魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第72話 「帰還」

「……二度と会えなくなるわけじゃないんだから、いいかげん泣き止め」

「で、でもぉ……」

 

 マークの呆れた声に鼻を啜りながら弱々しく反論するのは、未来から来た子供たちと最も仲良くなったなのはである。

 とはいえ、マークとて理解している。この別れは一時の別れであるのと同時に、永遠の別れでもあるのだから。

 

「たった十年だよ、なのはママ……」

「そう言うヴィヴィオちゃんだって……」

 

 涙をこらえきれていない二人は、気付いているのだろう。

 確かに十年すれば、二人は再び出会うことになるはずである。だが、その時二人は今回のことを覚えておらず、全く違う関係を築いていくことになるのだ。

 これを永遠の別れと言わずして、なんといえと言うのであろうか。

 今回集まった一同も程度こそ違えど、この別れをそれぞれ重く受け止めていたのだ。

 

「気持ちはわからないでもないが、あまり後ろ髪を引くようなことは控えろ。どんなに惜しんでも、行かなきゃならんのだ。せめて、笑って送り出せ」

「うぅ……」

 

 それでも笑えと言うマークを、酷と言うのも間違っているだろう。

 そもそもマークは、幾千年の歳月を戦場で過ごしてきたのだ。今回のような別れも、星の数ほど経験して来たはずである。

 そしてマーク自身も、数少ない同郷のものとの別れでもあるのだ。

 

「未来なんて、何が起こるかわからないものだ。たとえどんな事情の別れだろうと、『次に会ったときは、一杯飲みかわそう』『ああ、最高の酒を用意しておいてやる』ぐらい言うもんだぞ?」

「一応、みんな未成年だからね?」

「ものの例えだ」

 

 エイミィのツッコミに、マークがわかっていると言いながら顔をそむける。ただ、その声音があまりにも残念そうだったため、なのはの口元に、思わずかすかな笑みがこぼれた。

 

「そう、だね。それじゃあ、次に会った時には、何かおいしいものでも食べよう?」

「……うん、お菓子作りの勉強して、待ってる」

「(……そのお菓子作りを教わる相手は、なのはさんなんじゃないかな?)」

 

 ふと思いついてしまったトーマだったが、余計な事は言うなとリオンに笑顔で睨まれ、頬をひきつらせた。

 そんなトーマを見つけてしまったクロノが、僅かに首をかしげながらトーマに対して疑問を口にする。

 

「ひょっとして、傷が痛むのか?」

「えっ!? あ、いや、その~……」

「え、まだ治ってなかったの!?」

 

 思わず口ごもるトーマに、キリエが悲鳴を上げる。未来組への対処は、いわゆる『夢オチ』に設定していた為、このまま未来に帰してしまえば、『朝目が覚めたら夢と同じ場所に怪我をしていた』なんてことになってしまいかねない。

 

「……そう言えば、武器も破損したんじゃなかったか?」

「だ、大丈夫です!」

 

 ムルヴァのさらなる指摘に、思わず声を大にして問題ないことを告げるが、このような挙動が信用されるはずもなかった。

 だが、思わぬところから救いの手が差し伸べられた。

 

「まあ、本人が大丈夫って言うんだからいいじゃないか。幸い、トーマは一番先の存在だし、今回のことを覚えていても影響はほとんどないだろ?」

「……あ~、それもそうですね」

 

 マークの一言にキリエが納得し、とりあえず追及を免れたトーマであったが、なんだか釈然としない。とはいえ文句を言うわけにもいかず、一歩下がろうとする。したのだが、そこをマークに捕まってしまった。

 

「まあ、そうは言っても俺にも責任の一端はあるだろう。大人しく見せろ」

「……はい」

 

 そう言って施す処置は、モルフに対するものと同じものであった。

 

(過程は違えど、人体改造だ。これで……)

 

 トーマのエーギルをいじり、理解の及ぶ範囲で手を加える。一つ間違えれば崩壊を起こしそうな繊細な所には手を付けていないが、それでもこの世界に来た時より格段と安定感を増す。

 

「これで問題ないだろう」

 

 マークの太鼓判に、トーマは腕を回して状態を確認する。わずかに感じていた痺れが無くなり、腕が軽くなったような気がした。

 

「……問題ないどころか、ここに来る前より調子が上がった気さえしますね」

「しばらく調子が悪かった反動だろ? あと、武器も見せろ」

「は、はい」

 

 さりげなく研究者としての本領を発揮しながら、トーマのディバイダーを受け取る。マークにとって見慣れない形状であるため、完全に修復できているかはわからなかったが、一見問題なさそうではあった。

 とはいえトーマからしてみれば、この状況は戦々恐々の思いであった。

 

(故意にやったりはしないだろうけど、また砕けたりしないだろうな……)

 

 先の戦いで、ディバイダーをいとも容易く砕かれたこと思い返し、その頬に冷や汗が流れる。

 そんな不安を抱えながらマークを見ていると、何かしらの力がディバイダーに流れるのを感じた。

 

「い、今のは?」

「何、簡単な加護を与えただけだ」

 

 それは、マークが己の懸念に対して出した答えであった。

 今回の時間移動事件が偶然ではなく故意に起こされたものであり、彼らが生きているマークに会いに来ていたとするなら、可能な限りの支援を行うべきとの結論に達したのだ。

 

「本当に簡単なものだから、効果は一時的なものだ。それと、これも持って行け」

「ちょっと! 流石にアイテムを渡すのは……」

「ただのお守りだ。……そうだな、トーマじゃなくて、リリィに渡しておこう」

「は、はい?」

 

 そう言ってマークがリリィに渡したのは、『デュランダル』の破片であった。剣身がひび割れた際に出たそれは、僅かな加護を未だに纏っていたのだ。

 

「これぐらいなら問題ないだろ?」

「……まあ、そこら辺で綺麗な石を見つける程度には、ありえそうですが」

 

 アミタが否定しきれなかったのをいいことに、マークは『デュランダル』欠片を、ヴィヴィオとアインハルトにも渡す。

 それを渋い顔で見るキリエ達であったが、マークの真剣な顔を見ると、どうしても反論し難かった。

 

(本当は、もっと本格的な加護を授けたいんだが……そこまでやるとかえって危険だろうな)

 

 未来にマークを死なせた存在が居るのなら、過剰な強化はかえって目をつけられる原因となりかねない。

 それでも、この程度の強化では不安が残る。

 

「……クリスとティオにも、ちょっと仕掛けをしておくか」

「何をするつもりですか!?」

 

 二体のデバイスの外装に、何かを埋め込もうとしたマークの腕をキリエが止める。が、力比べでマークに勝てる筈が無かった。

 

「な、何したんですかぁ!」

「ちょっと『マスタープルフ』を打ち込んでみた」

「なんですか、それ?」

「ん~、才能を開花させるきっかけ、かな?」

 

 若干涙ぐむキリエに軽く返し、ヴィヴィオの質問にマークが応える。しかし、それに反応したのはなのはであった。

 

「『ファイアーエムブレム』みたいなものですか?」

「いや、あそこまで飛びぬけてはいない」

 

 魔王戦でなのはの潜在能力を引き出した宝玉と比べるが、そこまでぶっ飛んだ品ではない。もちろん、かといってロストロギア級の逸品であることに違いは無かった。

 

「流石にこれ以上のことは……いや、技をいくつかくらい……」

「いえ! 十分すぎます!」

 

 さらに物騒な事を呟くマークに、ヴィヴィオは全力で声を上げる。それに少し残念そうにマークが納得するのを見て、アインハルトがダメもとで一声かける。

 

「それなら、一手ご教授願いたいのですが」

「え~、それは面倒……いや、『天空』は習得できたのか?」

「それは……」

 

 マークの隠す気のない本音はともかく、それでも条件を満たせなかったアインハルトが言葉を濁す。

 だが、ここで思ってもみなかった助太刀が得られることになった。

 

「別にすこしぐらい手合わせしてあげたら?」

「……フェイトがそういうのなら」

「いいんだ、それで……」

 

 フェイトの一声で態度を一転させたマークに、アリサが呆れた声を出す。とはいえ、時間もあまりない。

 言いたいことは後回しにし、とりあえず一手交えるため二人は武装を整える。

 

「本気でお願いします」

「時間もない。長引かせる気はないさ」

 

 アインハルトがいわゆる『大人モード』に姿を変え、マークが蒼い鎧と『リガルソード』を展開する。

 それを確認した一同は数歩下がって、二人が戦うスペースを確保する。唯一残ったのは、審判をするつもりであろう、シグナムだけであった。

 

「……」

「そんな不満そうな目で見るなよ。武器はともかく、本気で戦うからさ」

「……では、そうせざるを得ない状況にするまでです!」

 

 合図は無い。踏み込み、放たれた初撃はアインハルトによる、マークが『月光』と呼んだ防御貫通技の類似技である空破断。

 本当なら、この初撃に『天空』を使い度肝を抜いてやりたかったが、習得できなかったものは仕方がない。

 それに対し、マークは動かない。

 

(何を考えて……!)

 

 マークの舐めた対応に憤りを覚えるが、それで冷静さを失うわけにはいかない。ただ無心に、無防備となったマークの腹部に一撃を叩き込み……

 

 直後、マークの拳打がアインハルトの腹部に突き刺さった。

 

「ご、がはぁ……!」

「くっ……さすがに痛いなっ!」

 

 マークの一撃の威力は相当のもので、思わず吐きそうになってしまったアインハルトは、苦痛を訴えながらも動きを止めないマークに気を向けることすらできなかった。

 

「そこまでっ!」

 

 アインハルトの首筋におかれた刃を見て、今まで無言で見ていたシグナムが勝負の決着を宣言する。

 それに続いて、シャマルが治療系の魔法を発動させ、この手合わせはマークの勝利で幕を下ろすことになった。

 

「今の一撃はなんだったん?」

 

 双方の治療を終えて落ち着いたところへ、はやてがマークの一撃への疑問を尋ねる。思いのほか早く終わった戦いの鍵となるのがあの一撃であり、それが特殊な反撃であったと誰もが気付いていたためだ。

 

「ただのカウンターだ」

「ただの?」

「受けたダメージをそのままやり返すタイプだ」

「えげつなぁ……」

 

 つまり、受けた攻撃が強力であればあるほど、跳ね返すダメージも大きくなる仕様なのだ。そして今回のアインハルトの攻撃は、防御を貫通するものであった。そのダメージを跳ね返されてしまえば、たった一撃で行動不能に陥ったのも必然的だろう。

 

「そうか……あの時の一撃も」

「あの時? ……ああ、砂漠で戦った時のことか」

「無手の戦いは知らないんじゃなかったのか?」

「殴るだけなら、誰だってできるだろ?」

 

 シグナムとザフィーラがマークと話しているのを、アインハルトは半ば呆然と聞いていた。

 自信はあった。マークの言う『天空』は無理だったが、その一歩前である『太陽』までは修得していたのだ。だから、勝利には届かなかったかもしれないが、善戦ぐらいできると、そう思っていた。

 だが、いざふたを開けてみれば、結果は惨敗。魔法どころか、剣すらまともに使わせることが叶わなかった。

 

(今までの私の努力は、無駄だったのでしょうか……)

 

 そんな絶望が、アインハルトを襲う。それほどに、今の瞬殺はアインハルトの胸に突き刺さったのだ。

 そして、そんなアインハルトの様子に気が付いたのだろう。マークは戦った当事者として声をかける。

 

「良い一撃だったぞ」

「……これほどの実力差で、そう言いますか」

 

 アインハルトのつれない態度に、よほどショックだったのだろうとマークは苦笑しながらも考えを改める。

 目の前の相手は、ただ無邪気に力を求めた子供ではなく、誇りと目的を持った戦士なのだと。

 

「アインハルトは、なぜそこまで強さにこだわる?」

「……」

「正直に言って、平和な世の中に生きた少女が、何にこだわっているのかわからないんだ」

 

 戦士にも、それぞれ戦う理由がある。家族のため、主のため、もっとシンプルに生きていく為という者もいるだろう。

 それがわからなければ、何とも言いようが無かった。

 そして、アインハルトはポツリポツリと話し始める。自分の中にある覇王の記憶。守れなかった大切な人。そして求めた力。それでも消えなかった無力感。

 

「だから、私は覇王流が決して弱くなんかない事を証明して、クラウスの無念を晴らしたいんです」

「……あれ、なんでだろう……なんだか結論だけすごくずれたような気が?」

 

 アインハルトの話を聞き終えたとき、マークはなぜか強い違和感を覚えた。そしてもう一度二度、アインハルトの話を思い返し、ようやくその正体を突き止めた。

 

「アインハルトは、本当の強さを手に入れたいのか?」

「はい、彼が望んでいた、護るべきものを護れる本当の強さを……」

「そこが歪んだんだな」

「……何が歪みだと言うのですか」

 

 うんうんと一人納得するマークに、自身の思いを歪みと言われたアインハルトが噛み付く。

 

「クラウスの無念は、本当の強さを手に入れられなかったことじゃないからさ」

「ではなんだと……」

「オリヴィエとやらを守れなかったことだろ?」

「……」

 

 マークの指摘に、アインハルトは黙ることしかできなかった。ひょっとしたら、目を背けていただけで、もとより気づいていたのかもしれない。

 

「だから、もしクラウスの無念を晴らそうって言うのなら、お前のやることは強くなることじゃない。今度こそ、護り抜くことだ」

「護り抜く……」

「そう、強くなることは確かに必要だろう。だが、それはあくまで護る為の過程・手段の一つでしかない」

 

 そう言ってマークはなのはやフェイト、はやて達へと手を向ける。

 

「今回、アインハルトは一対一で俺に負けたが、みんなと協力したらどうなる?」

「……」

「それ以前に、マークと戦わないようにすれば、そもそも勝ち負けは無くなるよ?」

「さらに言えば、マークさんを味方に付ければ、なお良しだね」

 

 マークが言わんとすることを理解したフェイトとすずかが、二人の間に加わる。

 

「俺は古い考えしか持たないから、これぐらいしか言えないが……若いお前は違うだろう?」

「私は……」

「まあ、年寄りのお節介だ。余計なお世話かもしれんが、頭の片隅にでも置いておけ」

 

 最後の最後に突き放した一言を放ったマークは、それでも確信を秘めた笑みを浮かべる。

 

「あ、あの……!」

「ムルヴァ」

「ああ」

 

 アインハルトはその笑みに追い立てられるように声をかけるが、マークはすでにムルヴァへと向き直ってしまっていた。

 だが、その後に続く言葉は無く、ただただ緊張感ばかりが増していった。

 

(な、なんなんこの緊張感……!)

(ひょっとして、先に動いた方が負けとか!?)

(なんでそんな物騒な事に?!)

 

 謎の危機感を覚え、アイコンタクトで現状の確認と打破を試みるが、結局何もわからず二人を眺めていることしかできなかった。

 そして、ついにその緊張の糸が、切れた。

 

「こうやって改めて向き合うと……」

「ああ、何を話せばいいのかわからなくなるな」

 

 今までの緊張が何だったのかといいたくなるような情けない理由に、思わずみんなの力が抜ける。

 本人たちも自覚しているのだろう、力ない笑みを浮かべながらも、ようやく話し始めた。

 

「……これから、お前はどうする気だ?」

「余生を穏やかに過ごす予定だったが……この一年弱を思えば、それも難しそうでな」

「何を今さら」

 

 激動の生涯を送ってきたマークが、今更隠居などできる筈がないと言うムルヴァに、マークは反発するそぶりを見せる。

 だがそれはあくまで表面上の話で、マークとてこの一年のことで、平穏な生活など不可能だと身に染みて理解していた。

 そしてマークも、ムルヴァへと今後を問いかける。

 

「そう言うムルヴァは良かったのか? せっかく拾った余生なんだぞ?」

「……流石にこのタイミングでそれを言うのは、趣味が悪いぞ?」

「すまん」

 

 マークの言葉に顔を青くするエトルリアの姉妹であったが、ムルヴァが約束を反故にするつもりはないと示し、ほっと一息つく。

 

「だが、本音でもある。本来であれば、無に還っていたはずのお前が、何を思ってアミタ達に協力するのか、素直に疑問に思うんだ」

「……なに、ただの代償行為だ」

 

 その言葉に、マークはムルヴァの一人娘のことを思いだす。要は、父のために動くアミタとキリエを、娘の代わりに見ているのだ。

 

「そうか、いや、無粋な事を聞いた」

「構わん」

 

 マークの謝罪を、ムルヴァは軽く受け入れる。そのやり取りの後、再び沈黙が訪れるが、今回の沈黙は先程のものと性質が違った。

 ムルヴァは、マークが今後についての答えをはぐらかしたことを責めているのだ。

 

「……降参だ」

「この程度で降参するなら、最初から答えていればいいものを……」

「最後に、少しだけこのやり取りがしたかったんだよ」

「……そうか」

 

 マークのささやかな望みに、それならば仕方がないと、ムルヴァは表情を緩める。

 

「そうだな、一言で言えば……番う相手が欲しい」

「つがうあいて?」

「ははっ!」

 

 全員が聞いていたわけだが、その中でもマークの今後の望みという事で特に注目していたフェイトが、言葉の意味が分からず疑問の声を上げる。

 それに対し、マークと相対していたムルヴァは理解したのだろう。思わずと言った笑い声をあげる。

 

「そうか! まさかお前からそんな言葉が聞けるなんてな!」

「……戦友たちが次々にそう言う関係になれば、興味もわくというものだ」

「そんな言い訳はいい! だが、そうか……お前がなぁ」

 

 感慨深くつぶやくムルヴァに、マークはほんの少しだけ言うんじゃなかったかと後悔するが、それが表情に出る前に時間が来てしまう。

 時間がずれこまないように、時限式で準備されていた魔法陣が光を放つ。

 

「ああ、惜しい事をした。これならば、気まずさ無視して、無理にでも話をする時間を作るべきだったな!」

「やかましい! もうとっとと行ってしまえ!」

 

 マーク達の別れを隣で聞いていると、どうにも苦笑せざるを得ない。自然となのは達の最後の別れも、笑みをまじえたものになっていた。

 

「また、いつか」

「うん、きっと」

 

 最後の一言は誰のものでもない、この場にいるみんなの想い。

 この一言によって、今回の一大騒動は、幕を下ろすことになった。

 

「……行っちゃったね」

「……うん」

 

 感傷に浸る一個の中心に居たマークであったが、その余韻を壊さぬように静かに、それでいて足早にこの場を後にした。

 

「あ……」

「そっとしておいてあげた方がいい。誰だって、人に見られたくない時がある」

 

 それに気付いたフェイトが足を向けようとするが、それもクロノに止められる。そして、止められてしまえば、それにも一理あると思ってしまえば、再びマークを追う気にはなれなかった。

 そんなやり取りがあったせいか、フェイトはこの場からいなくなった他の影に、気付くことは無かった。

 

「マークさん……」

「……スズカか……まあ、一人きりになるより良かったのかな? ただ、今の顔は見ないでくれると助かるな」

「……わかりました」

 

 マークの声はいつも通りだったが、それでもすずかの方へ振り返ることは無かった。やはり、それだけ友との別れは辛かったのだろう。

 そんな辛さを、少しでも和らげたいと思ったすずかだったが、残念なことに、もう一人の訪れにより、その機会は失われてしまった。

 

「ねぇ、今回はどこまで計画していたんだい」

「……リオン」

 

 突如現れたリオンの言葉に、すずかは思わず反発しそうになるが、それよりも前にリオンは話を続ける。

 

「アインハルトさんへの説教は、どこまで本気だったのかなって」

「……らしくなかったか?」

「少し」

 

 その話題は、むしろ別れから気をそらすのによかったのかもしれない。マークはわずかにこわばっていた肩から力を抜いて、あの行動の目的を話す。

 

「まあ、ほとんどは成り行きだが、着地点だけは考えていた」

「というと?」

「ああ言ったら、ヴィヴィオの騎士に出来そうな気がしなかったか?」

「なるほど」

 

 即座に納得するリオンに遅れ、すずかはマークの考えを理解する。

 

「ヴィヴィオちゃんを守るため?」

「まあ、アインハルトにとっても救いになれば、と思うよ?」

 

 そう言うマークにしたたかさを感じたすずかは、ただただ感心するしかなかった。ここだけ聞けば、誰もが幸せになれる方法だからである。

 だが現実は違う。マークは未来において何かが起こるかもしれないと予測し、その何かが起こった時に、アインハルトをヴィヴィオの盾にしようと動いたのだから。

 

「……じゃあ、そろそろ戻るか」

「はい」

 

 少し時間をおいて落ち着いたマークがすずかに声をかけ、これで本当に別れが終わる。後は各々がそれぞれ気持ちに整理をつけ、処理する問題であった。

 

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