魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第85話 「新しい力」

 フェイトが退院して一月後、彼女はマークの研究所にて最終調整を受けていた。

 

「……覚醒後から、さらにスペックが上がったな。今の総合力は、200にぎりぎり届かないぐらいだな」

「えっと?」

「管理局の規格に合わせるなら……SSランク位かな?」

「割ととんでもないね……」

 

 マークの解説に、フェイトは苦笑するしかない。管理世界最大の組織である管理局ですら、Sランクに到達出来る魔導師ですらほんの一握りであり、SSランクなど両手の指で足りるのではないかと思われる程度しかいないのだから。

 

「念のため言っておくが、身体性能が上がっただけで、SSランクの人物と互角に戦えるようになったわけじゃないからな?」

「うん、わかってる」

「それならいいんだが……」

 

 真剣に頷くフェイトに、マークはため息を吐く。

 フェイトの態度から、マークが言いたいことを理解できていないと確信できたからだ。

 

(でも、何を言っても無駄なんだろうな……)

 

 格上との戦いになれば、フェイトは確実に自身の体を顧みない全力を出すだろうことは、容易に想像できた。

 とはいえ、最初のころはその行為を許容していたマークだけに、今更格上と戦うなと言っても意味は無いだろう。

 そして、格上相手に戦うのなら、それ相応の準備というものが必要だ。

 

「……今回の治療に当たり、枯渇したエーギルは竜石を使って補給したわけだが、それにより『飛竜石』とある程度親和性ができたはずだ」

「どういう意味?」

「……『飛竜石』をあらかじめ渡しておくから、今度無茶するときは自分のエーギルではなく、こっちのエーギルを使え」

 

 そのマークの言葉に、フェイトは息をのむ。『竜石』は、マークの切り札だ。それを他人に渡すなど……

 マークにもその驚愕が伝わったのだろう。少しばかりばつが悪そうな表情で、フェイトの勘違いを正す。

 

「俺の切り札は、俺自身の『神竜石』だ。『飛竜石』はもちろん、チキの『神竜石』だっておまけのようなもんだ」

「え、でも、強力な武器であることには変わりないんでしょ?」

「確かに強力だが、『神竜石』が手元にあればそこまで重要ではない」

 

 確かにと、フェイトはマークの解説に納得する。普段の切り札は神器があり、それを超えれば『神竜石』による竜化となれば、『飛竜石』に出番はない。

 まして、自前の『神竜石』を最高のものとし、他人の『竜石』がワンランクおちるとなれば、それも当然のことだろう。

 

「練習しておいた方がいいかな?」

「……さすがに、補給の目途が付かないし、止めておいた方がいい」

 

 『竜石』が完全な消耗品である以上、滅多な事では使うなと釘を刺し、マークはフェイトに退出するように勧める。

 

「復帰後初任務はなのはと一緒に行くんだろ? 遅れないようにな」

「うん、じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 フェイトを見送り、彼女が研究所から完全に出たのを確認し、マークは一人ため息をつく。

 

「効果があればいいけど……やっぱり無理かな?」

 

 マークの『竜石』を受け取ったフェイトは、補給の当てがない消耗品をどう扱うか……できれば『竜石』を大事にしまい込み、強敵相手には無茶をしないで貰いたいが……

 そう思うが、やはりそこまで効果は無いように思える。

 マークはもう一度ため息をつき、フェイトの性格矯正の次の案を考えつつ、客人を待つのであった。

 

 

 

 マークがフェイトの自爆癖を何とか強制できないものかと思案していたころ、八神はやてはついにある決断を下した。

 すなわち、新規ユニゾンデバイスを完成させることである。

 

(できればリインフォースの帰還を待ちたかったんやけど……)

 

 そんなはやての心境を理解する守護騎士たちも、今回ばかりは後継機の作製を止めるわけにはいかない事を理解していた。

 強大な敵が現れる可能性が濃厚なのに、自分たちの強化をおざなりにするわけにはいかないのだから。

 そう言ったわけで、はやては人造生命の創造にもそれなり以上に通じているだろうマークの協力を依頼しに来たのであった。

 

「それで、ハヤテがわざわざ俺に会いに来るなんてどんな用なんだ?」

「厚かましいお願いやとは思うけど……リインの強化を頼みたいんや」

 

 そしてリインフォースⅡの起動前にマークの下を訪れたのは、その強化を限界まで行うためである。

 

「管理局に残る技術だけじゃ、この先足りなくなると思うんよ」

「だから俺か……まぁ、強化するのはかまわないが……」

「何か問題でもあるん?」

「……まぁいいか」

 

 その技術を提供しろとか管理局に言われる可能性も十分あるのだが、その点は忘れておくことにした。

 

「何や凄い気になるんやけど……?」

「あれだ、ロストロギアって言えば問題ないだろ」

「?」

 

 どうもロストロギアと聞くと思考が停止する人間が多いようだしと、マークは割と投げやりにリインフォースⅡの強化を了承したのだった。

 だが、その強化の方法ははやての想像以上のものであった。

 

「……その指輪は?」

「氷の精霊ニニスの加護を得た特殊な指輪だ。人造生命体に埋め込めば、なかなか面白いことになると思うぞ?」

「面白いって……」

 

 はやてが少しだけ眉を顰めるが、それでも悪いことは起こらないだろうとその指輪を受け取る。

 『ニニスの守護』、それはある氷竜の娘が持っていた、母の形見であり、守りの力を持ったこの世に二つとない指輪である。

 そんな指輪の力を十全に発揮できるように調整するのは時間がかかるかもしれないが、とりあえず同期だけでもしたら起動させることにする。

 おそらく数日以内にお披露目ができる事になるだろう。

 

「それで、指輪の代わりと言ってはなんだが、頼みたいことがあるんだ」

「マークさんが頼みごとなんて、珍しいこともあるもんやね……わたしらにできる事なら」

「シグナムにスズカの指導をお願いしたいんだ」

 

 この要求に、はやて達は首をかしげる。なぜなら、シグナムによるスズカの指導は今も行われているからだ。

 

「具体的に言えば、スズカに魔力の扱い方を教えてほしい」

「え、すずかちゃんは魔力が無いんじゃ……」

「発生させる」

「させる!?」

 

 マークの持ち物の中に、そういった類のアイテムがあることを告げると、はやては思わずため息を吐く。

 

「まさかドーピングアイテムまであるとは……副作用とかは大丈夫なん?」

「副作用については、今まで確認されてはいない」

 

 もっとも、たとえ副作用があったとしても、はやてにはすずかが魔力を発生させるのを断るとは思えなかった。

 

「わかりました。シグナムには話を通しときます」

「ああ、頼んだ」

 

 双方無事に要求を通したことで、今回の目的は果たされたのだが、予定していたよりも順調に終わってしまったため、すこしばかり雑談とあいなった。

 いや、雑談というよりかは、進路相談と言った方が適切かもしれない。

 

「……まぁ、私は能力的に完全な後衛やし、これからは指揮関係の資格を取ろう思っとるんやけど」

「妥当な考えだと思うぞ? 守護騎士たちを効率的に運用することは重要だし、お前らの中でその役割を担える奴がいないからな」

「クロノ君は?」

「あれは単独行動用の人材だ」

 

 ちなみに役割的にはフェイトが兵士、なのはが前線指揮官、はやてが総指揮官となるのが現状のベストだろう。

 ちなみに、今後すずかが戦場に出た場合、彼女の役割がどうなるのか、マークにはまだ想像できなかった。

 

「こんなこと言うのもあれなんですけど……なのはちゃんもどちらかといえば……」

「拳で語り合うタイプだな」

「……」

 

 割と盲目なフェイトはもちろん、なのはもお話をするのは戦った後というタイプと言えるだろう。

 だが、砲撃魔導師というスタイルである以上、なのはは将来的に前線指揮官になってもらわなければ困るのだ。

 

「ナノハにはリーゼ姉妹から教導隊の誘いが来ているし、そこで何かしら見えてくる物があるだろう」

「フェイトちゃんはこのままでいいん?」

「……あの自爆癖は俺のせいだし、どうにかするさ」

 

 少し口ごもったマークが答えるも、その声にはいつもの自信が見当たらなかった。

 

「自爆癖は言い過ぎじゃ……」

「毎度毎度限界を超えた強化をして自壊させて、俺が処置しなきゃならない状態になるんだぞ。それを自爆癖と言わず何といえと?」

「えっと……」

 

 はやてもフォローしようとするも、そのフェイトはつい最近入院したばかりなので先が続かない。

 実際はそこまで毎度毎度無茶をしているわけではないのだが、今後あるだろう強敵との戦いで途中退場されてもかなわないので、この対応も仕方ないのかもしれない。

 

「まぁ、今後はこっちの技術も使ってフェイトを強化していくことになるだろうし、そう簡単に自爆させんよ」

「……」

 

 なんだか望んだ答えとはかなりずれたような気がするが、それを指摘する勇気がはやてには無かった。

 

 

 

 その後約束の時間となりはやてと別れたマークは、月村家へと訪れていた。

 用件ははやてに言っていたとおり、すずかに『精霊の粉』を使い魔力を発生させるためである。

 それだけのつもりだったのだが……

 

「……何やってるんだ?」

「あ、いらっしゃいマーク。何って、見ての通りよ」

 

 マークの疑問に軽く肩をすくめて答える忍は、割と本気で呆れているようであった。

 それもそのはず、すずかは恭也との訓練を左手に『マーニ・カティ』、右手に『ソール・カティ』を持って行っていたのだから。

 

「双剣……いや、キョウヤのは二刀というんだったか?」

「間違っていないけど、激しく間違えてるわよ。本来二刀は片方が脇差だし、恭也が使うのは小太刀二刀よ」

 

 それに対し、すずかが扱う剣は両方とも小太刀とは比べ物にならない長さと重さである。それを無理に扱う以上、尋常でない負担がすずかにはかかっているはずである。

 

「止めなかったのか?」

「止めたわ。でも、結果は見ての通りよ」

 

 すずかは忍達の制止を振り切り、二刀を振るい続けている。

 このスタイルを実行することが、マークが二振りの剣を渡した理由だと思っているという事もあるが、それ以上に普通の戦い方を覚えてもマーク達の隣には立てないと感じたためである。

 確かに、異常ともいえる戦闘力を有するマークと肩を並べたいのなら、その考え方しかないのだが、さすがに急ぎ過ぎだとマークも思う。

 だが、すずかにそんな常識が当てはまるとは限らないのだ。

 

「……夜の一族だったか?」

「そうよ、だからあの子は壊れずに済んでいるの」

 

 そう、すずかの身体能力は並の人間と比べてはるかに高い。それゆえに二振りの剣を何とか振るえているのだが、それでもわずか11歳の少女には荷が重い。

 荷が重いだろうが、マークにはこれを止めるつもりが無かった。

 

「自身の無力を知って、それでも先へ進もうという考えは、嫌いじゃない」

「いや、好き嫌いじゃなくて、このままじゃすずかが……!」

「そこをフォローするのが、先人の務めだろ?」

 

 本人にはやりたいだけやらせて、足りないところ……具体的には適度な休息などはフォローする。やる気が有り余っているすずかだからこその指導方法と言えるだろう。

 もっとも、この指導はフェイトも適用しており、そのとばっちりと言ってしまえば聞こえは悪いが、休養日に行動を共にするなのはやすずかも間接的に体調管理をされていたりする。

 

「今後は魔法も勉強することになるし、そこまで体を酷使することにはならんだろう」

「……まあ、二刀の練習時間が減れば、深刻な事態にはならないでしょうね」

 

 同じ夜の一族である忍の考えも確認し、マークは剣を振るう二人の近くへ寄る。

 

「そこまで!」

「っ! マークさん……こ、こんにちは!」

「お久しぶりです……怪我は大丈夫でしたか?」

 

 打ち合いをやめ、慌てて挨拶するすずかに対し、恭也はマークの右目を見て言う。

 ミッドチルダに行けない恭也は、今日までマークの怪我について人づてにしか聞いていなかった。

 

「完治したと聞いていたが、その右目の眼帯は……」

「治らなかったわけないわよね? 胸に大穴相手も次の日には治ってたんだから」

「ああ、これはただの飾りだ」

 

 恭也が少し不安げに、忍がため息をつきながら確認するが、マークも平然と答える。

 実際は、マークの右目は完治していない。傷を治さずに眼帯をしているのは、管理局に対して竜も方法によっては倒せる存在であるというアピールだ。

 以前は傷付いた翼がその象徴であったが、今は右目にシフトして翼を完治させている。

 

「それならいいが……それで、今日はどんな用件で?」

「今日は、スズカの魔力を覚醒させに来た」

「ついにですか!?」

 

 もしすずかに尻尾があったら、これ以上ないほどの勢いで振られていただろうと思えるほどの食いつきである。

 そんな様子を微笑ましく思うも、マークは表情を引き締めたまま『精霊の粉』を取り出す。

 

「これを飲めば魔力が発生するから」

「わかりました!」

 

 即座にマークから粉を受け取り、すずかは忍の下へと走る。おそらく、そこに水が用意してあるのだろう。

 

「……大丈夫なのか?」

「副作用なら、確認されていない」

「ならいいんだが……」

 

 恭也は今一つ、自分には理解できない薬への不信が抜けないらしい。マークにもその気持ちはなんとなくわかるので、かつて人以外の種族も『精霊の粉』を使用したことがあるとだけ、追加の情報を出すことにした。

 そんなことを話している間に、すずかがマーク達の元へと戻ってくる。

 

「飲んできました!」

「ん……ああ、間違いなく魔力が発生している」

「~~~っ!」

 

 マークが太鼓判を押し、すずかは顔を輝かせる。だが、喜ぶのはまだ早い。これはあくまで、魔力が発生しただけにすぎないのだから。

 

「一応シグナムに魔力についての指導を頼んでおいたが、自分でも訓練しておけ」

「はい、パレガですよね?」

「何で……そっか、ムルヴァに習ったのか?」

 

 この世界に無い筈の訓練法を切り出したすずかに少しマークが驚くも、すぐに答えを導き出す。

 その後訓練に当たり注意事項をいくつか確認し、最後に後付け型のカートリッジデバイスを『マーニ・カティ』と『ソール・カティ』に装着する。

 

「……これで、完全装備ですね」

「防具はつけないつもりか?」

「あっ!」

 

 満足げに二振りの剣を眺めるすずかに、マークはもう一つの大事な要素を指摘する。

 完全に防具については意識の外であったらしいすずかは、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にしてうろたえる。

 

「え、えっと、バリアジャケットでしたっけ?」

「俺も自分の鎧以外は持たないからなぁ……」

「どうせだったら、袴にしてみる?」

「おねえちゃんっ!」

 

 忍の案に慌てるすずかであったが、マークには慌てる理由が最後までわからなかった。

 ……ちなみに、ジャケットデザインはなぜかマークに一任されることになったらしい。

 

「あ、そう言えばちょっと聞いてみたいことがあったんですけど……」

「ん、何だ?」

 

 姉妹で一通りじゃれ合って、ようやく冷静さを取り戻したすずかが、マークに軽い気持ちで尋ねる。

 

「私も竜石みたいなもの作れませんか?」

「それは……」

 

 マークが言いよどむが、すずかはそれに気付かず自身の考察を述べ続ける。

 

「あれって普段弱体化する代わりに、石の力を使った時は力を倍増するって奴だと思うんですけど……あ、非戦闘時に力をためて、戦闘時にそれを解放するって言い方の方がわかりやすいですかね?」

「……まぁ、間違ってはいない、かな」

「やっぱり! それなら普通の人には難しいかもしれないですけど、夜の一族である私なら、再現できないですか?」

「……」

 

 すずかの提案に、マークは黙り込む。それは、確かに魅力的な提案であったからだ。

 

(正直、手が足りてないんだよな……)

 

 現在マークが指揮できる人材だけでは、魔物相手だって対応しきれるか疑問なのだ。

 これにナギや他の犯罪者、マークが封印していた邪竜まで出てこようものなら、間違いなく手に余る。

 

(少なくとも、英雄級がもう一人必要か……)

 

 確かにマークの知る戦力の中には、なのはやはやてといった将来英雄級に届く逸材は存在するが、彼女たちは担う役割が違う。

 問題を解決できる英雄のような人物ではない。

 英雄を撃ち出す為の土台のような人物でもない。

 彼らが戦いに出ている間、人々を守る盾のような人物が必要なのだ。

 

(だけど、石を作るってことは……)

 

 そう、マークが悩むのは、石を作るのにエーギル操作技能が必要という一点に尽きる。

 それさえなければ、マークはすずかが石を作る事に反対しなかっただろう。

 

「……やっぱり難しいな。そもそも、竜族が力を石に封じて今の姿をとるようになったのも、そのままじゃ生きていけない状況に追い込まれたからだし」

「そうですか……」

 

 マークの上げた理由に肩を落とすすずかであったが、実際そこまで落ち込んでいるわけではない。可能ならありがたかったが、その可能性は低いと元々思っていたのだから。

 だが、マークはすずかの様子にわずかではあるが罪悪感を覚える。

 マークが述べた理由は嘘ではないが、真実であるとも言い難い内容なのだから……

 

「じゃあ、魔力以外の……」

「簡易版ではあるが、カートリッジ技術は……」

 

 すずかが他に強くなれる可能性を模索するのを、マークは真摯に受け止め、助言をすることで罪滅ぼしとするのであった。

 




さりげなくなのはは撃墜を回避していたり……
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