魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第84話 『うごめく闇』

 ゼスト隊が全滅した事件から数日後、意識が戻ったフェイトはリハビリに励んでいた。

 いや、リハビリと言っては語弊があるか……マークのエーギルによって強化された身体能力の把握のため、リンディと共に訓練場を訪れていたのだった。

 

「調子はどう?」

「……うん、少し体が軽く感じるぐらい」

 

 リンディの確認に、フェイトは思いつく限り最高の答えを返す。そう、フェイトの身体能力は、むしろ向上していたのだった。

 

「本当に反則よね……むしろ倒れる前より能力が向上しているなんて」

「でもその代償として、少しずつ人間から外れていってるらしいよ?」

「……」

 

 力を得た代償……フェイトにはあまり実感がわかないが、周囲の人物にはその変化がいくらか目に見え始めていた。

 別に体のどこかから羽が生えたとか、角が生えたとかいう変化ではない。ただ、瞳の色が変わっただけだ。

 肉体の半分以上がモルフのものになった為ではないかという事であったが、フェイトの赤い瞳は、金色へとその輝きを変化させていたのだ。

 

「まあ、まだ決定的に人から外れたわけじゃないらしいし、それを言うのならマークはもちろん、シグナム達だって人じゃないしね」

「それは、そうだけど……」

 

 ずいぶんと気楽に言うフェイトであるが、事はそこまで簡単な事ではないのだ。

 もちろんフェイトも、本気でなんでもない事と思っているわけではない。だからと言って深刻になったりするべきではないと思ってあえて気楽に言っているだけである。

 

「……現状、モルフ化は六割に届くってマーク君は言ってたけど、以前と同じように調整していれば変わらず成長していられるそうよ」

「そっか、このまま一定ラインを超えたら、成長もできなくなるかもしれないんだ……いつまでも体が子供のままって言うのは、さすがに嫌だね」

 

 リンディが半ば事務的にマークからの伝言を伝えるが、やはりフェイトの注目する点はずれているように思える。

 本人から伝えていたら少しは結果が変わったのかとも思うが、残念なことにこの場にマークはいない。

 というのも、マークは先の戦いがあった施設の再調査に駆り出されているからだ。

 

(まあ、もしあの場にナギさんが残っていたら、マーク君以外に対抗できる人はいないし、仕方ないんでしょうけど……)

 

 可能な限り早い再調査の必要性は十分理解しているリンディだが、それでも、なぜこのタイミングでと思ってしまうのも、親として仕方がないことだろう。

 そして駆り出されたマークは、名ばかりの護衛任務において、完全に暇を持て余していた。

 

「……暇だ」

「ええ、まあ、まだ完全な安全が保障されていませんし……ですがこの一件に触れる人物を一人でも減らすためです。今しばらくご協力ください」

 

 最初こそ、ナギが最後に放った一撃によって大破した施設に戦々恐々していた調査員であったが、その恐怖もどこへやら、マークの緊張感の無さも手伝い、危機感を感じさせない顔になっていた。

 前回ナギと戦った地点を越え、さらに奥に進むマーク達調査隊であったが、次第に団体行動をしなくなり、ほぼ個人で調査を始めていたのだ。

 というのも、マークの独り言に返事をした調査員の言葉がすべてだとしか言いようがない。もともと極秘で進められていたゼスト隊の任務の事もあり、彼らの名誉のためにも、今回の一件はごく一部のものにしか公開されないことになったらしい。

 

「……適当な真実を作って、それを公表してしまえばいいのに」

「……正式な局員が、不正を行えなんて言わないでくださいよ……そういうばれたらやばい事は、できる限りやらないに越したことはないんですよ?」

「嘘も方便という言葉もあるだろう? 市民の安心のためにも、必要な事だと思うが……」

 

 しかしマークの提案は受け入れられることなく、闇に溶けていくことになった。

 もっとも、マークの提案の根底には、自身の拘束時間を減らしたいという思いしかなかったので、さほど問題にはならないだろう。

 

「それで、何か分かったのか?」

「そんなに簡単に分かれば苦労しません。この充実した設備からわかったのは、敵が並の犯罪者じゃないことぐらいでしょうか……」

「何を今さら」

「ですよね……」

 

 相手が並でないことは、ナギという手札を持つことからもわかっていたことだ。

 

「残された機材はデータが完全に消去されていますし、戦闘機械の残骸は本部に持ち帰ってからが本番です」

「残された機材から、どんな研究がおこなわれていたかわからないのか?」

「今の所、汎用性の高い機材ばかりですからね……数少ない特殊な機材もダミーの可能性がありますし、これだけでは何とも……」

「その特殊な機材の使い道は?」

 

 調査員の言葉に、マークは念のためという思いで問いかける。

 

「マークさんの専門のものなら……生体ポッドですね、見に行ってみますか?」

「是非」

 

 ポッドならばマークの専門でもあるため、わかることもあるかもしれない。お互いその程度の思いであったのだが、現場についてみればそのような中途半端な思いも消し飛ぶ。

 そこに在ったのはただのポッドではなく、何者かに破壊されたポッドだったからだ。

 

「ふむ、何者かに破壊された?」

「はい、マークさん達の戦闘痕とはまた別に、この場所で破壊行為が行われたようですね」

「……第三者がいたのか?」

「無いわけではないですが、その可能性は低そうですね」

 

 もし第三者がいたとすればナギの迎撃を躱すか、管理局の監視をすりぬける必要がある。

 確かにそんな存在がいるとは考えにくいが、現実として何者かの牙の痕が存在しているのだから、考えないわけにはいかない。

 

「……人造生命体の暴走とか?」

「なるほど、破壊痕はこのポッドの中にいた存在が残したものという可能性ですか……この施設の主に遺棄された以上、そこまでの脅威度ではないのでしょうね」

「それなら何の問題もないんだがな……」

 

 改めてポッドを見るマークであったが、どうにも嫌な予感が止まらない。

 とはいえ調査員の言葉の通り、施設の主に放棄されるような存在が、マークにとって脅威になるとも思えないのも事実である。

 

「……それでも、最低限の警戒はしておこう」

「と、言いますと?」

「どうでもいい存在ならば、近いうちに死体を晒す羽目になるだろう。そしてそれが確認できなければ……」

「なるほど、管理局の警戒をすり抜け、生き残った存在となれば、警戒に値するでしょうね」

 

 マークの根拠のない警戒は、表面上だけ受け入れられることとなる。

 もっとも、あくまでなんとなく嫌な感じがすれ程度の事に対し、表面上だけとはいえ対処がなされたのだから、満足すべきなのかもしれないが……

 

「まあいい……それで、これにデータは残っているのかな?」

「少々お待ちを……はい、やはり残っていなかったようですね」

 

 おそらく、先にこの場に来た調査員に聞いたのだろう。データが無かったのは残念だが、それでもこの場でなにをしていたのか調べる手段が無いわけではない。

 

「一体何を?」

「ん、ポッドに入っていた溶液から、一体どんな生物を作ろうとしていたのか、ある程度分かるから」

「そうでしたか」

 

 生体ポッドに使われていたガラスの破片を手に取ったマークは、そこに残った匂いから生物を特定しようと試みる。

 

「……」

「どうです?」

「……わからん」

 

 なぜか中に入っていた生き物の匂いがしない。かろうじて溶液の匂いから人かそれに類する生物であると予想できたが、それ以上の事はさっぱりであった。

 

「……竜も万能ではないんですね」

「それはそうなんだが……あれ?」

 

 何となく納得できないマークであったが、わからなかったのは事実である。首をかしげながらもガラスの破片を調査員に渡し、更なる調査をお願いする。

 そして、それ以降も調査が続き、ついには全てのフロアに危険が無いことが確認された。

 

「これで俺もお役御免かな?」

「はい、ありがとうございました」

 

 護衛の必要性が薄れたため、これ以降は専門家に任せるという事にして施設の外に出たマークであったが、そこにふと視線を感じる。

 

(ん?)

 

 ほんの一瞬、マークがその視線の主の居場所を特定することもできない間であったが、確かに視線を感じた。

 マークはその視線の主に気付かれないように周囲を探り、とんだ杞憂であったと気づくのであった。

 

(リムステラか……)

 

 おそらくはこの調査に参加した人物を把握し、調査するためだろう。そして彼女がクロと判断する人物がいれば、後日リムステラの名前は次元犯罪者として登録されるかもしれない。

 

(まぁ、頑張れよ)

 

 心の中でひそかにエールを送り、マークは今度こそその場を離れる。

 次に訪れる場所は、気が進まないがもう決まっているのだから。

 

 

 

「……大丈夫か、ゲンヤ?」

「マークか……そうだな、あまり大丈夫とはいえねぇな」

 

 調査の後にマークが訪れたのは、ナカジマ家であった。

 ゲンヤの招きに従いリビングまで来たマークは、そこのソファーに早速腰を下ろす。

 今回、ゼスト隊の事を内密に処置すると局が決定した以上、マークには現場であったことをナカジマ家の面々に語ることができない。

 だが、マークはそれでも顔を出さずにはいられなかったのだ。

 

「……娘の前では無理にでも大丈夫だと言え」

「手厳しい奴だ……だがまぁ、そこら辺は大丈夫だ。これでも父親だからな」

「そうだったな……こんなこと、言うまでもなかったか」

 

 そう、そんなこと言われるまでもない。だが、自分がそう思っているだけでは、なかなか実行できないのも確かである。

 ゲンヤはマークの来訪に、心の中で感謝を告げる。だが、言葉として口から出て行くのは感謝ではなかった。

 

「……それで、何をしに来たんだ? まさか俺を慰めに来たわけじゃねぇだろ?」

 

 強がりと言いたければ言えばいい。だが、男というのはそう言う生き物であるのだ。

 自分にそう言い訳をして虚勢を張るゲンヤは、続くマークの言葉に何と返せばいいのかわからなかった。

 

「……どいつもこいつも死に急ぎやがって……嫌になるな」

「……」

「それも、いい奴からどんどん死にやがって……先立たれる年寄りの身にもなれってもんだ」

「……」

「せめて、娘が嫁に行くのを見るのが、親の役目ってもんだろ?」

「……おい、なんで俺じゃなくてお前がぐちぐち言ってんだよ」

 

 やっと返したゲンヤの言葉に、マークは不機嫌そうに言う。

 

「俺だってショックだったんだよ」

「だからってな……」

「せめてもの抵抗は、中身だけでも手を出すしかないだろう?」

「おい……」

「それで中身は抜き取ったが、それだって気休めにしか過ぎない」

「……」

 

 再び黙ってしまったゲンヤの耳に、マークの真剣な声が響く。

 

「七人だぞ? それだけいたのに、できたのは一人だけだ」

「……」

「中身は詰まっているとはいえ、所詮人形にしかならなかった」

「……」

「もう好きにしろって言いたくなるのもわかるだろう?」

「……わかんねぇよ」

 

 マークが何かを伝えたいというのは理解できたゲンヤだが、その内容はさっぱりだ。

 だが、マークとて最初から通じるとは思っていない。

 

「まぁ、特殊な任務中の殉職だから、詳細については言えないってゲンヤも聞いているだろ?」

「そりゃそうだが……」

「でも、その任務の後の事は、特に口止されてないんだよな」

「後だと……!」

 

 クイントは任務中に殉職したのだから、後なんてあるはずがない。だが、そんな考えは、マークがこれから言う事を受け止める、準備でしかなかった。

 

「とはいえ、全部言ったら後が怖いから言わないけどな」

「……ここまで言っといておあずけは無いだろぅ……!」

 

 思わずテーブルに突っ伏すゲンヤに、マークは苦笑を漏らす。できれば話してやりたいが、それがゲンヤの為になるかは話が別なのだから。

 

「まぁ、今回俺が来た本当の理由はこれだ」

「この寸止めのためだと?」

「ああ、全てを聞くまでは、何があっても死ぬわけにはいかなくなっただろ?」

「……」

 

 娘たちだっているから余計な事だろうと思いつつも、マークは口を出しに来てしまったのだ。

 とはいえ、ゲンヤも無理はしない範囲でクイントの死の真相を探るつもりであったので、全くの無意味というわけではなかったのだが、それをマークが知ることは無い。

 

「……ったく、一人だけ全部知ってるなんて、ずりーんじゃねぇか?」

「全部じゃないぞ? だが、クイントが何を探っていたのかは聞いた」

 

 実際、ナギの一件を筆頭にマークにもわかっていないことは多い。

 だからこそリムステラを使う事を思いついたのだが、それでどこまで探れるかはいまだ未知数である。

 

「何年かかるかわからんし、そもそも黒幕を倒してめでたしめでたしになるかもわからん」

「それでも、何をすればいいかは見えているんだろ? 羨ましいじゃねぇか」

「時が来れば、ゲンヤも手伝ってくれよ?」

「もちろんだ!」

 

 ゲンヤは気付かなかったが、時が来るまでは手伝わせないと言外に告げたマークは、満足そうにうなずいた。

 そうしてマークはナカジマ家を後にする。次に訪ねるのはアルピーノ家だ。

 

「……誰もいない?」

 

 勇み足でアルピーノ家を訪れたマークであったが、そこには人っ子一人いなかった。

 

「おかしいな……まだ管理局の方は動いてないって話だったんだが……」

 

 前もって確認した話では、メガーヌの一人娘はまだ住み込みのベビーシッターに世話をされているはずである。

 それにもかかわらず、この場にいないという事は……

 

「……先手を打たれたか?」

 

 誰が打ったのか、何のために打ったのかも不明である。

 そもそも幼児をさらう事で生み出される利点が、マークには思いつかなかった。

 

「仕方がないか……後日、もう一度調べてみよう」

 

 その結果、メガーヌの友人を名乗る銀髪の女性が娘のルーテシアを引き取っていったという話を聞くことになるのだが、その女性の行方をマークが知ることはできなかった。

 

 

 

 マークがそんな事後処理に励む中、とある施設ではある実験が行われていた。

 

「……ふむ、理論上はこれでいい筈なのだが?」

「人造魔導師としての素質は、それなり以上の数値を示しているのに……どういう事でしょうか?」

 

 実験を行うジェイルの前には、生体ポッドがあり、その中には修復されたゼスト隊の四人が並べられていた。

 そう、彼らが行っていた実験はロストロギアを使った『復活』であり、その適性を持ったゼストへの施術であった。

 だが、実験前の理論値とは異なり、施術されたゼストの肉体は未だ沈黙を保っている。

 

「何が足りないんだろうね?」

「私には分かりかねます」

 

 ジェイルの独り言に律儀にも返事したウーノであるが、当然その言葉はジェイルの耳に届かなかった。

 

「ふむ……これは興味深い現象だ……」

「管理局の死者蘇生プロジェクトの資料でも要求してみますか?」

「そうだね、そちらの資料も見てみよう」

 

 ジェイルの思考の一部に触れたからか、今度はあった返事にウーノは早速手配を開始する。

 だが、ジェイルには資料に解決策は無いとなぜか理解していた。

 

「肉体的には、眠っているだけのように見えるが……そうだね、非論理的だが、あえて表現するのなら、これには魂が宿っていない」

「魂……ですか?」

「そうだよ、ナギ」

 

 興味深そうに呟いたナギの言葉に、ジェイルはひるがえって答える。

 

「そもそも、ナギの予備としてマーク君のクローンを創っていた時に気付いたのだが……彼らはナギと違って一切の反応が無かった」

「創りかけならば当然?」

「いや、竜は特別だったのだよ」

 

 ジェイルはナギが目覚め、自身の名を名乗った時に確信を得たのだ。

 

「竜には固有の魂があった。魂の数は有限で、いくら肉体があっても中身が無ければ生物たりえないのだと、私は理解したのだよ」

「……つまり、竜の魂はこの地にナギしかいなかった?」

「そして、彼の魂はなぜか失われているから、いつまでも目覚めない」

 

 本来この肉体に宿っていた魂が無くなったから、ゼスト・グランガイツは目覚めないのだと。

 

「……つまり、魂を入れれば、ドクターの理論が正しかったと証明できますか?」

「ん? ああ、そうだね……」

 

 かなり飛躍した理論ではあるが、ゼストの肉体に魂を入れて『復活』が成れば、ジェイルの言った魂についての予想も、人造魔導師理論も間違っていなかったことになるだろう。

 だからこそ頷いたジェイルであったが、続くナギの行為に目を見張ることになる。

 ナギは、ジェイルの知らない術式を行使し、ゼストの肉体に何かを埋め込んだのだ。

 

「ナギ……一体何を……!?」

「うん、目が覚めたみたいです」

 

 ナギの言葉にゼストの方に向き直れば、確かに彼は薄く目を開いていた。

 

「ククッ……」

 

 その現実に、ジェイルは笑いをかみ殺すことができなかった。

 

「素晴らしい……! これが、竜の力だというのか!」

「?」

 

 首を傾げるナギに、ジェイルは跪き、教えを乞う。

 

「ナギ、君の知る全てを、この私に教えてほしい……!」

「……ドクターが望むのでしたら?」

 

 ナギはよくわかっていない様子であったが、それでもジェイルの手を取ったのであった。

 

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