魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第73話 「尾行」

 最近、マークがおかしい。

 フェイトがそのように感じ始めたのは、春休みも終わり、一月が過ぎたころであった。

 

「最近忙しそうだけど……何かあったの?」

「ん? 特に変わったことは無いけど……まあ、敢えて言うのなら、訓練校の課題が増えた位かな?」

「……それは私も知ってるよ。一緒に行ってるんだから」

 

 その訓練校であるが、マークは戦闘関係の講義の免除を提案されていた。だがマークはそれを断り、フェイト達と全ての講義を受けることを選んだのだ。

 

「どこで齟齬が生まれるかわからないからな。学べるうちに、学んでおいた方がいい」

「うん、それはわかるけど……そうじゃなくて、なんだかそれだけに思えなかったから」

「確かに、やることはそれだけじゃないけど……」

 

 フェイトの『できる事なら助けになりたい』という思いを感じ、マークは困ったような笑みを浮かべる。

 確かにマークは一時期より忙しくなったが、それでもフェイト達ほどではないと思っていた。

 しいて言うのであれば、研究所を持ったことから発生する研究を行い、それを提出する義務がある。

 だが、現状ではフェイトの調整とナカジマ家の要請を受けることで、その義務は果たしてしまっているのだ。その作業量は、小学校と訓練校の二つに通っているなのはやフェイトほどではなかった。

 

「確かにやることは増えたと思うけど、まだまだ余裕がある。大丈夫だよ」

「そう……ならいいけど……」

 

 心配させないようにという思いもあったマークは、フェイトの申し出を笑顔で断る。フェイトとしても、そこまで言われてしまえば頷かざるを得ない。

 だが、マーク妙な忙しさは、これで収まることは無かった。

 

 

「だから、だれか何か知らないかと思って……」

「う~ん……わたしの知る限りでは、何かやってるなんて話聞かないわ」

「まあ、私とアリサちゃんは、マークさんとかかわる割合が少ないしなぁ」

 

 一度は引き下がったとはいえ、やっぱり気になってしまったフェイトがとった手段は、友人達への相談である。

 放課後に月村邸に集まった一同だが、以前と違うのは、今年度から転校してきたはやてと、最近高町家を出て、本局で寝泊まりするようになったユーノが参加していることだろう。

 とはいえ、マークと一番接する機会の多いフェイトにわからないことが、なのは達にわかるはずもなかった。が、それでもいくらか想像することはできる。

 

「ここ最近って言ったら、私が剣を習い始めたけど……」

「流石にそれを負担に思うような人じゃないと思うよ?」

「……そう言えば、翠屋でお姉ちゃんたちと何か話をしていたような?」

「すずかの指導プランの相談じゃないの?」

「あ、その話だったら納得かも」

 

 すずかの懸念をユーノが否定し、なのはの思い付きをアリサが疑問で返す。

 

「本局でマークさんを見かけたけど……」

「魔王対策について、話を詰めてるって聞いたような……」

「あれ? すずかちゃんに渡すデバイスの出来を見るため、グレアム提督のところに用があるって……」

「え、私の?」

「あれ、聞いてなかった?」

「海鳴の図書館でも見たよ」

「この間、買い物に行って……」

 

 途中で話を脱線させながらも、六人で目撃談や本人、周囲の話の情報、その他諸々を手当たり次第に出し、さらにはエイミィ達からも情報を募ってまとめてみた結果は、少々意外なものであった。

 

「……思ったより海鳴にいるんだね?」

「ちょっと意外ね……聞いたところでは、管理局関係でやることの方が多いみたいなのに」

 

 そう、地球でやることなどすずかの指導ぐらいしかないにもかかわらず、管理局滞在時間とほぼ同じ時間、地球に滞在していたのだ。

 

「クロノは、本局の仮眠室を借りることも多いのに……」

「そう言えば、ユーノ君も最近そっちにいることが多いよね?」

「あ、ユーノ君も訓練校に通い始めたから」

「なのは達とは違う課程だけどね。それに、無限書庫の方でもアルバイトを始めたんだ」

「へぇ……」

 

 すずかの疑問にさりげなくなのはが答え、ユーノが補足する。そのことにアリサが一瞬目を光らせるが、何も気が付か無かったフェイトが話しを進めてしまう。

 

「やっぱり変だよね……必ず誰かと一緒に居ようとするマークが、最近は一人で行動してるなんて……」

「え? マークさんって、単独行動を好んでるんとちゃうん?」

 

 フェイトの確信に疑問を挿むはやて。なのはやユーノも、少なからずそんな印象を抱いていたので首をかしげるが、むしろなぜ知らないのかと言わんばかりに、フェイトが応える。

 

「マークって、基本的に誰かと一緒にいるよ?」

「でも、気付いたらよくいなくなってるって……」

「うん、その後どこに行ってたのか聞いたら、大抵誰か人を訪ねているから」

「あ、そう言うこと……」

 

 より詳しく聞くと、管理局では第四技研や武装局員たちを中心に、マークは知り合いを増やしていっているらしい。

 さらに地球では、翠屋の店員に始まり、ご近所さんやらバニングス家の使用人にまで交友関係を広げていると言う。

 

「い、いつの間に……」

「あ~……そう言えばウチのリオンも、病院で知り合い増やしとったなぁ」

 

 アリサは表情をひきつらせ、はやては身内の似た行動を思い出して遠い目をしていた。

 ちなみにはやてだが、現在病院でリハビリの最中であり、車椅子、松葉づえを経て、今では杖を突けば一人で歩ける程度まで回復している。

 

「とにかく、今わかってるのは、マークさんは一人で、海鳴の街をうろついているってこと?」

「それも毎日のように……ね」

 

 気を取り直してユーノとアリサがまとめたマークの行動は、やはりよくわからないものであった。

 

「管理局じゃなくて、海鳴ってとこが重要なのかな?」

「見回りの類だったら、エイミィさんにもう相談済みだよね?」

「じゃあ何かを探してるとか?」

「何かって……私たちには聞けないような……まさか!?」

「何か分かったの!?」

 

 再び手当たり次第に可能性を考えていた時、アリサに天啓のようにある考えが浮かんだ。そして少し迷いながらも、それを確認するためにとはやてとなのはを手招きする。

 

「(ひょっとして、女?)」

「(どこからそんな考えが!?)」

「(……そう言えば、つがい相手を探すって言うとったなぁ)」

 

 すずかとフェイト、ついでにユーノに聞かれないように話す三人は、今回の話の重要度を一段上げつつ思索を続ける。

 

「(基本的に、フェイトに心配かけるようなことをしなかったのに、最近は違うのよ? だったら……)」

「(ちょっと待って! でもそれなら管理局の方じゃないかな? 流石に魔法とか内緒にするのは大変だよ?)」

「(そやね……でも、火が付いたら止まらんもんやろ?)」

「なのは?」

 

 急に内緒話を始めた三人に、不思議そうな顔をして首を傾げるフェイトが声をかける。それで流石にこれ以上の話は難しいと判断した三人が元の席に戻るが、それでなんと言えばいいのかはわからなかった。

 

(すずかは気付いてるかもしれないけど、はっきり言われたくないだろうし……)

(フェイトちゃんはマークさんの事、相方だって言ってたけど……)

 

 アリサとなのはが迷う中、はやては意を決したように一つ頷き、ただ一言、宣言する。

 

「尾行しよう!」

「…………え?」

 

 一瞬、はやてが何を言っているのかわからなかった一同であったが、理解するにしたがって戸惑いの表情を見せ始める。

 

「でも……」

「大丈夫やって! マークさんが本気で私たちに言えないようなことするとは思えんし、尾行が見つかっても何やってたか聞く、ちょうどいい機会やって!」

 

 躊躇するフェイト達であったが、はやての主張に押され頷いてしまう。そして、言質を得てしまえばはやての行動は早かった。

 その翌日には、みんなで海鳴の街へと繰り出すことになってしまったのだ。

 

 

「……本当に、いいのかなぁ?」

「今更そんなこと言わない!」

「まあ、マークさんが本気で嫌だったら、すぐに撒かれることになると思うし、まだいいんじゃないかな?」

 

 当日集合してからもためらうすずかであったが、アリサに一喝され、なのはの説得に流されてしまう。

 とはいえ、もとより参加しないという選択肢は無かったのだろう。言葉こそ肯定的でないが、一言も『止めよう』といった言葉は聞かれなかった。

 

「あ、出てきたわよ!」

「……あれ、私たちに気付かなかった?」

「やっぱり、本気で隠し事する気は無いんとちゃう?」

 

 マンションから出てきたマークが、隠れて見ていた自分たちに気付かなかったことに驚くフェイトであったが、それははやての推測でみんな納得する。

 

「……行こか!」

「近づきすぎないようにね」

 

 はやてが先頭に立ち、それにアリサが続く。その瞳に宿ったのは、好奇心の炎というべきだろうか。

 まあ、何はともあれ尾行は開始され、何事もなく海鳴の中心ともいえるビル街まで来てしまった。

 

「本当に、気付いてないのかな?」

「確かに、ここまで気付かれないのはちょっと不安ね……」

 

 あまりに何事も無かった為、実は気付かれて泳がされているのではという疑念がわいてきたその時、マークの方で動きがあった。

 

「お店に入った?」

「……洋食処?」

「誰かと待ち合わせかな?」

 

 流石に同じ店に入っては気付かれると思った子供たちは、携帯で連絡を取りながら順番に通行人に混ざり、中の様子をうかがう事にする。

 

「こちら管制のはやて。アリサ隊員、中の様子は?」

『こちらアリサ。対象は一人で座っております。……あ、店員に声をかけた』

 

「二番手なのは隊員、中の様子は?」

『はい、こちらなのは。え~と、パスタを食べています。色から見て、ミートソースかナポリタン?』

 

「三番手フェイト隊員、中の様子は?」

『……ねぇはやて、言わなきゃダメ?』

「もちろん!」

『うぅ……こちらフェイト。マークはライスとハンバーグを食べてます。……あ、ピザが来ました』

 

「じゃあ四番手のユーノ隊員、中の様子は?」

「はい、こちらユーノ。今はポテトとソーセージを食べてるよ。よくあんなに食べられるね」

 

「ラスト、すずか隊員、中の様子は?」

『こちらすずか。デザートは……食べなかったのかな? 伝票を持って、立ち上がりました』

「……ご飯食べただけ?」

『……そうみたい』

 

 結局、店内でマークが誰かと相席することはついぞなく、再び海鳴の街へと繰り出していった。

 

「……出かける前も、小腹がすいたって言って、肉まんを食べてたのに」

「うわぁ、あの量に加えて、まだ食べてたんや……」

「でも、お兄ちゃんたちも、あれぐらい食べるときあるよ?」

 

 最終的には、なのはの一言で『そういう時もある』という事でおさまったのだが、僅か十数分後に、この話題が再燃することになる。

 

「ラーメン屋?」

「ま、まだ食べるって言うの……!」

「ここって、30分以内に完食できたら無料になる巨大餃子があったような……」

「まさか……」

「あ、頼んだね」

 

 あまりのことに、隠れることすら忘れた子供たちであったが、幸か不幸かマークは気付いた様子もなかった。

 それが故に、通常の餃子五十個分に匹敵する巨大餃子を、僅か18分24秒で完食するマークの姿を見ることになったわけだが……

 

「マークさんのおなかの中って、どうなってるの?」

「でも、アルフだって体積変えられるし、不思議な魔法でいいんじゃない?」

 

 当然のように浮かんだなのはのもっともな疑問も、アリサの一言によって封殺される。もう『そういうもの』と納得してしまうのが、精神衛生上一番良い。

 若干不満そうななのはであったが、さらに二件三件と食事処に入るマークを見て、ようやく深く考えるべきではないというアリサの言葉に同意するのであった。

 

「……見てるだけで、おなか一杯よ、もう」

「時間を見る限り、これで終わりだと思うけど……」

 

 空が夕焼けに染まり、いつもマークが帰って来る時間を思えば、そろそろ帰路につくはずだというフェイトの言葉に、一同は安堵と一緒に物足りなさを感じる。

 

「本当に、ご飯を食べに来ただけ?」

「確かに管理局に食堂で済ますのは、味気ないかもしれないけど……」

「うん、流石にそれだけってことは無いと思う」

 

 とはいえ、今日はもう終わりであろうと、みんなそう思って気が抜けてしまっていた。だから、彼女たちは気付かなかった。

 

「おや、皆してこんなところで何やってるんだ?」

「ッ!?」

 

 帰宅のため、Uターンしてきたマークの声がかかる。それにより気を抜くには早すぎたのだと気づくが、事ここに至っては遅すぎた。

 

「え、え~と……」

「その、なんと言いますか……」

 

 何とか言葉を紡ごうとするが、あまりに唐突であったマークとの遭遇に、思うように考えがまとまらない。

 目が泳ぎ、そわそわと体をゆすってしまうフェイト達を見て、何も無いと思うほどマークは鈍感に成れなかった。

 だが、何かあるとわかったからこそ、それ以上の詮索をする気もなかった。

 

「別に、言いにくい事なら言わなくてもいいぞ。……あまり遅くならないようにな」

「ご、ごめんなさい!」

 

 そろそろいい時間であるし、送ろうかとも思ったマークであったが、口にしないでおく。マークにだって、親しいからこそ言いたくないこともある。

 ただ、マークを尾行していたという後ろめたさを持ったフェイト達には、完全に逆効果だ。

 マークにとっては唐突な謝罪と共に、今日一日ずっと尾行していたことを話す子供たち。それに対し、マークは困ったような笑みを浮かべるだけであった。

 

「……怒らないんですか?」

「ん、別に怒るような事じゃないだろう? ただ、皆に尾行されていたのに気づかなかったのは、少し反省すべきかな」

 

 尾行されていたという事より、それに気付かなかった自分を責めるマーク。確かに彼の経歴を思えば、平和ボケしすぎという事になるのかもしれない。

 とにもかくにも、マークが気にしていないという事にほっと一息つく一行であったが、そうなると今度はマークの真意が気になってくる。

 

「ところで、マークさんは何しに街に出てたん?」

「ふむ……そうだな、せっかくだし答え合わせと行こうか」

 

 はやての問いかけに、マークはさらに問い返す。すなわち、今日一日の成果を問いただしたのだ。

 

「……私たちには、食事をしに来たことしか読み取れませんでしたよ」

「最初は密会とか期待してたんだけどね」

 

 期待に添える答えではないだろうと思いつつすずかが答え、アリサが無駄と思いつつも一言付け足す。

 

「食事は、やっぱり普通の量じゃ足りなかったから?」

「あれだけ食べたのは、やっぱりマークさんがマムクートだから?」

「管理局じゃなくて、海鳴に来てってことに何かあるんじゃないかとは思いましたが……」

「それ以上の事は、さすがに読み取れんかったなぁ」

 

 二人に続いた答えに、マークは一つ頷いて正答を述べる。

 

「それだけわかれば上等じゃないかな? 食事については満点と言ってもいいよ」

 

 とはいえ、普段からの食事が足りないというわけではない、とマークは付け足す。今回の食事は、魔王との戦闘から二度竜化した際に消費したカロリーの補充だ。

 そして、次の分のストックでもある。

 

「で、なんで海鳴でってトコは……実は人探しをしていてね」

「人探し……?」

「そう言えば……!」

 

 首を傾げるすずかに対し、フェイトは一つ思い当たることがあった。

 それは、春休みに起こった一つの事件……否、はやてとリオンのケンカがあったために、に後回しにされていたもの。

 

「あの時、昔の戦友に似た人がいたって……」

「そう、そいつを探してたんだ」

 

 一人納得したフェイトは、未だ全容を理解できていない他の面子に当時の話をする。

 

「……ひょっとして、マークさん以外にもこっちに来てるかもしれないってこと?」

「いや、本人ってことは無いだろう。だが、その子孫の可能性は高い」

「子孫って……」

 

 正直に言って、世界には同じ顔の人間が三人いるという都市伝説の方が、信憑性があるといっても過言ではないだろう、とユーノは思う。

 もちろん、何かカードのようなものをみんなに見せているマークに、そのような事を言うわけにはいかなかった。

 

「……結構美人ね」

「まあ、ある意味看板娘でもあるわけだしな」

「ある意味?」

「……一言では説明しづらい」

 

 ユーノも見せてもらったカードには、赤毛を高めの位置で結んだ、きれいな女性が描かれていた。

 マーク曰く、神出鬼没で、愛想のある、根っからの商人。どんな場所、どんな時代にもいる、神竜にも理解できない一族だそうだ。

 

「名前は……アンナ」

「アンナ、ね。私も伝手をたどってみるわ」

「感謝する……いや、ありがとう」

 

 アリサの言葉に一同が頷き、携帯に画像を収める。

 余談ではあるが、その際、写真嫌いのマークが渋い顔をしたのを、皆で宥める必要があった。

 

 

「それで、マークさんはどうするって?」

「食べ歩きはそろそろ十分かと思ってたってことだから、ちょうどいい機会だし、人探しも一区切りにするって」

 

 その夜、すずかは一連の出来事を姉である忍に話していた。

 マークは、一月の間街を巡って見つからなかった探し人は、もう海鳴にいないのではと考えたそうだ。

 

「まあ、一月探して成果なしじゃ仕方ないでしょうね」

「それで、うちとアリサちゃんの家で……」

「それが妥当……というより、最初からそうしてればよかったのに」

 

 少しばかり呆れる忍に、自分で見つけたかったのだと思うとすずかはフォローするが、それにしたって非効率的だと思わざるを得ない。

 

「済んだことは仕方ないわね……それで、その探し人は?」

「この人なんだけど……」

 

 そう言って携帯に保存した画像を見せるすずかであったが、画像が存在することに忍が驚く。

 

「あら、画像があるなら話は早いわ……って、これ杏奈?」

「ッ! 知ってるの!?」

「え、ええ。この子、うちの大学の経済学部にいる子にそっくり……って、すずか!?」

 

 画像を見て、思わずそっくりな後輩の名を告げると、すずかは早速マークに連絡をすべくこの場を後にしていた。

 その行動の速さに思わず呆れるが、その気持ちもわからないでもないと考えを改める。

 

「大事な妹だしね。それじゃあ、力になってあげましょう」

 

 そう言って忍は立ち上がり、後輩へアポを取るべく連絡をする。

 万に一つもないと思いつつも、彼女がマークにとって、少しでも救いになることを祈りながら。

 

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