魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第8話 「前線の外から」

「さて、次はここらへんかな?」

 

 マークは月村低をホームにしてから、ある法則を持って海鳴市を巡っていた。それはフェイト達と共に探索していたものの続きだ。もちろん完璧にトレースできているわけではないのだが、それでも見当違いというわけでもないだろうとマークは思う。

 

(ま、あっちにはランダムに見えるんだろうけどな)

 

 そうして意識を向けるのは、おそらく管理局が放ったであろう監視だ。先日の接触以降会っていないのだが、ちゃんとついてきているようだ。

 

(次のジュエルシードの時に接触してくれ、か……やっぱりホームを探ってるんだろうな)

 

 確信こそなかったが、やはりフェイト達のもとに帰らなくて正解だったといえるだろう。今だって見られている感覚こそあれ、どのような方法で監視されているのかはさっぱりわからないのだ。

 

「それはそうと、やっぱり一人はつまらないなぁ……」

 

 マークは屋敷を出るとき、忍に『手伝おうか?』と声をかけられたのに断ったのを、ほんの少し後悔し始めていた。考えてみれば、一人で活動するなどこれまでの生涯のうちで、片手の指で足りる程度しかしたことがないのだ。

 

(思っていたより、俺って弱いんだな……そういえば管理局に少年にも劣勢だったな)

 

流れで前回の戦いを思い出し、例の攻撃の対処法も考えてなかったことに思い至ったころに、待っていたかのように近くから一瞬ジュエルシードの気配を感じた。

 

「事実、待たせていたようだな」

 

そういってマークは気配のあった地点へ向かう。おそらく待っているだろう少女をこれ以上退屈させないように、割と全力で。

 

 

「遅かったね?」

「勘弁してくれって……索敵は苦手なんだって知ってるだろ?」

 

 そこにはマークの予想通り、フェイトとアルフがいた。それも完全武装で、ある程度の距離を取っている。

 

「……一人でいるってことは、管理局から逃げ切ったって思っていいのかい?」

「条件付きで見逃してもらったって感じだな。管理局がどんな技術を持っているのかさっぱりだから、不用意に動けなくてね」

 

 アルフの質問に答えながら肩をすくめて見せる。マークとしてはフェイト達を相方と認識しているので、戦いたくはない。だがフェイト達は違うだろうと思っている。

 

(ま、敵対してると思われても不思議じゃない状況だしな)

 

 むしろ投降を呼びかけに来たといった方が信じられるだろう。だがフェイト達はマークの予想の斜め上をいった。

 

「……わたしたちに脅されてたって言って、保護してもらったらいい。そうすれば、比較的すぐに帰れるだろうから」

「実際のトコ、あんたを保護するって名目で手伝ってもらってたともいえるしね~」

 

 フェイト達は、どこか硬い表情で告げる。自分たちを悪役にして、あるべき場所に帰ってほしいと。

 

「それはなかなか情けなさそうな結末だな」

 

 10歳の子供を差し出して自分は安全地帯にいるなど、マークにとっては選択肢にすらならない。だが、それ以上に思うことがあった。

 

(優しい子だ。戦場では甘さにしかならないだろうが……それでも、この甘さは覚えがあるな)

 

 かつての戦友がそうであった。状況が違うので全く同じことがあったことはなかったが、それでもかつての友に被る。

 

「もうしばらく、うろちょろしてるよ。まだ、いろいろやり残したこともあるしな」

「……いいの?」

 

 フェイトの問いには答えない。どんな答えであってもフェイトは自分のせいだと考えそうだと思ったからだ。

 

「ま、頑張れよ?うろちょろしてたって、何かあった時そこに俺が居合わせるとは限らないからな」

 

 そんなことを言いながらも、マークはなんだかんだで戦いの中心横にいる自分を想像できた。かつてがそうであったように、今回もそうなるであるという漠然とした確信があった。

 

「マークこそ、変なとこで無茶して肝心なとこで出られないなんてことないようにね?」

 

 マークの軽口に、フェイトも応じる。ただ心配する様子を隠しきれないあたりは、まだ子供といえるかもしれない。

 

(短い間でも共に戦った仲だしな。俺も情がわいてるのは確かだし)

 

 友に重ねた部分もあるが、それ以外のものがないわけではない。マークは少しだけ、このジュエルシードの件が終わった時のことを思う。状況が許せば、今後もフェイト達と共に行動するのもありかもしれない、と。

 

「じゃあ、またね」

 

 そう言い残し、2人は姿を消す。マークが気配を追えたのはわずか数秒であった。

 

(転移をもう一度使えるようにしておくべきかな……)

 

 封印を施したうえでまだ手元に残った、転移の魔法が記されている魔道書に思いをはせる。かつて魔王にその心を食われた皇子の持っていた魔道書『ナグルファル』。それ自体は特に危険なものではないが、感情的な意見も多く『闇』とともに強力な封印が施されていたのだ。

 

「個人的には『エレシュキガル』の方が好きなんだけどな」

 

 今は手元にない魔道書の名前を告げ、それを感傷と切り捨てる。いまマークの下にないという事は、近いうちに敵対するという事だ。

 

「ま、今はいいか。今度は管理局の方に接触しないとな。連絡用のでばいす、って言っていたか?それを受け取らないといけないからな」

 

 いまだ電話ですら理屈を理解できないマークにとって、受け取ったところで使えるかわからないという不安は残るが、そこは努力するしかないだろう。

 

「それじゃあ、どうやって動くべきかな?」

 

 今まではフェイトの探索の延長であったが、ここからは管理局の探索に接触しなければならない。現状では、これまでの探索で後回しになるだろう場所へ行くぐらいしかあてがない。

 

「仕方無いか、これまで通り地道に行こう」

 

 今回のことでも接触してこなかった以上、管理局に会うにはジュエルシードを探し続けるしかないだろう。フェイトのホームにでも行けば話は別だろうが、そこは考えるべきではないだろう。そうしてマークは歩みを再開した。

 

 

「それで? 収穫はあったの?」

 

 もう深夜といっても差し支えない時間になり月村邸に帰還したマークを、当主とその恋人が出迎えた。

 

「一つ、相方が見つけたのを確認した」

「それじゃあ、あなた自身の収穫はなし?」

「そういうことになるな」

 

 マークは微妙に失礼な感想をやはり軽く返す。そして一瞬迷ったが、その疑問を口にした。

 

「わざわざ待っていたのか?」

「ちょっと用があってね……ねぇ、恭也と模擬戦をやってみない?」

「拒否する」

 

 この話は日中に忍と恭也の2人で話し合った結果、お互いの力を多少なりとも明かして信頼するきっかけになればという提案だったのだが、マークは一蹴した。

 

「どうしてだ? あなたが剣士であるなら、俺との試合は双方得るものがあると思うのだが……」

「……戦士は廃業してな。必要以上に武を振るわないことにしたんだ」

 

 戦士でない自分を探すと決めたのだ。状況がそれを許さないのだが、だからと言っていまだ戦い続けていることにマークはわずかな罪悪感をもっていた。

 

「廃業……いや、だが現状の実力を維持するのは悪いことではないだろう? いつか役に立つことがあるかもしれないんだ。捨てる必要まではないだろ」

「ああ、その通りだろう。まだやらなきゃならないこともあるし、武を捨てるわけじゃないさ。ただ……意地かな?」

 

 何に対する意地なのか、マーク本人もいまいちわからない。だが戦士であることをやめるのなら、このような試合を受けるべきではないと思うのだ。

 

「誘い自体は喜ばしいものなんだが……悪いな」

「いや、こっちも急に悪かったな。もし、再開することがあれば声をかけてくれ」

「そんな時が来ればな」

 

 マークはそんな時は来ないと言外に言ったつもりだったが、恭也にはそうと聞こえなかった。今は妙な意地が先に立っているが、それ以上に強い何かがあるように思えたのだ。だが、それを告げることなくこの場を離れる。

 

「あれは絶対に理解していない顔だ」

 

 一人になってマークが思うのは、去り際の恭也の顔だ。あれはある種の確信を帯びていた。これは言葉でいくら言っても無駄だと理解したマークは、ただ有言実行をその胸に誓うのだった。

 

 

「やっと見つけた」

 

 数日の間何の成果もなく過ごしたマークは、やっとの思いでジュエルシードを発動させた巨鳥の下で管理局に接触した。正確には、管理局に保護されたであろう少女に、だ。

 

「マークさん!」

「ナノハ……だったか? 元気そうで何よりだ! ちなみに隣の少年は誰だ?」

「ユーノです!」

 

 多少距離があるため、自然と声が大きくなる。が、それ以上に妙なことが聞こえた。

 

「ユーノ? ひょっとしてあの小動物か?」

「小動物!? フェレットですよ!」

 

 少しずれた答えだったが、マークは同一人物と結論付ける。

 

「獣化って流行っているのか?」

『流行るわけないだろ!』

「なんだ……」

 

 マークの発言にクロノからツッコミが入り、それに対してマークは残念そうにつぶやいた。だがそれで勢いが削がれたのか、すぐになかったことにして応援を要請してきた。

 

『いや、ん、よく来たな、マーク。来て早々悪いが、手を貸してもらえるか?』

「なんで……あ~、あの2人で倒せない相手じゃないだろ?」

『より安全に事を進めるためだ。君にとっても悪いことではないだろう?』

 

 確かに管理局に協力的な姿勢を見せることは、マークにとってプラスに働くだろう。少しだけフェイト達に対する罪悪感があるが、このジュエルシードを取りに来ることはないだろうと割り切る。

 

(管理局に間違いなく把握されているのは『ファイアー』のみ……希望的観測を述べれば『封印の剣』『バゼラード』あとは『リブロー』『レスキュー』は把握されてない可能性もある)

 

 そこになのはたちに使った『リザーブ』、忍たちに使った『エルファイアー』を次点においておくべきだろう。

 

「了解」

『頼むぞ』

 

 管理局が手の内を見たがっていることを察したマークは、使用攻撃魔法を火の魔法に限定する。今回の相手である巨鳥のサイズが大きめであることも考慮して魔法を使用することにした。

 

「こっちで倒してしまうから封印を頼む! 『ファイアー』!」

「了解!」

「わかりました!」

 

 基本的にマークが行ったのは、なのはと初めて戦った時と同じだ。ただ違うのは当てているかいないかだけ。相手に知性がないのならそれを攻撃するのに躊躇はしない。

 

(思ったより耐性があるな……これもジュエルシードの力だっていうのなら、面倒な限りだ)

 

 直撃が数度あったが、見たところ巨鳥は五体満足で未だ飛び回っている。それでも本能に従って動く巨鳥に魔法を当てるのも、逃げる方向を誘導するのも問題なく行えた。

 

「ほら、あとは、煮るなり、焼くなり、好きにしなさいっと!」

「も、もう十分こんがり焼けてる気が……」

「あ、あはは……」

 

 痙攣しながら横たわる巨鳥をみて、なのはとユーノは引き笑いをしている。マークはそれを急かして、ジュエルシードの封印をさせた。

 

「はい、これでおしまい。お疲れさまでした」

「えと、ありがとうございました」

「おかげで助かりました」

 

 そういって2人はマークに頭を下げるが、マークにとっては何ともむずがゆい。

 

「あ~……こっちはこっちの事情でやってるだけだから、気にしないでくれ」

「でも、助かったのは事実ですから」

 

 そういうなのはの横で、ユーノは微妙に眉をひそめていた。マークはそれを『自分たちだけでもできたのに』という思いの表れだと受け止めた。

 

(まあ、今まで2人でうまくやれてたみたいだしな。俺自身、無用な手助けだったと思ってるんだし、それぐらい当然か)

 

「協力、感謝する。それと、こちらが連絡用のデバイスだ」

「ん?ああ、クロノ……いや、ハラオウン執務官か。何あれぐらい問題ないさ」

 

 今まで画面越しで話をしていたクロノが出てきたことに、不思議な感覚を覚えながらもデバイスを受け取ったマークだが、やはりというべきか使い方はわからなかった。

 

「ほかの機能は削ってあるから、少し魔力を流すだけで『アースラ』に繋がるようになっている」

 

 なるほど簡単だな、と感心するマークを、初めて携帯を買うおじいちゃんみたいだと思いながらなのはが見ていることには誰も気付かなかった。そんな彼女をおいて、実際試したり機能の質問をしていたマークだったが、その話はマークの帰還について話に及んだ。

 

「ところで、あなたの世界について調べたいんだが……いくつか参考になる固有名詞を教えてもらえないだろうか」

「……ああ! そっか、そうだよな」

 

 はっきり言って、もはや故郷に帰る気など欠片もなかったマークは、クロノの発言の意味が一瞬わからなかったのだ。

 

「固有名詞もいくつかの世界で重複するものがあるから、複数個、それも地名や国名が望ましい」

「地名・国名ね……そうだな……」

 

 そうはいっても、マークに帰るべき場所というのはすでにないのだ。もし国か何かが残っていたとしても、そこで出会うべき人などいないのだから、帰ってもしょうがないというべきかもしれない。

 

(いや、あいつなら生きているか?)

 

 そんな中、まだ生きている可能性がある存在を思い出す。

 

「テリウス大陸、ベグニオン帝国、クリミア王国、ガリア王国……こんなとこかな?」

「わかった。数日中には結果が出るだろう」

 

 マークが万に一つ出会えるかもしれないと考えたのは、あの世界にいた女神だ。かなり変り種な存在であるため、かつての仲間であり敵である存在だが、昔話ぐらいできるかもしれない。

 

「じゃあ、事が終わったら連絡する」

「ああ、なるべく穏便に事が済むことを願ってるよ」

 

 先程の戦いを見て思うところがあったのか、そのような事を告げるクロノにマークは苦笑で返す。もとより戦士をやめようと思っているのだ。戦わなくていいならそれに越したことはない。

 

(まあ、フェイトに協力している時点で好んで戦っているようなものか)

 

 自身の矛盾に呆れながらも、それを正そうとはしない。どちらの行為もそれなりに思うところがある行為であるのだ。

 

「そうだな……俺もそうなればいいと思うよ」

 

 マークは、ただそう言って背を向ける。ただ戦っていればよかった時が終わったのだと実感しながら。それでもいや、だからこそ充実した日々になることを何の根拠もなく確信したのだった。

 

 

 

 

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