魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「それじゃあ君の目的は故郷の復興のため、闇の書に眠る『砕けえぬ闇』とやらを回収すること……でいいのかい?」
「正確には、それをしに来た妹を回収することです!」
アースラの医務室にて、マークが拾ったという違法渡航者……アミティエ・フローリアンのマークの研究所に近づいたのは全くの偶然出会ったという主張と、その妹と思われるピンクの少女の行動からひとまず『白』と判断された。
「しかし、すぐに意識が戻ってくれて助かった。あまり長く意識が戻らないようだったら、本局の方に移送しなければならなくなっていたからな」
「あはは、体が丈夫なのが取り柄ですから!」
そう言ってあっけらかんと笑うアミティエ……アミアであったが、別に怪我が軽かったことを僥倖と言うわけではない。本局の一部の連中に『マークの研究所に近づいた存在』と思われるのを避けたかったというだけだ。
もしそうなっていれば、何かあの世界で得た物は無いかという聴取で、それこそ数か月単位で拘束される結果となってもおかしくない状況なのだ。
「……それで妹のことだが、ちょっとここでは言いにくいことに巻き込まれている」
「え! キリエってば、もう何かやらかしてるんですか!?」
「やらかしたというより、火薬庫の隣で花火して遊んでるような状況と言った方がいいかな?」
不安そうな顔をするアミタであったが、こればかりはどうしようもないとクロノは思う。本人はいたって真面目なのだろうが、管制代理とマークの関係に割って入ってしまったようなものなのだ。
マーク本人に言えば否定するだろうが、マークが管制代理の映像を見たとき、軽い失望と軽蔑がよぎった様にクロノには見えたのだ。ほとんど関係は無かったと言っていたが、そのわずかな関係も最悪に近いものであったことは想像に難くない。
そんなわけで、今マークと直接相対すれば、管制代理に味方した存在もまとめて消し飛ばしたりしないかと、少なからぬ不安を覚えているクロノであった。
「知り合いと敵対関係に近い状態にあるから、最悪巧く捕縛するように言っておく」
「そんな!」
今度は悲痛そうな顔をする網多であったが、今かかえている問題を即座に解決しないといけない以上、流石にキリエとやらを庇う暇はない。と、クロノは考えたのだが、アミタの考えは全く別の者であった。
「身内の問題で、これ以上人様の手を煩わせるわけにはいきません! どうか、妹の件は私に任せてください!」
「……わかった」
アミタの主張に渋々頷くクロノであったが、今回選択肢などあってないようなものだ。例え否と言ったところで目の前の少女がおとなしくしているなどあり得ないと、この短時間で理解できた。勝手に動き回られるよりは……そう考えれば、同行させた方がはるかにマシである。
「ただし、こちらの指示には従うこと、それだけは絶対に守ってもらう」
「わかりました!」
たしかに重症とは言えないが、マークの攻撃はそれなりのダメージをもたらしていただろうにもかかわらず元気に返事をするアミタに、感心半分呆れ半分の視線を向けるが、残念ながら気付いてはもらえなかったようだ。
ともかく、後はどのようにして管制代理の情報を得たのかなどの聴取かと思考を改めたとき、エイミィから予想外の通信が入った。
『欠片が! マーク君で! フェイトちゃんが!』
「落ち着け! 流石にこれじゃ分からないぞ!」
エイミィには事情を説明し、しばらくの間海鳴の状況は見て見ぬふりをしてほしいと頼んでいたにもかかわらず通信してきたのだから、よほどのことだろうと気を引き締めていたのだが、あまりの興奮で要領を得ない状態であった。
思わず一喝して平静さを取り戻させ、今度こそと耳を傾けるが、その情報を聞いた時思わず固まってしまったのは、仕方がないことだと思いたい。
『闇の欠片の一つが、マーク君の姿をして出現! 一時単独行動をしていたフェイトちゃんと交戦を開始しました!』
「これって……」
フェイトがなのは達のもとへと飛んでいた最中、ミッド式でもベルカ式でもない妙な結界にとらわれていた。
もっとも、マークと言う例外の見本市のような人がいたためこの程度で驚くフェイトではなかったが、警戒は最大限に、いや、おそらく管制代理の仕業だと予測できていた。
(マークと同郷の……)
その事実だけで、少しだけ話を聞いてみたいと思ってしまったが、その誘惑を振り払い敵の動向を探る。そして、今回のフェイトの相手として用意された存在を見つけてしまった。
『逃亡阻止の結界だ。外部からの干渉を阻止することはできないが、有象無象が入ってきても意味がないことは、この姿を見れば容易に予想できるだろう』
「そ、んな……!」
青年の装いは、とても立派と言えるようなものではなく、胸当てやら小手と言った最低限の無骨な装備を付けた、まさしく傭兵といったモノであった。だが、どれほど装いが変わろうとも、その人物を見間違えるようなことなど、ありえなかった。
「マーク……」
『ああ、神竜のコピーに相違ない』
その回答に一瞬で血の気が引くフェイトであったが、何とかこらえる。まるで走馬灯のようにいつになく高速で回転するあたまは、単独での状況の打破は不可能と判断を下し、即座に最も頼りになる存在へと念話をつなごうとするが……
「えっ? な、なんで!」
『……あれ? オリジナルはいないのか?』
マークとの念話が繋がらない事に、顔色が真っ青を通り越して白くなりかけるが、おかしなことにコピーまで困ったかのような声を上げたのだ。
「え、え?」
『う~ん……これってどうしたらいいのかな? 僕はオリジナルと君の二人を相手するように言われてたんだけど……どうせ一人なら、オリジナルの方がいてくれた方がもっとやりやすかったのに』
いったい何が目的なのか、さっぱりわからなくなりそうなことを言うマークのコピーは、あっけにとられるフェイトをしり目にしばらく唸った後、ようやくいい案を思いついたとばかりにポンっと手を打つ。
『ただ待ちぼうけをくらうのも馬鹿らしいし、先に始めちゃおっか』
「ッ!」
どこかふざけたような態度のままコピーは武器を構えるが、これに対してもフェイトは驚きを隠せない。
「レヴァンティン!?」
『ああ、オリジナルの武器は、君たちのデバイスほど深いつながりが無くてコピーできなかったんだ。仕方ないから、一番コピーしやすい武器をってことだよ』
扱いなれない武器による戦力の低下と思うべきか、全距離対応の武器を持ち強化されたと考えるべきかと一瞬フェイトの頭をよぎったが、弱体化は期待しないでおくべき時を引き締める。
そして、マークに術式を付加された右腕を撫で、気持ちを落ち着けながらこの場を切り抜ける策を練る。
(勝利はまず無理……なら逃げる? ううん、結界もあるし、そう簡単に逃げられるはずがない)
ならば戦う他無いのだが、やはりマークがこちらの状況に気付くまで時間を稼ぐ以外の策は思いつかなかった。
(切り札は、とっておく。幸い、私は舐められてるし、余計な警戒心を持たせるべきじゃない……!)
回避にすべてを賭ける気にはなれず、バリアジャケットはライトニングフォームを選択する。とはいえ、気休め程度の差でしかないだろう。
『準備はできたみたいだね……それじゃあ』
「プラズマランサー!」
たとえ卑怯と思われようとも、そう思いながら先制に放った六発の雷撃は、マークのコピーに全方位から突撃する。マークの魔法は複数発同時展開するのが困難なものであるので、一発位はと、そう思っていた。だが、そんな思惑も通用せず、当然のようにそのすべてを炎弾によって迎撃された。
「その魔法……なんでっ!」
『オリジナルも使っていた『ファイアー』だよ、って、言いたいのはそういう事じゃないか。レヴァンティンのおかげで本来困難な連射もいくらかやりやすくなったってことだよ』
「……ッ」
その言葉を分かりやすく証明するかのように展開された炎弾は、実に四十五発。それらは必死に距離を取りながら障壁を準備するフェイトをあざ笑うかのように、ぎりぎりで回避できる速度、間隔で発射される。
「っく、このっ!」
『ほら、集中を切らしたら終わるよ?』
上下左右、強引な切り返しで何とか回避するフェイトに次々と炎弾を見舞うコピーの姿は、まるでネズミをいたぶる猫のようであった。
間近で爆発する炎弾をシールドで防ぎながらも、少しでもコピーの攻撃から遠ざかろうと最高速での離脱を試みる。もちろん背を向けるようなことはできないので、戦場から離れることはできず、コピーを中心に大きく円を描くような軌道となる。
『やっぱり速いねぇ!』
十発近い数の炎弾がフェイトの後方で爆発するが、すぐに誤差を修正されてしまう。だがこれで大分数を削れたはずと、改めてコピーの方を確認すれば、最初とほぼ変わらないだけの炎弾がそこにはあった。
『魔力量には自信があるんだ。これぐらいの魔法なら、千は越えられるよ』
「……なのはは、よくあの時割って入れたね……!」
魔王とマークの戦いに割って入ったなのはを思えば、今の苦労はその半分に過ぎないと無理やり自分を鼓舞して、フォトンランサーを起動する。
(目指すはファランクスシフト! いくらレヴァンティンの補助があるにしても、流石にあれ以上の同時展開は難しいはず!)
遠距離で押されているとはいえ、近距離戦に持ち込む気なんてさらさらおきない以上、フェイトが取れる手段は決して多くは無い。最大攻撃力も劣るであろうフェイトは、物量作戦に出るしかないのだ。
「それでも……諦めるわけにはいかない!」
たとえ勝算が低かろうとも、ここで足掻くことを辞めるわけにはいかない。カートリッジで強制的に速度・攻撃力を底上げし、コピーの攻撃に備える。
急激に魔力を増加させたため、大気が震える。それが故に、コピーの一言を聞きのがしてしまった。
『少し足りないけど、今はそれでいいよ……最終的には、オリジナルがいない状況で僕を倒してくれれば、ね』
雷撃にまぎれて掻き消えた真意に、たどり着く者は未だいない。
「お前が魔封じの者……いや、ここまで来ると、もはや魔殺しか」
「た、確かに魔導殺しとは言われているけど……流石に初対面でそれは無いんじゃないかな!」
一方マークは、フェイトが自分のコピーと遭遇したことも知らずに、魔殺しの少年と相対していた。それも、マークの知る魔封じの者とは、完成度が段違いだ。
(効果範囲は極小……自身に対する攻撃魔法のみ無効化が可能。それでいて、広範囲の妨害もそれなりの効力を誇る、か)
マークが言う魔封じの者は、広範囲にわたり魔法を完全無効化したが、効果範囲外からの魔法攻撃は可能であった。さらに敵味方の区別なく無効化していた上、自我もほとんど食い潰されていたのだ。しかし少年は、魔法が無効化範囲に突入した瞬間に消滅させることができるという。
それは『出来損ない』と呼ばれていた魔封じと、目の前の少年とでは比較にならないものであることの証明であった。
(だが、まだ完成はしていないのか……)
最大の効果範囲を絞り、自我を持たせるに至った魔殺しも、マークの目から見れば出力が不安定であった。
(こんな状態を持続させれば、数か月持たずに死ぬぞ。命を、エーギルを燃やして維持しているのか?)
エーギルを理解する存在がいることに驚き、本気で捕縛どころか消し飛ばすことを検討するマークであったが、それで立場を失ってしまうわけにもいかない。
消滅させることは諦めるも、どちらにせよ魔殺しなんて存在をフェイト達の前に出させるわけにはいかない。これは、魔導師であるフェイトやなのは、はやてにとってはまさに天敵である。
マークがそのように分析する一方で、少年たちもマークのことを観察していた。
《ねぇトーマ、あの翼……本物なのかな?》
《いや、リリィ……それも確かに気になるけど、今重要なのはあの剣でしょ》
鎧については理解できる。バリアジャケット、あるいは騎士甲冑と呼ばれるものだろう。そして、腰に吊るした長剣もデバイスであることがわかる。だが、その中でも異彩を放つのが、青年の構えた大剣である。
《あれって、質量兵器だよね?》
《ホントだ……あれ、でもこの時代って六課みたいな特例は存在しないはずだよね?》
そう、トーマとリリィの居た時代……現在から約15年後ですら、管理局のごく一部でしか質量兵器の使用は認められていないのだ。であれば、出される結論は一つ……目の前の青年が、非合法な活動をする存在という事。
《俺たち、そもそも見習いだし、ましてこの時代じゃ生まれてすらない可能性もあるけど……》
《管理局の局員だしね。流石に見過ごせないよ!》
この戦いがどのような結果をもたらすかは、今だけは考えないことにする。見つけてしまったのに放って置けるようなら、彼らは出会う事すらなかったのだから。
《それに、この時代で魔導殺しを知る人物なんだ。何かを知っていてもおかしくない!》
自分たちだけじゃない。多くの人が苦しむきっかけを作った人物かもしれないのだ。それを見て見ぬ振りができるようには、なりたくもなかった。
「どこからその知識が漏れたのか知らんが、お前のような存在を野放しにするわけにはいかんな……手足の一本や二本、覚悟してもらうぞ!」
「そっちこそ、アンタの研究で死んだ人たちの苦しみを、思い知れ!」
微妙に噛み合っているようでいない会話を交わしながらも、二人は必勝を確信しながら激突する。
片や神将器、マークの持つ烈火の剣『デュランダル』は全盛期には一振りで数十もの戦闘竜を薙ぎ払った古の神器である。
片や使用者に世界を殺す猛毒とまで言わしめた、トーマの持つ『ディバイダー966シュトロゼック・リアクテッド』は、結合分断機能を持つ究極の刃である。
だからこそ、お互いの刃が拮抗したことに驚愕すら覚えてしまう。
「なっ!」
「くそっ!」
共に全力と言って相違ない一撃であった。よって勝負を分けるのは、この後の対応の差である。
特にトーマにとって、未来から来たという無意識の傲慢が、武装の差で押しきれるという確信が砕かれたことは大きかった。
それに対してマークは、ただの人間如きに負けるわけがないと言う傲慢が、神器と言う最大火力への信頼が砕かれたことは大きかった。ただ二人の差は、戦闘経験と全盛期が過去にあるか未来にあるか、その違いが驚愕からの復帰に如実に表れることになった。
「終わりだ!」
《っ銀十字!》
だが、この程度の優位では、マークの刃はトーマに届かない。マークが一人で戦っているのに対し、トーマにはまだ仲間がいるのだ。リリィの呼びかけにより発動した銀十字のページによる防御は、マークの刃をかろうじて防いでいた。
「しつこい!」
「このぉっ!」
トーマはそのわずかな隙に体勢を立て直し、さらに迫るマークの大剣を受け止める。そして共に人外の力を持つ二人の剣戟はマークが優位を保ちつつも拮抗し、十重二十重と続いていく。
(まさか竜の膂力に対抗できるとはな……流石、エーギルを無駄に消費しているわけじゃないってか!)
(くっ! まさか、魔法を一切使わずにエクリプスドライバーと撃ち合えるなんて……背中の翼といい、この人キメラかなんかなのか!)
そんな拮抗に致命的な変化が起こったのは、マークは優位を保ちながらも仕留められないことに苛立ちを、トーマは絶え間ない劣勢に焦りを感じ始めたころであった。
「っ!」
「くっ!」
それにいち早く気付いたマークは、トーマを全力で弾き飛ばし、自身も大きく後退する。そして、改めてそれを確認し、マークの表情が憤怒に染まった。
一撃一撃の威力はトーマの持つ『ディバイダー』より、マークの持つ『デュランダル』の方が勝っていた。だが、『ディバイダー』の結合分断機能は、確実にその剣身を蝕んでいた。
すなわち、すでに剣を合わせて百合に届こうとしていたその結果、『デュランダル』がついに限界を迎えたのだ。
「よしっ! これで……」
だいぶ楽になる。そう考えてしまったトーマは、決して間違っていない。剣を失った剣士など、もはや敵ではない。確かにごく普通の戦士ならば、魔法を封じ、武器を破壊した時点で勝負は決まるだろう。
しかし、マークは人という範疇から半分はずれた存在なのだ。そのうえ、『デュランダル』は、マークにとって掛け替えのない戦友の形見とも呼べるもの。事情を知るものなら、これ以外適切な表現は無いだろう。
少年は、竜の逆鱗に触れてしまったのだ、と。