ついに柊 華桜さんとのコラボ回最終話です!!
話は短めに本編をどうぞ!!!!
~恭子side~
────喧騒に包まれた会場も夕暮れが始まり静寂が訪れていた。スポットライトによりステージは照らされ夕暮れ特有の暗闇もあり、より一層ステージを際立たせていた。そこには見慣れたながらも扇情的と形容するに相応しい服装のウサ耳少女、黒ウサギが背筋をピンと伸ばた美しい姿勢で立っている。そしてどこか物悲しげな表情で彼女は告げる。
「ご来場の皆様、並びにテレビ中継をご覧の皆様。本日は白夜叉様主催のギフトゲーム『"ノーネーム"vs"新神教会"』を楽しんでいただけましたでしょうか?」
開始直後は彼女に興奮していた者たちも彼女の表情から宴の終了を感じ取り、もっと見せて欲しいといった声が小さいながらも多く聞こえて来る。そんな声も聞き取った黒ウサギはその声に自身の想いと共に肯定した。
「黒ウサギも皆様と同じ気持ちです。数多くの司会進行を務めてきましたが、今回のギフトゲームはそれらと比べて遜色のない.........いいえ、寧ろそれ以上に楽しんでいたと自負しております。」
問題児たちの奇行に終始振り回されっぱなしだった黒ウサギはしかしそれ以上に仲間たちと騒ぎながら強敵と渡り合ったことがとても嬉しくもあった。
「次がラストゲームになります.........。黒ウサギも皆様と同じ、この楽しく愉快な時間が終わって欲しくないと、そう思っています。ですが.........楽しい時間はいつか終わってしまいます。なればこそ、今この時を最高に盛り上げて楽しく終わらせましょうーーー!」
「ワアアアアァァァァァァァ!!!!」
黒ウサギの宣言に同調する会場の観客、ついに長くも短く感じたこの時間も終わりを告げる────
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「───なんて前口上を入れてみたけどどうかな?」
「なかなかいいんじゃないか?」
「流石は夜椿だ。同情心を誘いつつ精神的ボルテージを一気に最上まで持ち上げる言葉のチョイス。感服する!!これは売り上げに貢献してくれるやもしれん。」
「よせやい照れるじゃないか。」
恐らく黒ウサギを苦労サギにするブッチギリトップであろうこの三人、黒ウサギの宣言なんぞ気にする素振りすら見せず遊んでいる。
『何をやっているんですか白夜叉様! 最終ゲームの発表をお願いします!』
「これは失礼。ちと楽しみすぎた。」
では、と一言断ってから黒ウサギの下に駆ける白夜叉、やれやれだぜ、と困ったポーズをする夜椿と十六夜、さっきまでノリノリだったじゃない、と鋭いツッコミをする飛鳥の。これがこのグループのデフォなのだろう。
ステージにはすでに.........というより前回の料理対決から何故か睨み合っていた二人が火花を散らしあっていた。
一応今回のギフトゲームのトリを飾る戦いだがこの二人は勝ちを決めるゲームだから睨み合っているのではなく、あくまで個人的な思いだった。何故俺がそんなことを知っているかというと、耀には悪いが前回の試食の時に椋を睨んでいたため、
が、
さっきも言ったが結果はこんなだった。
(この子、小さいのにさっきは良く食べていた。自称大食いクイーンとしては見過ごせない......それにまだ内容は決まってないけど、勝って夜椿に褒めてもらうんだ!!)
(この人、さっきから私のことずっと見てる。凄い気迫......この勝負、絶対負けられない。それに.........勝ってお兄ちゃんにいっぱいいっぱいいーーーっぱい撫でてもらうんだ!!)
「「ムムーーー!!」」
シリアスなんて知るかっ!とでも言うかのようにあくまで個人的な思いだった。
ってかなんだ、自称大食いクイーンって。
いや、たしかに原作でもかなりの量を食っていたがそこまでプライドを持つまでか?
あと椋もそこまで気合い入れんでも......。
(白夜叉様、いつもみたいに早くこの空気をぶち壊してください.........。)
ついでに聞こえた黒ウサギの悲痛な声にも同情する。
.........まぁ、そこで白夜叉しか頼れないのも可哀そうだが。
『あーあー、コホンッ。テステスーテステスー。んん゛、長らく待たせたな。では、始めさせてもらう。』
そう言って白夜叉が柏手を打つと黒ウサギの頭上に一枚の羊皮紙が舞い降りる。ようやく進んだことに喜ぶのはしょうがないだろう。
『簡易ギフトゲーム名"
プレイヤー一覧
春日部 耀
新神 椋
クリア条件 最後まで耐え抜けば勝利。
クリア方法 迫り来る料理を拒まず最後まで食べきる。
敗北条件 出された料理を食べきらない、又は受け付けなくなった場合、クリア条件を満たせないと判断し即敗北。
宣誓、上記を尊重し、誇りの下、ギフトゲームを開催します。
"ノーネーム" "新神教会"』
なんだろうかこのド○フ感.........。
もうこの時点でもともと無くなりかけていた俺のやる気ゲージが完全に無くなった。
料理対決の後だからなのか、それともただただ偶然なのか...。
ひとまず現状考えられる結果は耀が優勢だろう。
現に余裕の表情を浮かべながら、いつの間にか用意されていた椅子に座っている。
対して椋は普段俺たちと同じ量の料理を食べていたし、別に
しかし先ほどの試食タイムでは耀に引けを取らない量を食べていたのでそこを含めると勝負は分からなくなる。
「ワクワク〜〜、ワクワク〜〜♪」
椋はまだかまだかとテーブルに置いてあったナイフとフォークを両手にウキウキしていた。
どちらも余裕綽々といった表情だ。
それを見た耀は椋を警戒しているようだが。
『それでは、第七試合。レディー.........───ゴーーーーッ!』
巨大な銅鑼が叩かれ、けたたましい轟音と同時に試合が始まる─────
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『あーあー、んー.........はい、始まりました第七試合。これで勝者が決定します.........え、質問が来てる? なになに、『あなたは誰ですか?』ですって? イヤだなー、忘れないでくださいよ。第二試合に置いて圧倒的な実力差を見せつけた最強最良さいかわサーヴァントであるこの
開幕早々長ったらしいセリフを言うのは、先ほどまで医務室にいた沖田 総司改め皇 蒼。無事意識を取り戻したようで、今は実況席で騒いでいる。
もちろん、
『それにしても美味しいですね、肉じゃがとお味噌汁。ハムッ、ズズ~~.........しっかり味が染みていますし、甲乙つけ難いです。ですよね?』
『僕は体からアルコールを退場させるのに忙しいからもう少しあとで食べるよ。だから残しといてね?』
『まあ、皇さんとしてはそれもやぶさかじゃないと思ってますよ?』
『そう言いながらパクパク食べてるあたりセイバーだよね〜。.........うう、苦い。』
ミカは現在、夜椿にしつこく勧められた
しかし周囲はこの二人をあまり気にしていない。否、気にする余裕がない。なぜなら、目の前の激戦?から目を離せないでいるからだ。
『.........現状を飲み込めない司会進行の黒ウサギです。ありのまま、起きてることを話します。料理が乗ったお皿を耀選手と椋選手の前に置いた途端、そこには何も残っておりませんでした。それどころか次なる料理を催促される終い......私自身何を言ってるかわかりません( ゚д゚)』
「「ガツガツガツッ! おかわり!!」」
『ハッ!? た、ただいまお持ちいたします!?』
ポルってしまった黒ウサギは二人の食べるペースに圧倒されさらに料理を要求されたことにより、司会進行兼ウェイトレスと化していた。
『あの服でウェイトレス.........荒稼ぎの予感がするぜ。"ドキッ! 黒ウサギによる御奉仕喫茶!? ご主人様はあ・な・た♡" .........うん、いける気がする!』
『おんし、やはり天才か.........!?』
『ちょっと黙ってましょうね。』
隣で夜椿の悪巧みに賛同するロリ駄神もいるが、この状況に驚き気圧されているのでそこまでツッコミに覇気が出ない。
『椋、あんなにたくさん食べれたのね.........
『本当に容赦ないね君は!?......いや、知らなかったよ?でもそこは
『仕方ありませんね。この私にドーンと任せてください。まず、サーヴァントは基本的に食事を摂らなくても大丈夫です。まあ、彼女は見た感じ受肉に近い状態なので食事は必須なようですが。あ、"受肉"については視聴者のみなさんの方で調べてください。話を戻しますね?
食事が必要な理由としては主に魔力補充だとか腹が減っては戦は出来ぬ的な理論が働いています。詰まる所、サーヴァントは食べれば食べるほど魔力が潤い強くなります。以上、"誰でもわかる!皇さんの英霊教室"でしたー!いやー、食後でしかもいい仕事をした後のお団子は敵無しですね。宝具レベルは最高ランクに位置するでしょう。まッ、三段突きには勝りませんけどネ!』
『............。』
色々と状況が掴めない俺にもはや居場所はないのだろうか?
半ば諦めていると、肩をポンと軽く叩かれる。振り向けば椋とミカを除いた"新神教会"お馴染みのメンバー。
その顔はどこか悲しさを感じさせ、まるで、「お兄さん、私たちも無理です」........こう言いたげだった。
色々と追い込まれていた俺は普段はしないが皆を抱きしめ現実逃避をした。
「ねえ、十六夜くん.........。」
「どうした、飛鳥.........。」
「人ってあんなに食べれるのね.........?」
「ああ.........北側で見た春日部と夜椿以来だな。これが既視感ってやつか......。」
耀で経験がある十六夜と飛鳥だが、ここでも驚いているのには理由がある。
例えるならそう、回転寿司だ。あの二貫ずつお寿司乗ったお皿がローテーションしてくるアレだ。
そのお皿の数倍はあろう器を取っては食べ取っては食べ、横に皿を積み重ね繰り貸すこと数十回。
その勢いは止まることを知らないのか、高さはさらに増すばかり。
しかも互いに互いを意識しているのか、競い合うように食していく。
(やるね.........!)
(そっちこそ.........!)
二人を見ているとそう言っているかのように見える。
いや、実際には能力を切っているから知らないが、結構当たってると思う。
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開始してからおそらく一時間は経っただろうか。
二人の食欲が予想以上だったのか、運営側は手が空いている者たちを調理班、配膳班、さらには食洗班を作るほどに混乱は極め、ついには料理を作れる夜椿、飛鳥、凪ですら駆り出されてしまった。
「バクバクバクッ!」
「ガツガツガツッ!」
「「ガブガブガブッ!───おかわり!ぐぬぬ......!」」
そんな状況を知らないし気づいてもいない二人は止まらない。出された料理は刹那の間に消え去り、役目を果たした器は熟練の技を彷彿させる速度で横に退かす。驚異で脅威な食欲は、自然発生した
────
そこにあるは、ものの抜け殻、ただの残骸、過去の遺物。
まさに人外、まさに災害、まさに天災。
人類はこの試合を通し、自然の恐ろしさをその身に刻み込んだ...............。
「こんなナレーションもいいと思うんだけどどうかな!」
「つべこべ言わずサッサと作りなさい!?」
「コクコク!?」(首を縦に振る音)
セリフは余裕を感じさせるがやはり大変らしく、必死に包丁で野菜を切り刻む。
夜椿に至っては残像で手元が見えないレベルだ。それを見た二人も負けじとペースを上げる。
『あっちは大変そうですね。』
『そうだね〜。』
『まるで他人事ね。』
『実際そうですし?』
逆に余裕が出てきたミカは
『僕は料理とかしないけど、君とか白夜叉ちゃんとかできるんじゃないの。』
『『和食以外は
ほぼ一字一句同じことを言うこの二人。料理に関わっていない俺たちはひたすら傍観者としてステージ上の惨状を見ている。
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それからさらには一時間が過ぎた………。
一体いつまで続くのだろうか.........観客は同じ光景を見続けてるにも関わらず見飽きない二人の激戦(激戦?)に声援を送り、運営スタッフは血眼になりながら料理を作り続ける。
なんか皆この雰囲気に毒されていないだろうか?やってることはただのフードファイトなのだが.........。
俺の思いとは裏腹に、試合は続いていく。
食べて、食べて、食べて、食べて.........食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食食食食食食食食食食食食食食食食─────おっと別の意味で毒されかけた。
そして勝負は唐突に終わりを告げる。
「「おかわりッ!!!............あれ?」」
ここからが勝負という場面で運ばれてこない料理に二人が戸惑う。
配膳される定位置に手を伸ばしても皿の感触を感じられず、目を向けても料理の姿を確認できない、待てど待てども、来ることはなかった。
慌て始めた二人に黒ウサギから連絡が入る。
『はい......はい......わかりました。えーとですね、非常に申し上げ辛いのですが、その.........食糧庫の備蓄が底をつきましたですハイ。』
「「!?」」
「ホッ.........。」
さすがに食材が尽きたようで、黒ウサギに運営側から通達が入ったようだ。悲しげな顔で驚きを隠せないのはこの会場で二人のみ、それ以外の人間は安堵していた。
その他にはコックをはじめ、ウェイター、ウェイトレス、係員たちは未だに呼吸が調わないようだ。
地面に潰れながらも必死に酸素を得ようと荒い呼吸を抑えようとしている。
夜椿と黒ウサギは意外にもケロッとしている。途中参加の夜椿は兎も角、最初からフルで動きっぱなしだった彼女が無事なのは"箱庭の貴族"だからなのか、それともこの忙しさと同レベルが日常だったのか.........。
『ふむ、どうしたものか。両者に出された品は味付け、量、タイミング。全てが平等に行なわれておった。これは.........まあ、こんな幕引きもまた一興。』
それでいいのか審判。
扇を口元に運び、妖艶な気配を醸し出す白夜叉に会場中が次なる言葉を待つ。
扇が開かれたのも束の間、パチンッとすぐに閉ざした本人、白夜叉の目にはなにかを決断したように思える。そして少なからず、愉快そうな色も見えた。
『この勝負────引き分けとする!!』
「ワアアアアアァァァァァァ!!!」
彼女の決断に間違いはなく、全員が納得していた。
実際俺もこの結果には納得している............二人を除いて。
しかし二人はなんだかんだで納得したのか、互いに顔を見合わせ微笑み合う。
「勝負はお預け.........今度、決着をつけよう。」
「うんッ!」
こうして最後の試合は引き分けとなり、総合的な勝利も三勝三敗一引き分けとなり引き分けた。
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『────皆の者、どうであった? 楽しめたか、はたまた恐怖に慄いたか、それは個人にお任せする。だが、決して忘れないでほしい。今日あった出来事を、接線を繰り広げた者たちの勇姿を、震えたち沸き起こる興奮を.........。必ずや、役に立つだろう。
以上を持って、"ノーネームvs新神教会"を終了する!!』
そう宣言した白夜叉は空いてる手を天に向ける。刹那────その手から上空に向かって閃光が迸る。その火球は火特有の熱でなくどこか優しさを感じさせる熱風を内包し、登り続ける。
観客全員が空を仰ぎ最頂点に達した時、光球は爆裂する。花火のような現象だが、花火とは違はまた違った幻想的光を生み出し観客の心を掴んだ。
『ここからが本番だ。皆の者、刮目せよ!!!!』
続けて打ち出された火球は時には螺旋を描き、時には交差しながらと、様々な動きをしながら舞い上がる。
そして続けて花火の下に現れた妖精、精霊、天使、女神たち。
天使たちの合奏に合わせ妖精や精霊たちは演舞や舞踏を舞い、女神は祝福の光を照らす。
見る者たちを飽きさせない彼女は、最強の
日も完全に落ち夜が支配する今この瞬間を箱庭の天井にある星々と白夜叉によって幻想的な空間と化す。
俺はこの光景を忘れることは出来ないだろうと、はしゃぎ回るユウキや椋に果林、空に見とれる凪と
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「それじゃあみんな、お疲れ様ーー!」
「いえーーーーいッ!!!!」
試合を終えた俺たちは、"ノーネーム"の本拠地に打ち上げのために招待された。
よくてアニメでしか見たことない"ノーネーム"だったが、初登場シーンの荒廃した土地ではなかったのはひとえに彼らの努力なのだろう。
そして始まった打ち上げは夜椿の音頭を皮切りにスタートした。
メンバーは今回出場したメンバー以外にも"ノーネーム"に住んでいる子供たちも参加している。夜遅くだが、子供たちをそのままにするのも問題なのでそれなら"ノーネーム"でしようということでこの場所で始めたそうだ。
「いやー、楽しかったねぇ。」
「まあ、ね.........。」
俺に話しかけてきた夜椿。周りでは様々な種族の子供たちがはしゃいでいる。正直想像以上の人数で驚いている。因みに今飲んでいるのはちゃんとした100%ぶどうジュース。どうやら夜椿は性懲りもなく気分だけでもワインを味わいたいようでそれらしき雰囲気を味わえるものをチョイスしたようだ。
「アルコール入ってないから別にいいだろ。」
.........誰に言っているのだろうか?
「どうしたの?」
「いや、こう言わないといけない気がしてさ。なぜだろう?」
「そんなことはどうでもいいのよ。問題は────。」
続けて言葉を発しようとしたが見た感じ六歳ほどの男の子が駆け寄ってきた。
「よつばおにーちゃんすごかったね!」
「ハハ、ありがと。」
「ぼくもお兄ちゃんみたいになれるかな?」
「んー.........まあ、ここは天下の箱庭だし。いろんな敵、いろんな友、いろんな出会いを経験すれば或いは.........ね?」
「うーん.........。」
どうやら夜椿に憧れたようだ。
が、まだ少年には難しかったようであまり理解していない様子。このくらいの子供にはよくあることだがやはり微笑ましい。
「────でも。」
「でも?」
「君が強くなるなら、俺だってもっともっと強くなる。追いかけてくれるかな?」
「─────うんッ!!」
「そっか.........ほら、みんなのとこに行きな。」
流石と言えばいいのか少年にしっかりと言葉を送り、納得したように少年は他の子供たちの所へ走り去っていく。
ちゃっかりミカが馬役をしているがあの様子だけを見ると普通の神父か保育士に見えるから不思議だ。
すると今度は女の子が近づいてきた。
「あ、あの! あの............。」
「ん?」
どうやら夜椿ではなく俺に用があるようで夜椿は飲み物を注ぎに行ったようだ。
少女は俯き、体をモジモジしている。
その姿に苦笑しながら俺は少女に尋ねる。
「私に何か用かしら?」
しばらくはモジモジしていた少女だったが、意を決したのか頬を赤くしながら勢いよく答えた。
............俺の予想の斜め上の答えを。
「───どうやったら
俺の体からピシッと何かが固まった音が聞こえてきたのは幻聴ではないはず。
しかも夜椿が歩いて行った方向からブフッと何かを噴出した音も。
何か失礼なことを言ったのかと女の子はあわあわしだす。
......いや
が、やはり年端もいかない子から言われるのは少し、ほんの少しだけくるものがある。
俺は数分かけてこの少女の質問に答える。
「いい?あなたは十分可愛いわよ。もっと自分に自信を持っていけばいいわ。」
「そうすれば、おねえちゃんみたいにきれいになれますか?」
「え、ええ.........もちろんよ.........。」
「わかった。ありがと!」
何とか少女の質問を解決し、満足させることが出来たようで少女は走り去っていく。
元からこの容姿なのでなんだか少女に悪い気がするが頑張った俺を褒めてほしい。
そして先ほどの質問によって生まれたもう一つの問題であり、おそらく元凶をかたずけなければならない。
「アハハハハッ!腹筋が、崩壊する.........!? アハハハハ!!!」
「はあ............。」
さっきから見ててイライラするほど爆笑している
この様子を見て頭を抱えため息が出てしまう。
なぜ俺が夜椿を元凶といっているのかそれは──────
いつまで女装してればいいのだろうか?
これに尽きる。第三試合"羞恥の変貌"。このゲームが終わってからも、俺はずっと猫耳パーカーという可愛らしい格好をずっと続けている。途中から妥協案として、自身も女体化することによっていくらか誤魔化していたが、気づいたのだ。
ここに来る前にズボンやパーカーやらを着替えようとしたのだが、脱いでも脱いでも自身の身体に戻ってくるのだ。終いには着替えた服を脱いだ服が脱がせてくるというわけのわからん現象が起きたのだ。結果、今に至る。
「あなたのせいでしょ、夜椿?」
「えーなんのことですかー?」
どうやらそこまで隠す気の無いようで棒読みで話すコイツに思わず殴りかかったのは仕方ないだろう。
設定能力を使いラッシュをするが、夜椿に全て避けられる。
さらに夜椿は近くにいたらしいユウキを呼ぶ始末。
「あ、そうだった。ユウキ! ユーウーキー!」
「夜椿さん、大声出してどうしたの?」
「お前の歌って好評だったじゃん。だから念のために録音してた音声があるんでけど、CDにして売っていいかな?本人の許可は流石に必要かなーって思ってさ。」
商魂逞しいなコイツ.........。
まぁユウキだったらこの手の質問には──────
「なんだ、そんなこと?全然いいよ!」
──────二つ返事で許してくれるだろうが。
「サンキュー。売り上げの一割ぐらいは渡す予定だから楽しみに待っててくれ。」
「え?でも.........。」
「遠慮すんなよ。他人の厚意は受け取っとくもんだぜ?」
「───ありがとう!!」
意図せず周囲も和ませるその笑顔は最強の矛と言える。
彼のセリフも中々響くはずなのだが.........彼の性格が全てをぶち壊している。
「恭子(笑)にも売り上げいくから楽しみにしてろよ。」
「お金はいいから
やはり最後まで締まらない。
「ところでさー。」
再び始まった椋対耀のフードファイトを三人で見ていると唐突にユウキが喋りだした。なにやら気になることがあるらしい。
「夜椿さんの特典ってなんなの?」
............おっと。いきなりドギツイことを聞き出したユウキに放心状態になってしまった。彼女は遠慮というものを知らないのだろうか?ズバズバ切り込んでいくのは彼女のスゴイとこだが、その気概にいっそ関心すら持ってしまう俺は正しい反応だろう。夜椿を見る限り向こう同じ気持ちらしい。
何故ならアニメやら漫画でよくある特殊能力とはソイツの切り札である場合が多い。
主人公やライバルキャラは基本的に流れで能力を言うことがあるが自分から話すことはあまり無い。
自分から話す奴は大概自信がある奴か、バカしかいない。
現に俺も人外魔境のこの箱庭でも自分の能力を口に出して使用していない。夜椿もそうだ。
「俺の能力?教えたくないんだけどな~。」
「そこをなんとか、このとおり!お願い!!」
やはり夜椿も話したくないらしく露骨に話を逸らそうとしている。しかしユウキは小悪魔のような可愛らしい表情を一瞬見せ、頭を下げつつ、頭上で手を合わせお願いする小悪魔的に笑いかける。
見た目は美少女だ。意志が弱い奴は引っ掛かるだろう。流石は悠○さんというべきか......。
まぁそれでも夜椿には効かないだろう。
「うん教えてあげる。」
教えるのかよっ!!!!
「「えぇ.........。」」
ユウキと俺、二人して絶句。
聞き出そうと強く願った本人すら呆れる始末だ。そりゃダメもとのつもりで聞いたのに簡単に教えるとは思わないだろう。
「あ、でもさ。お願いがあるんだけどいいかな?」
しかし、そんな夜椿でも自分だけ教えるのも不味いのだろう。
何か条件を出してきた。ギブアンドテイクだな。
相手の能力を把握できるなら簡単な希望くらい構わないと考えた俺は何かしら?と試しに聞いてみることにした。
すると夜椿はその返答に気分を良くしたようで、俺に予想外の一言を言い放つ。
「恭弥の能力も教えてくれる?」
「───ッ!?」
.........これは流石に俺が甘かったな。此方が警戒するのだから向こうも当然警戒してるだろう。
おそらく強力な力を持っているから俺たちの力自体眼中にないと思ったが.........。
しかもこちらから質問した上に『お願い』を聞いてしまったのだ。いまさら「無理。」なんて言えないだろう。今までの行動で勘違いしていた夜椿への評価を改める。
「.........はあ、わかったわ。私も話す。だからそっちのこともしっかり教えて頂戴。」
「潔い対応に感謝するぜ。」
完全に一本取られた状態の俺は夜椿の提案を仕方なく受け入れ、ため息を吐く。
その様子が楽しいのかそれとも引っ掛かったことが楽しいのか此方を眺める夜椿は楽しげに見えた。ユウキはというと、自分のしでかした事の重大さに罪悪感を抱いたようで少し物憂げだ。
が、持ち前のポジティブ思考で前を向く。
(お兄さんの能力は知られたところで、いくらでも応用が利かせるからまだ大丈夫。問題は夜椿さん、この人の能力をしっかり分析して穴を見つける。それでデメリットは帳消しだね。)
ユウキは本人ではないとはいえ、しっかりと原作とほぼ同じ存在だ。
かくゆう俺も能力の使い方次第でどうにかなると高をくくっていた。.........それすらも無意味だと知るまでは。
万能に対抗するには究極の一か此方を超える万能でしか勝てないのに。
「俺の能力はこの紙に全部書いといたぜ。」
「私も準備が出来たわ。」
口頭では伝えにくいので互いにメモを書き、情報を交換する。
驚愕。
メモを見た瞬間にまずそう思った。
(なんだよ、この性能。チートにもほどがあるぞ。『全ての世界に存在する技術、知識を十全に扱う』だって?......ありえない。いや、夜椿ならこの位やりかねないのか?それでも規格外すぎるだろ!?)
(お兄さんの能力と同系統。でも、夜椿さんの方が強力すぎる.........
対策を講じるために思考をリンクしている俺とユウキだが互いに策が出ない。
夜椿を敵に回した時を考えるなんて
コイツの前ではどんな能力だろうと無力すぎる。
俺の能力はあくまで「生前所持していたゲーム、漫画、ラノベにある全て」。
もし使用している力の出所を知られたら速攻で対抗策を練られ対処されるだろう。設定能力ならいけるかも知れないが、元のスペックに差が在りすぎる。それは今回の試合でハッキリしている。
こうなった俺に出来る事といえば夜椿を敵に回さないようにするしかない。
どうにか噴き出る汗と震える唇を無理矢理抑え、夜椿の様子を伺う。
夜椿はこちらのことなど眼中にないのか特に動揺した様子もなく、言い放つ。
「まあ、なんだ。お互い様だな。」
「そうね.........(何処がだよ!)」
俺の強化版ともいえる夜椿に恐怖に似た感情を抱く。
しかし俺と同じように夜椿の能力を知ったはずのユウキは───
「これからもよろしくね、夜椿さん!」
さっきまでの警戒心を完全に無くしたわけでは無いようだが、互いに警戒することよりも歩み寄ることを選んだようようだ。
無邪気な笑みを浮かべ警戒心と恐怖心に包まれかけていた俺の心はその笑顔を見て穏やかになる。
(少し、考えすぎたな。)
今回はあくまで互いの情報交換だ。決して敵対し、腹の探り合いをするためではない。
だからこそ俺たちは笑顔で互いの手を握るという行為するのだ。それが互いの平和とそれを望んだユウキのためでもある。
「とにかく、これからもよろしく。」
「こちらこそ。」
差し出された手を互いに取り合い、親睦を深める。
なんだかんだ言って俺たちは似た者同士らしく、互いの楽しみのためならなんでもする自己中であり、自分以外の人たちも巻き込み皆で楽しむことを喜ぶのだ。
だから俺たちはその時を全力で楽しむことにした。
こうして二人の駄神のしょうもないケンカから生まれた長い長い一日が終わり、元の世界に帰った俺たちに待ち受けていたのはミカや俺の存在に関わる出来事だった。
如何だったでしょうか?
久々の大長編、キツかったです( ̄▽ ̄;)
次回からは本作の暗殺教室編再開です!