魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第82話 「VS神竜」

 正直に言ってしまえば、マークが居ればどうとでもなると、フェイトはそう思っていた。

 ジュエルシードの時も、闇の書の時も、なんだかんだ言って最善かそれに近い結果を出してきたのだから。

 だから、今回管理局の仲間を捕縛しないと聞いた時も、さほど意識することは無かった。

 だから、マークによく似たナギと名乗る少女が現れたときも、何とかなるとそう思っていた。

 ……ナギが放ったであろう一撃によって、対峙していたゼスト隊の隊員の上半身が消滅するまでは。

 

「……どういうつもりだ?」

「……言葉通りの意味ですよ」

 

 二撃目に辛うじて反応したマークは、魔力剣でナギの戦斧をはじきながら尋ねる。しかし、その返事もそっけないものであった。

 

(まったく……本気でいったいどういうことなんだ!?)

 

 更に出力を上げて輝く魔力剣と、三人の血ですでに汚れている戦斧が交差する中、そのそっけない返事はマークの混乱に拍車をかける。

 というのも、ナギが神竜のハーフという事実は、マークにとってただ同族であると言うだけの事ではないからだ。

 

(俺の知る限り、神竜の生き残りは……いや、子をなせる可能性があるのは、四人だけ)

 

 その四人のうち、一人は人間嫌いなので除外するとして、残りは三人。

 さらにその三人のうち一人は存在が変質しているので、一応除外しても構わないだろう。

 つまり、可能性があるのは二人に絞られるのだ。

 

(一人はファだ。まぁ、育った環境もあるし、あの子の可能性が一番高いんだが……)

 

 とある世界の理想郷と呼ばれる、人と竜の共存する里で育った彼女の子という可能性は確かに高いが、ナギと名乗った少女の容姿を見る限り、その可能性は低そうに思える。

 

(じゃあ、まさかチキの子か?)

 

 いささか色彩が濃すぎるが、髪の色など多くの共通点があるように思える。

 それに、ナギの外見に比例しない強大な力は、神竜王ナーガの直系であり歴代最強と言われたチキの後継であるとすれば納得できるものもあった。

 その性能はマークに迫り、その手に持つ武器の事もあり状況によっては魔王を倒すに足る力を秘めていたのだから。

 

「戦いの最中に考え事とは余裕ですね?」

「っく!」

 

 必要であったとはいえ、状況把握に気をとられすぎたとマークが気付いた時には遅すぎた。

 皮肉と共に放たれたナギの一撃は魔力剣を一瞬で粉砕し、マークを弾き飛ばす。幸いダメージには至らなかったし、魔力剣も数瞬あれば再構築できる。だが、マークが復帰するまでにかかる数秒は、ゼストたちには長すぎたのだ。

 

「二人目」

「このっ!」

 

 血に染まった戦斧を向けられたクイントは、その瞬間に自分の命がここで潰えるのだと理解した。理解したからこそ、残った一瞬に命を賭けようと決めることができたのだ。

 

(この一撃を躱す事なんか、できない。防ぐこともできなければ、耐えることすらできない)

 

 だが、自分が真っ二つになるまでの時間を、0,1秒から0,2秒にすることぐらいできるかもしれない。

 自分の動きがやたらと遅く感じ、それと同時に迫る刃の動きもやたらと遅くなったようにクイントは見えた。

 

(これも走馬燈って奴の一種かしらね……)

 

 死を認識した脳が、必死にその認識から逃れようとして、限界以上の速度で回り始めたのであろう。

 そうとわかった瞬間、重たくて仕方なかった体が少しだけ軽くなる。しかし、その感覚に従って動けば、肉体が壊れるという事も容易に想像がついた。

 

(頭も体も、リミッターをぶった切って限界ギリギリまで動いてるんでしょうねぇ……)

 

 そうクイントは理解し、だからと言って動かない理由にはならなかった。

 たとえここで動けば廃人になるとわかっても、動かなければ死ぬのは確定しているのだから。

 ぶちぶちと筋肉が切れる感触がするのを無視して、両腕を交差させ魔力で強化しナギの一撃に備える。その強化に使った魔力も、今までクイントが使用したことのある量を上回っていたが、それでもなお、ナギの一撃をしのげるイメージが持てなかった。

 

(だけど、時間稼ぎにはなったかしらね……)

 

 すでに戦斧はクイントの両腕に触れようとしていたが、もはやそのことに恐怖は無い。ただ、自分の死が無駄にならなければいいなという願望のみが残っていた。

 

(なんて、未練が簡単に断ち斬れれば良かったんでしょうけどね)

 

 人は、そう簡単に割り切れるものではない。やり残したことは多く、夫や娘たちを残していかなければならないことも心配だ。何より死ぬのは恐ろしかった。

 全力で防御を施した両腕であったが、やはりそれでは足りなかったというのが見えるのもまた、怖かった。

 左腕はそもそも戦斧に立ち向かう資格すら得られなかったのか、肩が外れ押しのけられるばかり。右腕は何とか自身の体とナギの間に立ちふさがっているが、それももう2/3が断たれてしまっていた。

 ここから更なる抵抗をしようにも、すでに自身の実力を超えた抵抗をしているのだ。そして最後の砦である右腕がついに断ち斬られ、もうその刃で死を迎えるしかないと言う時点になって、眼前にいたナギが真横に弾き飛ばされた。

 

「やらせるか!」

 

 魔力剣の再生成を待たずに繰り出したマークの一撃はナギの予想よりかなり早かったが、その代わり威力は低く、デバイスにも大きな負担となっていた。

 だが、そんな無理な一撃であったからこそ、未だクイントの命があるのだ。

 

「助かっ、た……?」

「まだだ! あの小娘はまだ排除できて……!」

「これで共に一撃ずつ……イーブンですね」

 

 悠長に話などしている暇はないと言わんばかりに、ナギが再びマークへと斬りかかる。それをマークは何とか受け流しつつ、フェイトへと指示を飛ばす。

 

「相手は魔王級だ! 絶対に俺から離れるな!」

「了、解!」

 

 魔王級。それはフェイトの知る限り最高クラスの判定であるが、対峙した経験がある分腰が引けてしまう事は無かった。

 目の前で人が死んだことに対する衝撃が無くなったわけではないが、それでもフェイトはマークの指示に従い動き始める。

 もちろん、動き始めたのはフェイトだけではない。ゼストたちも、この状況を何とか打破しようと行動を開始するのであった。

 

「メガーヌはクイントの治療を! マーク、一時休戦したい!」

「却下だ! お前らの相手をしている余裕はない!」

「では勝手に協力させてもらう!」

 

 言外に逃げろと言ったつもりのマークであり、それはゼストにも伝わっていたのだが、残念なことにその道が選択されることは無かった。

 そもそも、相手はこちらを殺しに来たのだから、逃げたとしても戦場が変わるだけという確信があった。それゆえの共闘宣言だったのだが、これが正しい選択だったとも言い難かった。

 ゼストの戦力はフェイトを上回るとはいえ、全員がそのランクにいるわけではない。いや、たとえゼストやフェイトであっても、ナギの一撃の前では等しく無力であった。

 

「くそっ! ナギの攻撃は何としてでも躱せよ!」

「言われなくても……!」

「……邪魔ですね」

 

 共闘は予想していたし、もしそうなったとしても問題ないとナギは考えていた。

 確かに事前のクアットロとの会話で数は力だと認めていたが、それでもなおマーク以外は脅威に思えなかったのだ。

 そしてそのマークも、無力化する手はずは整っていた。

 

(ああ、くそ……どうすればいいんだ!?)

 

 それに対し、マークはこの戦いが始まってから何度目になるかわからないほど自問自答を繰り返していた。

 というのも、ナギの目的がわからないのが原因である。

 それはゼスト隊をどうすると言う表面的なものではなく、何のためにそうするのかといった、今回の行動の先にあるビジョンが見えてこないのだ。

 

(何のため……いや、誰かのためか? それとも……)

 

 そのようにナギの背景に気をとられ、目の前の戦いに集中できていなかったという事は否定できない。

 だが、つい先ほどゼストの一撃をもらったばかりでもあり、油断していたわけでは断じてなかった。

 それは、ナギたちの本命の一手に対する反応からもうかがう事が出来た。

 

(! 投げナイフ!?)

 

 ゼストたちを庇いつつ援護を受け、魔力剣から上位の武装に変えることなくナギに対しわずかながら優位に立ったマークであったが、不慣れな連携の隙間を縫うようにしてそのナイフは放たれた。

 まっすぐに飛ぶナイフはマークの顔面を、より正確にはその瞳を目指し突き進む。

 ナイフを放ったのは、ジェイルの誇る『ナンバーズ』の№5チンクであり、そのチンクを隠していたのが№4クアットロであったが、さすがのマークもそこまでは知る由もなかった。

 

(残念、伏兵は予想済みだ!)

 

 しかし、伏兵の存在は予想できたものであり、少し驚いたものの回避は十分に可能であった。

 だから、マークは当然のように投擲されたナイフを、首を傾ける動作のみで回避し、故に爆発をもろに受けることになった。

 

「なっ!」

「マーク!?」

「問題ない!」

 

 すべての事象を認識できたものが何人いたか、あるいは、誰もがマークの頭部が謎の爆発に巻き込まれたとしかわからなかったかもしれない。

 マーク自身も何が起こったのか今一つわからなかったが、それでもわかることはある。

 

(右目が潰されたか……あと、右耳も駄目だな)

 

 いくらマークでも、やはり生き物という事だろう。肉体の表面を傷つけることができないのなら内部から崩せばよいという考えは、見事に成り立ったのであった。

 そして、そのダメージは平衡感覚までをも奪い、マークもたまらず片膝をつく。が、これでナギたちの攻撃が終わったわけではない。

 

「終わりです」

 

 その一言と共にマークに振り下ろされた刃は、しかし二人の間に割り込んだ男のせいでマークに届くことは無かった。

 

「やらせは……せん!」

「邪魔です!」

 

 割り込んだ男はゼストであり、それに焦ったのはナギだ。先程のマークの復帰速度を思えば、この一撃を返すころには万全と言わずとも戦いを再開できるだけの準備は出来てしまうと、そう確信できたからである。

 だが、そう思ってももう遅い。ナギの必殺を期した一撃はゼストを両断してその命を奪い、代わりに多大な代償を払うことになってしまった。

 

「『華炎』!」

「ッかは……!」

 

 残った左目を見開くマークの奥義による反撃は、ナギに多大なダメージを刻む。しかし、致命的というには程遠いものであった。

 

(力が乗らない!?)

 

 マークは驚愕するが、それも当然の事であった。なぜなら、今マークの持つ剣は魔力で構成されており、通常の斬撃に魔力を付加する奥義である『華炎』とはきわめて相性が悪かったのだ。

 もしマークの放った一撃が、物理攻撃に魔力を上乗せする『魔力付加』ではなく魔法攻撃に膂力を上乗せする『膂力付加』であったなら、この結果も変わっていただろう。

 

「この程度!」

 

 それはどちらの言葉だったか、だが、双方にそれなり以上のダメージが入ったことに変わりはない。

 腹部に一撃を受けたナギより、視力を失い、平衡感覚の怪しいマークの方が若干不利だろうが、そこは基礎性能差により、ほぼ拮抗する形となる。

 最大戦力である二人が拮抗すれば、勝負を決定付けるのは彼らの周りにいる者たちである。

 

『ふふふ、完全な無力化はできなかったけど、成果は十分かしら? 彼さえ止められれば、後はおもちゃだけで十分でしょう』

「誰だ!」

『答える義理は無いのよ、お嬢ちゃん』

 

 フェイトの誰何を受け流し、クアットロはジェイルの創った『おもちゃ』を解き放つ。

 そのおもちゃは多脚機構を有した戦闘機械を中心に、浮遊するカプセル型や、巨大な球状のものも確認できた。

 そして、所有戦力が逆転したことを悟ったマークは、撤退を決意する。

 

「フェイト! 作戦は放棄し、離脱を最優先とする! クイント達も……」

『させるわけないでしょう!?』

 

 だが声の主は、撤退など許しはしないとばかりにおもちゃたちに指示を出す。それにより始まった無数の戦闘機械の攻撃に、主戦力を失ったゼスト隊はまともな抵抗ができなかった。

 そう、ゼスト隊は。

 

「……オーバードライブ!」

 

 本来のフェイトの実力では、この場を突破するだけでも難しいだろう。

 だから、フェイトがマークに禁じられた過剰強化を使ったのも、仕方がないことだ。

 彼女には、手があるのに黙って目の前の人たちが死んで逝くのを見ていることなど、できなかったのだ。

 

「私が切り開きます! 皆さんは、後に続いてください!」

 

 その言葉は、マークにだって否定できなかった。だが、否定せずとも肯定できるはずもなく、一刻も早くこの窮地を脱出すると心に決める。

 そのためにも、マークは余計な事を考えることを止め、ナギへと全力を向ける。

 

「……あの時は否定したが、まさか役に立つ日が来るとはな」

「何を……?」

「リミッター、解除!」

 

 その言葉とともに、マークは魔力剣クラウ・ソラスの魔力強度を完全開放する。それと同時に魔力が貪り食われるかのように奪われ、クラウ・ソラスの光が増していく。

 

「こんな……自爆するつもりですか!?」

「誰が……!」

 

 驚愕するナギをしり目に、マークはさらにクラウ・ソラスに莫大な量の魔力を渡し続け、ついに臨界へと至る。

 目が潰れると思えるほどの光は、マークの技量により光の斬撃へと形を変え、戦闘機械の約四割を焼き払った。その代償はマークのほぼ全魔力であり、デバイスとしての機能全て。

 そんな一撃を間近で受けたナギであったが、それでもなお、彼女は健在であった。

 

「……でも、逃げられましたか」

 

 そんなナギの言葉に答える者は、その場にいなかった。

 マークはデバイス一つ犠牲にして、まんまと逃げだして見せたという事だろう。

 

「今回は、引き分けですね。ですが、あまり参考にはなりませんか……」

 

 そう、マークは神器の類を一切使わずに戦い、ナギもまた、切り札たる竜石を使わずに戦っていたのだ。

 そんなお互いがセーブしていたからこそ引き分けたのだが、正直なぎはその結果に満足がいかなかった。

 

「……どうせ破棄する施設です。ちょっとばかり壊しても問題ないでしょう」

 

 その言葉とともに、ナギは竜石を解放する。そして、自身の力をマークに見せつけるため、その戦斧を振るうのであった。

 

「いい加減、しつこい!」

『貴方こそ、いいかげん墜ちなさい!』

 

 マークが離脱する直前、一足早くに離脱を開始したフェイト達であったが、その逃避行は上手くいっているとは言い難いものであった。

 戦闘機械の攻撃はわずかではあるがフェイトの足を鈍らせ、ゼスト隊の生き残りの命を削っていった。

 

『よくまあもたせているけど、それももう限界かしらね』

「くっ!」

 

 クアットロの言葉通り、フェイトはもう限界であった。ただでさえ消耗の激しい過剰強化を行い、クイント達ゼスト隊の生き残りを保護して逃げていたのだから、この結果も当然だろう。

 

「(あなた一人で逃げなさい)」

「(そんなこと……!)」

「(わたし達を連れては無理でも、あなただけなら……)」

「(できません!)」

 

 クイントの提案に反対するフェイトは、されど有効な案が浮かぶわけでなく、じわじわとなぶられ続けていた。

 だが、そんな苦しい時間も終わりを告げる。

 

「遅くなった!」

「全然!」

 

 そう、ナギを振り切ったマークの到着である。

 『リワープ』の杖を使い合流したマークは、即座に『ワープ』の杖に持ち替え、フェイト達を転送しようとするが、それを黙って見ているクアットロではなかった。

 

『そんなこと、させるわけないでしょう!』

「マーク!」

 

 迫る戦闘機械に焦るクイントだが、正直、やるべきことを定めたマークにとって足止めにはならなかった。

 

「問題ない」

「問題ないって……!」

 

 そう、マークは一切のダメージを無視して、転送しようとしているのだ。

 

『狂ってる……!』

「狂ってなんかないさ。ただ単に、この程度のダメージなら無視できるってだけだ」

 

 だが、ここでマークにとって誤算となる一撃が放たれる。それが、先の戦場においてきたナギの一撃であると気づいたのは、施設の下層から莫大な力が放たれた後であった。

 

「……ッ!」

 

 マーク達が立つフロア丸ごと、いや、この施設を崩壊させるのに十分な一撃と、マークの転移はどちらのほうが早かったのか……少なくとも、ナギやクアットロ、ジェイルたちには分からなかった。

 

 

 

「連絡はまだ入らんのか……!」

 

 そうひとり呟くのは、地上本部の一室に待機しているレジアスであった。

 彼が待っているのは、数時間前に裏切り者を捕縛しに行ったというマークである。

 だが、本当にレジアスが待っているのはマークではない。いつの間にか裏切り者とされた彼の友人であるゼスト・グランガイツである。

 そして、待ち人であるマークが来た時、彼は絶望の底へと落されるのであった。

 

「……全滅、だと……あの、ゼストたちが……」

「ああ、死体が回収できたのはクイントと他二名だけだが……死体は見ない方がいいだろう」

 

 そう、レジアスの前に現れたマークは右目を失っており、それ以外にも無数の傷が全身に刻まれていたのだ。

 相方であるフェイトも非常に衰弱しており帰還後すぐに病院へと搬送され、何とか生き残っていたクイントを含む三人は、脱出直前に放たれた攻撃により息を引き取ったとのことであった。

 

「一体、なぜ……」

「さあな、本人たちは死んだし、奴らが攻撃してきたのも口封じのためか、懐を探られたことに対する見せしめか判断がつかない」

「……」

 

 半ば放心するレジアスに今回の戦いの全容を語るマークであったが、その目にはどこか探るような鋭さが見え隠れしていた。

 

「個人的な意見ではあるが、彼らが内通していたとは考えにくいと思っている」

「では、やはり見せしめという事か……」

「その可能性が高いだろう……だがそう考えると、俺に連絡が来たというのがやはり不審だ」

「……管理局内、それもかなり上の立場のものが、奴らと関わっているとでも?」

「あくまで可能性の話だ」

 

 マークの言葉を聞き、思わず叫びそうになったレジアスであったが、それは何とかこらえる。それが結果として良かったのかどうかは別であるが……

 だが、マークがそこまで予想しているのなら、確認しなければならなかった。

 

「……もし、その可能性が真実であるなら、……君はどうする?」

「まあ、どちらであろうと関わった以上ある程度調べはするがね」

「そうか、調査をするのか……」

 

 レジアスとしては、できれば止めたかった。それはゼストと同じ結末を恐れるからであり、減にマークは右目を失う怪我を負ってしまったのだから。

 しかし、何らかの不正行為が行われている可能性を示された以上、管理局に勤める者として、止めるわけにもいかなかった。

 もちろん、マークとて止められても止まれない理由があった。

 

(まあ、建前はともかく、ナギの事があるからな……)

 

 それは自身と同族であるナギの存在ゆえである。

 ナギがマークの予想通りチキの子であるならば、むしろ管理局を抜けてでもナギの味方をすることになるだろう。

 だが、その可能性が低いことをマークは自覚していた。

 

(……クローン、か)

 

 そう、可能性で言うのなら、ナギはマークのクローンである可能性もあるのだ。いや、最後にナギが放った一撃の気配から、自身ときわめて似た力の質を持っていることがわかっている。

 とはいえ、マークは男性でありナギは少女である。その一点がある限り、まだナギはチキの子である可能性の方が高くなってしまうのだ。

 

(これについては、かなり優先順位を高くしておかないとな……)

 

 そう決意するマークだが、それ以上に優先すべき事案がある。

 

(フェイトの治療はもちろん、匿った三人についてのことも考えなきゃいけないな)

 

 マークが死亡したと報告した三人だが、実はまだ生きていたのだ。生きてはいたが重症であることに変わりは無く、マークは『医療事故』を恐れ、匿う事にしたのであった。

 

(まったく、魔物の事だけでも手一杯だったというのに……)

 

 内心でぼやくマークであったが、レジアスの手前表情には出さない。

 その後今回の報告は書類にまとめて再提出することを約束し、マークも応急処置ではない治療を行うため病院へと向かうのであった。

 

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