魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第6話 「接触~管理局~」

《ねえ、マーク……》

《なんだ?アルフ》

 

 珍しくアルフが念話で話しかけてきた。おそらくフェイトには聞かれたくない内容なのだろう。

 

《聞かないのかい?》

《何を?》

 

 まあ、もし小声で話していたとしても今のフェイトには聞こえないだろう。彼女は今、ライバルである少女のもとへと歩いて行っているのだから。

 

《あの日……あたしらが報告に行った時のフェイトの怪我のこと》

《……階段から落ちたんだろ?》

 

 そう、マークが危うく戦闘になりそうな場面から逃げ出し帰ってみると、フェイトの怪我をアルフが手当てをしていたのだ。

 マークが怪我の理由を聞いても言いよどみ、結果マークの提案で階段から落ちたことになってしまったことになったのだ。

 

《……そう、あんたはそれでいいのかい?》

《……》

 

 アルフの問いに、マークは答える術を持たなかった。正直に聞きたい思いはある。だが同時に、踏み込むべきではないとも思うのだ。

 

《中途半端だと、思うか?》

 

 そう、マークは見なかったことにはできなかった。『ライブ』という杖を使い治療を行い、怪我の理由も聞いた。だが、フェイトが言いよどんだ時、それ以上のことをするのをやめた。

 

《あたしのご主人様はフェイトだからね。フェイトのことを思えば、聞いてほしいと思う……》

 

 だけど、フェイトが話さなかったことを簡単に話すこともしない、と付け足す。ままならないなぁ、などとマークが思っていると、そうしている間に2人の少女が対峙する。小動物もこの相対を見守るようだ。

 

「あの……フェイトちゃん?」

「フェイト・テスタロッサ」

 

 フェイトは呼ばれた名前に反応し、改めて自分の口から名乗った。

 

《それはそうと、なんだかんだで俺らって名前知られてるよな》

《……いや、まあ……そうだね。でも!あたしらだってあの子たちの名前は覚えてるよ!確か、なのはとユーノって言ってた!》

 

 そういえば初めて戦った時に言っていたな、とマークは思い返す。

 

「わたしはフェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど……」

「ジュエルシードは、譲れないから」

 

 正直ここだけ聞くと、なのはの思いを切り捨てているかのようにも聞こえる。実際フェイトは、ジュエルシードを集めることが最優先と思っているだろう。

 

(だが、こうして相手と向き合い話をしている。そこんとこちゃんと気づいているか?)

 

 無意識にこうなることを望んでいる。話がしたいと、フェイト自身も思っているのだ。

 

「わたしも譲れない。理由を聞きたいから……フェイトちゃんがなんでジュエルシードを集めているのか……どうしてそんなに寂しそうな目をしているのか」

 

 そうしてなのはは、手に取った杖を構える。

 

「わたしが勝ったら、お話聞かせてくれる?」

 

 これは正しく決闘である。お互いが望むもののため全力でぶつかりあう。マークが渡ってきた戦場と違い、先に進むための戦い。その想いは、相手を拒絶し、滅ぼすために戦ってきたマークにとって、とても眩しいものだった。

 そうして2人はそれぞれの思いを胸に、全力で戦いを始めた。……いや、戦い始めるはずだったのだが……

 

「そこまでだ!」

 

 そこへ1人の少年が乱入する。

 

(無粋な……)

 

 マークは、お互いの矜持をかけた戦いに介入する少年の行為に憤りを感じる。だが同時にうまいとも思う。

 

(俺らが戦闘に参加しないのを確認して、戦う2人の集中が極限に達したところで一気に捕縛か……)

 

 あの2人の戦いを見守ると決めていた身にとっては無粋極まりないが、戦士としては、その効率的な介入に美しさすら感じる。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」

「え!?」

「管理局……!?」

「さて……事情を聞かせてもらおうか」

 

 あの少年、クロノの自信は『管理局』という組織の大きさに由来するものだろう、とマークは結論付ける。だが、その結論を生かす前にアルフが動いた。

 

「フェイト!撤退するよ!」

 

 弾幕を張り、少年の視界をふさぐ。その隙にフェイトなら自力で逃げられるだろう。

 

《俺は空を飛べないからな。先に撤退するぞ!》

《了解!》

 

 そういって逃げようとしたところで、視界の端に逃げようとしないフェイトの姿が見えた。おそらくジュエルシードを回収するつもりだろう。

 

(あのバカ!)

 

 声を出したら居場所を特定される。かといって慣れない念話をするほどの余裕はない。アルフのまき散らした土煙で正確な射線が読めないため、体を無理やり割り込ませる。そして予想通りに、ジュエルシードに向かって魔法の弾丸が放たれた。

 

「『ファイアー』」

 

 マークはなんとかその一撃を相殺する。

 

「フェイト!?マーク!」

《さっさと行け!あと連絡は期待するなよ!》

 

 ジュエルシードを確保したフェイトが振り返る前に、アルフがフェイトをさらって飛ぶ。

 

「逃がすとでも!」

「い~や、逃げ切るさ!」

 

 少年の一撃を、今度は射線に割り込むことなく相殺する。始点がしっかり見えていれば、割り込む必要はないのだ。

 

「邪魔を!」

「相方が打たれるのを黙って見ていろと!」

 

 今度はマークに対して放たれた魔法を火の魔法で同じように相殺する。だがこの時点でマークはほとんど詰んでいた。

 

(逃げる手がないな……もうこうなるとどれだけいい条件で降伏するか、か)

 

 別にこの場をひっくり返す手なら、ないこともないのだ。ただ、相手のことは考慮せず全力で戦えばいい。すなわちあの少年を『殺す』のだ。だが今のマークにはそんな気になれなかった。

 

(ああ、自分探しなんて考えなければよかったか?)

 

 そう、あの時『戦士ではない自分』を探していた。なら、血なまぐさいことは避けるべきだろうと自然に納得してしまったのだ。その場限りと思っていたが、思いのほか自身に深く根付いてしまったようだ。

 

「はっきり認識したのは今だが、もっと前からこの思いはあったんだろうな」

「何を!」

 

 なのはを治療した理由など、いろいろと納得して満足しているマークに対して、クロノはいら立っていた。

 

(当たらない!?いや、遊ばれているのか!)

 

 いくつか罠を用意してそこへ誘導したりもしたが、まるで最初から何があるかわかっていたかのように躱された。あと一歩で追い詰めると思ったところで、するりとその手を抜けていく。

 それに対してマークは、表面上は余裕に見える。だがそれはあくまで表面上のことで、内心かなり焦っていた。

 

(最初の一撃を食らってから、体が重い!くそっ、ただでさえ知らない魔法なのに!)

 

 そうフェイトをかばった一撃だが、実は相殺しきれずにダメージが通っていたのだ。本来マークには、魔法に対して最大級の防御力を持つはずなのだが、それがうまく働かない。

 

(俺自身の弱体化?いや、どちらかといえばかなり特殊な術式を組んでいるのか?)

 

 もし彼の疑問に答えるものがこの場に居たのなら『非殺傷設定』の存在を挙げただろう。だが今この場にそんな存在はなく、彼は原因不明のダメージを与える魔法を過剰に意識しなければならない結果になったのだ。

 

(あと、彼の評価についても改めないとな!)

 

 最初の一手こそ評価はしたが、ここまで戦えると思っていなかったマークはこの戦いを持て余していた。手を抜くには強く、本気でやるには弱い。攻撃が未知のものなら、防御もまた未知のものであることも大きい。

そうなるとむやみに手が出せなくなり、戦況は硬直する。なのはとユーノは、この状況を打破できる力を持っていたかもしれないが、それを実行するほど考えなしではなかった。そうして長くに続くかに思われた戦いだが、ある侵入者によって均衡を崩すことになる。

 

「ッ!」

「なっ!」

「え?」

 

 最初に反応したのはクロノだ。あまり攻撃をしてこないマークが何らかの形で奇襲を狙っていると考えたため、周りへの警戒が高く、瞬時に迎撃を行った。

 次に気付いたのはマーク。正体不明の『魔法』に対して警戒を高めていたため、『人』の介入に対して意識が薄くなっていたのだ。そして、侵入者の少女に対してクロノが行った攻撃への対処に走る。

 最後にその光景を理解できなかったのはなのはだ。そこに本来いるはずのない人がいた。それが彼女の思考を停止させ、とるべき行動を忘れさせる。

 

「ッアァ!」

 

 マークとクロノ、侵入者の位置が悪かった。クロノの一撃をマークが相殺すれば、その余波は侵入者を呑みこんだだろう。故にマークは、どのような理屈でダメージが通っているのかわからない、その一撃に割って入るしかなかったのだ。

 

(くそ!腕で受けたのに、何で全身にダメージが!)

 

「迷い込んできた一般人にまで攻撃するか!管理局!」

 

 気を抜けば膝をつきそうになるが、それを気合で隠し通す。少女には悪いが、マークにとって千載一遇のチャンスだ。ここでうまくいけば、この場を何とかやり過ごせるかもしれない。

 

「クッ!」

 

 対してクロノは歯噛みをしている。間違いなく優勢だった状況がひっくり返されたのだ。一般人の侵入というイレギュラーが原因ではあったが、それを誤射してマークに防がれ事なきを得るというなど、まごう事なき失態だ。

 

「えっと?」

 

 マークは現状をうまく認識できていない少女を、一瞥することでだまらせる。『貸一つ』と聞こえた気がするが、今はおいておく。

 

「何か不満か?」

「白々しい……!」

 

 マークは挑発することで、こちらの優位を主張する。もうまともに体が動かない以上、何とか話し合いで安全を確保したいのだ。

 

『そこまでです』

 

 そこへまた一人介入してくる者が居た。

 

『時空管理局所属艦アースラの艦長リンディ・ハラオウンです。お互い、何やら誤解があるようですし、少し話し合いませんか?』

「ああ、かまわん。こちらとしても、一般人を巻き込んでまで戦おうとは思わないしな」

 

 おそらく現状出てこれる管理局側の最高責任者をけん制しながら、マークは驚愕を抑え込む。

 

(いったいどんな技術を使ってるんだ!?)

 

 そう、リンディと名乗った女は空中に映像として介入してきたのだ。この地で目覚めて以来、車やらテレビやらで相当驚いてきたのでいくらか耐性ができたと思っていたのだが、それでも甘かったようだ。そしてこの驚愕は、残念ながら隠しきれなかったようだ。

 

『とりあえず、お名前の方をうかがってもよろしいかしら?おそらく次元漂流者の方だと思うのですが……』

「……自分でも完全に把握できていないんだが、おそらく、な。名前はマークだ」

 

 手札を見抜かれわずかにあせるマークには気付かずに、この状況をどうおさめるかと、リンディは苦悩していた。

 

(こちらが出した映像に驚いたからまさか、とは思ったけど……思った以上に厄介ね)

 

 彼の持つ赤い魔道書は解析したが、どうやら管理局のデータベースには存在しない類のものらしいのだ。そのことから推測できるのは、マークはいまだ管理局の手の届かない領域にある世界の出身である可能性。

 

『まずは、こちらの一般人に対する誤射を防いでいただいたことを感謝します。後ろの子にも謝罪を、ごめんなさいね』

「戦場に立つ者の義務だ。非戦闘員には手を出さんし出させん」

「い、いえ。こちらこそむやみに出てきてしまってごめんなさい」

 

 ここですぐに謝ってしまうという事は、本当に偶然迷い込んだだけなのだろうとあたりをつける。少なくとも、マークが仕込んだことではないだろう。

 

『ではクロノ、みなさんをアースラへ……』

「ソレは勘弁してもらいたいな」

『……わかりました』

 

 マークとしては、この先どういった関係になるかわからない相手の懐に飛び込むつもりはない。リンディとしても、そんな相手を本拠地に招く気はない。だがお互い敵対したくないという、何とも奇妙な会談となった。

 

『それで、このまま話を始めてしまってよろしいかしら?』

「ああ、あとそっちの話は後でやってくれ。2度手間かもしれんが、こっちとしては不確定要素をあまり入れたくない」

 

 なのはたちには悪いが、相手が多くなれば自然と考えなければならないことが増える。今のマークにはそれを捌く余裕がなかったのだ。

 

『わかりました。では最初の質問です。あなたたちはジュエルシードを集めている、これに間違いはありませんね?』

「間違いなく。物自体は相方が持っている」

『では、ジュエルシードが一体どんなものか正確に理解していますか?』

「正確かといわれると自信がないな……せいぜい魔力の塊、といった程度か」

 

 マーク自身が必要としているわけではないので、最低限の特徴しか聞いていないのだ。それを聞き、リンディは言葉を選びながら説明を始めた。

 

『ん~遺失世界の遺産って言ってわかりますか?』

「微妙」

『次元空間の中には、いくつもの世界があるっていうのは知っていますよね?』

「その中には、よくない形で進化しすぎてしまう世界がある」

 

 リンディの解説にクロノが加わる。どうやら完全に戦闘方面はあきらめたらしく最低限の警戒しかしていない。

 

『進化しすぎた技術や化学が、自分たちの世界を滅ぼしてしまって、その後に残されてしまった危険な遺産』

「それらを総称して、ロストロギアと呼ぶ」

 

 マークは自分の持つ強力な武具のことを思い起こす。ひょっとしたらあれらのいくつかも『ロストロギア』と呼ばれるかもしれない、と。事実ある戦争の時に、天変地異ともいえる現象を起こしていたはずだ。

 

『そう、わたしたち管理局や保護組織が、正しく管理していかなければならない品物……あなたたちが捜しているジュエルシードもそう』

「あれは次元干渉型のエネルギー結晶体」

『流し込まれた魔力を媒体として、次元震を引き起こすことのある危険物』

「次元震?」

「君たちがぶつかった際の振動と爆発……あれが次元震だよ」

 

 解説を聞くと同時に、思わず顔をしかめそうになる。今のセリフは、マークたちが以前から監視されていたことに他ならない。

 

「たった1つのジュエルシードでもあれだけの威力があるんだ……複数個集まって動かしたときの影響ははかり知れない」

『大規模次元震や、その上の災害、次元断層が起これば世界の一つや二つ簡単に消滅してしまうわ』

「大体理解した」

 

 マークは、要は『危険だから手を引け』といいたいのだと解釈した。だが事実として、世界の消滅にまで干渉できる力はマークにはないのだ。知らなければともかく、知ってしまえばこれまでのように気軽に手を出すことはできなくなってしまった。

 

『それで、ジュエルシードについて正確に理解していなかった点から、必要としているのはあなたの相方だと思うのですが……なぜジュエルシードを集めているのかご存じ?』

「いや、詳しくは聞いていない。ま、聞いていたとしてもこの場で話はしないがな」

 

 仮にも相方であるのだから裏切るようなまねはしない、と付け足す。

 

『そうですか……それで、今後のことですがあなたが次元漂流者である以上、こちらにはあなたを保護する義務があります。ご同行を願えますか?』

「最終的にはそれで構わないが、先約があってね。それが終わったらってことで構わないか?」

『かまいません』

「母さ……艦長!」

 

 マークの主張を丸呑みしたリンディに、さすがにクロノも異議を唱える。しかしリンディは笑顔で受け流し、マークとの話を続ける。

 

『では連絡の手段ですが……後日連絡用のデバイスを用意します。ジュエルシードの反応に合わせて接触していただいても?』

「承知した。いや、話の分かる人で助かったよ」

『ええ、お互いに。最良の結果が得られることを期待しています』

 

 そういってお互いに笑いあう。具体的な事は何も話さなかったが、なぜマークは野放しにされたのか、おおよそ理解していた。

 

(最悪の事態だけは起こさせるなってとこか?下手に敵対するよりパイプを作っておく方が安心だろうしな)

 

 特にジュエルシードに執着しないマークであるなら、一線を越えるようなことはさせないだろうというのがリンディの考えだ。非戦闘員に対する考えが聞けたのは幸運であったといえるだろう。

 マークも今まで世界を救う側の存在であったため、消滅させるようなことをやろうとした場合は止めざるを得ないだろうと思っていた。ただ、一線を越えるまでは約束通り手伝うつもりでいるのだから、たちが悪いともいえる。

 

「それじゃあ、また。あ、こっちはどうする?」

『どうしますか? 詳しく話を聞きたいのでしたら、アースラまで来ていただきますが?』

 

 そうして話は少女へと向かう。少女は一瞬なのはの方を見てからすぐに答えを出した。

 

「え~と……こっちの人から聞きます」

「そっか、じゃあこっちは持ってくぞ」

『わかりました。では後日』

 

 こうして管理局との接触は、最初はともかくあっさりと終ってしまった。

 

 

「よかったのか?」

 

 結界からゆっくりと歩いて離れながら、改めて少女に問いかける。

 

「はい。あっちのことは後でゆっくり聞きますから」

「ふ~ん、やっぱり知り合いなんだ」

 

 マークの問いに対してあっさり答え、予想が正しかったことを理解する。

 

「それはともかく、わたしのうちまで来てもらえますか?守ってくれたお礼もしたいですし……」

「この間の交渉の続きもしないといけないしな」

 

 マークの物言いに少女は苦笑するが、特に訂正などはしなかった。

 

 

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