魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第83話 「それぞれの立つべき場所」

 報告後すぐに病院へ向かい治療を受けたマークであったが、困ったことに人間に対する治療を竜に施していいか判断できず、結局治癒系の魔法少しと包帯による保護しか行われることは無かった。

 マークもそのことに不満を覚えることは無い。そもそも自前の『傷薬』によって治療はほぼ終わった状態であったのだから当然だろう。

 

「この薬の即効性……少々研究したいところですね」

「まだいくつかありますし、構いませんよ」

 

 大量生産できるならそれに越したことはないと、マークは使いかけの『傷薬』を医師に渡す。

 その途中、おそらく『傷薬』も扱っているだろうアンナのことを思いだすが、前言を撤回できず、心の中で手を合わせた。

 そんなこんなでマーク自身の治療は十数分で終わり、ようやくフェイトの所へと向かえるようになったマークの下に、今回の一件を聞いたのだろう少女たちが飛び込んできた。

 

「マークさん!」

「大ケガを負ったって……!」

「その目……!」

「フェイトは!?」

「病院だぞ、静かにしなさい」

 

 すずか、なのは、はやて、アリシアがまくしたてるのを宥めつつ、マークは今回ここに来た面子を確認する。

 

「すみません……グレアムさんから連絡があって、リンディさんに頼んで皆で来ました」

「さすがにクロノとエイミィは……」

「来てます」

「他には?」

「アリサちゃんが来られなかったけど、シグナムさん達は来てますよ」

「ユーノ君もすぐ来るって」

 

 どいつもこいつも暇な事だと言いつつも、マークは心配してくれたであろう皆に内心感謝する。

 だが、何があったのかを説明するのは全員がそろってからと言って、すぐに語ろうとはしなかった。

 そのマークの言葉に何とか落ち着きを取り戻した三人は、大人しくリンディ達が追いつくのを待つ。そして数分も待たないうちに、リンディ達がマーク達の下へとやって来た。

 

「マーク君、大丈夫!?」

「おい、その目は……!」

「あなた達、ここは病院よ!」

 

 つい先程の会話を思い出させるリンディ達のやり取りに、マークはつい苦笑を漏らす。

 

「順番に話すから、少し落ち着け」

 

 そういってマークは話をするべき場所へと向かうため、踵を返す。その行動に、この場では話せない事柄もあると察した一同は、黙ってマークの後に続くのであった。

 それから数分歩いた先にあったのは、フェイトの居る病室であり、マークは軽くノックをしてその中に入る。

 

「ようやく来ましたか……」

「フェイトちゃん!?」

 

 相方であるマークに、フェイトの容体を伝えるべく待機していた医師が声をかけるが、それよりも子供たちのほうが早かった。

 ベッドに駆け寄り、ただ眠っているだけのように見えるフェイトを覗き込み、目立った外傷はなさそうだと見てほんの少し安堵する。

 

「……まあいいです。それで、フェイト・T・ハラオウンさんの容体ですが……」

「必要ない。これでもこの子の主治医だからな」

「そうでしたね。ですが一応……外傷の類はいずれも軽傷で、そちらの治癒は終了しています。また検査の結果も特に異常は見られませんが……なぜか意識が戻らない、という状況です」

「意識が……!」

「原因は把握している。こっちの専門分野であるし、その点は問題ない」

「……では、失礼します」

 

 医師の言葉に青くなった一同であったが、続くマークの言葉にその緊張がほぐされる。医師が出て行った後、全員の視線がマークに集中するが、マークは肩をすくめて一言で簡潔に述べるにとどめた。

 

「エーギルが枯渇しているだけだ」

「その説明で理解できる人はいないと思うわ……」

 

 今までもそれなりにエーギルについて説明されてきたリンディ達だが、詳細について理解できているわけではない。

 ただ、マークが非常に強力で有用、危険なエネルギーであると言っていることから、何となくわかったような気になっているだけである。

 

「別に理解する必要はない。まぁ、ちょっと危なかったけど、大きな問題は無い」

「小さな問題はあるのね?」

「……モルフ化が進むから、想定以上の実力を出せなくなることぐらいかな」

 

 要は、火事場の馬鹿力のような物が無くなるという事だが、なのはならともかく、フェイトにそちら方面の力を期待するものは少ない。

 一応、フェイトの保護者であるリンディに処置の許可をもらい、マークは一つ小さな輝く石を取り出す。

 

「竜石……直接見るのは初めてかしら?」

「そうかもな……ちなみにこれは『飛竜石』だ」

「竜石にも種類があるの?」

「当然」

 

 そう言ってマークは自身の持つそれぞれの竜石について軽く述べる。

 

『火竜石』……竜の中でももっとも一般的である火竜の力を秘めた石で、他の竜と比べ力が強い。

『氷竜石』……竜の中でも神事などに精通することが多い氷竜の力を秘めた石であり、他の竜と比べ防御が固い。

『飛竜石』……竜の中でも数少ない空を飛ぶことができる竜の力を秘めた石であり、他の竜と比べ機動力が高い。

『魔竜石』……竜の中でも最も魔法に精通した魔竜の力を秘めた石であり、他の竜と比べ魔力が多い。

『神竜石』……竜の頂点に立つ神竜の力を秘めた石であり、他の竜の長所をすべて備えたような規格外である。

 

「てっきり、火竜は火竜に、神竜は神竜にしかなれないものだと思っていたのだけど?」

「器に収まりきるのなら、どんな竜にも成れるのがマムクートだ。さすがに火竜が神竜にはなれないけど、俺なら問題ない」

 

 とはいえ、現在竜化は強敵相手にしかしておらず、強敵と戦うのに手を抜くことができるはずもないため最近は神竜石しか使っていない。

 そんなことを話しながらも、マークはフェイトにそれなりの量のエーギルを流し込み、内面的な損傷を修復する。

 

「よし、これで終わりだ」

 

 後は自然に目を覚ますのを待つだけとなり、マークはようやく今回あった出来事を駆けつけた皆に語りだす。

 グレアムから特殊な任務を回され、そこに駆け付けた事。

 そこで起こったゼスト隊との戦い、直後に現れたナギと名乗る竜の血を引く少女の事。

 その後現れた戦闘機械と撤退、追撃によるゼスト隊の全滅……まとめれば数行に過ぎない出来事であったが、その結果マークは右目を失っているのだから、間違いなく一大事である。

 

「まさか、マークさんの目を奪えるような敵が現れるなんて……」

「ナギとその一派か……」

 

 リオンが今回の敵の強大さに震え、シグナムは自分たちが遭遇した時、どのように対処すべきかを考える。

 

「そのナギさんは、マークさんも知らない方なんですか?」

「ああ、可能性としては、俺のクローンかとも思ったんだが……」

「性別が違うなら、その可能性は低いよね?」

 

 すずかの疑問にマークが願望を交えて答えるが、アリシアによって完膚なきまでに否定されてしまう。

 

「……わかってる。一番高いのは、チキの娘である可能性だ」

「チキさん?」

「神竜王ナーガの直系で、歴代最強とも言われる神竜の女性だ」

「え?」

 

 そんなマークの説明に、もう何を言われても驚かないように身構えていた一同が呆気にとられる。

 だが、それも仕方のないことだろう。マークというずば抜けた強者が最強と呼ぶ竜の女性。その娘が敵対者だと言われれば、耳を疑いたくもなる。

 

「……せめてもの救いは、チキ本人を敵に回したわけじゃないってことぐらいかな?」

「それは本当に救いになるのかしら?」

 

 シャマルの言葉にマークは肩をすくませ、今後の展望を語る。

 

「どちらにしろ、戦闘は無謀だから対話による接触を目指すほか道は無い」

「やっぱり……じゃあ、どうしても戦闘を避けられないとしたときは、どんな手が有効だ?」

「チキには俺の名前を出して、どこかで話し合いの場を用意してくれればいい」

「ナギが相手の場合は?」

「難しいな……」

 

 マークとも面識があるチキはともかく、ナギに対する対策などないに等しい。しいて言うのなら竜石を使わせない事だが、それ以前の問題である。

 

「……ナノハの場合は『ファイアーエムブレム』が力を発揮すれば、何とかなるかも?」

「意識して使えている気はしないんですけど……」

「俺も使えるわけじゃないし、アドバイスもできないしなぁ……あとは、はやては蒐集した『フォルブレイズ』とかの竜に対して効果のある武装だが……」

「えっと、まだ十全には使えませんけど、発動までなら……」

「心もとないが、無いよりはマシか」

 

 つまり、現在ナギと相対できるのは、マークを除けばなのはとはやて位のものという事だろう。それでもかなり不利な事に変わりは無く、勝利をつかむなんてもってのほかだ。

 他に、即座に対策を練るのであれば……

 

「……スズカにこれを渡しておく」

「え、ひょっとして『ソール・カティ』ですか?」

「ああ、これにも対竜特攻が付加されているから」

 

 まだマークの付き添い無くして前線に出ることが無いすずかに渡しても、正直意味がないとも思えるが、この一件が長期化するのなら確かに必要だろう。

 

「……近いうちに、必ず使いこなして見せます」

「期待して待ってるよ」

 

 決意を新たにするすずかに対し、マークは軽く本心を告げてからリオンに向き直る。

 

「お前が個人で扱える魔法は?」

「……闇魔法なら、一応全部」

「お、『魔書ギムレー』や『ロプトウス』、『マフー』も?」

「ごめんなさい、それは流石に……でも『ルナ』や『グラウアー』なら」

 

 マークの上げたでたらめなものはともかく、リオンが格上相手に戦える魔法を使用できる事を確認し、これではやて達は問題ないだろうと安心する。

 

「囮に亡霊戦士も使えるし、そろそろユニゾンデバイスも完成するから、こっちの心配はいらないですよ」

「ユニゾン……ああ、管制の後継か?」

「……そうですね、夜天の書はユニゾンを前提に創られているので、やっぱりこのままというわけにはいかなかったんよ」

 

 おそらく、リインフォースの代わりを用意するという事に抵抗があるのだろう。だが魔王のような強大な存在もあるため、自身の強化を足踏みするわけにもいかないと言ったところか。

 マークとしても、はやて達の戦力が充実することに否やは無いので、特に口を出すようなまねはしなかった。

 

「さりげなくはやて達の戦力が反則じみてきたな」

「確かに……マーク君がいるからあまり目立たないけどね」

「あら、本局の方では結構話題になってるわよ?」

 

 マークの桁外れの実力により、少し基準がずれてきたと自覚したクロノとエイミィであったが、リンディはさすがに惑わされたりしていなかったらしい。

 そのことに自身との実力の違いというものを再確認し、2人はさらなる成長を誓う。

 だが、惑わされたままの方が良いこともある。

 

(無限書庫でいくつか変わった魔法を習得して強くなったつもりでいたけど……マークさんとまともに戦えるような敵が現れたなら、こんなんじゃ全然足りないよね)

 

 完全にミッドの常識から逸脱してしまったなのは達を追うユーノは、自身もすでに常識を捨てた術式をいくつか修得していた。

 そのことに気付かず更なる飛躍を求めるユーノは、一同の中で最も静かに、そして分かりにくい成長を遂げているようであった。

 

「……まぁ、考えられるのはこんなもんかな?」

「マーク、竜には逆鱗というものがあると聞いたことがあるんだが……」

「そんな一発逆転が可能になる弱点なんて、ただの幻想だ」

 

 シグナムの願望は、マークに当然のように一蹴されてしまう。もちろん、竜にだって人体急所のように、どんなに頑張っても鍛えられない場所があるのは事実だが、それを教えてもあまり意味がない。

 

「たぶんだけど、ナギは竜化しないと思うし……」

「え、でも竜石は持ってるんでしょ?」

 

 先程の対策では竜石を使わせるなといった以上、当然竜化してくると思っていた一同が首をかしげるが、マークはそういえば言ってなかったかと、自身も含めた混血の切り札を公開する。

 

「混血は竜化できる個体の方が少ないというのもあるが……裏技みたいな方法で、人と交わった竜は、竜石を人の姿のまま使うというものがあるんだ」

「……つまり?」

「人の形をした竜ができる」

「……と、いいますと?」

「武器を振るう人型の竜という悪夢が具現化する」

 

 人という生物の強みである武器を、単体において人よりはるかに強力な生物である竜が使うなど、マークの言うように悪夢としか思えない。

 

「……竜化された方がまだましだなんて思う日が来るとは、さすがに思いもしなかったわ」

「まあ、あくまで勘だし、最悪を想定していた方が後々のダメージが少ないだろう?」

 

 打ちのめされ頭を抱えるリンディにマークはわずかばかりのフォローをするが、それで頭を上げられるほど簡単なものではなかった。

 

「そんなに気を落とすなって、あっちにナギというカードがあるのなら、こっちには俺というカードがあるんだから」

「オフェンス側とディフェンス側って言う、この上ない障害があるのよ?」

「……どうにかしてみる」

 

 非常に頼りない返事をするマークであったが、それでもできない事を安請け合いするような人物ではないので、リンディはその言葉を信じる。

 

「じゃあ、早速やっておかないといけない事があるんで、フェイトの事は頼んだ」

「娘の事よ? 頼まれるまでもないわ」

「そうだったな」

 

 リンディの了解を得て、マークは病室を後にする。

 もちろん、フェイトが起きたらしばらく安静にしておくように伝えることを忘れない。エーギルが完全になじむまで、無理は禁物だ。

 マークが居なくなった病室から、また一人二人と人が去っていく。フェイトは心配だが、それぞれにやるべきことがあるのだ。そうして病室に一人になったリンディは、心の中でマークに問いかける。

 

(もし、チキさんとナギさんが強い決意をもって管理局と敵対した時、アナタは一体どうするの……?)

 

 今まで通りフェイトの相方として管理局側に立つのか、それとも……

 結局言葉にすらできなかったその問いに、答える者はいなかった。

 

 

 

 そうしてマークが目指すのはミッドの郊外、廃棄都市区画である。

 マークが訪れたのは、そこに匿った人物と会うためである。

 

「調子はどうだ?」

「よく、わからないわ……自分の体なのに、自分の体じゃないような、とても不思議な感じ」

「まあ、その通りなんだから、その感覚も当然か」

 

 マークの正面に座った人物はその言葉を受け微妙な表情をするが、これしか生き残る方法が無かったのだから、文句は無い。

 いや、生き残ったというのにも語弊がある。彼女たちは一度確かに死んでしまったのだから。

 

「……モルフの技術って、本当に反則ね」

「そうでもないぞ? 七人全員分の肉体を作るにはエーギルが足りなくて、全員纏めて一つの肉体に押し込むことになったしな」

 

 そう、施設内での死者を含め、全員のエーギルを回収したマークは、そのエーギルを使い、新たな存在を創造したのだ。

 

「元々の七人の容姿を使ったら後で面倒だし、こっちで適当に決めさせてもらった」

「その適当って言うのがねぇ……この容姿、一流のトップモデル並みじゃない?」

 

 そう言ってその人物はひびの入った鏡で自身の容姿を確認する。

 その肌はとてもきめ細やかな白い肌、血のように鮮やかな唇に、黒く長い髪はつややかでわずかなウェーブがかかっている。

 そして、何よりも印象的な、闇夜に在ってなお金に光る二つの瞳である。

 

「……『リムステラ』だ」

「それが私達の新しい名前ってことね。まあ、元々女性だった私には違和感が無いけど、隊長たちはちょっと抵抗があるかもね」

「肉体的な強度はかなり高いから、どの戦い方をしても問題無い筈だ。だが、普段はクイントが表層にいると思っていいのか?」

「ええ、問題ないわ」

 

 そう、この場にいる人物『リムステラ』は、ゼスト隊のメンバーのエーギルを纏め、創りあげたモルフなのだ。

 そして、マークがわざわざ彼女らを人形としてまで生かしたのは、彼女たちの持つ情報の為である。

 

「……やはり、管理局の上層部では後ろ暗いこともやってるんだな」

「やはり、なのね……」

「組織ってそう言う物だろ?」

 

 とはいえ、表側の局員にばれるようでは二流と言わざるを得ない。やるのならばれないように、あるいは、ばれても触れられないようにするべきなのだ。

 

「そんなわけで、俺も裏側に組織を作っておこうと思う」

「何がそんなわけでかわからないけど……私達はその組織の一期生ってわけかしらね」

 

 マークの突拍子の無い提案に、クイント達に断る権利は無い。

 なぜなら彼女たちはすでに人ではなく人形、それもマークによって創られた人形なのだから。

 だが、そんな強制は必要なかったかもしれない。

 

「やることはいたって簡単、管理局の不正を暴いてこちらのカードにすること、それだけだ」

「……私達が生前やろうとしていたことじゃない」

 

 せいぜいマークへの報告の義務が生まれた位で、やることは変わらない。

 もちろん、生前の知人友人家族と会うことは叶わないが、もう死んでしまったことを思えば、遠くからでも見ることができるだけ感謝してもいいくらいだろう。

 そんな想いの中、リムステラの一つの人格が否と告げる。

 

「まだ幼い娘がいるんだけど……」

「その娘の事も闇に引き込みたいのなら、連れてきて構わないぞ?」

「……局の福祉厚生に期待するわ」

 

 メガーヌの言葉を一刀両断するマークであったが、とはいえ彼も鬼ではない。

 

「気に掛けるぐらいはしておこう……あとは、連絡方法にデバイスの代わり、衣食住……」

 

 一言だけであったが、言質を取れて安心したメガーヌが再び引っ込む。少なくとも、リムステラに対しこれだけの便宜を図るように人物が何もしないなんてことは無いだろう。

 

「衣食住はこっちで何とかするわよ……連絡も、ちょっと不審者に付け入るすきを作ってくれれば、どうとでもなるわ」

「そうか? じゃあ、デバイス代わりの魔導書だけでも持って行け」

 

 そう言ってマークは『フィンブル』の魔導書をリムステラに渡す。風と氷の属性を持つ、かなり高位の魔導書だ。

 

「ありがと……単独で動く? それとも、そこら辺のならず者を制圧して従える?」

「やり方は任せる。効率とか、有効性とか、その場に応じていろいろあるだろうしな」

 

 こうして出来上がったマークの密偵だが、後日リムステラが勧誘した有能なあぶれ者により『黒い牙』が組織されることになるのだが、今の彼らに、それを知る由は無かった。

 

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