魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第70話 「奥義」

「さて……どうしようか?」

「どうしようって……奥義を教えてくれるんですよね?」

 

 ある程度乗馬を楽しんだ一同に、マークが奥義を教えることになったのだが……事態はさっそく暗礁に乗り上げていた。

 

「いや、俺って人にものを教えた経験がほとんどなくてな……どうやって教えればいいのかと悩んでいるんだ」

「よくまあそれで、奥義を教えるなんて言えましたね」

「とりあえず、アレだ、見て学べって奴で行こう」

 

 アインハルトの呆れたような一言に、マークは視線をそらしつつ妥協策を述べる。言った本人だって、見て習得できる程度の技ではない事を理解しているのだろう。

 今回奥義を教わるのはアインハルトにヴィヴィオ、すずかの三人であるが、だからと言って他の面子を追い出すようなことはしなかった。

 

「……見せてもいいのですか、と言うより、本当に教わっていいのですか? 奥義なのでしょう?」

「構わないさ」

 

 奥義、秘伝の技をほぼ初対面の身で教わるという事の異常さも、マークにとっては些細な事であるようであった。

 と言うより、これは奥義に対する認識の違いだろう。アインハルトにとって奥義とは、長い修練とひらめきによって生み出される唯一無二の技であるのに対し、マークにとっての奥義は、戦場で生きていれば自然と身に付く技でしかない。

 

「とりあえず、ヴィヴィオとアインハルトに教える奴だな」

「わたしはどうなるんです?」

「スズカには別の奴を教える。無駄な事はさせたくないしな」

「……やっぱり、習得できないことが前提なのですね」

 

 マークの最後の一言に、思わずアインハルトが噛み付く。しかしこれはマークが悪いとしか言えないだろう。それだけ、この一言にはあらゆるものが足りてなかった。

 

「ああ、違うって。確かにスズカじゃ習得はできないだろうけど、二人が習得できないものだとは思ってない。今回は別に習得しても使わない技を覚えさせてもしょうがない、って意味だよ」

「……そうでしたか。それは失礼しました」

 

 確かに、戦闘スタイルに合わない技を苦労して習得しても意味はない。前回の印象が印象だっただけに、どうも疑い深くなっていけないとアインハルトは自省する。

 

「それじゃあ……リオン」

「ああ、的だね?」

 

 マークの言葉に、観客となっていたリオンが召還を行い、的とする。だが、その的にされた存在に、思いのほか注目が集まる。

 

「人型?」

「確かこれって……亡霊戦士?」

「ネクロマンサーの魔法としては、これ以上ふさわしいものは無いでしょう?」

 

 すずかの戸惑うような声に、見覚えのあったエイミィの声が重なる。それは、以前マークが管理局に見せたそれと同じものであり、より正確には、こちらの方がオリジナルである。

 

「……流石に素手で見本と言うわけにはいかないが、まあ見ていろ」

 

 そう言ってマークが構えたのは槍。銘は『月光』と呼ばれるものであった。対して、亡霊戦士は手に持っていた盾を構え、マークの攻撃に備える。

 そして、一撃は放たれた。

 碧い軌跡を残し放たれた一撃は、槍と同じ名を持つ『月光』の奥義の一撃。亡霊戦士の構えた盾を、着ていた鎧を薄紙のように貫き、その胸に大穴を開けた。

 

「……防御貫通、ですか」

「うっわぁ……」

 

 アインハルトとヴィヴィオが慄く中、亡霊戦士はその形を保てなくなったのか、砂のように崩れて消える。

 ちょっとだけ、この技を取得する自信を失いそうになったが、アインハルトはふとあることに気付いた。

 

「この技……空破断と同じですか?」

「ん、ひょっとしてできるのか?」

 

 防御を破壊すると言う性質から、自身の持つ技と似ていると感じたアインハルトの一言を拾ったマークが、やって見せろとばかりにその手を構える。

 

「バリアジャケットもなしと言うのは、危ないですよ?」

「あ~……リオン」

「了解」

 

 別に問題ないと言いかけたマークであったが、無理やり飲み込み、再びリオンに的を用意させる。

 そこで実演された一撃は、亡霊戦士の防御を確かに貫いて見せた。

 

「へぇ……防御突破と言う意味では、確かに同じものだな」

「それじゃあ……!」

「ああ、もう一つの方も見せようか」

「……え?」

 

 今度は剣を用意しながらそう言ったマークに、アインハルトは拍子抜けした顔をする。

 だがそれも仕方のないことだろう。マークが見せた一撃を、アインハルトは実演して見せたのだから。

 

「さて、こっちは剣での実演になるが……」

「待ってください! 今見たとおり、あなたが披露した技はもう習得していましたよ!」

「ああ、だから次に行くんだろ?」

 

 噛み合わない会話をしながら、二人は同時に首をかしげる。そのまま硬直してしまった二人に、苦笑を交えつつフェイトが声をかける。

 

「マークは、一つの奥義を分解して披露していたんじゃないかな?」

 

 その一言に、アインハルトたちが確認の視線をマークに向け、マークは相違ないとばかりに頷いて見せた。

 

「最初に言うべきだったな。今回教える『天空』は、防御を貫通する『月光』と与えたダメージを吸収する『太陽』の複合奥義だ」

「……ずいぶんと、物騒な技だねぇ」

 

 マークの説明に、エイミィが素直な感想を述べる。それぞれ単体でも恐ろしいと思える『防御貫通』と『体力吸収』を複合するだなんて、物騒としか表現できなかったのだろう。

 

「まあ、こいつは他の奥義と比べても別格だからな」

「それを人に教えてよかったの?」

「万に一があれば、ちゃんと責任は取るさ」

 

 肩をすくめながらそう言ってのけるマークに、僅かな気負いも見られない。それは万に一つなどあり得ないと言っているようで、実は物騒なこの一言も、言及されることなくスルーされることになった。

 そうして構えられた剣の銘は『太陽』。その一撃は、紅い軌跡を残して的を両断して見せることとなるが、効果のほどは実感できなかった。

 

「詳しい事は、この奥義書を参考にしてくれ」

「用意がいいですね」

「俺が書いたもんじゃないから、汚すなよ?」

「わかってます」

 

 元々はとある王国で四駿と呼ばれた英傑の持ち物であり、そのことがこの書の価値を保証していると言って過言ではないだろう。

 

「まあロードの資質はあるし、習得は不可能ではないだろう」

「習得条件ですか?」

「そう……まあ、カリスマとでも言えばいいかな?」

 

 聖王、神将……戦場の英雄たちでも、さらにその一握りしか習得できなかった奥義であったのは間違いないだろう。

 それでもなおこの二人にその奥義を教えたのは、偏にヴィヴィオの存在があったからだ。

 

(血統は違えど、聖王……か)

 

 カリムが話した聖王の特徴を色濃く宿した少女に、どこか天真爛漫なシスターを思い起こさせるヴィヴィオの存在が、マークの背を押したことは間違いないだろう。決して口にはしないが、アインハルトはそのおまけでしかなかった。

 

「さて! それじゃあ次はスズカだな」

「よろしくお願いします!」

 

 奥義書にかぶりつく二人を横目に、マークは後回しにしていたすずかに向き直る。それに気合十分に答えたすずかであったが、残念ながらすずかの期待は、半ばほど裏切られることになってしまう。

 

「スズカには奥義はちょっと早いから、今回は別の技だな」

「……はい」

 

 いくら身体能力が常人より高かろうと、剣を握って未だ一年に満たないである。魔物との実践もあり、とんでもない速さで練度を上げたが、それでもまだ奥義を扱うには早かった。

 

「それで選んだ技だが、やはり優先すべきは『武器破壊』だろ?」

「ッ! はい、お願いします!」

 

 一度は落胆させられたが、今回マークの持ちだした技は、ある意味並の奥義よりもありがたいものであった。

 再び跳ね上がった表情は、マークの狙い通りのものである。これだけやる気に満ちていれば、技の習得はさらに早くなるだろう。

 

「じゃあ、さっきみたいにとりあえず手本かな?」

 

 マークが言葉と共に軽く手で合図すれば、リオンが無言で的を用意する。その武装は、切れ味などを度外視してつくられた頑丈なだけの鉄の斧。

 対するマークは、『マーニ・カティ』と同系統の剣である『ヴァーク・カティ』を構え、振るう。

 

「……上手くできてよかった。正直に言って、技を重視した剣技は苦手だ」

 

 ごとり、とマークの一閃から数瞬遅れて響いた音をきいて、ようやく今の一閃が武器破壊であったことに気付かされる。

 

「……武器破壊と、防御貫通の違いが分からなくなるような一撃ですね」

「武器と防具では、破壊の難易度は桁違いだぞ?」

 

 先程の『月光』の一撃と比較したすずかに、マークは少し呆れながら訂正を加える。

 攻撃を防ぐために創られた防具を破壊することは、思いのほか難しい。それに比べれば、攻撃することが目的である武器の破壊は、数段易しくなる。

 そんなマークの訂正に少し顔を赤らめながらも、斬鉄と言うあるいは奥義に匹敵する一撃を見せられたすずかは、剣を持つ手に力を込める。

 

(マークさんが『難しい』って思うような技を見せてくれたってことは、期待されてるってことだよ……頑張らなくっちゃ!)

 

 ヴィヴィオ達と同じように、詳細はこれを見ろと『武器破壊の書』を渡されたすずかは、なお一層の気合いを入れる。

 そのやる気十分な表情にマークは満足げに頷き、そう言えばと思いを巡らせる。

 

(あれから大分経ったけど……『ソール・カティ』はまだ完成しないのか?)

 

 以前依頼した『ソール・カティ』のデバイス化であったが、まだ完成の連絡は無かった。ただ、マークの依頼を後回しにしているとも思えないので、おそらく何かしらの問題が起きているのかもしれないと、あたりをつける。

 

(今度、差し入れにでも行ってみるか……)

 

 こうして、マークは第四技術部への訪問を決めた。もちろん、ただ差し入れに行くだけなので、アポイントメントを入れるつもりは欠片もなかったことを付け加えておく。

 そんなことを決めたマークに、声をかける者がいた。

 

「マーク、私も何か技を教えて貰っていいかな?」

「フェイト?」

 

 それは、なのはのスターライトブレイカーのような切り札を持たないことに対する、フェイトの焦りだった。

 かつての切り札であるフェランクスシフトはすでに破られ、それ以降は自信をもって切り札だと呼べるようなものが無かったのだ。

 

「結局、マークの強化に頼り切った戦いをしちゃってるから、自分の武器が欲しいの」

「武器……ねぇ」

 

 確かに最近のフェイトの戦闘は、マークの強化によって成っている部分も多かった。だからと言って、フェイトが成長していないわけではないし、武器が無い事にはつながらない。

 

「フェイトの武器は速度だろ? 攻撃力だって低いわけじゃないし」

「でも、劣勢時の一発逆転の手札は無い」

「そんなもん、持ってる奴の方が稀だって」

 

 だから、これは劣等感なのだろう。すぐ目の前で急激に力をつけたなのはが眩しくて、眩しすぎて、どうしようもなく求めてしまうのだ。

 

「……そうだな、少し、見繕ってみよう」

「うん、お願い」

 

 その想いを危ぶみながらも、マークは否定することができなかった。今は無理だと諭すことはできたが、未来においても無理だと告げることは、マークにはできなかったのだ。

 

 

 マークがわずかな苦みを感じながらも平和な日常を謳歌していたそのころ、辺境の世界にある研究所で、ある生物が生成されていた。

 

「……順調、と言っていいのでしょうか?」

「ふむ、まあ今のところは、と言う冠詞がつけば、現状をそう表現しても構わないんじゃないかな?」

 

 助手の少女の不安が含まれた言葉に対し、白衣を着た青年の言葉には何の感慨も含まれてはいなかった。いや、そこは確かにある感情が込められていた。

 

「正直に言って、ここまで順調に事が進むとは思っていなかったがね」

「はい……」

 

 それは戸惑いであろうか……確かに、今回青年が、ジェイル・スカリエッティが行なっている実験には先例があり、ある程度予想ができる事ばかりだったとはいえ、現状は順調すぎたのだ。

 

「ただの人ではない……竜と人の子を創りだすのだから、もう少し想定外の事態が起こると思っていたのだがね」

「数値的には、確かにただの人の子でないのですが……」

 

 そう言って二人は、目の前のシリンダーに視線を移す。そこに満たされた溶液の中には、乳児、いや、既に幼児と呼んでもよい人の形をしたものが浮かんでいた。

 

「成長促進は順調……このペースであと一年もすれば、実戦に耐えうる年齢まで成長するだろうね」

「魔力のみを見れば、すでにSSランクを超えていますからね」

「本来の資質に加え、遺伝子操作もしているのだから、それぐらいはしてもらわないと困るよ」

「それもそうでした」

 

 そもそもこの検体は、スカリエッティが理想の存在を作ってみようと思ったことに端を欲する。幸いと言うべきか、彼のクライアントがある対象の血液を入手していたこともあり、即座に過去の計画を掘り起こしてプロジェクトは開始されたのだ。

 

「元々のクライアントの意向は彼に対抗できる兵器を作る事なんですが大丈夫なのですか?」

「これが完成すれば、十分彼とも戦える存在になるだろう?」

「確かにそうでしょうが……」

 

 マークを通して竜を恐れているだろうクライアントが、これを受け入れるとは到底思えなかった。とはいえ、竜を制御できる可能性があると知れば、手のひらを返すこともあるだろうと少女、ウーノも無理矢理自身を納得させる。

 そして、彼女はもう一つの疑問を口にする。

 

「それにしても……どうしてこうなったのでしょうね?」

「ああ、てっきり竜の形で生まれるものだと思っていたが……」

「……それもありますが、私が言いたいのはこの子が雄性体ではなく、雌性体であることに対してです」

「ああ、それは私が弄ったからだよ」

 

 ウーノの疑問に、スカリエッティは当然のように答える。

 

「現状、ナンバーズは全て女性なのは知っているだろう? ならばそこは統一すべきかと……何だね?」

「……いえ、何でもありません」

 

 いつもと違う視線を感じたスカリエッティがウーノに尋ねるが、その時には何事もなかったような顔に戻ったウーノが居るだけだった。

 

「……まあいい。とりあえず、彼女は順調に成長しているわけだし、そろそろ竜人にふさわしい武器を用意せねばな」

「はい、サンプルとしましては、彼が研究所を構える世界から斧を回収しています」

「ああ、もちろんそれは知っているよ。ただ、それに多少の改造を施すだけじゃ芸が無いとは思わないかい?」

 

 そう言ってほほ笑むスカリエッティは、まるで新しいおもちゃを自慢するように笑みを深め、宣言する。

 

「彼の持つ武器、そのほとんどがロスロトギア級であることを思えば、この程度で満足するわけにはいかない……当然、私でさえ二度と再現できないような、最高の武器を創って見せるさ!」

 

 その宣言は、すなわちロストロギアを、否、新しい神器をこの世に創りだすという事。そして、その危険性を知る者はここに無く、止められる者もまた、いなかった。

 

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