雷鳴がとどろく。
ひゃあっと一声あげ、ヘイハチは降り出した大粒の雨をさけるように、大樹の下へ飛びこんだ。
それを追いかけるように轟音が鳴りひびく。
夕餉の時間、リキチの家を目指して帰路についたが、しばらくここで足止めされそうだ。
水を吸って重くなった飛行帽をしぼっていると、バシャバシャと派手な水音をさせて、シチロージが走ってくるのが見えた。
おーいシチさん、と声をかけると、一瞬まよった顔をしてから、こちらへひといきに駆けこんできた。
「夕立とは、参りましたな」
ぐっしょりとぬれてしおれる髷を解きながら、シチロージは空をあおいだ。
「せっかくの炊きたてに間に合いませんねぇ」
ヘイハチの頭には米のことしかない。
「ヘイさん、ちったあ自分の体のことも心配したほうがいいですぜ。風邪とか、雷とか」
「雷はそうそう落ちますまい」
「いやいや、それが」
ヒラヒラと手を振ってみせる。
ハッとした。
なぜシチロージが一瞬まよったのか。
男は金属製の義肢をつけている。
「落ちるとしたら、アタシか樹か。ヘイさんにとばっちりがいかないといいんですが」
「私も軍刀やら機械の部品やら、いろいろ仕込んでますから。確率はそう変わらないでしょう」
「ヘイさんよく落ち着いてますな。怖くはないんで?」
アタシはこわいねぇ、こわいこわい、と歌うように呟くものだから、ヘイハチは思わず吹き出してしまった。
「シチさんが不安がる理由の一つに、義手の不調があるんじゃないですか」
ずばりたずねると、シチロージは目を見開いた。
さきほど一瞬まよった顔をした理由。
義手から異音がかすかにしていた。
「かないませんなぁ。本当によく見ている」
「雨がやんだらみせてください」
そのとき、空が白く輝き、腹にひびく割れるような音がとどろいた。
「……かみなりさんにお目こぼし頂いたらね」
こんなに弱気になっている古女房も珍しい。
「承知しました。約束ですよ」
飯時、カンベエの前では涼しい顔をしていたシチロージだったが、
「今日はさぞ肝が冷えたろう」
という大将の一言で、古女房殿は口に運んでいた椀の物を盛大にむせた。
「カンベエ様!」
「やはり図星か」
「お戯れを」
ヘイハチはこのやりとりから、腕を義肢にする前から、シチロージは雷をおそれる性質だったと知った。
なんでまた、絶縁体の義手にしなかったのか。
妙なおかしみを感じ、くつくつと笑いをかみ殺していると、色男が赤面する、実にうまみのある珍しい顔を拝むことができた。