魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第78話 「格付け」

 時空管理局の本局、その居住区の一室にて、彼らはグラスを傾けていた。

 

「順調、と言っていいのかな?」

「そうだな……現状はそう言い現わして問題ないだろう」

 

 マークの言葉に、グレアムが同意する。

 というより、順調でなければ酒など飲みかわす暇を持てなかっただろうことを思えば、わざわざ言葉で確認するまでもなかったことだろう。

 

「特務六課は無事創設され、守護騎士を含む俺たちの立場も安定してきた。若干忙し過ぎるきらいがあるが、おおむね平和……何の問題もない」

 

 順調、平和と言いながらもどこか不満そうなマークは、グラスをあおりそこに入っていたワインを飲み干す。

 そんなマークの様を興味深げに見るグレアムであったが、外見からはその不満の理由を推測できるものではない。

 

「……何かあったのか?」

「別に……ああ、リンディがついにフェイトに養子の件を切り出したぞ?」

「やっとか……だが、君が今考えていることは全く違う事だろう?」

 

 グレアムの問いかけをわかりやすくそらしたマークであったが、あまりにもあからさま過ぎた。

 普段ならもっとうまくやる以上、これは遠まわしに愚痴に付き合えと言う意味だろう。

 グレアムはマークのグラスにワインを注ぎ足し、リーゼ達の何かつまみを持ってくるように頼む。

 

「……魔物が出たらしいな」

「ああ、それか……」

 

 マークから出た言葉に、グレアムも顔をしかめる。

 特務六課が創設され、魔物を代表とした特殊危険生物の対策を任されることになったグレアム達だが、その最初の仕事となったのが事後報告の処理であったのだ。

 

「別に、俺の関わらないところで戦闘があったことを責めているんじゃない。遭遇して、何らかの被害があるのに『管轄外だから』と逃げ帰る輩より、よっぽど良い。問題は……」

「深追いして、隊は全滅。その後部隊を守るため、同部隊より小隊が組織され再出撃。また全滅」

 

 考え得る限り、最悪の結果である。唯一の救いは、僅かばかりの情報収集が行えていたことだが、それも生存者がいたというわけではなく、リアルタイムで通信を行っていたからというのだから、全く話にならない。

 

「……こっちに連絡しなかった理由が、面子の為というのも腹立たしい」

「裏でこそこそやっているうちに、地上の方に嗅ぎつかれたのも痛かったな」

「それは俺には関係ない」

 

 空と地上という風に別々に動いているように見えても、やはり一つの組織なのだ。

 下手な失態を隠す行為は当然のように露見し、相応の問題となったのだが、マークにとってはあまり興味のあるものではなかった。

 

「分かっている。ただ、そのせいで六課の立ち位置が微妙なものになったことは、覚えておいてほしい」

「何のために部隊を作ったのかって、責められてるんだったか?」

「ただの被害ではなく、殉職者まで出してしまってはな……」

「はっ! 六課創設のために、予算でも削られたやっかみか?」

 

 要は、わざわざ専門の部隊を用意するまでもないとアピールしようとして失敗した馬鹿が、路線を変えて攻めてきたというわけだろうと嗤うマークに、グレアムがため息をつきながら否定する。

 

「最初に突っ込んだ隊は、ただその地に住む人々の害を排除しようとして、続いたのは仇討のためだ」

「……面子じゃなく、市民と仲間の名誉のため、か」

「ちなみに、裏でこそこそやっていたのは部隊の人間ではなく、新参に守護者の名を奪われることを恐れたとある御隠居だったそうだ」

「割を喰うのはいつも、不器用な軍人ってわけか」

 

 やってられるかと言わんばかりに体を投げ出しグラスをあおるマークに、グレアムも今回ばかりは同意する。

 だが、それで終わらせることができないのが、人の上に立つ者の務めだろう。

 

「俺の知る魔物をまとめたリストだ」

「……十六種か、思ったより少ないな」

「それにドラゴンゾンビが加えられる。さらにそれぞれ二十のランクに分けられるが、まあそこまで細かく見る必要はないか」

「……戦闘力の差はどれぐらいになる?」

 

 マークの出した資料に、グレアムはわずかに感じていた酔いが吹き飛ばされる。

 資料では下級・上級という格付けもされているが、それだけでは不明な点が多すぎる。

 

「……俺も戦ったすべての個体を覚えているわけじゃないが、覚えている最弱の個体の戦闘力が30そこそこだった気がする」

「その数値の基準は?」

「ああ、そこからか」

 

 そこでようやくマークは、自身が昔から使っていた能力の計り方をグレアムに伝える。

 

「ふむ……生命力、力、魔力、速さ、技、幸運、守備、魔防の八項目からなる戦闘力の測定法か……幸運というのは?」

「不確定要素とでも言えばいいかな? 単純な能力に対する+αと思っていればいい」

 

 他の項目についても一応説明を受け、それからようやく本題に入る。

 すなわち、管理局のランク付けとのすり合わせである。

 

「一般的な成人男性の能力が、20後半ぐらいになる」

「……それだけ聞けば、一般人でも魔物に届きそうにも感じるが?」

「最弱に届いたところで、あまり意味は無いな」

「ああ、確かに最弱の数値だったな」

 

 流石に底辺を競っても仕方がない以上、一般的な新人と中堅武装局員であるC,Bランクの隊員で比較を行う。

 

「えっと……こいつと、こいつがいいかな?」

「ウチの隊員だな……Cランクがレスター、Bランクがマチスか」

「このレスターの戦闘力が71、マチスが83だな。上級の魔物相手だと、厳しい」

「ふむ……うちの子たちはどうかな?」

 

 使い魔としてグレアムの後ろに控えていた二人を改めて見て、マークはその戦闘力を計る。

 

「リーゼアリアが138で、リーゼロッテが141」

「ほう、ほぼ同じ実力だと思っていたが……」

「近接戦闘を行うやつの方が、生命力が高くなりやすいからな」

 

 そして、生命力は他の能力の二倍近い数値になるため、僅かな差ではあるが近接戦闘職の方が戦闘力という数値が高くなりやすいのだ。

 とはいえ、どんな理由であろうと相方より高い数値であったロッテとしては、気分がいいのだろう。先程より、尻尾の動きが激しくなっている。

 

「10~20の差で、勝負は決定的になって来るかというところか?」

「よほど尖がったスペックでなければ、とだけ言っておこう」

 

 極端な話、戦闘力にいくら差があっても、防御を貫き、生命力を抉りきる攻撃力があれば、どんな敵だって倒せる可能性はある。

 

「二人ほどのスペックならば、大抵の魔物は問題無く倒せる。だが、ドラゴンゾンビや魔王は別格だし、何事にも例外はあるから注意してくれ」

「別格か……具体的には、と聞いてもいいかね?」

 

 マークが敢えて濁した部分であり、グレアムもそのことを分かった上での質問だ。

 マークからしてみれば、まず会う事のない存在を恐れすぎることが無いように秘したのであり、グレアムからすれば万が一に備えて、という事だ。

 だが、問われてしまえば答えないわけにはいかない。

 

「……ドラゴンゾンビが最低で190、魔王はだいたい300だ」

「なっ!」

 

 正直に言って、マーク自身も馬鹿げた数字であると思う。一例として、200に至れば英雄と呼ばれるレベルなのだ。

 

「待て、待ってくれ……確か、その魔王にとどめを刺したのは……」

「ナノハだが、別に彼女の戦闘力が極めて高いわけじゃない。彼女の当時の力は160といったところだぞ」

「えっと、どう反応したらいいんですかね?」

 

 呆気にとられるグレアムの代わりに、リーゼアリア困ったような笑みを浮かべる。

 当時9歳の少女が自分たちを超えていることを悔しがるべきか、戦闘力の差が100を超えているにもかかわらず、魔王を倒したという事に驚くべきか、あるいは呆れるべきか。

 

「ナノハのスターライトブレイカーは、かなり特殊な魔法だったからな……カートリッジで極限まで強化し、さらに周囲の魔力を集めてるんだっけ?」

「はい……でも、難しい技能ではあるけど、唯一の技能というわけではないですよ?」

「あれはもはや、あの子の唯一だろう。素の魔力が30弱、カートリッジで追加された魔力が20強、そして、周囲から集めた魔力が130強だ」

「……言葉もないですね」

 

 自身の持つ魔力の実に数倍の魔力を収束し、打ち出して見せたなのはの行為が、まさしく英雄の一撃であったと理解したのだろう。

 ただ、再現性は極めて低い。

 もっとも、魔王の心は完全に折れたであろうから、再び現れる可能性というのもほぼ皆無。現れるとすれば邪竜なのだが、こちらは魔王よりさらにスペックが高かったりする。

 

(それまでに、どれぐらい鍛えられるかな?)

 

 なのはを筆頭に、フェイトやはやて、それにすずかも順調に成長している。

 不謹慎であるが、魔物という敵も得られる以上、何とかなるとマークは考えていた。

 

「……」

「何だ?」

 

 ふと逸れた思考から戻ってきたマークが、ふと視線を感じ問いかける。

 その視線の主であるグレアムだが、何度か口を開こうとするが、ついに声を出すことなく、その首をゆっくりと左右に振った。

 

(彼自身の戦闘力は、聞かない方がいいんだろうね……)

 

 基本的に、ヒトとは自身の持つ物差しでしか他者を計れないものだ。

 すなわち、マークの実力は最低でも魔王に匹敵し、場合によっては超えかねない。

 とはいえ、かつてのマークは魔王を滅ぼしきれず、封印せざるを得なかった過去もあるし、魔王には届かない可能性も十分ある。

 だが、ここで聞かなければ、あくまでも『かもしれない』で済むのだ。ならばあえて聞くわけにはいかないだろう。

 

「……まあいい。それじゃあ今後の話だが、魔物の出現地点の調査を行うから、六課で部隊を手配しておいてくれ」

「了解した。後日地上のレジアス少将との会談も用意されたから、そのことも忘れないでくれたまえ」

「はあ……魔物の危険性を周知させておくべきだった、とか言われるのかねぇ」

 

 思わずため息をつくマークであったが、全く新しい部隊を作ったのだから、これぐらいの摩擦は仕方のないことだと、諦めるほかなかった。

 せめて事態を隠蔽しようとしたどこぞの老害の方に矛先が向けばよかったのにと、そんな愚痴を言うぐらいしかできないのだ。

 もちろん、マークの予定はこれだけにとどまらない。

 

「再訓練の予定表に、新型デバイスのテスト、人体研究に関する論文の提出、指揮官講習、それと……」

「デバイスは次回の調査に持っていくし、論文は今最終チェック中で問題ない。他は日程調整をよろしく!」

「……六課を運営するに当たり、君もいずれ責任者となる。そろそろ補佐官を決めるべきなのだが、公募しても構わないかい?」

「優秀なのを雇って衝突するのと、何も知らない若手を一から育てるの、どっちのほうが手っ取り早いと思う?」

「優秀で、理解のある若いのを……」

「そんなのそこら辺に転がってるわけないだろ?」

 

 結局、新部隊と言っても人材不足は深刻なのは変わりない。むしろ実績が無い分、余所より集まりが悪いくらいなのだ。

 せめて今日ぐらいはと、酒を飲みかわす二人なのであった。

 

 

 

「……テスト、終了です」

 

 やっと十歳に届くかという幼い少女のその一言と共に、巨大な質量をもった武器が床に叩きつけられる。

 否、ただ肩からおろしただけの動作が、叩きつける動作に感じられてしまうほど、その武器の質量が並はずれていたのだ。

 

「ふむ、若干振り回されてしまう感が拭いきれないが……」

「私自身の質量が足りません。かと言って、重しをつけてしまえば本末転倒と思われます」

「武器を軽くしようにも、これ以上は強度に不安が出てしまうしねぇ」

 

 少女の言葉に対し、顔色の悪い白衣の男が思案顔を見せる。

 とはいえ、今日までの実験ですでに答えは出ているのだ。

 

「理論上も、実験値もこのバランスが一番と示している、か」

「ドクターは、自身の編み出した理論を、もっと信用して良いかと思われます」

「この世のすべてを疑い、確認するのが研究者という生き物なのだよ」

 

 もっとも、最近は開発ばかりしているが、などと自嘲するドクターと呼ばれた男であったが、少女の耳には届いてなかったようだ。

 

「……私は今、新たな真理を知ることが出来ました」

「……まあ、君がそれでいいんなら何も言わないがね」

 

 何やら感動している少女に少し呆れながらも、ドクターは記録してあった数値に改めて目を通す。

 

「君の考えたスペックシートは少しばかり単純すぎるきらいがあるが、機能的ではあるな」

「……私の感覚を、拙い言葉を纏め、形にしたドクターが凄いのです」

 

 ドクターの手元には、細かい数値が羅列したシートの他に、その数値をまとめ上げ、単純化したものがあった。

 その項目は、マークがグレアムに説明したものと全く同じものであることを知る者は、まだいない。

 

「ナギ……基礎性能値270、か」

「ドクター、よろしければ、総合性能値の方で言い直していただけますか」

 

 ナギと呼ばれた少女は、僅かな不満と共にそう告げるが、ドクターはそれには気付かず、ただ数値だけを言い直す。

 

「総合性能値325、ね」

「まだ伸び代はありますから、五年以内には400に届かせます」

「期待しているよ」

 

 ドクターの言葉に満足したのか、ナギは心なしか頬を紅潮させながら試験室を出る。おそらく訓練室へ、更なるトレーニングのため向かったのだろう。

 

「……さすがにやり過ぎでは?」

「いやいや、最強の個体を作るというコンセプトは、彼女自身も言っていたようにまだ終わってはいないよ」

 

 ナギと入れ替わるように入ってきたウーノに、ドクターは楽しそうに返す。

 

「この武装も、マーク君の持つ投擲斧『トマホーク』を彼女の牙で覆ったものだが……わかるかい? 最初の加工以外、この牙は全く干渉を受け入れないのだよ」

「……」

 

 その斧の特性を語るドクターは、まるで自慢のおもちゃについて語る子供のようで、ウーノとしても換言をする気が失せてしまった。

 

「それでは、現在凍結中の予備個体はどうしましょうか?」

「ふむ……さすがに最強の座をかけて娘同士に戦わせる気は無いし、別のコンセプトをもって完成させるには癖が強すぎる」

 

 かといって破棄する気は無いし、ならばこのまま凍結して、今後何か思いつけば再開するという事に決まる。

 彼らは知らない。この事がのちに、史上最悪の邪竜再誕のきっかけになるという事を……

 

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