魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第80話 「闇の入り口」

「……以上が、今回確認した魔物の報告となる」

 

 その日、マークは先日行った調査の報告をしに管理局地上本部へと訪れていた。

 というのも、先日行った調査により、魔物が転移魔法によってその場に送られた可能性が出てきたためである。

 そして報告の相手というのが、地上の守護者とも名高い地上本部副司令レジアス・ゲイズ少将であった。

 

「ふむ、群れのボスはAAランクに匹敵するか……こちらがいかに早く感知できるかが、被害を押さえる重要なポイントになるな」

「マギ・ヴァルでは観測員を各地に配備して、発見し次第報告、精鋭による殲滅という手段を採用していた」

「それが一番無難か……法則性や生態を調べれば、事前に察知することが可能になるか?」

「経験則から、過去に大きな戦いがあった地に魔物が集まりやすいとわかっている。そこで調べてみたんだが……管理世界だけでも、数千か所は余裕で超えるな」

 

 割とシャレにならない数に、報告を受けたレジアス・ゲイズ少将もさすがに眉を顰める。

 新参者のマークですら知っている人員不足が、ここでも大きな壁となって立ちはだかったのである。

 可能ならば管理局主導で事を進めたいが、さすがにこれは不可能と割り切るほかなかった。

 

「一応、現地の治安部隊との連携を考えていくことになるが……」

「そんなことはいい。問題は、このミッドチルダにどれほどの影響があるかだ」

 

 そんなレジアスの言葉にマークの表情がピクリと動くが、それにかまわずレジアスは続ける。

 

「外の事は本局の連中にやらせておけばいい。だが、私はこの地上の責任者なのだ」

「むぅ……正直予想しにくいな。今の魔物たちには魔王がいないから、大規模な侵攻なんかは無いだろうとしか言えないな」

「逆に言えば、まとめ役が存在したら……」

「第一管理世界は、一番の標的になるだろうな」

 

 マークの感覚では、ミッドチルダは管理世界という国の王都に当たる場所である。

 同じ時代を生きた魔王及び魔物であれば、同じような考えをもってもおかしくは無いだろう。

 もちろん、トップの考えによっては好物をとっておくかのごとく、最後まで手を出してこない可能性も無きにしも非ずなのだが。

 

「厄介ごとばかり持ってきおって……」

「否定はしないが、俺に言われても困る」

 

 確かにマークが目覚めたからこそ現れた問題なのだが、マークだって望んでこの時代・場所に目覚めたわけではない。

 

「貴様に言わず、他の誰に言えと?」

「まあそうなんだが……そこには触れないで貰えるとうれしいかな」

「ふん……」

 

 マークの控えめな嘆願に、レジアスは鼻を鳴らしながらも受け入れる。もはや何を言ってもあとの祭りであることぐらい、レジアスだって理解しているのだ。

 

「……今度魔物を生け捕りにでもして来い。こちらで調べてみよう」

「それでわかることがあるなら、なるべく早く用意しよう」

 

 まだ形ばかりの六課より、古くからある本部の方が施設に関しては充実している。最低限の協力を取り付けたマークはわかりやすく安堵の息を吐き、レジアスはそこへ更なる質問を重ねる。

 

「再訓練を優先させることは可能か?」

「再訓練計画は遅滞気味で、地上を優先させることは難しい」

「魔物に対する装備の開発は?」

「俺の所持する魔法書を解析する事業を展開している……対魔王装備である双聖器、風刃『エクスカリバー』の前段階として、今は『エルウインド』を解析中のはずだ」

「部隊の再編成、戦術の再構性の必要性は?」

「再訓練にある程度含まれているし、正直に言って、対魔物専用部隊でもない限り必要性を感じない。とはいえ、六課においては結構高めに優先順位を設定しているが……」

 

 淡々と続けられる質問と回答であったが、その一連の作業がぱたりと止まる。マークもそのあまりの唐突さに首をかしげるが、その視線の先にあるのは、レジアスの何とも許容しがたい感情が込められた顔であった。

 

「結局、今は何もできる事が無いという事か?」

「すでに手を尽くしていると言ってくれ」

 

 とはいえ、訪れるかもしれない厄災に対し、まったく手を出せないのは辛いことだと言うのも理解できる。

 マークはちょっとした提案をレジアスに向けた。

 

「非殺傷設定の解除は?」

「むぅ……個人にその権限を渡すわけにはいかないが、緊急解除の条件は検討させておこう」

「あと、せっかく映像があるんだし、それを見るだけでも心構えはだいぶ変わるだろう」

「それについてはすでに検討を終えている」

 

 その後もマークはいくつかの提案を続け、レジアスはその提案のいくつかを受け入れる。

 いくつか、というのも、マークの提案は既に実行していたり、あるいは時代に則していないものもあったためだ。

 

「まだズレがあるのか……大方修正したつもりだったんだがなぁ」

「わずか二年でここまで修正されれば十分だと思うが……いや、上の立場なら、時間など関係ないか」

 

 そう、確かにマークが管理世界に来てからの時間を思えば十分かもしれないが、特務六課という組織を動かさねばならない立場になってしまえば、そうも言ってられないのだ。

 それからしばらく魔物対策の話し合いをするうちに、マークはこの場に来てから得た疑問を投げかける。

 

「レジアス少将は、レアスキル持ちを嫌悪していると聞いたんだが?」

「……唐突だな」

 

 レジアスにとって、応える義理などひとかけらもない問いかけだったのだが、どうしてかこの時だけは答える気になってしまった。

 ひょっとしたら、マークが人ではないからこその心の動きだったのかもしれない。

 

「……再現性が無いからだ」

「……つまり、レアスキル持ちが何かしらの対処をしても、他の連中の参考にならないから?」

「頼って失われれば、何もできなくなってしまうだろう?」

 

 有用だからと言ってそれに頼ってしまえば、十年二十年先にその人物が動けなくなったとき問題に対処できなくなってしまうと言うレジアスに、マークは感心する。

 

「確かにこれは思想の違いとしか言いようがないな」

 

 例えばなのは達が最善を尽くし、少しでも今の被害を減らそうと思っているのに対し、レジアスは未来を案じ、レアスキルを遠ざけているのだ。

 

「じゃあ、やはり俺が動くこともできれば避けたいのか?」

「貴様の後継が、貴様と同程度に動けるのなら構わん」

「……なるほど」

 

 確かにマークの力は竜であるからこそという部分も大いにあるので、その血が受け継がれるのならレジアスにとって問題ないらしい。

 今後力を振るうなら子を為せと言うレジアスの無言の主張に、マークは人知れずため息を吐いた。

 

 

 

「そう言えば、マーク君って奥さんとかいたの?」

「……」

 

 ハラオウン邸に帰ってきたマークへのエイミィの問いかけに、なんとなく思う。噂をすれば影なんて言葉もあるように、何かとこういった話は続くらしい。

 

「……いなかったな」

「え、2000年以上も生きてたのに!?」

「昔は人間嫌いだった時期もあったし、何より置いて逝かれるってわかりきってたしなぁ」

「それは……じゃあ、同族には?」

「身近すぎたり、幼すぎたりで縁が無かったな」

 

 もちろん、マークにだって愛しいと思える相手がいなかったわけではない。だが、当時のマークには、その愛しい相手が老い、死んで逝くのを間近に看取ることができるほど強くは無かったのだ。

 そんな想いの欠片に想像が届いてしまったエイミィは、あえてからかうようにマークへとダメ出しをする。

 

「……まぁ、マーク君の恋愛スキルが思ってたより低いってことはわかったよ」

「否定はせんが、人に言われるのは存外腹立たしいな」

 

 マークも湿っぽくなってしまうのを嫌い、殊更不満そうな態度をしてみせる。

 エイミィも大げさに感情を見せるマークにのって、殊更残念そうに言う。

 

「あ~あ、ちょっとマーク君には恋愛相談しようと思ってたんだけどなぁ」

「ほう……クロノか?」

「え、ひょっとしてバレバレ?」

「いや、リンディに相談しない理由を考えれば、相手がクロノじゃないかって言うのは一番に思いつくだろ」

 

 そう言うマークに、エイミィは苦笑するしかない。

 それは同居しているにもかかわらず今まで気付かなかったマークにか、あるいはこんなことでその想いを暴露することになってしまった自分自身にか。

 

「結構積極的にアプローチしてるつもりなんだけどねぇ……なかなか気づいてもらえなくて」

「姉が弟にじゃれ付いてるようにしか見えなかったぞ?」

「……たぶんクロノ君もそう思ってるよねぇ」

 

 率直なマークの感想に、エイミィも同意のため息を吐く。

 

「まあ、年寄りから一つアドバイスをしてやろう」

「恋愛経験ゼロのくせに?」

「やかましい……距離が近すぎるなら、エイミィの方から少し離れてみるといいと思うぞ」

「と言いますと?」

 

 まあ気やすめだろうと思いつつ、エイミィはマークの言葉に耳を傾ける。

 

「エイミィは割と頻繁にクロノに抱きついたりして、鬱陶しいとばかりに引っぺがされているだろう?」

「……まぁ、否定はしませんが」

「だから、引っぺがされる前に自分から離れると良い」

「?」

 

 言葉が足りずに首を傾げるエイミィに、マークはさらに説明を続ける。

 

「簡単に言えば、恥じらいを見せるとでも言えばいいかな?」

「ほう……」

「相手が何かを意識しているとわかれば、何を意識しているか気になるのが人だろう?」

「つまり、クロノ君に違和感を覚えさせて、わたしのことを考えさせろってこと?」

「そう」

 

 たとえば最初にマークが言ったように、まずはいつも通りくっついて、そこからぎこちなく離れるだけでいい。クロノならそれだけで、なぜエイミィがいつもと違うのかを考えるだろう。

 

「なるほど、距離が近すぎて、好意は親愛と恋愛の区別がつけにくいから、まずはわたしがクロノ君を異性として見てるって教えないといけないわけだ」

「そうなるのかな?」

「何でそこで疑問形になるかな……でも演技なんて私に出来るかな?」

「むしろ不自然な方がいいだろ」

 

 なんなら手本でも見せようかと冗談交じりで言うマークであったが、エイミィも悪乗りしているのか是非にと頭を下げる。

 そこへタイミングが良いのか悪いのか、クロノが帰宅してきた。

 

「ただいま……どうかしたのか?」

「ん、あ~……いや、なんでもない」

 

 まるで都合が悪いところを見られたかのように狼狽するマークに、エイミィはさすがにこれは無いだろうとひそかに思う。

 事実、クロノはかなり胡散臭そうにマークを見やっていた。

 

「……まさか、何かやらかし―――」

「そうだ! スズカの様子をしばらく見ようと思ってたんだった!」

 

 クロノの言葉をぶった切り、あからさまに逃げ出そうとするマークであったが、これはさすがにおかしいと、クロノも身構える。

 

「ちょっと待―――」

「じゃあ、またな!」

 

 捕まえようとするクロノを振り切り、あっという間に逃げ去ったマークに残された二人は言葉もなく呆然とするほかなかった。

 だがエイミィは同時に納得もする。

 

(確かにここまであからさまだと、気にせざるを得ないよねぇ……)

 

 少し求める方向が違うような気がしなくもないが、関心を得ると言う一点では大成功と言わざるを得ない。

 

(まぁ、残される人間のことも考えてほしかったけどね)

 

 あからさまに怪しいマークに逃げられれば、直前まで一緒にいたエイミィにも同じ視線が向くのは当然のことだろう。

 

「エイミィ、一体何が―――」

「あーっと、わたしも買い物に行かなきゃいけないの忘れてた!」

「あ、おい!」

 

 ほぼマークと同レベルの棒読みも、今回に限っては良かったのか悪かったのか、無事に逃げ出すことができてしまったのだった。

 

 

 

「……それで、クロノ君をからかって逃げてきたんですか?」

「まあ、一言でまとめるとそうなるかな」

 

 突然月村邸に訪れたマークであったが、すずか達は一応迎え入れてくれた。

 一応、というのも、マークがクロノをからかって逃げてきたと聞いては、心から歓迎すると言えないからだろう。

 

「帰ってから大変だよ?」

「まあ、その時は素直に謝るさ」

 

 すずかと一緒に訓練しようと訪れていたフェイトにも苦笑され、冗談のようなものとはいえ恋愛相談のことを言うわけにはいかないマークは、肩を竦めるしかなかった。

 

「クロノの事はひとまず置いておいて、せっかくだし今後のことを話そうか?」

「……うん」

「……お願いします」

 

 少々強引ではあったが、それでも思考を切り替えた二人にマークは前回の戦いの後も告げた欠点を確認する。

 

「フェイトはオーバードライブの使用禁止ね。あれは本気で危ないから」

「……はい」

「後はブレイドフォームの習熟。新しい切り札は……その前に、そろそろ『覚醒』させておこうか」

「『覚醒』って、確かなのはが?」

 

 魔王との戦闘の際、なのはが『ファイアーエムブレム』によってその力を解放したことを思い出す。

 もしそれと同じことが可能なら……そう思うが、ここに『ファイアーエムブレム』は無い。

 

「別に『覚醒』するためのアイテムはあれだけじゃない。……正直、いくらか格は落ちるがな」

「……」

 

 もはや自分のはるか先に行ってしまった友人を思い、どうしても心が軋みそうになるが、それを表面に出さないように気を張る。

 

「『マスタープルフ』……いや、『導きの指輪』の方が……ん? こっちはどうだ?」

 

 最終的にマークが取り出した白いこぶし大の物体には、表面に何やら不思議な刻印が施されていた。

 

「これは?」

「ん~、『天の刻印』って言うんだけど……ダメみたいだな。やっぱり『導きの指輪』か」

 

 結局刻印は使用されることなく再封印され、マークは代わりに小さな宝玉が填められた指輪を出した。

 その指輪をフェイトに向かって掲げ、するとほのかな光が溢れ、まるで祝福するかのようにフェイトを優しく包んだ。

 

「力が……」

「これで終わり。しばらくは対人戦でなんかでやり過ぎないように、注意してくれ」

 

 まるで世界が広がったかのような感覚に、フェイトは戸惑う。

 まるで自分の体が自分のものではない様な浮遊感を感じる一方で、今この身に宿った力が自分のものであることを確信できたからだ。

 そんな状態を確認するフェイトから視線を外し、マークはすずかに向き直る。

 

「わたしも『覚醒』できますか?」

「ん、スズカはもうちょっと後だな。急ぎ過ぎても伸び代が無くなるから。その代わり……?」

「どうしました?」

 

 何かを取り出そうとしたマークがぴたりと動きを止め、改めてすずかを凝視する。

 

「えっと……?」

「……ふむ……これは、まぁ、誤差の範囲というにはちょっと大きいな」

「何かまずいことが?」

「いや、むしろ良い事なんだが……予想よりスペックの上昇率が三割ほど高い」

「はあ……確かに想定より能力が低い、よりはいいと思いますけど」

 

 考えられる原因は、そもそもマークの見立てが間違っていたか、あるいはすずかに飲ませた血か……だが、断定できないものにいつまでも執着しても仕方がないと、マークは気を取り直す。

 

「とりあえず、もう一回確認しておくぞ? たぶんスズカは、自分と俺のことを人外と分類していると思う」

「はい……」

「そして、魔物もその括りに入っている」

「……はい」

「やっぱり……人外の括りが大きすぎる。もっとすずかの言うところの人外について知らないといけないな」

 

 マークの言葉に、すずかはなぜか力が抜けていくのを感じた。

 それもそのはずだ。今まですずかは人とそれ以外という二つの分類しか持たなかったのだ。

 そんなコンプレックスから解放されたすずかは、初めて自分を好きになれるような気がしたのだった。

 

「あとは、『精霊の粉』で魔力を上げて、『マーニ・カティ』に後付け型のデバイスを付ければいいかな」

 

 魔力を身に付ければ魔導師として管理局に所属することもできるだろうし、これでなのは達の助けになるという目標は達成できるはずだ。

 そうひそかに満足するマークの下に、グレアムからの連絡が入った。

 

「どうした?」

『急な話で悪いが、出撃してほしい』

 

 唐突な申し出に眉をひそめるマークであったが、グレアムの方もどうやら切羽詰っているようで、マークの変化に関わらず説明を続ける。

 

『ミッドの郊外に、戦闘機人プラントが存在するらしい』

「地上の管轄だろ? 俺らが手を出したら面子が―――」

『地上のある部隊が、このプラントへ向かったそうだ。それを捕縛し、プラントの確保・あるいは破壊が今回の依頼だ』

「……地上だと、そいつらの協力者の可能性がある、か」

『そういうわけだ』

 

 流石のマークも、今回の依頼には顔をしかめるほかなかった。

 ただの犯罪者の捕縛ではない。はっきり言ってしまえば、裏切り者を捕らえろと言う内容である。

 正直に言えば気が進まない所の話ではないが、今回の一件、マークに断るという選択肢は無かった。

 

「もし万が一この話を断ったり、取り逃がしたりすれば、俺も関与を疑われるだろうな」

『……研究が研究だからな』

 

 そう、マークの研究は、現在ナカジマ夫妻の要請もあり、機人関係が大部分を占めているのだ。

 場合によっては、許可されなかった研究を外注していたのでは、などと因縁をつけられかねない。

 

「仕方無い……せめて研究内容だけでも貰い受けてくるか」

 

 気は進まないが、その分貰えるものは貰っておこうというマークに、グレアムもつい苦笑を漏らす。

 

『……さっそくで悪いが、転送を―――』

「待って、わたしも行く!」

 

 一刻も早くと言うグレアムを止め、同行の許可を求めたのは、フェイトだった。

 だが、いくらマークの相方と言っても、今回ばかりは許容しがたい。なにせ、今回杖を向ける相手は、ただの犯罪者ではないのだから。

 

「フェイト、今回ばかりは―――」

 

 同行を認めるわけにはいかない。そう言おうとしたマークであったが、その言葉は最後まで紡がれなかった。

 

“このままじゃマーク君……死んじゃうかもしれないんだよ?”

 

 いつかエイミィに言われた言葉が、マークの中に響き渡る。

 確かに、ここはフェイトに同行を許すべき場面ではないだろう。だからこそ、一人で行くべきではない場面であるのだ。

 

「……仕方ない……その代わり、指示は絶対守れ」

「うん!」

 

 力いっぱい頷くフェイトに対し、同じくこの場にいたすずかは静かに見送ることを選んだようだった。

 

「ご武運を。無事をお祈りしています。……こんな感じですかね?」

 

 最後に照れ隠しのためか、少し早口で尋ねてしまったが、マークにとってこのように見送られるのはとても新鮮だった。

 

「……意外といいな」

「はい?」

「いや、そうだな……もしよければ、祈っていてくれ」

「はい!」

 

 いつもだったら、こんな改まった見送りは受け入れなかっただろう。だが、今日だけは、受け入れるべきだと感じたのだ。

 

「行ってくる」

「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 転送の光が消えるまで、すずかは笑顔をみせ……二人が完全に消えた後、歯を食いしばって涙がこぼれそうになるのをこらえるのであった。

 

「……結局、一番ついて行きたいときに、一緒に行けないんだね……」

 

 それは、自身の力を知るからこその選択。今無理について行っても、足手まといにしかならないという、無情な現実であった。

 

「だから、せめて……」

 

 生きて帰ってきてほしい。この言い知れぬ不安が、ただの杞憂であったと笑い飛ばしてほしかった。

 すずかはそれから日が暮れるまで数時間、その場で祈り続けていた。

 

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