魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
確実とは言えないが、何とか問題解決の一手を得たエトルリア組であったが、それですべての問題が解決したわけではなかった。
「帰還方法ねぇ」
「ええ、あの子たちがロストロギアを使えるって話だったから、それについて確認してみたんだけど……」
リンディが確認してみた結果は、何とも信用しにくいものであったと言わざるを得ない。と言うのも、ロストロギアの使用限界が残り一回であることが大きな要因である。
アミタ達は大丈夫と言っていたが、たった一度の時間移動で三つの時代にそれぞれ送ることができると言われても、なかなか信用しにくいものがあったのだ。
「アミタさん達ともう一組ぐらいなら、まあ信用できない事もなかったけど……」
「そうは言っても、現状時間移動の手段なんて、あいつらのロストロギアしかないんだろ?」
困ったように頬に手をついて行うリンディに対し、報告書に書き込みをしつつ冷静に選択肢が無いと言うマークであったが、次の一言であっさりとその冷静さも失われる。
「フェイトさんとなのはさんの娘なのよ? それを危ない橋を渡らせることにして、マーク君はそれでいいのかしら?」
「…………じゃあ、どうしろと?」
フェイトの娘と言うたった一言で冷静な仮面がはがされたマークは、眉を顰めながら問いかける。先程も言ったように、時間移動の手段なんてそうそうあるものではない。
だが、本当は違うのでしょうと、リンディは核心へと切り込んでくる。
「マーク君には、時間移動の方法に当てがあるんでしょ?」
「……どうして、そう思った?」
少しだけ面倒そうに、それでいてほんのわずかに鋭くなった目線を感じたリンディは、少し踏み込み過ぎたかと感じながらも己の推論を述べる。
「十年かそこらじゃ管理局は時間移動を実現できないわ。それにあなたも未来から来たって話を簡単に信じたし……アミタさんの証言が無かったときは、貴方がヴィヴィオさん達をこの時代に送ったものと思っていたのよ」
「……それだけじゃ理由としては弱いな」
だが、マークは一度だけとはいえ死者蘇生と言う奇跡を起こしているのだ。ならば時間を超えることもできるのでは、と思ってしまうのも仕方がないことだろう。
もちろん、少し落ち着いてしまえばそれが過剰な期待であることに気付くことになる。
「まあ、やってやれない事もないがな」
「そうよねぇ~、流石にマーク君で……も……?」
過剰な期待であると、そう思った瞬間にその思いを打ち砕かれた衝撃と言うのは、想像を絶するものであった。
もはや絶叫することもでき無かったリンディは、さびた人形のようにギギギッとぎこちなく顔をマークに向ける。
「……自分で言い出した推論だろ」
「え? だ? な?!」
意味のある言葉を発することができていないリンディを見て、流石に言うべきではなかったかと少し後悔するが、そう思ってもあとの祭りかと自嘲する。
それを見て、ひょっとしてただの冗談を過剰に反応した自分に呆れているのではないかと言うかすかな期待を抱いたリンディは、尋ねる。
「……ひょっとして冗談?」
「いや、本気だ」
そうやって完全に打ちのめされたリンディであったが、もはやいまさら言い繕う気を無くしていたマークは時間移動について語る。
「簡単に言えば、ナーガ一族の固有技能のようなもんかな? 本来、使用しようと思えば次代のナーガになる必要があるが、俺は可能性の塊である人の子とのハーフだしうまくすれば使えるはずだ」
「……真竜って、チートの塊なんだって実感させられたわ……」
「ちーとが何なのかはわからんが……伊達や酔狂で神なる竜なんて名乗らんよ」
「……神なる?」
数日後、人と言うのは、想像をはるかに超えた事象を目の当たりにすると、思考を放棄するようにできていると、酒の席で友人に語るリンディの姿があったと言う。
ところ変わって食堂では、今回の一件に参加した面々がにぎやかに食事をとっていた。にぎやかと言っても、現状半分以上が講義の時間となってしまっていた。
「……と言うわけだから、未来の情報はお互いの為にも知らない方が良いってわけで……OK?」
「確かに未来のことは気になるけど、その話を聞いて、未来が変わってしまってヴィヴィオちゃん達が消えちゃったりされても嫌だし……」
「そうなると情報を提供した事実もなくなるはずだから……って矛盾が起こってどうなるかわからないから危険ってことね?」
「……」
キリエにより、いわゆるSFもので出てくるようなタイムパラドックスなどの説明が行われていたのだ。それにより、詳細が分からなくても大まかな危機感が伝わったようで、未来の情報を無理に聞き出すようなまねはしない事を、この場にいる人たちに確約させていた。
「まあ、最終的には私たちがある程度情報と言うか思考を操作して、私たちが未来からではなく、どこか遠くの管理外世界から来たという事にしますから、そこまで意識する必要はないですよ!」
「よかった~、せっかくこうして出会えたのに、いろいろお話しできないなんて寂しいもんね!」
危機感ばかり強調して、この場で話をしていいのかとためらい始める前にアミタがフォローを入れる。
それに素直に喜びを表したのはなのはであったが、最も安心したのは、なのはとフェイトを母と慕うヴィヴィオと、はやてに対し厳しい上官と言う認識を持つトーマであった。
「ちょっとぐらい不用意な事を聞いたり言ってもしても、大丈夫ってことでいいですか?」
「無いに越したことはないわよ? でも、よほどのことじゃなきゃ問題ないでしょうね」
すずかの念を入れた確認にもキリエが軽く答えることで、その懸念を払拭しようとする。それでようやく安心したのか、ようやくすずかは笑みを浮かべた。
それに合わせて、念のためアースラに避難していたアリサが、話題を変えようと先程の戦いについて尋ねる。
「それはそうと……結構きつい戦いだったらしいけど、どんなもんだったの?」
アリサの目線はすずかの不揃いになった髪と、トーマの吊られた左腕に注がれていた。治療自体は終わっていたが、流石に髪を伸ばしたり、引き千切れる寸前の腕を完全に治癒させることはできなかったためだ。
「わたしらは……そやね」
「割と楽をさせてもらったかな?」
はやてとなのはが、苦戦した人たちの前に答える。距離が合わなかったり、決定打に欠けた戦いで長引いてしまったが、怪我らしい怪我をしなかった以上、フェイトやすずかとは比べ物にならないくらい楽だったはずである。
「……僕は、終始試されているような感じだったな。何がどこまでできるのかを、確認されている気がしたよ」
「ぼくの方は千日手だね。攻撃力が低すぎて、どうあがいても決着がつけられなかった」
クロノとユーノは、完全に相手の思うつぼだったのだろう。とはいえ、今後の目標ができたと付け足す彼らにとって、今回の戦いはプラスに働いたものだと感じられた。
「わたしは二人の協力もあって何とか……でも、偽物とはいえマークと敵対するなんて、もう二度としたくない」
「でも、フェイトママすごかったよ! ホントに目にも止まらない速さで……まぁ、もう戦いたくないって言うのは賛成だけど」
「……わたしは、ぜひとも本人と手合わせ願いたいと思いましたが」
「「!!」」
フェイトはもちろん、ヴィヴィオの感想もごく自然なものであった。ヴィヴィオも格闘少女として組手や試合というルールに守られた状態ならともかく、今回のような戦闘はもう御免であった。だが、アインハルトだけは違った。
三対一でようやく戦えたという現実があるにもかかわらず再戦を望む一言に、マークの実力を知る数名が言葉にならない驚きを示す。
「誰よりも強くなることが、わたしの……悲願ですから」
情報を削いだその一言は、痛いほど染み渡ったが、それでもやっぱり理解できないとばかりに声が上がる。
「……いや、あの人と戦うのだけはやめた方がいいって」
今回マークと戦ったトーマである。もちろん、隣でリリィが全力で首を縦に振って肯定していた。
「俺も一応未来の知識があるし、強い人達もたくさん見てきたけど……」
「正直に言って、そんな人たちとだって比べられないぐらい、桁外れだったんだよ」
人の姿をしていた時は魔力を完全に無効化していたこともありまだ何とかなったが、竜の姿に変わってからは何もさせてもらえなかった。
そんな戦いとも呼べぬ蹂躙を思い返し、思わず震えが奔ったトーマに、クロノはある疑問をぶつける。
「そもそも、なんでマークと戦うことになったんだ?」
「あ~、それは何というか……ちょっと行き違いがありまして……」
先程の話し合いの結果を受け、細かい事情を話すようなことはしなかったが、トーマはマークのことをある事件の原因、より正確には黒幕ではないかと疑ってしまったのだと語る。
「いやだって、ベルカ式のデバイスを持っていたのに、質量兵器まで持っていたから……」
「なるほど、それでマークのことを非合法な存在と思ったのか……」
「確かにマーク君の武装については、例外として所持を認めるって程度だし、何より大々的に公表とかしてないからねぇ~」
トーマの言い訳に、クロノとエイミィは納得の意を示す。しかし、その納得の裏では、更なる疑問が生じていた。
(本当にマークのことを知らないなんて、あり得るのか?)
地球で起こった事件だけなら、あるいは埋もれてしまう事もあったかもしれない。だがマークには、絶対に無視できない実績が既にあるのだ。
(死者蘇生は言わずもがな、魔王と言う驚異もあるんだ……)
魔王関係では、グレアムが主導して部隊を一つ創設する話も上がってきているのだ。それにもかかわらず、マークの知名度が低いとは考え難い。
「……まあ大事には至らなかったようだし、遺恨を残さないようにな」
「……はい……」
クロノの忠告に力なく頷くトーマであったが、それも仕方のないことだろう。正直に言って、危うく死にかけたあの一戦は、マークに対する苦手意識を刷り込むには十分な物があったのだから。
それでも、しばらくこの地で世話になる以上、無かったことにするわけにはいかないだろう。トーマがそう腹を括った時、まるで見計らっていたかのようなタイミングでマークが食堂へやって来た。
「あれ、艦長との話し合いは終わったの?」
「ああ、ちょっと休憩だな」
リンディがフリーズしてしまったため再起動まで時間をつぶしに来たとは言わず、適当に答えたマークはいつになく大量の食糧を注文してフェイトの隣の席へと座る。
「た、食べきれるんですか?」
「流石に食べきれんほど頼むような勿体ない事はせんよ」
なのはの驚愕交じりの質問に気負いなく答えたマークは、五人前は軽くあるだろう食事に早速手を伸ばす。もちろん、人目もあるという事もあるだろうが、がっつくようなことはせず、常人とさほど変わらぬペースで食べ始めた。
「それより、まじめな顔してなんの話してたんだ?」
「ああ、トーマ君はマーク君と戦闘したから、そのことはちゃんと話し合っておけって」
「ふむ、それもそうだな」
エイミィの説明に納得したマークは、一度食事の手を止めてトーマと向き合う。
「あの時は、俺もやり過ぎた。すまなかったな」
「い、いえ! 俺も勝手な思い込みで突っかかっていって、すみませんでした!」
マークは静かに、トーマはやや過剰にそれぞれ謝罪をする。そうなると、話題がその戦いについてのものになるのも当然と言えるだろう。
「その腕は大丈夫なのか?」
「一応大丈夫だとは思います。自己治癒力はかなり強い方ですから。……マークさんの方は、怪我とかなかったですか?」
「こっちの損害は『デュランダル』だけだ」
「え、壊れちゃったの!?」
二人の会話に思わず割って入ったのは、フェイトであった。かつて間近で見たことがあっただけに、『デュランダル』の破損が信じられなかったのだ。
「ギリギリで砕けてはいないが……さすがにもう実用はできないだろうな」
「修復はできないんですか?」
「……あの剣、ロストロギア級だったはずだ」
顔を青白く染めたトーマの問いに、クロノがとどめの一言を放つ。ロストロギアとは、現代の技術では再現できないからこそのロストロギアなのだ。それを壊してしまったとなったら……
血の気の引いた顔をするトーマに対し、マークは苦笑を交えながら問題ないと告げる。
「形あるものは、いつかは壊れる。そこまで気にすることじゃないさ」
「しかし、そんな希少な武装ともなれば、相当な戦力ダウンになるんじゃないんですか?」
そんなマークのフォローも、アインハルトの一言によって気休めにもならなくなる。尤も、アインハルトとして見れば手合わせをしたい相手の戦力が低下したかもしれないことが気になっただけだったのだが、トーマに対しては致命的な一言となった。
「……同クラスの武装がまだいくつかあるから、大問題ってことでもないさ」
「問題ないのでしたら、ぜひ一つ手合わせをお願いできますか?」
流石に何度もフォローを入れるほど気にしていなかったわけじゃないマークは、撃沈したトーマのことを思考から外してアインハルトに向き直る。
それは、なぜマークとの戦いを望むのかを計るためであったが、改めて向き直ると、その思いが一部狂気の域にまで届いているのがわかる。となれば、マークの答えなど決まっていた。
「やだ、断る」
「……負けるのが怖いですか?」
付き合いきれないと突っぱねるマークに対し、軽く挑発をするアインハルトであったが、この程度の挑発に乗るほど軽くは無い。
だが、この対応はクロノにとっては意外としか言いようのないものであった。
「正直、マークなら乗ると思ったんだが?」
「……じゃあ聞くが、俺が負けると思うか?」
クロノが意外に思ったのは嘱託試験の際の会話が原因だ。あの時のマークには、むしろ戦いたがっているという印象を抱いたので、今回面倒だと言ってしまうことに違和感を覚えたのだった。
まあ、その疑問は置いておいて、マークの質問返しに対してはわざわざ考えるまでもないだろう。
「想像できないな」
クロノの答えに、マークの実力を知るものが同意の意を示す。アインハルトの正確な実力は知らないが、どんな切り札であろうとマークの竜化を超えるものは無いと、そう刷り込まれているといっても構わないような反応であった。
あまりの評価にアインハルトは頬を引きつらせ、何とか反論を試みる。
「勝負に絶対はありません」
「いや、戦いの結果は、全て必然だ」
万に一つも可能性があれば、勝利を拾う事もできるというアインハルト。それに対し、戦いとは、始まった時に結果が決まっているというマーク。
当然、この場で答え等出る筈もなく、結果としてマークが折れることになった。
「……じゃあ、奥義を一つ覚えてもらう」
マークの出した提案は、達成困難な条件を出して煙に巻くことが目的だろうと思われるものであったが、アインハルトはこれを呑む。
マークが言外に『これぐらいできなければ、戦う価値などない』と、そう言っているように感じたためであった。
「あの、せっかくですから、わたしも教えて貰っていいですか?」
「あ、私も教えてほしいです!」
「手取り足取り教えるなんてことはしないぞ?」
すずかとヴィヴィオの便乗にくぎを刺すマークであったが、それでも教えないと言わないあたり、マークの甘さが垣間見える。
とはいえ一応実戦をこなしたあとであるため、奥義の見本などはまた後日に回すことになった。
「うん、ごちそうさまでした」
「って、もう食べ終わったん!?」
軽く今後の予定を話し合ううちに、あっと言う間に五人前を平らげたマークのおなかを見るが、見た目に変化はない。
だが当の本人は周りの驚愕を理解しているのかいないのか、席を立ってすずかのもとへと向かう。
「切るぞ?」
「え? あ、はい。お願いします?」
あまりに短すぎる一言に戸惑いつつも、つい了承の意を帰してしまったすずかであったが、マークがすずかの後ろに回った次の瞬間には何を切ると言ったのかを理解した。
「あ……」
「せっかくきれいな髪だったのに……勿体ない事をしたな」
それはすずかの不揃いになった髪であった。アースラに美容師がいる筈もなく放置されていた髪であったが、マークはそれを手にした『銀のダガー』で揃えているのだ。
「ま、マークさんって髪も切れるんですね?」
「髪ぐらい誰だって切れるだろ? ……まあ、妹分の髪も揃えていた時期があるし、そこら辺の奴らよりうまい自信はあるぞ」
自身の髪を褒められて少し赤くなるすずかの髪を、勿体ないと言いつつもバッサリと切り落とす。首元付近で大きくえぐられていた為、揃えるためにはかなりの量を切らざるを得なかったのだ。
「せっかく伸ばしていたんだろ?」
「いえ、剣を習い始めてからは切ろうかとも考えていましたし、ちょうどよかったですよ」
「……そうか」
本気とも強がりとも取れるすずかの言葉に、マークは軽く頷くだけにとどめる。ただ、心の中ですずかの本気を軽く見ていたことを謝罪した。
「こんなもんかな?」
「ありがとうございます!」
それから程なくして、髪を切り終わったと告げるマークであったが、残念なことにこの場には鏡が無かった。
周りからの評価は中々の高評価をいただき問題ないとのことで一致したが、やはり気になるのだろう。鏡を求めて、アリサ達と共に食堂から離れる。
「じゃあ、俺も戻るか」
「あ、私も一緒に行くよ」
そろそろリンディも復活している頃だろうと席を立つマークに、エイミィも同行する。クロノは、念のため未来組に今後の行動における諸注意を確認しておくとのことだった。
そしてリンディのもとへ向かう道すがら、周りに誰もいないことを確認したエイミィが、マークに確認する。
「いいの?」
「何が?」
あまりに短い至極真面目なその一言に、マークは疑問で返すほかない。だがエイミィはわかっている筈だとマークを責め、ついに決定的な一言をマークに告げる。
「このままじゃマーク君……死んじゃうかもしれないんだよ?」