魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第74話 「アンナ」

 その日、マークはエイミィを伴い月村邸へと足を延ばしていた。というのも、マークが忍の仲介により、アンナと会う約束を取り付けたからなのだが……

 そこになぜエイミィがいるかというと、マークの戦友の血縁かもしれないという、その一点に尽きる。

 今日会うアンナが次元漂流者の子孫であるならともかく、万に一つ当人であるなら保護する必要があるからだ。

 あと、マーク達が意図してフェイト達を締め出したのではなく、アンナと忍、それにマークの時間が合う日が、今日を除いて無かった為であることも付け足しておく必要があるだろう。

 

「結局マーク君は、アンナさんの事本気で探してるわけじゃなかったんでしょ?」

「確かに俺はそう言ったが……フェイトから、なんて聞いたんだ?」

 

 月村邸の一室で、お茶をしながら静かに相手方の到着を待つ二人であったが、その静寂もエイミィの言葉によって破られた。

 

「う~ん……フェイトちゃんは、どちらかというと食事がついでで、アンナさんを探すのが本命だったんじゃないかと思ってたみたいだけど?」

「まぁ、そう思われてもおかしくは無いだろうな」

「でも、それだとわかりやす過ぎるかなぁって、思って考えてみたんだ」

 

 そう言って指を立てながら持論を述べるエイミィは、気分だけは名探偵と言ったところであろうか。

 

「一つ、食事についてはカロリーの補充が目的ではない」

「ほう……」

「そう考えた理由は、竜化には竜石というアイテムが必要だから」

 

 エイミィの考えに少し感心しながら、マークは先を促す。

 

「竜石に竜化に必要なエネルギーが蓄えられているなら、補充するならそっちにでしょ?」

「確かに……カロリー摂取で竜石にエネルギーを補充できるとは思いにくいか……」

「だから食事には別の意味があったと思ったんだけど……それは置いておいて」

 

 エイミィは、立てた指をもう一本増やして続ける。

 

「二つ、人探しにしては、効率が悪すぎる。だから、探索はついでというのは本当」

「本気で探すのなら、人を頼るべきだもんなぁ」

 

 二つ目については、マークも見破られているとわかっていたらしい。うんうんと頷きながら、エイミィの推理を肯定する。

 そのことに少し驚くエイミィであったが、すぐに気を直し、持論を展開する。

 

「ま、まぁ、フェイトちゃんは昔のことを特別視するマーク君が、知り合いに似た人を探すのがついでだなんて変だ……って思っただけだったみたいだけど」

「正直、本人ならともかく、子孫に今更会っても……と思わなくもない」

「やっぱり、複雑なんだね……」

 

 マークの本音に、長命種にしかわからないであろう葛藤を感じたエイミィは、ただ一言いうだけにとどめる。

 だが、マークの真意を測るにはこれだけでは足りない。

 

「……これじゃ、俺は何の目的もなく海鳴をさまよっていたことになるんだが?」

「うん、そこで一つ目の食事についてに戻るんだけど……ここからは、完全に私の予想というか、妄想になるから聞き流してくれるとうれしいな」

「そうか……」

 

 その念の押しように、きっと自分にとって面白くない予想なのだろうとマークは身構える。

 そんな不愉快なものであると思っても、問わずにはいられない予想だなんて、限られているのだから。

 

「艦長から以前聞いたんだけど……マーク君は、そこら辺の雑草からでも『エーギル』を回収できるって」

「……」

「それを踏まえて、マーク君がフェイトちゃん達にした説明を紐解けば、今回の食事は『エーギル』の収集が目的だと思ったの」

 

 マークはエイミィの予想に対し、何の反応も返さなかった。エイミィとしても、もとよりそのようにしてくれと言っていた為、マークの無反応にも関せず、自身の妄想を垂れ流す。

 

「で、艦長に話したレベルの内容を、今回に限って話さなかったのは、この話をしては不味い相手があの場にいたから……具体的には、『エーギル』の知識を持っているかもしれない、はやてちゃんが居たから……というのが、私の予想」

 

 すべてを吐きだしたエイミィは、一息ついて紅茶に口をつける。

 できれば考えすぎであってほしかったが、『エーギル』の危険性については聞き及んでいる。

 その内容ははっきり言って、生半可な覚悟で流布してよい情報ではなかった。

 

「……言いたくないけど、本人の意思に関わらず情報を聞き出す手段は、無いとは言えない。はやてちゃんが、もし『エーギル』を実用できるレベルの知識を得ていたら……」

「いや、ハヤテについては心配していない」

 

 エイミィの言葉を、マークが遮る。聞き流してほしいとは言われていたが、マークとしてはその予想をエイミィに最後まで言わせたくなかったのだ。

 

「確かに、今回言葉を濁したのは『エーギル』の補給をしていたと、あの場にいた誰かに言いたくなかったからだ」

「……」

「すでに『エーギル』を扱い始める兆候は見られている。できる事なら、意識的に使用するレベルに達してほしくない」

 

 マークの言葉を受け、エイミィは一人の少女を思い浮かべた。

 

(まさか……フェイトちゃん!? そうか、確かに手足が『エーギル』で……)

 

 それに加え、以前マークのコピーと戦った際、フェイトはマークのかけた強化を、長時間強化から瞬間的強化へと書き換えたと言っていた。

 もしその技能が完成すれば、フェイトはマークを除き、唯一の『エーギル使い』とでもいうべき存在となってしまうのだ。

 

(そうなってしまったら……ねぇ、マーク君は、どうするの?)

 

 知識というものは、一度拡散してしまえば抹消することが不可能と言っても過言ではない。

 そうであるならマークは、マークは一体どうするのか。かつて強力な武具をその身に宿し、強固な封印をかけた守護者として、どうするべきと考えているのか。

 だが、この場でその答えを聞くことは叶わない。待ち人が、この場に到着してしまったためだ。

 

「待たせてしまったようね」

「いや、好きで待っていたんだから、かまわないさ」

 

 学校から帰ってきた忍に、マークは笑顔で答える。正直に言って、この場面だけ見れば、マークがこの会談をそこまで望んでいないとは思えないような表情であった。

 

《勘違いするなよ? 確かに本気で会いたいと願っていたわけじゃないが、別に、会いたくないわけじゃないんだから》

《……複雑、なんだね》

 

 どうにもこの件に関しては、マークの感情を鑑みることは不可能だと、エイミィは諦めをもって悟った。

 そして、忍の後ろから、ついにその女性が現れた。

 

「初めまして……でいいのよね、マークさん?」

「ああ、間違いなく初めましてだ。アンナ……さん?」

 

 かつての仲間と同じ顔を持つ女性に、初対面の挨拶をされ、いくらマークでも辛いのではないかと思ってしまった忍とエイミィであったが、マークの表情からはその内心をうかがう事はできなかった。

 

「よかったわ……私を探しているって聞いたから、ひょっとしたら私が覚えていないだけかもしれないと思って、不安だったのよ」

「そうだったのか……でも、よくある事なんじゃないのか?」

「……ひょっとして、会ったことがあるの?」

「どういう事?」

 

 ほっとした表情を見せたアンナだったが、マークの一言に苦笑を見せる。そんな変わり身に、それなりの付き合いがある忍も首をかしげる。

 

「あ~……一応な」

「やっぱり……確か、従姉妹がドイツの方にいたと思ったけど?」

「もっと上の方かな?」

「じゃあ、シンガポールの叔母さんあたり?」

「まさか……」

 

 二人の会話から、忍はある予想を立てる。しかし、その予想を口に出す前に、当の本人から答えを聞かされることになる。

 

「そうなのよぉ……ウチは親戚一同みんな同じ顔でさぁ」

「見分けがつくのは本人達か、その配偶者ぐらいだってもっぱらの噂だな」

「うわぁ……」

 

 その答えに、忍は思わず天を仰ぐ。今目の前にいる女が、他に何十人もいるのを想像してしまえば、その反応もやむなしといったところだろう。

 

「世界経済が傾きそうね……」

「一族総出なら、できるんじゃないか?」

「まあ、そんなことするメリットが無いから、やらないけど」

 

 マークが根っからの商人と評したその性格は、世代を超えて受け継がれているらしい。

 

「それで、私のことを知って探していたなら、何か買いたいものがあると思ってもいいかしら?」

「ん……まあ、買いたいものはあるんだが……果たしてアンナに用意できるか……」

「挑発のつもり? ちゃんとお金さえ払ってもらえれば、人型機動兵器だって用意して見せるわよ?」

「そう? じゃあ、本命とは違うけど一つもらおうかな」

「あら、買ってくれるの? それじゃあこの……」

「って、そんなもん買うなぁぁああッ!」

「って、そんなもん売るなぁぁああッ!」

 

 あっという間に決まりそうになった商談に、エイミィと忍が渾身の力で待ったをかける。

 もちろん、本気ではなかったであろうマークは、両手を上げて降参と示し、アンナも苦笑しながら取り出しかけた機動兵器のパンフレットを鞄に戻す。

 

「そんなもの、いつも持ち歩いてるの?」

「まさか! でも、受けがいいし、商談がありそうなときは持ち歩くようにしてるのよ」

「確かにインパクトは抜群でしょうね……」

 

 アンナとはそろそろ短くない付き合いになるがゆえに、ただの冗談ではないと察した忍がため息をつくが、それを知ってか知らずか、マークは本命について尋ねる。

 

「『ギガファイアー』と『鋼の大剣』、それに……『デュランダル』のレプリカとかないかな?」

「マーク君!?」

「……」

 

 マークの要求に、エイミィが思わず悲鳴のような声を上げるが、それに対してアンナは先程とは一転して表情を引き締めていた。

 

「『ギガファイアー』が何かはわからないけど、鋼の大剣は……まぁ、用意できなくもないわ。でもデュランダル? 確かフランスにそんな名前の特殊航空爆弾があった気が……」

「剣の方だ」

「……ローランの歌に出てくる、不滅の刃?」

「いや、人竜戦役で活躍した、烈火の剣だ」

「……」

 

 最初こそ叫んでしまったエイミィだが、元々アンナはマークの世界の出身である可能性があったことを思い出し、黙って成り行きを見守る。

 忍も、アンナの反応がいつもと違うと感じ、押し黙る。そんな沈黙の中、マークの真意を測ろうとするアンナであったが、それもマークの差し出したものによって答えを得る。

 

「……ああ、そっちの商品を買うには、これが必要だったかな?」

「これ、まさか……『メンバーカード』……!」

 

 それは、はるか昔、アンナの先祖が発行したと伝わる、秘密の店の会員証。ある時期を境に、店舗を待たなくなった現在、これを持つ可能性があるのは一人しかいなかった。

 

「まさか、あのおとぎ話が本当だったとは……」

「……こっちとしても、本当にカードが使えるとは思ってなかったんだが」

 

 本人達でさえ把握できていないほど昔の約束が、今ここに果たされたことに、約束を交わした当人であるマークさえも驚く。

 

「まぁ、そういう事なら問題ないわ。残念だけど、『デュランダル』のレプリカは無いの……『アルマーズ』なら、レプリカを用意できたんだけど……」

「そっちはまだ健在だからいい。それじゃ、代わりと言ってはなんだが『光の結界』と『妖魔の術符』、『フレイボム』を頼む」

「了解! 『ギガファイアー』に『鋼の大剣』、『光の結界』と『妖魔の術符』に『フレイボム』……全部合わせて6990万ってとこかしら」

「高っ!」

 

 その総額に驚くエイミィであったが、マークとしては即座に在庫と金額を提示したアンナに対して驚いていた。

 

「商人をやっていれば、これぐらいなんてことないのよ!」

「いや、現れるかもわからない俺専用の商品を、完全に把握しているのが当然って言うのは、さすがに無理があると思うぞ?」

「せっかくの商売の機会を『わからない』で潰すのは二流のやる事よ」

 

 お互いそんなやり取りをしながらも、アンナが領収書を用意しようとして、マークがそれを遮るようにもう一枚のカードを差し出す。

 

「くっ、『シルバーカード』……」

「……こんなの出した俺が言うのもなんだけどさ、有効期限切れとか言っても構わんと思うぞ?」

「はぁ!? そんな信用を失いかねないこと、私は絶対しないわよ!」

「……それは失礼した」

 

 そうして書き直された領収書に書かれた数字は、なんと3495万にまで減っていた。

 

「は、半額……!」

「ねぇ、杏奈……こんなにして大丈夫なの?」

「……もともと死蔵に近い品物だし、問題ないのよ」

「そう言う割には、目がうつろよ?」

 

 そんな騒ぎを横目に、マークはマークで忍から指導された小切手で支払いを済ませようとするが、それにアンナが待ったをかける。

 

「流石に現物を持って来てない今、お金は受け取れないわ」

「そこは信用しているしいいんだが……じゃあ、シノブに任せてもいいか?」

「構わないわよ」

「了解。それじゃあ……現金を用意してもらった方がいいかな?」

「持って帰るのが面倒だし、支払方法は何でもいいわよ」

 

 後日、月村邸にて取引することに決まり、アンナは早々に帰路についた。なんでも、品を取り出すのに相当な手間が必要らしい。

 

「下手をすれば、何千年もしまい込んでたはずだしなぁ」

「……本当に、こんな偶然ってあるんだねぇ」

「……こういうのを運命っていうんでしょうねぇ」

 

 マークとは違いエイミィと忍は、次元航行技術のないこの地球で、はるか昔に交わされた約束が果たされたことに、何やら感動しているらしかった。

 だが、そんな乙女の感動も、マークには理解しがたいものであったようだ。

 

「たぶん、あいつらミッドにもいると思うぞ?」

「まさか……」

 

 流石にそれは無いだろうと否定するエイミィであったが、マークから言わせてみれば、それこそまさかである。

 

「まぁ、向こうでまで探すつもりはないし、どっちでもいいか」

 

 そう結論付けたマークは、テーブルに残った覚めた紅茶を飲み干すのであった。

 

 

 

「いや~、たすかったよぉ……マイナーな部品だし、もう大手では扱っていないって聞いてたからさぁ」

「どうせウチは弱小零細よ……」

 

 その日、本局第四技術部では、マークの依頼に対応するため造られた、後付け式カートリッジユニット追加生産のためのパーツが納品されていた。

 そして、そんなキワモノを作る責任者のような立場となってしまったマリエルは、決して潤沢とは言えない予算をやりくりして、ユニットの更なる安全性を追求していたのである。

 

「そんなこと言ってないって! アンナだって、わかってこういう隙間に手を出しているんでしょ?」

「当然! ……まぁ、あくまでウチは個人経営だし、大企業様に太刀打ちしようなんて思わないわよ」

「そのくせ、どんな店よりも品揃えはいいんだから、ウチの部署も助かってるんだけどね」

 

 そんなことを話しながら納品書のやり取りをする二人であったが、途中でマリエルの手が止まる。

 

「どうしたの?」

「そう言えば、あの『細身の剣』助かったって言ってなかったなと思って……今さらだけど、ありがとうね」

「別にお礼なんていいわよ……商人として、頼まれた品物を納品しただけだし」

 

 そう、以前マリエルがマークに見せた実験品は、アンナの用意した『細身の剣』の錬成品をベースに作られたものであったのだ。

 

「それでも言いたかったんだよ」

「ふぅん……まぁ、それならありがたく受け取っておくわ」

 

 アンナはそう言って立ち上がり、マリエルに背を向ける。

 

「じゃ、また何か必要なものが出来たら連絡してね」

「うん、その時にはお世話になります」

 

 そのまま立ち去ったアンナを最後まで見送ったマリエルは、改めて気合を入れ直し、研究室へと戻っていくのであった。

 

 

 

「いやはや、いつもすまないね」

「別に対価はもらってるし、何の問題もないわ」

 

 時を同じくして、とある管理世界の、とある研究施設でも、商品の引き渡しが行われていた。

 

「……はい、薬品、食料品、嗜好品、娯楽品、全て確認しました」

「ありがとうウーノちゃん。いやぁ、こんな楽を覚えたら、おねえさんよそで働けなくなっちゃうわぁ」

「ほう、ならここの専属になったらどうだい?」

「冗談! 私としては、ウーノちゃんを雇う方向でいきたいわ?」

「勘弁してくれたまえ、まだ娘たちを嫁に出す気はないんだよ」

 

 そう言って笑いあう二人とは裏腹に、このやり取りも何度目かとウーノはため息を漏らすのであった。

 

「しかしアンナ、君もよくこの仕事を受ける気になったもんだね?」

「きっかけとしては、相手が曾祖母の代からのお得意様なのよ、ジェイル」

 

 ジェイルの今更な問いかけに、アンナは肩をすくめながら答える。

 アンナだって馬鹿ではない、どころか、商人としては類稀なる才を持った女性なのだ。この取引が、管理局の法に触れることもちゃんと理解していた。

 

「……義理堅いね」

「商売って言うのは、信用がモノを言うのよ? それに、ご先祖様だって非正規軍とかと取引していたこともあるし……結局、その時自分が正しいと思ったことをするしかないのよ」

 

 それはどういう意味かとジェイルが問いただそうとするが、その前にアンナは立ち上がる。

 

「きっかけは、と言ったはずよ? それ以上は自分で考えなさい」

「相変わらず、厳しいね」

 

 先手を取られたジェイルは、やはりアンナには叶わないとばかりに両手を投げ出す。

 それを見て、アンナは再び肩をすくめ、いつの間にか長い付き合いになってしまった男へと声をかける。

 

「じゃあそろそろ帰るけど……食事と、最低限の運動ぐらいしておきなさい。また一段と青白くなったんじゃない?」

「善処しよう」

「……ウーノちゃん気を付けてね? 本当に、次来たら餓死していたなんてありえそうで怖いから」

「……善処します」

 

 父娘そろって頼りない返事を聞いたアンナは、これは納品時以外にも足を運ぶべきか、本気で悩んだと言う。

 

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