー!」

『ラケーテンハンマー!』

 

 全く同じように動く欠片たちに迎え撃たれる。その威力は全くの互角であり、そのことに驚愕する。

 

「ニセモンの分際で!」

『平和ボケ如きが!』

 

 ヴィータ達の罵倒に続く連撃も、吸い込まれるかのように相手の攻撃に重なり相殺される。その隣では、ザフィーラとシャマルも全く同じような事になっていた。

 剣が、戦鎚が、拳が、糸が、フェイントが、機動や補助魔法、特殊技能すらも重複し、火花を散らす。本人にとっては不本意だろうが、傍から見ていると表情を除けば上等な演武にしか見えないだろう。

 

《くそっ、どういう事だ!? これほどの複製など、そう簡単に作れるものでは無い筈だ!》

《魔力量、武装、身体能力、さらに戦術面までもほぼ完全にコピーするなんて……尋常な術者じゃないってことね》

 

 驚愕を通り過ぎて少し冷静になり相手の評価を改めるとともに、思念を飛ばし相談するシグナムとシャマルだが、ここで初めてコピーとの差が生まれる。

 

『シュランゲバイゼン!』

『渦巻く嵐!』

「なっ!」

「っく!」

 

 前衛・後衛の違いはあるが、共に攻守にバランスのとれた騎士であった二人は辛くもコピーの攻撃を防ぎきる。それとともにコピー達から距離を取り、いましがた発生した違いについて思考する。

 

《今、何があった?》

《流石に今のことだけじゃ……》

 

 戸惑いを感じながらも、可能性は見えた。先程は劣勢に傾いてしまったが、それは戦況が動くという事の証明だ。すなわち……

 

《勝利することも可能と言うわけだ……!》

《しばらく分析を優先するわ。ちょっと無茶な要求をするかもしれないけど……》

《それが必要な事ならば問題ない!》

 

 このまま長々と戦い続けるわけにはいかないと、シグナム達は力を温存しつつ勝機をはかる。直接言葉こそ交わしていないが、ヴィータとザフィーラもすぐさまシャマルの解析を待つ姿勢を見せる。

 目の前に戦いに集中した守護騎士たちは相手の思惑通りに事が進んでしまったことに、足止めをされ大局からはじき出されてしまったことを理解し歯噛みするしかなかった。

 

 

 そして守護騎士たちが戦いを始めたころ、なのはとはやては管制代理との戦いに割って入ったピンクの少女と相対していた。いや、相対と言うには、緊張感が欠如しているかもしれない。

 

「それじゃあ、彼って本当に神様のような人と知り合いなの?」

「そやねぇ……まあ、アレは人やないけど、肉体が無くなっても存在できるような超常の存在やし、認めたくはないけど間違いやないかな?」

「うー……これはどうするのが正解なのかしらねぇ……」

 

 表面上は思いっきり悩んでいる少女を攻撃するわけにもいかず、ただ途方に暮れるなのは達であったが、問答無用で戦闘よりは良かったのかと思い直して少女と話を始める。

 

「一体何が目的で今回の件に介入したんですか?」

「欲しいものがあったんだけど、当てが外れちゃってねぇ……代替案を提示してもらったんだけど、まさか本当だったとは思わなくて」

「はぁ……」

 

 何とも要領を得ない返事に、なのはも気のない返事をかえさざるを得ない。二度目の邂逅で一番に聞かれた『彼って神様みたいな知り合いがいるの?』なる質問に関係しているのだろうが、これだけではさっぱりわからない。

 

「……私たちに話してくれませんか? 少なくとも、あの人が言う神様みたいな知り合いよりはよっぽど頼りになる人を紹介できますよ?」

「こっちも事情があるから、公的機関には頼りにくいのよね」

「今は管理局関係なく動いてますから、大丈夫ですよ!」

 

 なのはが説得をしようとするが、どうもグレーゾーンと言うか、後ろ暗いところがあるようで首を縦には振らない。

 のらりくらりと交渉を続け、これは戦闘もやむなしかとはやてが考え出したころ、ようやく事態を強制的に動かす存在が降り立った。

 

「これって……」

「わたしと……なのはちゃん!?」

 

 そこに現れたのは闇の欠片。それもバリアジャケットの色こそ違うが、なのはとはやてを模したかなり強力なものだと予測されるものであった。

 そのまま戦闘が始まるかと身構えたなのは達だが、予想に反して事務的な声と口調でピンクの少女と話を始めた。

 

『キリエ、伝言です』

「な、なに?」

『第一戦は、そこの二人の足止めでお願い』

『……だ、そうです』

「わかったわ」

 

 キリエと呼ばれたピンクの少女は、現れた二人の欠片の無機質な応対に気おされながらも、肩を並べて戦う意思を見せる。それを確認したなのはとはやての欠片が、機械のようにグルンと首を回し、自分のコピーの異質な動きに頬をひきつらせるなのは達に顔を向ける。

 

『貴方たちにも、伝言です』

「な、なんですか?」

『守護騎士と言う例外を除いたコピーは、蒐集を行った時のデータを使用している。有象無象はともかく、ちょっと洒落にならないのも作ったから、頑張って』

『……だ、そうです』

「それって……!」

 

 どういう意味か、分からなかったのは一瞬だけ。なのははその言葉の意味を理解して顔を真っ青にする。唯一この中で蒐集された人物を把握していないはやてが首をかしげるが、なのはの言葉で事の重大さを理解する。

 

「シャレにならないって?」

「確かに、マークさんも蒐集されてたの……」

 

 その答えを聞いて、悟る。生き残る方法はただ一つしかない、と。

 

「……一分、一秒でも早く終わらせな」

「そしてみんなと合流。マークさんのコピーを全員がかりで攻略しないと」

「ちょっと! 何その必死さ加減!?」

 

 もはや戦いにくいなんて言っている余裕はなくなっていた。もとより三対二と不利な状況なのだ。無駄なことなど一切考えないとばかりに構える姿などは、まさしく戦士の極致の体現であった。

 

 

 そして海鳴にて探索を行う最後の一組であるすずかとユーノは、一度高町家の道場により、その足で存分に立ち回れる臨海公園へと到着した。到着して、今更かもしれないけど、と前置きをしながらユーノは一言、最後の確認を取る。

 

「ねえ、すずか……戦えるの?」

「……道場に寄らせてもらって、考えてみたんだけど、やっぱりわたしはどんなに覚悟しても人は斬れないと思う」

 

 紡がれた言葉は、まさかの否定。ならなぜここに来たのかと慌てるユーノに、すずかは静かに続く言葉を選ぶ。

 

「でも、戦いたいって気持ちは、止められない。なのはちゃんやフェイトちゃん達と同じ舞台に居たいって気持ちは、無くならない」

「そ、それならエイミィさんみたく後方で……」

「でも、一度剣を持ってしまったから……見てられないよ」

 

 後方の仕事が重要であることは、十分に理解できる。だが、戦う手段を知ってしまったすずかは、もう後方にいることなどできなかった。ならば、選択肢は一つしかない。

 

「だからわたしは、人を斬らずに戦う」

「え? でも……」

「わたしは、武装破壊で戦場に立ち続ける……!」

 

 静かな決意に、ユーノは絶句する。難しいなんて話ではない。困難なんてもんじゃない。限りなく絵空事に等しい夢物語だと、そう言わざるを得ない決意だ。

 だが、その決意を聞き届けた者がいた。

 

『絵空事で終わらせる気が無いから、この場で決意を語ったのであろう?』

「はい。貴方を捕縛して、この決意を証明して見せます」

 

 その場に現れたのは、管制人格に仕える重装騎士。それもこの地に呼び出されてある程度時間がたったためか、言葉が流暢になっていた。

 

「目標があなた自身でなければ、思いっきり振れます。……そして、私の剣でもその鎧を裂けると、マークさんが保証してくれました」

『奴が保証したのなら、事実我が鎧を裂くことは可能だろう。神軍師とまで言われた彼の眼力は、古今並ぶものが無いと聞く』

「そうですか……なら尚更下手な剣は見せられませんね。その逸話に泥を塗るわけにはいきません」

 

 最高潮に高まった緊張は、ユーノをその場に縛り付ける。魔導師の、それも本来は学者である彼では、人外であるすずかと騎士の威圧に、完全に気おされてしまっていた。

 

「今はただの月村すずかですが……この戦いに勝ったら、剣士と名乗らせてもらう予定です」

『くくっ、今はただの屍だ……が、あえてこの場は名乗らせてもらおう』

 

 未来ある少女の、剣士と名乗るか否かの血統の相手が名無しだと箔がつくまいとばかりに兜を脱ぎ、重装騎士は高らかと名乗り上げる。

 

『我が名はヴィガルド! かつて、国を滅ぼした暗愚な皇帝である!』

 

 その咆哮と共に、すずかの『マーニ・カティ』とヴィガルドの『スレンドスピア』が交差する。それも、以前のような柔な交わりではない。お互いがお互いを叩き砕かんばかりの轟音と、閃光にすら見える火花に彩られた激突である。

 

「負けませんっ!」

『打ち勝って見せよ!』

 

 こうして海鳴に、三つ目の戦いの火ぶたが切って落とされた。が、当然これだけでは済まされない。

 

『お構え下さい』

「なっ!?」

 

 硬直していたユーノの後方から突如声が響き、思わず飛び退いてしまう。だが、声をかけたと思われるローブの男はそれで何をするでもなく、ユーノを眺めていた。

 

「えっと……?」

『貴方と同型の魔導師のデータが得られなかったため、あなたの相手は私となります』

「……それって、僕はその他大勢に数えられてるってこと?」

『いえ、その他大勢の足止めには、デスガーゴイルなどの魔物型が配置されていますので、そう言うわけではございません。ただ、この肉体のモデルとなった者の名をかたるわけにもいきませんので、彼のように名乗るわけにはいきませんので、ご容赦ください』

「あ、そうですか……」

 

 丁寧な言葉遣いについ頭を下げそうになるユーノだったが、目の前の存在も敵であることに違いはないのだ。気を引き締めて、改めて相対し……その瞬間にスフィア生成と言う先制攻撃をくらう事になった。

 

「って、えぇ!?」

『いつまでも呆けないでください。すでにここは戦場です』

(そこはすずかたちみたく、ちゃんと向き合ってからでよかったんじゃないのか!?)

 

 やたらと説教くさいセリフを言うローブの男に心の中で罵倒の言葉を吐きながらも、ユーノは即座に防御からの反撃の手を整える。

 ただ、すずか達の戦いと比べ、自分は戦いには向かないと、心の片隅で思うのであった。

 

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