魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
本人たちの自覚のないまま、かなり忙しい日々を過ごしていた面々であったが、どうやらそんな日々にも一区切りがつきそうであった。
「もう卒業か……早かったな」
「元々、三か月間だけの速成コースだったからね」
「速成だけあって、凄い密度で大変だったね。でも、それも終わりだと思えば、少し名残惜しいかも」
しみじみとするマークにフェイト、なのはであったが、もしこの場に第三者が居たら全力で否定しただろう。
本来であれば、そのたった三か月がひたすら長く感じ、地獄のような日々が終わる卒業を、喜びむせび泣いてもおかしくないのだが、それを指摘できる者はいなかった。
「それで、正式に管理局に入局することになるわけだが……二人は武装局員として配置されることになるのか?」
「えっと、本当だったら、どこかの部隊に所属することになるらしいですけど……」
「私たちはまだ学生だから、基本的に予備隊員……時間があるときだけの、追加要員になるらしいよ?」
「なるほど……」
つまり、正式にどこかの部隊に所属するのではなく、出撃できるタイミングに合った部隊に臨時で配置されるという事らしい。
「俺と似たような感じか?」
「……まぁ、間違っては、いない?」
「むしろ、マークさんに同行する人達の方に似てると思う」
ちなみにマークの場合は、マークの出撃時間に合わせて人材と情報を集めるというものであり、似ているように聞こえるが、正確にはなのは達と真逆の扱いであったりする。
そんな特別扱いがまかり通るほど、マークの戦闘関係の能力は突出しているのだ。
「それなり以上にはやれるつもりだけど、新人には違いないし、しばらくは指導官が付くことになると思う」
「……指導官になるやつも、大変そうだな」
同じ部隊に所属する新人ならまだいいのかもしれないが、この二人は違う。
嘱託魔導師としての活動していた時期もあるため、即戦力となることも期待されているのだ。
さらに言えば、二人以上の実力者を指導官にするのも難しいだろう。
実力者には実力者の戦場があり、そこに新人を連れ込むのは難しい。とはいえ、実力的に可能であっても、下積みの一切を飛ばしてしまうのは、二人の為にもならない。
そんなことを考えているマークに、二人以外の声がかかる。
「あら、今日はずいぶん早いのね」
「あ、先生!」
「まぁ、最後だしな」
声のした方へ振り返ると、そこには三人がお世話になった訓練校の教官、ファーン・コラードがいた。
「最後……ね。正直に言って、こんな複雑な気持ちで今日この日を迎えるとは、思わなかったわ」
「優秀な生徒なら、今までもいただろう?」
「ええ……でも、こんなに手のかかった優秀な生徒は、他にいなかったわ」
今までの彼女にとって、優秀な生徒といえば、成績の良い、手のかからない生徒であった。
だが、今回の三人、特にマークは違っていた。確かに能力は高く、素行も悪くないのだが、その態度に問題があったのだ。
「ある意味、理想の生徒であったと自負しているが?」
「自分で『ある意味』とつける時点で、自覚はあるでしょう?」
コーランの言葉に顔を背けるマークは、やはりやり過ぎた自覚があるのだろう。
マークがどんな生徒であったのかを一言で表せば、『なぜ?』『何で?』を連発する、幼児のような生徒であったのだ。
「知識欲と言えば聞こえはいいけど……」
「そ、その分戦略・戦術関係は優秀だっただろう?」
「その分野で、あなたが生徒を名乗るのは間違っていると思うわ」
「確かに……」
そもそもマークが過去に何をやっていたか聞けば、複数の答えがあるとはいえ、まず間違いなく『軍師』という答えが返って来るのだ。
だから、戦略・戦術においては、マークはプロと言って間違いはない。
「少し噛み合わない部分もあったけど、この三か月で修正できたのでしょう?」
「もちろん! まぁ、戦術ならともかく、戦略関係を披露することは無いだろうがな」
「流石に上の立場にならないと、戦略関係の知識は使わないよね。マークも、管理局の上層部に立つ気は無いんでしょ?」
「無い!」
フェイトの確認に、いつになく強い口調による断言であったが、何となく、なのは達は魔王のような存在と戦う一団の指揮をマークがするように思えてならなかった。
「まぁ、そこら辺は今後のあなた達の活躍次第でしょう?」
「辞退する……ハヤテあたりに任せる方が、誰にとってもいいと思うんだがな」
「そう言えば、リオンさんもそっち方面には強そうだね」
マークの一言で、最近無限書庫にこもることが多いと言う、元皇子を思い出すなのはであったが、この場にいない人物について話をしていても仕方がない。
コラードは一つ咳払いをし、この場に来た目的を果たす。
「高町士官候補生、テスタロッサ執務官候補生は今後、ハラオウン提督及び、ハラオウン執務官の指示で任務につくことになるでしょう」
「はい!」
「了解です」
二人は、訓練校に来て習った敬礼と共に返事をする。
「テスタロッサ三等陸尉は、特殊技術官として任務は変わらず継続されます。同時に、グレアム提督が提案した『特務六課』に所属となります」
「……ああ、俺か? 了解しました。しかし、特務六課というのは、初耳なのですが?」
鈍い反応を返すマークであったが、そんな中でも初耳な単語について尋ねる。
「文字通り六つ目の特務機動隊です。魔王に関する脅威対策室の設立とともに、今後創設される予定の部隊だそうですよ」
「新部隊……魔王のことを思えば仕方ないんだろうが、少しばかり気が早くないか?」
「被害が出てからでは遅い、という事でしょう?」
そんな言葉を交わす二人を前に、フェイトは自身の進路に対し迷いを感じていた。
(母さんのような人を止めたいという気持ちは、今も変わらない。けど……)
同時に、マークの相方であり続けたいという願いも、強くあった。
(どうにか両立できないかな?)
そう思っても、難しいのはわかっている。
マークの隣にいれば、間違いなく魔物退治が中心となるだろう。それは、犯罪に走るしかないと諦めてしまっている人達を救いたいという、フェイトの願いとあまりにも遠かった。
では、マークの方からフェイトに寄り添ってもらうのはどうか? これもまた難しい。
管理局がマークに求める役割は、魔王やそれに準ずる者の対処であり、そのような事は、マークにしかできないのだ。
「どうするにせよ、グレアムとは話をしなきゃならんな……」
「わたし達はしばらくフリーだし、手が必要なら言ってくださいね?」
「う、うん!」
「ああ、頼りにしてるよ」
そんなことを考えていたフェイトであったが、なのはの言葉が聞こえ、ほぼ反射的に返事をする。
そんなフェイトに気付いているのかいないのか、マークは改めてコラードに向き直り、感謝の意を伝える。
「色々と難しい生徒だっただろうが、今日まで指導いただき、ありがとうございました」
「「ありがとうございました!」」
「あなた達の、これからの活躍を期待しているわ」
こうして、短くも充実していたマークの学生生活が終了した。
「……あっという間でしたけど、どうでしたか?」
簡易的な卒業式モドキを終え、アースラ経由で海鳴へと帰る道すがら、なのははマークに尋ねる。
入校以前に、マークが学び舎へ行くことを楽しみにしていたと、フェイトに聞いていたためだ。
「そうだな……思いのほか味気ないこともあったし、楽しいこともあった」
「どんなことが?」
フェイトが詳細を訪ね、マークは短かった学生生活を思い浮かべる。
「なんて言うか……もっと、スズカやアリサみたいのが居るのを想像していた」
「?」
「学友って言うのかな? もっと和気藹々としたもんだと思ってた」
「えっと、皆でずっと同じ授業、ってわけじゃないからかな?」
速成コースという事で、三人だけの講義も多かったので、他の生徒との絡みが少なかったことを言っているのだろう。
それでもマークは、校内で知り合った数人と連絡先を交換できる程度の交流はあった。
「十分仲良くしてるように見えたけど……」
「せっかくの機会だったのに、友好的な関係を築けたのがほんの数人だぞ?」
なのはからしてみれば十分な物に聞こえたが、マークには不満らしい。もっとも、こればかりは組織に所属した経験が無ければ分からないだろうと、マークも理解を強いるようなことはしなかった。
「まぁ、その数人とのやり取りは、なかなか得難い体験だったがな」
「ヴァイスさんとか、おもしろい人でしたからね」
マークにとって、初めてできた学友でもあると同時に、なのは達にとっても数少ない年上の友人であった。
「ナノハとフェイトにとっては、どうだったんだ?」
「あ~……正直に言って、忙し過ぎて、気が付いたら終わっていたって感じが……」
「マークが居なかったら、ここで知り合いを作れなかったかも……」
「そんなことないと思うがねぇ……」
ただでさえ海鳴の学校があるのだ。そちらでの勉強に加え、速成コースの密度は、当たり前に努力ができるなのは達をもってしても、つらいものがあった。
そんな次第で、あの講義は退屈だった、この課題は大変だったと愚痴が混ざってきたが、そんな会話でさえ、マークにとっては新鮮だった。
「さて、それじゃあ俺はここまでかな」
「え、用事か何かあるんですか?」
「今度アルザスへ行く、クローベル統幕議長の護衛の打ち合わせがある。まぁ、俺の役割は、護衛より通訳を期待されてるみたいだけどな」
「そ、そうなんだ……」
この後の予定を告げるマークに、フェイト達は途端に歯切れが悪くなってしまう。そのことにマークは少し首をかしげ、すぐに理解した。
「ああ、なるほど……じゃあ、一時間以内に終わらせてくる」
「え、大丈夫なんですか?」
「ああ。だから、待ってる皆によろしくな?」
マークはそう言い残し、有言実行を果たすために走り去る。その後ろ姿を見送りながら、フェイト達はマークに内緒で準備していたことがばれてしまったのだと悟った。
「あ~あ、あとちょっとだったのに……」
「卒業祝いパーティー……マークにとっては、最初で最後の機会なのに」
そう、なのは達はまだ小学校と中学校があるが、マークにはこれから先、卒業などと言う機会は無いだろう。
それゆえの企画であったのだが、どうやらサプライズには失敗してしまったようであった。
ちなみに、フェイト達がサプライズパーティーを知っていた理由としては、いつものメンバーが集まれる時間帯に、マークをちゃんと連れてくるためであったのだが……
「成功半分、失敗半分かな?」
「最悪ばれてもいいから、確実につれてくるようにってことだったから、一応成功でいいんじゃないかな?」
だが結局のところ、マークに無理をするように強いてしまったようなものなので、成功とは言い難いとフェイトは考える。
「……今度から、サプライズは止めるべきかな?」
「うん、しっかり時間があることを確認しないとダメだったね……」
失敗は次への糧へと昇華し、二人はハラオウン邸で待っているだろう皆へ報告に戻る。
待機していた一同が、帰ってきた二人にクラッカーを全て鳴らしてしまい、慌てて買いに行く羽目になったのはご愛嬌と言ったところだろう。
「あ、マークさん」
「お疲れ様です。あと、ご卒業おめでとうございます?」
「あれ、今日でしたっけ?」
「バッカ! 何とぼけたこと言ってんだよ!」
マークが会議室につくと、先に集めっていた面々からにぎやかな声がかけられる。いつの間にかマークとの仕事を押し付けられる立場に立ってしまった、ロイド隊の面々である。
「祝いの言葉、ありがとう。それでだな、身内の連中が何やら企んでるみたいで……早めに帰りたいんだ」
「ずいぶんとまぁ……」
「ストレートな物言いですね……」
感謝と共に割と勝手な要求をするマークに、会議室の一同は呆れるとともに頭を抱える。
マークと活動を共にすることが多いロイド隊はともかく、クローベル幕僚議長の護衛担当は特に面白くなさそうな顔をする。
だが、文句を言う前に、マークは真剣な目つきで資料へと向かってしまったため、何も言えずに引き下がってしまう。
「…………大体理解した。良くも悪くも、通常の護衛任務だな」
「はい。計画の時点では、特に変更を加えていません。ただ、アルザスの守護竜の行動原理が解明できていないのに、不安が残ります」
「相手がナーガの系譜であるなら、敵対行動を行わない限り安全は保障する」
「ナーガの系譜でなければ?」
「好戦的な竜じゃないんだろ? なら、問題ない」
断言するマークだが、護衛官からすれば何の根拠も提示されていない以上、納得するわけにはいかない。
マークも一拍遅れてそのことに気付いたのか、説明を追加した。
「元々ナーガの系譜が外の世界へ出たのは、人と争うことを嫌ったためだ。そもそも、現地住民とはうまく共存しているんだろ?」
それなら、こちらからよっぽどのことをしない限り、問題ないと太鼓判を押す。
「それより、俺は現地住民の感情の方が気になるんだが……」
「ああ、それでしたら……」
そんなことで、つい護衛計画について話し始めてしまった二人に、慌てて周囲も参加し始める。そんなふうに、なし崩し的に話し合いが始まってしまったことに気が付いた時には、改めて会議を始めるには遅すぎた。
「……まぁ、有意義な時間でしたし、改めてというには、話し合いが進み過ぎてしまいましたね」
「むぅ、つい興に乗ってしまったな。……会議の予定時間はまだあるが、もう詰めることもないし、終わりにするか?」
「アルザスの守護竜に関しては、多少の援護をつけますが基本的にマーク三尉に任せます。他は、現地住民とそのほかの飛竜種の対処を……」
守護竜の行動パターンを想定し、対策を練る。一部変更により発生する不具合を誰かが指摘し、さらに修正をかける。
マークには懐かしく、そして楽しい時間であったが、それも瞬く間に終わってしまい、最終確認後解散となった。
「……グレアム提督が推すのも、理解できますね」
「いやぁ、もっとゴリ押しな奴だと思っていたんですがね……」
解散後、すぐにこの場を離れたマークの背を見送りながら発せられた議長の護衛官筆頭の言葉に、ロイドが答える。
実際、ロイドにとってマークは、自分たちに援護を任せ、圧倒的な武力による力押しを主体とする戦法を好む人物であり、精密な戦法を練れるようには見えなかった。
「効率と信用の問題でしょう? 彼が指揮を執る場合、特に信用が足りなかったため、細かな作戦を考えなかったんだと思いますよ」
「……今回は、トップが議長だからこそ、か」
今回マークが立案に参加することになった計画は、信頼がある上司が発した精密な戦術となるという事だろう。
そのように評価を改められていたマークであったが、当の本人はこの後に待っているだろう卒業祝いで、頭が一杯であった。
そして帰って早々に受けたクラッカーの斉射に、思わず目を白黒させることになった。
「あ~、驚いた……」
「大丈夫?」
「ナハハ……マークさん、本気ではねあがっとったからなぁ」
未だにバクバク言っている心臓を押さえるマークに、一同は心配と苦笑を乗せた視線を向ける。
「しかし……先に始めていてもよかったのに」
「そんなわけにはいかないわよ!」
「今回の主役はマークさんなんですから」
アリサとすずかがそう主張するが、マークからしてみればなのはとフェイトだっていたのだ。
「わたし達は他に機会がありますから」
「ああ、なるほど……その時は盛大に祝福させてもらおう」
微妙に気になる言葉があったが、一応の納得を得て、ようやくパーティーが始まった。
途中でマークが秘蔵の酒を出しエイミィに没収されたり、訓練校での出来事を語りはやてを不安にさせたり、ちょっと真面目に進路の話をしたりと、基本的に穏やかな時間が過ぎていった。