魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第69話 「乗馬教室」

「…………こんなもんかな?」

「……うん、いい感じだね」

 

 マークの一言に、リオンが手を握ったり開いたりしながら答える。あの大ゲンカから数日後、その際の約束通りにリオンはマークの研究所を訪れ、その肉体をモルフのものへと改造したのだ。

 その結果は上々。リインフォースから譲り受けた機能をいくつか失ったが、その代わり肉体は安定し、個としての戦闘力は大きく向上していた。

 

「魔王に憑依されていた時ほどの強度は出てないぞ?」

「でも、本来の僕のスペックははるかに上回ってるよ。シグナムとヴィータのコンビぐらいなら、互角に戦えるんじゃないかな?」

「肉体の性能だけ見れば可能かもしれないが……お前じゃ無理だろ」

 

 ただし、その本人の精神は戦闘に向いていないことは変わらず、生粋の騎士であるシグナム達相手では、一対一でだって勝てるか怪しいものである。

 

「そうだね。まあ、どうしようもない時以外は後方に居させてもらうべきかな?」

「そこら辺はハヤテと相談しろ。俺は知らん」

 

 さりげない進路相談のようなものも、マークは一刀両断にしてしまう。つい先ほどまでの敵と肩を並べることはできても、やはり好き嫌いはあるのだ。

 はやてのこともあるので、その手を振り払う事はしないが、かといって好んで握り返すことはしなかった。

 

「私の方は、戦闘力と言う点では皆無だな」

 

 マークとリオンの様子を苦笑しながら見ていたムルヴァが、半ばその場をとりなすように自身の変化を改めて述べる。

 基本性能を大きく上昇させたリオンに対し、もう一人のモルフとなったムルヴァのスペックは、ごく一般の成人男性並みに収まっていた。

 

「流石に竜化できるようなモルフは作れんし、武器を使えないお前の性能あげてもなぁ……」

「わかっている。それに、エーギルの消費が少ないと言うのは、今後を思えばありがたいことだ」

 

 そう、モルフの肉体はエーギルからできている以上、その動作はエーギルの消費によってなされる。

 そして通常のモルフはエーギルを生産できないため、これからエトルリアに行く予定のムルヴァにとって、燃費は文字通り死活問題なのだ。

 

「よく言う……お前なら回収も可能だろうに」

「ふっ……そこまでして長生きしようとは思えんよ」

 

 元々エーギルとは、竜の持つ知識の一部である。と言うより、エーギルの知識を持つからこそ、肉体を安定させてエトルリアに送る話が出たのだ。とは言っても、この知識を自身の延命や強化に使う竜など、かつて存在していなかったわけだが……

 マークも、その返事は予想で来ていたのだろう。軽く頷き余命を告げるその姿に、特に負の感情を思わせるものは無かった。

 しかし、この生き死にの話が予想外にも昨日の話に繋がってしまったのは、マークにとって予想外であった。

 

「だが、お前はいいのか? このままでは死ぬかもしれないのだろう?」

「ああ、僕も気になっていたんだ。正直に言って、貴方がそう簡単に死ぬとは思えないけど」

「……盗み聞きとは、趣味がいいとは言えんな」

 

 ムルヴァもリオンも、表面上ではからかっているような口調であったが、その実これ以上ないほど真剣であった。

 やれやれと、マークは肩をすくめながら昨日のエイミィとの会話を思い起こしていた。

 

 

「俺が死ぬって?」

「もちろん、最悪の想定ではあるけど……それ以外につじつまが合う説明が難しくてね」

 

 他に誰もいない廊下で向き合う二人は、片や困ったように、片や真剣な顔をしながら言葉を交わす。

 

「そう言うからには、ちゃんとした根拠があるんだろうな」

「根拠と言うには説得力が薄いって言われるかもしれないけど……ヴィヴィオちゃんがマーク君のことを知らないのは、いくらなんでも不自然すぎるよ」

 

 なのはとフェイトのことを母と呼ぶヴィヴィオは、いろいろな事情があって引き取った娘であるらしい。その娘が、特にフェイトと関係の深いマークを知らないなんてありえるのだろうか?

 

「闇の欠片の時も、マーク君自身が出てきた時も、少なくとも知った顔に対する対応じゃなかったよ? ってことは、今回の事件が貴方たちの初対面になるってこと」

「……別に、俺が忙しくて会う暇が無かったとか、この十年でフェイト達と疎遠になったとか、いくらでも考えられるだろうに」

「それ、本気で言ってる?」

「……」

 

 現在、マークの仕事はどれも手伝いの域を出ず、例外である研究も、外部から何かしらの強制を受けているわけではない。それは今後も大きく変わることは無いだろう。

 それに加え、フェイトの肉体はその三割近くがモルフのそれとなっている。そのような状態でマークと疎遠になるのはありえない。

 

「もちろん、あえて悪い予想を立ててるって事もあるから、杞憂に終わることもあるだろうけど……軽視するには、ちょっと不吉すぎると思わない?」

 

 管理世界、いや、それ以上の枠組みから見ても、マークと言う存在は稀有なものだ。そんな存在が、身内と言うべき少女にすら知られていないなんて、何かあると言っているようなものだ。

 だがマークは、そんなエイミィの不安に対し、諭すように言う。

 

「確かに、これから何かしらの事件が起きるだろうっていうのは、本音を言ってしまえば俺も同意見だ。それにより、俺はヴィヴィオ達と出会えなくなるって言うのも、間違っていないだろう」

 

 まずは、エイミィの悪い予感を肯定するような言葉を連ねるマーク。だが、この言葉には続きがある。

 

「だがその事件はかなり範囲を限定されたものだ。回避はそう難しい事じゃない」

「え、なんでそんなことがわかるの?」

 

 マークの予想に、思わず疑問の声を上げるエイミィであったが、マークはさも当然のようにその疑問に答える。

 

「大々的な事件で俺が死ぬようなことがあれば、管理局……いや、管理世界だってただじゃすまないだろ?」

「あ……」

 

 神竜であるマークが死ぬような大事件が起こった場合、その被害はマークだけに収まることは無いだろう。そうであるならマークが死んだのは、マーク個人を狙った罠にかかった可能性が高い。

 

「管理世界を巻き込まずに、俺を始末しようと思ったら相当手段は限定される。そんな限定された状況を回避するのは、そう難しい事じゃない」

 

 ようは単独行動をしなければ、それだけでいいのだ。

 

「……それだけ?」

「ああ、それだけだ」

 

 事実、もし今回の一件が無ければマークはかなりの頻度で単独行動をしただろう。その危険を潰したのだから、今後マークが謀殺される可能性はかなり低くなるだろう。

 それを理解したエイミィは、懸念が完全に解消されたわけではないが、とりあえずこわばっていた肩をなでおろすのであった。

 

 

「……どいつもこいつも、そんなに俺のことは信用出来んのか?」

「信用の問題ではないだろう。ただ、心配しているだけだろう」

 

 先日の話を思い起こしたマークの苦笑に、ムルヴァは真剣に言い返す。確かに、何らかの罠によってマークが命を落とす可能性は限りなく低くなっただろうが、それでも可能性が無くなったわけではない。

 

「私も、簡単に死ぬつもりは無かった……それでも、一人娘を残して死んでしまったんだぞ?」

 

 その一言でリオンが少しダメージを受けたようだったが、二人は完全に無視する。そう、いくら竜が強かろうと、生き物である限り殺す手段が無いわけではないのだ。

 

「世には竜殺しというものもある」

「これのことを言ってるのかな?」

 

 だが、そんなムルヴァの不安を蹴散らすように向けられた切っ先が、その想いを打ち砕く。

 

「……そうか、それがお前の自信の源か」

「ただの剣じゃなさそうだけど、ひょっとして……」

 

 それを見てマークの楽観的な姿勢に納得の意を示すムルヴァ。その様子からその剣の正体をリオンが予測する。

 

「『神剣ファルシオン』?」

「そう、神竜王の牙を鍛え上げ造られた、至高の剣だ」

 

 マークの持つ武装の中でも、最強の一振りと言っても過言ではない、まさに神器。これと肩を並べることができるのは、同じく神竜王の英知が詰まった『聖書ナーガ』か、暁の女神の加護を得た『神剣ラグネル』ぐらいの物だろう。

 

「それに加えて神竜石もあれば……なるほど、たとえ全盛期の魔王相手取っても、そう簡単には死なないだろうね」

「そういう事だ」

 

 剣の正体を確認したリオンが、深いため息とともに納得する。今まで使っていた双聖器や神将器だって神器と呼ぶにふさわしい力を持っていたが、この剣の前ではそれらの威光もかすむように感じられたためだ。

 だが、この根拠を容易に人に話すわけにはいかない。神の力の一部を宿すこの剣は、人にとって強すぎる力なのだから。

 

「あとは、彼女らの存在を守るだけか……」

「どういう事だ?」

 

 マークの自信の根拠をしったリオンのつぶやきに、マークが首をかしげる。そう言えば講義の時間にマークはいなかったことに思い至った二人が、キリエ達の話したタイムパラドックスについて語ることになった。

 

「ふ~ん、時間移動の解釈にそんなものがあったのか……」

「君は別の解釈をしているってことかい?」

 

 のんきなマークにリオンが問いかけると、当然のごとく答えが返ってくる。

 

「あの子たちが来た時点で、もうあの子たちの居た世界とこの世界は別の世界だろ?」

「……なるほど、そう言った考えもあるのか」

 

 マークの考え方は、並行世界というものがわかりやすいだろう。キリエ達のように、今と未来が繋がっていることを前提とした考えとは、全く違う考えであった。

 

「それならばタイムパラドックスの考えも無視できるな」

「ほら、納得したのならさっさと行くぞ! せっかくの春休みに、いつまでもこんなトコにこもっていたくないんだ」

「ああ、そう言えばバニングス家の所有するコテージに遊びに行くと言っていたか?」

 

 一通り話が終わったと判断したマークが、急に二人を急かし始める。今回の事件が無ければ、バニングス家の馬を借りて一日遠乗りモドキをする予定だったのだ。

 

「前にシノブに遠乗りがしたいって言ったら、アリサの家で馬を所持しているって聞いてな」

 

 そこでフェイト達も参加を希望し、みんなで乗馬を楽しむことになっていたのだ。

 

「人数が増えただけで、予定通り行われるんだろ?」

「もう始まってるはずだ……だから、さっさと出ろ!」

 

 再びマークは二人を急かし、研究所から蹴り出す。その姿に自分たちの子供のころを思い出したのか、ムルヴァが笑みを浮かべていたが、幸いなことにマークは気付くことなく、スムーズな移動となった。

 

 

 そしてそのコテージでは、子供たちの乗馬教室が開催されていた。

 

「や、ほ、……これは思ったより」

「とっと、そうだね、高く感じるかも」

「そうだな、だが馬とは賢い生き物だ。そう怯える必要はない」

 

 さっそく乗せてもらったなのはとフェイトが指導者役のシグナムへ感想を述べる。ただ馬の上に乗っただけだが、それでも普段と違った景色に高揚するのがわかった。

 

「ウチは維持が面倒になって引き払っちゃったから、アリサちゃんのとこが持ってて助かったわ」

「別に私が何かしたわけじゃないですから。それに、ちゃんと対価はもらったし」

 

 馬場の隅で忍とアリサが少しだけ話をするのは、今回の乗馬教室を開いた経緯であった。マークが忍に相談し、すずかを通してアリサにこの場を提供してもらったのだ。

 本来だったら保護者として忍からアリサの父に話を通してという、面倒なプロセスを飛ばしてもらったのは、実にありがたい事であった。

 

「事情を知らない人が居たら、ちょっと話にくい話題も出るかもしれないから……それはともかく、対価って何の話?」

「ちょっと、マークさんの耳を触らせてもらっただけですよ」

「それはまた……」

 

 羨ましいなと、忍も思ってしまった。だがそれも一瞬で、子供たちがマークの耳を触る様子を想像したら、やっぱり同情すべきかと思い直した。

 そんな会話をしていた二人の耳に、ちょっとした歓声が聞こえてきた。

 

「ほえ~、すごいやん、アインハルトさん」

「うん、かっこいいですよ!」

「いえ、そんな……」

「謙遜する必要はないぞ」

 

 知識として知ってはいるが、経験はないと言っていたアインハルトが、見事に乗りこなしていたのだ。それにはやてとヴィヴィオが感嘆の声を上げ、ザフィーラも素直に感心していた。

 

(記憶だけとはいえ、ずるをしているようで心苦しいですね……)

 

 覇王としての記憶の中に、戦場を騎乗して駆けた記憶があったからこその芸当であったため、正面切って褒められると肩身が狭い思いであった。

 そんな息苦しさのため、すこし走りたいと言ってその場を離れてしまったのは、仕方のないことだろう。今回のことに加えて、他にもちょっと落ち込むことがあったこともある。

 

「……あの時は、少し冷静じゃなかったですね」

 

 それはマークに手合わせを挑んだことだ。あのあと少し落ち着けば、性急かつ強引な申し出であったと、そう思えるようになったのだ。

 もちろん、そうしてしまった理由もわかっている。

 

「……強かった」

 

 それは本人ではなく、コピーとの戦いであったが、然したる問題は無いだろう。そして、そんな相手と戦うには、今しかないのだと思って焦ってしまったのだ。

 

「……」

 

 おそらく、あらかじめ準備されていたコースなのだろう。なんの障害もない道を走らせるアインハルトは、気持ちよく走る馬の背で物思いにふけっていっていた。

 そして、アインハルトがそんな自己嫌悪に陥っているなんて思いもしないマークは、やっとみんなと合流した先で、久々に見る馬に若干興奮気味であった。

 

「おぉ~、なかなかいい馬だな!」

「わかるの?」

「まあ、軍馬とか結構見てきたからな」

 

 もちろん、子供たちも一緒という事で、気性の穏やかなものたちを選別しているだろう。軍馬などの戦場を駆ける馬を見てきたマークには、いささか物足りないものであったが、それでも毛並などからよく世話をされた、御しやすいいい馬であることは容易に見て取れた。

 

「なんや、マークさんにできないこと探す方が難しいんとちゃうかな?」

「いやいや、それは無いから」

 

 中でも最も馬力のありそうな馬に目を付け、それに寄り添うマークにはやてがかけた言葉は、本人によって否定される。

 

「どれもこれも、山奥の暮らしで必要に迫られたり、行軍の最中に不自由して身につけたものだからな……戦友と接する流れで身に着けたモノもあるが、所詮素人のその場しのぎだ」

「実際、スズカの髪も専門家に仕上げをしてもらったみたいだしね」

「お前が言うな」

 

 リオンが付け足した一言に突っ込むマークであったが、事実その通りだと確認する。

 すずかの髪は、数日前よりさらに洗礼されたものになっていたのだ。

 

「……私には分からんがな」

「そもそも、お前は人の顔がすべて同じに見えるタイプだろ」

 

 ムルヴァのフォローのようなものも、人化を使うにもかかわらず、人間は全て同じに見えると言っていた過去を知っているため効果は無かった。

 すずかが申し訳なさそうにしていたが、マークとしては気にするなとしか言いようが無かった。

 

「まあ、別にそっちの腕は誰に劣ろうが構わんよ。ただし、こっちの方は誰にも負けるつもりはないがね」

「大した自信ですね……」

 

 そう言って拳を握るマークであったが、正直に言って話を逸らす程度の気持ちしかなかった。だから、この話に食いつかれたことは意外と言う他無かった。

 それは、コースを一周して帰ってきたアインハルトの一言であったのだが、それに対しマークは少し困ったように笑みを浮かべる。

 

「う~ん……自信って言うのはちょっと違うかな?」

「ではなんなのですか?」

「義務感……と言うのが一番しっくりくるな」

 

 その答えは、誰にとっても予想外であったに違いない。ただ、アインハルトにはその答えが少しだけ共感できるような気がした。

 

「……強く、在らなければならない」

「一族の誇りと、戦友の名誉のために……な」

 

 思わずつぶやいてしまった一言を、マークは当然のように補完する。その理由は、アインハルトの理由と酷似していた。

 

 覇王流が最強であることを、証明するという誓い。

 一族と、戦友たちは強かったという事を体現するという誓い。

 

 だが、マークはそのような共感に気付くことなく、興味は周囲へと移っていた。

 

「そう言えば、キリエ達は来てないのか?」

「二人はアースラで術式の調整をするって」

「トーマ達は、念のためもう少し療養しているとのことだ」

 

 周りを見渡しながら疑問を口にしたマークに、少し離れたところに居たエイミィとクロノが応える。どうやら、思ったより大きな馬に少し及び腰になっているようであった。

 

「……まあ、普段の生活を見てると、動物と接する機会なんて皆無みたいだからな」

「まったくもって反論の余地が無いわぁ~」

「……」

 

 納得と言った感じでうなずくマークに、苦笑しながら白旗を上げるエイミィであったが、どうやらクロノはそうはいかなかったようだ。意地になって馬の方へ近づいて行くクロノを、マークは面白そうに眺めていた。

 そんなマークを見ながら、すずかとフェイトが静かに驚きの声を上げる。

 

「……マークさんが戦う理由、初めて聞いたよ」

「うん、でも……ううん、私も、マークの相方だって自信持って名乗れるように、頑張らないと!」

 

 すずかはともかく、フェイトだって今までは惰性と聞いていたのだ。それも当然だろう。現在にマークの戦う理由は無かったのだから。

 そんななか明かされたマークの戦う理由であったが、フェイトはそれ以外にも理由があるのではと思う。ただ根拠は無いので、この場で口にはできなかったが……

 そんなもやもやを抱えるフェイトとは違い、すずかは力強い笑みを浮かべる。

 

「思い出が相手か……強敵だね」

 

 何はともあれ、過去の思い出に勝るとも劣らない今を用意しなければならない。すずかは改めて気合を入れ、ひとまず乗馬の練習へと意識を移す。いつかマークと並んで走るため、もちろん、マークにアドバイスをもらう事を忘れなかった。

 

「そう言えば、この世界には天馬はいないのか?」

「少なくとも、伝説以外で地球上に存在するって話は知らないわ……他の世界はどうなの?」

「第61管理世界に、そのような存在があると聞いたことがあったような……」

「でもあそこ、保護指定世界じゃなかったですか?」

 

 ふと思い出したかのようなマークの質問に、アリサが応えアインハルトとヴィヴィオが続く。急にどうしたんだと、小首をかしげる一同に、マークはまたとんでもないことを言い出した。

 

「いや、スズカが剣を続けるのなら、やっぱり飛べた方がいいかと思って」

「……えっと、別に飛べない魔導師もたくさんいるよ?」

 

 おそらく騎乗するすずかを見て思いついたのだろう。その唐突な提案を、やんわりと諌めるフェイトであったが、ツボにはまったのかマークはなんだか乗り気になっていた。

 

「『マーに・カティ』も強力だが、そうなると槍も教えた方がいいかな? 流石に『レギンレイブ』は重すぎるか?」

「じ、実物を見てみないと何とも……」

 

 なんだか、求められるレベルが桁で上がったことを感じたすずかが、ひきつった笑みを浮かべる。浮かべながらも、これはチャンスかもしれないと、気付いた。

 

(今まで私に教えることに対して消極的だったマークさんが、今後のことを考えてくれてる?)

 

 それは、この先に訪れるであろう苦難をはるかに上回る歓喜であった。すずかは、ようやくなのは達の居る領域に片足を踏み入れたのだと、そのことが、例えようもなくうれしかった。

 

(シノブには悪い気もするが……ここまで決意が固いのなら、切り札を身に付けさせた方がいいだろう)

 

 有象無象の雑魚ではなく明らかな格上と戦い、それでも諦めない胆力は、しかるべき評価をすべきだとマークは判断した。

 それに加え、未来におけるマークの死の可能性もある。自分の周りの人間を、可能な限り強化する必要性を感じたのだ。いくら危機を回避する自信があっても、手を尽くさない理由は無い。

 

(あとは……保険だな)

 

 考えたくないが、万に一つ、万全を尽くし迎え撃ってなお、危機を回避し損なった時、その時間の果てがヴィヴィオ達の居る未来なのだとしたら……

 

(なのは達でも対処できない一大事……その可能性は、決してゼロじゃない)

 

 そう、マークは未だに、ヴィヴィオ達が偶然この時代に来たという事を疑っていた。そして、何か理由があるとしたら、未来にいない自分に会いに来たのだと、そう信じていた。

 

(奥義を一つ……可能なら、二つは覚えてもらいたいもんだ)

 

 みんなは考え過ぎだと笑うかもしれない……それでも、マークは不安を消し去ることはできなかった。未来から来た子供たちと言うのは、マークにとってトラウマと言っていいものであったのだ。

 

(考えるな! ヴィヴィオたちの瞳に、絶望なんて映っていないことぐらいわかるはずだろ!)

 

 自分も含め、みんな、みんな死んでいった。そして、それでもなお人々の希望であり続けた戦友の子供たち。

 

「あの、マークさん?」

「大丈夫? なんだか辛そうだよ」

「……いや、ちょっと昔を思い出しただけだ」

 

 そんな光景を思い出していたのが、表に出たのだろう。すずかとフェイトが心配そうにしているのを、気落ちしているのを自覚しつつも大丈夫だと答える。

 

「せっかく広い場所にいるんだし、もう少ししたら前回言っていた奥義でも見せようか」

「……無理しないでね?」

 

 フェイトは何かを察したのか、それだけ言ってすずかを連れてその場を離れる。そのことに感謝しつつ、マークは気持ちを落ち着けるためにも、無心で馬を駆り続けた。

 

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