魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
結論から言って、ナギという存在は管理世界の中でもごく一部の人物にしか教えられない極秘事項になった。
理由は簡単、単体で世界と戦える魔王クラス……それも明確に敵と言えるような存在があると世間に知られれば、大きな混乱が起こると予測されたためだ。
故にナギという存在は秘匿され、極秘裏に対策が急がれることになった。
その対策にマークが動員され、馬鹿みたいに忙しくなったのはある意味当然であったと言えるだろう。
そしてその対策の一環として、魔導師ランクの改定が急がれていた。
「とりあえず、君が言うところの英雄級をSSSランクと設定しようと思うのだが?」
「ああ、それで問題ないと思う。それで、今後のランクでは魔力だけでなく膂力も数値として……」
「うむ、しかし幸運の数値化は……」
マークとグレアムは特務六課の部隊長室にて、新たな魔導師ランクについてまとめていた。
ちなみに、悪乗りしたマークが『魔王フォデス級』としてEXランクを、さらに上に『神竜王ナーガ級』としてEX+ランクを設定したりしたが、まじめに採用されてしまって慌てたりするのだが、それはもう少し先の話である。
「実質、人の到達できる最高位はSSS+ランクだな。ごくまれに例外……たとえば神の加護とかがあれば、EXランクに届くことがあるかもしれないぐらいか?」
「そして現在のSSSランク候補が高町なのはと八神はやてか……」
「正直、俺が認知していない面子の中に候補がいるかもしれないが……ああ、わざわざ探す必要はないぞ?」
魔王級に対抗できる人物は多ければ多い方がいいが、わざわざ探す必要が無いと言ったのにはそれなりの理由がある。
「本当に魔王級と戦える実力があるやつは、探さなくても自然と出てくるもんだ。たとえ実力があるのに埋もれてしまった奴は、それは魔王と戦えるだけの運が無いってわけだ」
「しかし実力はあるんだろう?」
「無理に魔王の前に出しても、運悪く実力を発揮する前に死んでしまったら意味がないだろう?」
そう、ある一定以上の戦闘で必要なのは実力ではなく運なのだ。
もちろん、いくら運があっても覆らない実力差というものも存在するので、その一線を越えてからの話になるが。
とにかく、わざわざ拾い上げなければならない実力者は、マークの中では実力者にならないのだ。
「運も実力のうち……か」
「そういう事だ」
もっとも、マークに見出されるという事は、将来邪竜あたりと戦わせられることになるので、運がいいと言えるかどうかわからないが……
二人がそんな話をしている中、一人の隊員が部隊長室を訪れた。
「失礼します。マーク二尉いますか?」
「ティーダか、どうした?」
微妙に砕けた態度で部屋に入ってきたのは、ティーダ・ランスター第二分隊隊長である。
最初にマークの指揮下に入ったのが運の尽きというか、そのまま特務六課に所属となり、ロイドに続いて分隊長を任されることになったのだ。
そんなティーダがこの場に来たのは、マークに今日こそあるものを返却するためであった。
「一応言っておきますけど、返却が遅れたのはこちらから切り出すのはどうかと考えていたからですからね」
「……何か貸してたっけ?」
「……覚えてないんすか?」
首を傾げるマークに、ティーダは割と本気でため息を吐く。
「あー、初めての任務の後に渡された腕輪の事ですよ……」
「ああ、『魔導師の腕輪』か」
ティーダの言葉と実物を見て、マークはようやく当時のことを思いだす。
「そう言えば、貸すのは一年といった気が……」
「こっちから突っ返すのは、貸与された時に醜態を見せたので憚られて……でも期限から一年が過ぎて、流石にまずいと思って返しに来たんですよ」
正確には一年半近くになるのだが、そこら辺はまあいいだろう。
マークとしても、別に次に渡したい相手がいるわけでもなく、完全に忘れていたのだから。
忘れてはいたが、有効活用されていたのならそれでいいかと、マークは腕輪を受け取る
「それで、腕輪の効果についてわかったか?」
「えっと……自信は無いんですけど、もしかしてというものは……」
マークは当時のことを思いだしたついでに、あの時は語らなかった腕輪の効果について気付いたことを聞いてみるが、ティーダはかなりの躊躇を挿んで、こたえる。
「……魔力の成長促進、だったりします?」
「正解。わかったってことは、それなりに恩恵があったってことか?」
よくわかったな、と気楽に言うマークであったが、ティーダとついでにグレアムは顔を真っ青にする。
「……マジかよ……いや、思い当たることがあったんだけどさ……」
「それが本当なら、ロストロギアというのも生ぬるい代物だぞ?」
幼少時からの成長から見てAAランクが精々だろうと思っていたティーダだったが、それに反してつい先日AAAランクの試験に受かってしまったのだ。
それを単純に喜ぶだけで済ませられる図太さがあればよかったのだが、残念なことにティーダはそうではなかった。
「確かに、生来の才能をさらに伸ばすようなもんだもんな」
「今ようやく、効果を公にしたら問題になるって言った意味が分かりましたよ……」
「だが、これを使用すれば、人員不足解消の一助になるのではないかな?」
「これ一個じゃ焼け石に水だろう」
確かに装着しているだけで魔力の成長が促進されるというのはありがたいが、年単位で使用してようやくランクが一つ上がるだけ。
それも今回のティーダほどの効果は、滅多に期待できないらしい。
「それなら、最初からなかったことにしていいかもしれん」
「まぁ、今回みたいに機会があれば誰かに貸すぐらいか」
「……」
マークとグレアムが出した結論に、勿体ないと思ってしまったティーダであったが、それが正しい思考だろう。
ひそかにため息を吐いたティーダであった。
マークがティーダに腕輪を返してもらっていたころ、ミッドチルダの郊外でリムステラは秘密裏に情報収集を行っていた。
「まさか、管理局から離れることでこんなに情報が集まるとは……」
周りから見ればひとりでぶつぶつ言っているように見えるリムステラであったが、彼女にとっては違う。彼女は一つの体に七つの魂が宿っていたのだから。
そんな彼女が驚くのは、管理局の外側に形成された情報網だ。
まずは安全な拠点を得ようと奔走した結果、リムステラは管理局にも裏社会にも属さない、特殊な一団と接触することになったのだ。
そこで肉体言語やら酒の力を借りて何とか溶け込み、その情報網を使う事を許されたのだ。
なぜか、姐さんやら姉御やら呼ばれることが多くなったが、安全な拠点と確かな情報の代償と思えば安い物である。
「最高評議会が、戦闘機人の作製を推奨している……ね」
リムステラとて必要悪についてとやかく言うつもりはないが、これはその範疇を越えてしまっていると思う。
おそらくは、長い時間をかけて倫理観が少しずつ甘くなっていったのだろう。
とはいえ、さすがにそれらの行為を手元でやるのは都合が悪い。
故に犯罪者に研究をやらせ、その成果が出ては犯罪者を捕らえ、技術を接収することで違法研究を重ねていったのだろう。
そして今回その役に選ばれたのが、ジェイル・スカリエッティである。
そして今回の問題は、これだけに収まらなかった。
「戦闘機人とは別枠で、プロジェクトFを再起動し、噂の竜人のクローンを作成したとか……」
そう、それこそがゼスト隊の命を奪ったナギという存在の答えであった。
この情報が入ってすぐ、マークに連絡を取ろうとしたリムステラであったが、タイミングの悪いことに魔導師ランク改定の準備の為しばらく外に出られなくなってしまっていた。
「彼は知り合いの子であるかもしれないと危惧していたみたいだし、違うとわかればそれなりに取れる手段が増えると思うけど……」
とはいえ、マークと互角の戦いを演じたナギが、今後しばらく表に出てこないだろうことは容易に想像できた。
次こそは勝てるようにと、今頃調整を行っているだろう。
「可能なら、調整が終わる前にアジトを突き止めたいんだけど……」
表の世界からはじき出され、かといって裏の世界に染まることもなかった彼らをもってしても、『無限の欲望』と言われる男の拠点を調べ切ることができなかったのだ。
もっとも、今までの情報を集めただけでも十分とんでもない腕の持ち主たちなのだが……
そんなことを考えつつ、リムステラはもう一つの懸念を晴らすべく、ミッドチルダの郊外を探索し続ける。
探すのは、施設から自力で逃げ出したらしい人造生命体である。
「微かだけど、確かに存在の痕跡がある……もしこれもマークのクローンなら、放って置いたら後々大変なことになりかねない」
だが、管理局の方でも厳重とは言えないまでも警戒網が敷かれており、なかなか思うような探索ができずにいた。
下手をすれば、リムステラ自身が逃げ出した人造生命体と判断されかねないからだ。
「まぁ、今の私が人造生命体であることは否定できませんが……」
つい浮かんだ皮肉を口にしつつ、これ以上の探索は不可能とこの地を離れる。
「しばらくは管理局の不祥事について調べましょうか……さすがにまだ最高評議会には手が出せないでしょうし、今は末端から手を加えていきましょう」
いくら最高評議会が黒だったとはいえ、これを公表しても受け入れられるとは思えない。今は耐え忍んで、時を待つほかないだろう。
だが、リムステラは気付いていなかった。闇を見るという事は、闇に見られているという事を……
だから、管理局の警戒網から十分離れたところで向けられた一撃を、完全に躱すことができなかった。
それでも急所を逃れ、左腕を切り裂かれるだけで済んだのは、リムステラの身体スペックがずば抜けているおかげである。
そして、リムステラは驚愕する。襲撃者の姿は、彼女がよく知る人物のそれであったのだから。
「ゼスト・グランガイツ!?」
「……」
そう、リムステラの前に立ったのは、彼女の中にいるはずのゼストであった。
しかし、いや、だからこそリムステラが感じた驚愕は一瞬。目の前の存在が偽物であるとわかった以上、リムステラの感情が怒りに染まる。
「……『フィンブル』ッ!」
「……」
もはや言葉にならないほどの怒りは、魔法という形になってゼストへと向かう。
鋭い氷の欠片を含んだ暴風がゼストを包み、さらに巨大な氷の塊を発現させ、ゼストを閉じ込めようとする。
だが、腐っても管理局最高峰の使い手。ゼストは手に持った槍で氷の欠片をはじき、氷塊に飲まれることなくその場から脱出してみせる。
そのままリムステラへと向かい、その槍で心臓を貫かんとするが、その程度は予想済みである。
「……こちらにオリジナルがいる以上、あなたの動きは全て筒抜けです」
「……」
無言を貫くゼストに、リムステラは『フィンブル』を応用して氷の柱を生み出し、撃ち出す。
さらに風の刃を使い徐々にゼストを追い詰める様子は、完全に作業と言ってよいものであった。
そう、相手がゼストだけであったなら、後は詰将棋のごとく最後までこの場が覆ることは無かっただろう。
だが、この場はミッドチルダであり、派手な戦闘をすれば管理局の魔導師が出てくるのは当然の事であった。
完全に戦場を支配していたリムステラの足元に、雷撃が走ったのだ。
「今すぐ戦闘行為を中止し、投降してください!」
その声にリムステラは顔をゆがめる。それが今もっとも会いたくない人物の一人の声であったからだ。
(なんでフェイトちゃんがここに……!)
さらにその後ろから飛んでくるなのはの姿も確認して、リムステラは気付かれない様にため息を吐いた。
彼女は知らなかった。復帰してすぐという事で、フェイトはなのはと行動を共にしており、万に一つを考えミッドチルダ郊外という近場の任務に立候補していたことを。
そして彼女は知っていた。フェイトはゼストと戦いたくないと思っていて、死んだはずの彼がこの場に居たらその生存を喜ぶだろうことを。
「そこにいるのは姿形を似せた偽物だ! 気を許すな!」
「っ!」
一度は敵対したとはいえ、最後は共闘した顔見知りに状況を尋ねようとしていたフェイトが、リムステラの警告を聞き咄嗟に身をひるがえした。
その直後に奔った一閃により、フェイトとなのははこの場が思っていた以上に混沌した場であると認識する。
しかし、そんな警戒も長くは続かない。奇襲に失敗し、管理局の排除にも失敗した以上長居は無用と判断したのだろうゼストは、即座に撤退したのであった。
「……警告、感謝します」
「感謝ついでに見逃してくれたらうれしいんだけど?」
「それは……できません」
「そうだろうね」
元管理局員として、フェイトの主張は理解できる。しかし、リムステラとしては今管理局にいろいろ調べられるのは都合が悪い。
ならばそれらしいことを言って煙に巻くのが一番と判断した。
「……まだ時ではない」
多少仰々し過ぎるかと自分でも思ったリムステラであったが、始めてしまった以上は続けるほかない。
警戒しつつも首を傾げるフェイトに、さらにそれらしい言葉を投げつける
「いずれ来るときに備え、力を磨いていなさい。そうすれば、肩を並べることがあるやもしれない」
「どういう意味ですか?」
敵じゃないというアピールを行いつつ、リムステラは転移を行いその場から消える。
転移に気付いて慌てるフェイトを見て少し申し訳ない気分になったが、かといって管理局に捕縛され、マークに迷惑をかける気にはなれなかった。
これからしばらくして、管理局の敵とも味方とも取れる行為を繰り返した結果、犯罪者のリストに名を連ねつつも義賊としての名が広がっていくことになるのだが、それはもう少し先の話である。
リムステラが探索を諦めたころ、一人の少女が管理局の中枢へと侵入を果たしていた。
「正直、警備がざる過ぎるな。技術が進歩したのはいいが、過信しすぎだ。やはり最後は個々人の技量こそが重要だという事を忘れている」
薄暗い、天井まで伸びた三本の巨大なシリンダーが立つ部屋で、少女は嘆く。
だが、その言葉に応える者は無い。つい今しがた、答えを返す可能性があった存在の命を少女が刈り取ったばかりなのだから。
「ふむ、今となっては見る影もないとはいえ、さすがはかつて英雄と呼ばれただけはあるか。なかなかのエーギルだ」
肉体はすでに無くなっていたが、その精神は一応健在であったらしい。少女は手に入ったエーギルに満足し、そのエーギルの一部を使って細工をする。
少女によって人形として再び意思を得たかつての英雄は、そのことに疑問を持つことなく、むしろ下僕にして頂いたと感謝する。
「まぁ、ひとまずこれでいいだろう」
実質管理局を支配下に置いた少女であったが、人形たちに特に変わった指示を出すことなくこの場を後にする。
それは少女の戦う相手が、決して油断ならない敵であるからだ。欠片だって手を抜くことはできない。
そうつぶやく少女の脳裏に奔ったのは、かつてあった二度の戦いの事である。
「もう、細かい事は思い出せない……でも、これだけは覚えている」
少女を退けた一頭の竜と一人の英雄、そして、その間を取り持った半竜半人。その半竜半人こそ……
「マーク……我が仇敵にして、今の私のオリジナル……」
そう、この少女こそがジェイルの研究所から逃走したナギの予備であった存在。すなわちマークのクローンであり、その身に宿った精神は、マークと共に封印されていた邪竜である。
そんな少女に掌握された管理局の最高評議会だったが、彼女はまだこのカードを切るつもりが無かった。
「手札は多ければ多いほどいい。私は貴方を、決して甘く見たりはしない」
人類に道を譲ったナーガの血族が人類を敵に回したとき、マークは一体どうするつもりか。
少女は邪竜の名にふさわしい笑みを浮かべ、その日が来るのを待ちわびるのであった。
敵勢力の強化はこれが最後……のはず!