ラブライブ!-女神と武神のアイドル戦極記- 作:Professor灰猫
そこは、とあるラーメン激戦区の一角。
秋葉原に建ち並ぶ、有名ラーメン店の間に挟まれている小さな店。外装はボロボロで歴史を漂わせるように、ペンキが剥がれ落ちる。のぼりも破れに破れ、タダの布切れのようになっていた。
だが、入ってみればどうだろうか。綺麗に整えられた木製の長机、椅子。しっかりと手入れがされているようだ。床は白くピカピカに拭かれ、メニュー表も真新しい。扉を開ければ「へい、らっしゃい!」と亭主や店員が、元気に挨拶してくれる。その人当たりの良さから、ネットでの評価も非常に高い。ラーメンの味や種類も伊達では無い。ここはラーメンの種類だけでも、三十種類はあるだろう。食欲をそそる、香ばしい香り。
そして今日、常連客である一人の少女が麺を啜っていた。
「ん……昨日のは本当に何だったんだにゃ……」
彼女、星空凛はラーメンが好物である。ラーメンを見てラーメンを食べるなら、大盛り三杯はいけるだろう。何を言っているのか分からないだろうが、そんな少女なのだ。
だが今日はどうだろうか。彼女の食べているとんこつラーメンは、何処からどう見ても並盛である。これは彼女にとっては異常事態である。ラーメン猫娘からラーメンを取ったらどうなるか? 猫娘になってしまう。その異常に気付いた亭主は声をかける。
「なぁ凛ちゃん。今日はどうしちまったんだい?」
「あ……えっと……食欲が無いだけだにゃ」
「そりゃ大変だ」と驚き顔の亭主。流石にそれは失礼だと、凛の内心。しかし、これは今はいない幼馴染みの小泉花陽が見ても驚くであろう。何せそれ程まで凛はラーメンが好きなのだから。
ラーメンが喉を通らない理由は幾つかある。一つ目は昨日、猫を追いかけて入って行った森の中。そこはファスナーの様な割れ目から入る事ができ、入れば延々と続く森。その森も蔦が張り巡らせていて、奇妙な紫色の果実がなっている。それを見れば恐ろしい程までの食欲に襲われ、危うく食べる所だった。そう考えると、視線を逸らしてくれた野良猫に感謝感激である。
二つ目は、その森の中で見た牛の怪物。その牛の怪物は凛の身長よりも遥かに大きく、頭には巨大な角。手に持っていたのは巨大な斧。そして二足歩行で歩いていた。更には灰色の鬼の様な怪物を何体か引き連れて。その姿は正におぞましく、今思い出すだけで身震いがする。あの後、先輩達に聞かれるだけ聞かれ、自分達には何も教えてくれなかった。
そして一番の原因の三つ目。それは怪物達と戦っていた黒鬼。黒鬼と言うよりは、髑髏のライダーとでも言うべきだろうか。兜と言うべき部分は、かの武田信玄の兜を想像させるように白い鬣が生え、何故か『十五』とデザインされた角。顔は真っ黒で、身体の鎧はまるで髑髏そのまんまであった。何より目を引いたのは、右手に持っていた長剣。あれは玩具なんかでは無い。完全に化物を斬る為のモノ。そして身体から放っていた、ドス黒い殺気。アレを見た瞬間、押し潰されそうだった。
だが、その黒鬼が凛と花陽を見た途端、漂わせていたドス黒い殺気が消え、動揺しているのか長剣を地面に落としていた。そして凛と花陽を脇に抱え、野良猫を手に持ちながらあの森から追い出した。はっきり言わせてもらおう。本当に怖かった。
しかし何故、私達を助けてくれたのだろうか。何故、花陽を『かよちん』と呼んだ。かよちんと呼ぶ人は自分以外に限定されている。呼ぶとしたら自分と出雲朱果ぐらいだろう。
なのに、何故だ。あの懐かしいような感じは。前にも会ったような気がするのは。自分と朱果以外に"
『■■!』
「……?」
分からない。そんな人は居なかった筈だ。居たとしても、何故あの黒鬼と姿が重なるのだろうか。でも、思い出そうとしてもボヤける。顔も、言葉も、身体も。
「凛ちゃん。早く食わねぇと麺、伸びちまうぞ」
亭主の言葉にハッとなり、手元のラーメンを見てみる。ある程度食べていた筈なのだが、元の量に戻っている。考えている内に、麺が汁を吸ってしまったのだろう。
此処で考えていても仕方ないので、ラーメンを先にいだだこうとしよう。麺を啜り、口の中で噛み締める。麺が吸ったとんこつのスープが、口の中にジワッと溢れ出てくる。勿論、汁を吸って伸びた麺はあまり美味しくは無い。勿体無い事をしてしまったなと、凛は後悔する。
麺を食べ終わり、とんこつのスープの最後の一滴を飲み干した。ふぅと息を吐き、水も飲み干して少し落ち着いてから立ち上がる。さて、代金を支払おうかと言う時に、自らの異常に気付いた。
「……あれ?」
ジーンズのポケットを手を突っ込んであさりに漁る。だが、無いのだ。
「(財布が無い……)」
そう、財布だ。思い返してみると、ずっと考え事をしていたせいで財布を自分の机の上に忘れてきてしまったのだ。熱いラーメンを食べた後の汗とは違う、もうラーメンを食べる事が出来なくなるという冷や汗が、凛の背中をタラタラと垂れていく。
此処の亭主は、確かに人当たりも良く優しい人である。しかし、金銭面に関してはとんでもなく厳しかった。前に今の自分と同じ様に財布を忘れた人が居た。その人は亭主に怒鳴りに怒鳴られて、この店を出禁となった。その時の絶望した顔は、今でも忘れられない。
「凛ちゃん?」
まずい。亭主が異変を感じて声をかけてくる。今、凛の頭の中に浮かんで来るのは、前に此処で食べたラーメン達。まるで我が子の様に可愛がっていたラーメン達。まるで走馬灯の様に、次々と浮かんで来る。
あぁ、さよならラーメン達よ。凛は今日、この店を出禁になる。私が居なくても美味しく食ってもらえよ。
「亭主。この娘の分の代金もだ。頼む」
「おっ、あいよー!」
すると横から細い筋肉質の腕が伸びてくる。その手には千円札と小銭。何と凛の分まで払ってくれたのだ。一瞬、凛は何があったのか分からなくなる。
「え?」
振り向くと、黒。ベリーショートの黒髪に、服は黒のTシャツ。ズボンも黒っぽいジーンズを履き、第一印象は黒だった。身長は170センチはあるだろう、凛が見上げないといけないくらいだ。肩幅は割と広く、きっと運動をしているのだろう。
その男がラーメン屋の扉を横にガラガラと開いた音で、凛は動き出した。閉じそうになる扉を手で抑え「ご馳走様」と軽く挨拶をして、ラーメン屋を飛び出す。そう、この黒い男に着いていこうと言うのだ。自分でも何故そうしたかは分からない。ただ何となく着いて行った。
その男は何処かで立ち止まることなく、延々とアスファルトの道を歩いて行く。凛は少し距離を置きながら、とぼとぼと着いて行った。
そして等々、公園に入って行きベンチの前で止まった。凛も男が急に止まったので、下を向いて歩いていたもんだから、男の大きな背中にぶつかってしまった。
「にっ……」
「何で着いて来る」
まるで猫の様に、声を漏らして鼻を摩った。すると男は凛の方を振り向き、低い声でそう言ってくる。凛は何も考えずに着いてきたもんだから、戸惑った。
「えぇっと……何で、凛のお金も払ってくれたのかなぁ……って」
「はぁ……別に何でもいいだろ」
そうぶっきらぼうに呟くと、ベンチにドスンと座った。凛はどうしていいのか分からないので、取り敢えず男の目の前を通ってみる。
男の顔は声のイメージと違い、自分達と同じ位に幼い。その目線から少しビックっとしていまう。その鋭く尖ったツリ目は、凛を睨みつけるかのように。顔は中々に険しい。だが、やはりイケメンなのだろう。凛も年頃の女の子なのだ。少しドキッとしてしまう。
「……何だ?」
「あっ、いやお兄さん、何だか前に会った事があるような……」
ハッと、今自分は何と言ったのだろうか。突然、変な事を聞いてしまった。凛の記憶の中にはこんな男、見た事が無い。なのに何故、聞いてしまったのだ。凛の顔が少し赤くなる。だが、男の反応は少しイメージと違った。
「お前が会った事があると思えばあるのだろうし……無いと思えば無いんじゃないか?」
「いや、それどう言う意味にゃ」
咄嗟にいつもの猫語が出てしまう。思わず口を塞ぐが、もうとっくに遅かった。その男は気にしている様子も無く、気だるそうにベンチに背中を垂れかける。何故だか、この男が言っている事は正しい気もしてきた。
確かに会った事があると思えばあるのかもしれない。一度は、この男を見た事があるのかもしれない。こんな広い秋葉原だ。日本人だって、外国人だっている。それでもこの男と会った記憶は思い返せない。いや、無いに等しい筈なのだ。
「お兄さんはラーメン好きかにゃ?」
「まぁ……好きっちゃ好きだな」
凛もベンチに腰掛けて、急に話題を変える。そうでもしないと、この場の空気が持たない。凛の唐突な質問に、男はちゃんと答えるのだ。
この男とは本当に会った事があるのか? だが、記憶を漁っても漁っても……思い浮かばない。しかしこの話安さは、かなり異常だった。いや、この男がただ話安い男なのかもしれないのだが。名前を聞けば分かるか? いや、
「お兄さん、名前は?」
聞いてしまった。此処で確実に凛の顔は、真っ赤に燃え上がっていたであろう。普通だったら「はぁ?」や「おいおい、ナンパかよ」と言ったような反応であろう。しかし、男は静かに答える。
「
「きがい……?」
『葵骸』とは特殊な苗字なのだなと思う。いや『星空』という自分の苗字もかなり特殊なのだろうが、葵骸とは本当にここら辺では聞かない苗字だった。ならば、と珍しい苗字なら思い出せる筈だ。
駄目だ。そんな苗字を持った人間は、此処で会ったのが初めてであろう。最低、記憶の中には葵骸という苗字すら無かった。知り合いに、煉という人物が居たかも分からない。
「思い出せないにゃ……」
「……そうか」
何故か煉は哀しい顔をして、空を見上げていた。煉も自分を知らないのなら、知らないと言えばいいんじゃないだろうか。だったら何故────? 自分も知らない、相手も知らない。なのに何だか────
懐かしい。
『■■! ■■■■!』
「…………」
また、だ。懐かしくても、思い出せない記憶。何かに妨げられて、視界が霞んで、手も届かない。きっと私と誰かの事を呼んでいるであろう、誰か。凛と花陽と朱果と……もう一人。一体、誰だったろうか。もしかして、この男がそうなのか?
きっとこれは、小学校の頃の記憶だ。凛と花陽と朱果と、その分からないもう一人で遊んだ記憶。いや、私達はずっと三人だった筈だ。そこにもう一人なんて、有り得ない。
そうだ、小学校の卒業写真を見てみたら分かるんじゃないだろうか。それなら後、もう一人の顔写真も写っている筈だ。写っていなかったら、記憶違いなんだろう。
吹く風の中、聞こえてくるのは猫の声。にゃー、とか弱い声が聞こえてくる。それも上の方からだ。見ると虎猫が一匹、桜の木の太い枝にポツンと縮こまっている。きっと降りれなくなってしまったのだろう。
「どうした?」
「あ……」
すると煉が凛に声をかけて来る。凛が突然、ベンチから立ち上がって上を見上げるもんだから、驚いてしまったのだろう。煉も見上げて、その異変に気付く。
凛は木を登って猫を降ろそうかとも思った。だが、彼女は猫アレルギーである。触れてでもしてしまえば皮膚は気触れ、くしゃみが止まらなくなる。酷くしてしまえば呼吸困難に陥るだろう。猫を助けたいにしても、黙って見ているしかなかった。
「あの猫か?」
「でも……」
助けたくても助けられない。何故、猫が好きな自分がこんな風な猫アレルギーを患っているのだろうか。相変わらず自分は無力である。
「分かってる……猫アレルギーなんだろ?」
「えっ……?」
煉が呟いた言葉に驚き、隣を見てみるが煉の姿は見当たらない。次の瞬間、上で物音がした。見上げれば煉が木の枝に移動し、虎猫を抱き抱えている。ほんの一瞬に何があったのだろうか。だが、
「おい、暴れんな」
虎猫は毛を逆立てさせ、煉の右手にガブッと噛み付いていた。甘噛みなんかでは無く、獲物を捕らえたかのような力強い噛み方。見る方も痛々しい。
煉が枝からスタッと降りてくるが、虎猫は噛み付いた手を離そうとはしなかった。流石の凛もアワアワと戸惑っているが、煉は構わず虎猫の首を掴み強引に引き剥がした。虎猫を降ろすと走って逃げていく。煉の右手からは真っ黒な血がポタポタと垂れていた。
「ちょっと待って」
「あ……?」
凛は血だらけの右手を手に取り、ポケットから猫の刺繍がされたハンカチを取り出す。そのハンカチを広げて、虎猫に噛まれた傷口に当てる。ハンカチに血が滲んでいくが気にせず、布の端と端を結んで固定する。これで軽い止血が出来たようだ。
「猫ちゃんを助けてくれた御礼……かな? ラーメンのお代はまた別に……」
「…………」
煉は手に結ばれたハンカチをじっと見つめていた。そんなに変なハンカチだっただろうか。だが、煉は暫らくすると顔を上げて、
「ありがと……な」
「っ……?」
無愛想に御礼を言った。だが、凛には煉が微かに笑ったかの様に見えた。いや、確かに表情は変わらなかった筈なのだが。自分は一体、何を意識しているのだろうか。
懐かしい。やはり何かが懐かしいのだ。あの黒鬼とは違う何かが。何故、煉というこの男から懐かしさを感じるのだ? 面識は無い。
でも、それでも。
「凛ちゃーん!」
「あっ……かよちん」
後ろから自分を呼ぶ声。それは走ってくる、眼鏡をかけた花陽だった。そういやラーメンを食べた後は、花陽の家に遊びに行く予定だったのだ。あまりにも遅いから探して、迎えに来てくれたのだろう。凛の前で立ち止まり、いつもの様に膝に手をつきながら深呼吸。顔を上げると不思議そうな顔をした。
「凛ちゃん……? この人は?」
「えっとね……凛、家に財布忘れちゃって。代わりに払ってくれた人だにゃ」
「えぇぇっ!? 駄目だよ凛ちゃん、家に財布忘れちゃ! お騒がせしました……」
「別に……構わん」
花陽がペコリと、凛の頭と同時に自分の頭を下げる。煉は溜息をつきながら、その姿を見ていた。少し頭を下げた後、顔を上げた花陽が凛の手を取る。「行こう、凛ちゃん」と手を引っ張った。
「じゃーね、葵骸さん!」
「しっ、失礼しました!」
凛は笑顔で煉に大きく手を振った。花陽は煉の目付きにビクビクしながら、挨拶をして凛の手を引っ張って行く。姿が見えなくなるまで、煉はその後ろ姿をじいっと見ていた。
「じゃあな……
嘗ての幼馴染みである二人の名前を呼ぶ。
その声は二人には届く事が無い。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ラーメンの代金を払ってくれた少年、煉と公園で別れた凛。花陽と二人で横に並んでその道を歩く。ふと、やってみたい事があった。
「ねぇ、かよちん」
「何? 凛ちゃん」
「小学校の時の卒業アルバム、今日見てみてもいいかな?」
「……? いいよ?」
小学校の卒業アルバムに、きっと全ての答えが載っている。あの懐かしい感じ、煉という少年。花陽や朱果の他にいた誰か。それが一体、誰だったのか分かる筈だ。久しぶりに昔を思い返してみよう。小学校といえば、あのトラウマとも向き合う事になるのだが。
そういや、あの猫の刺繍をしたハンカチは、誰がくれた物だっただろうか。親に買って貰った物では無い。花陽からも、朱果からも貰った物でも無かった。
もしかしたらその誰かがくれた物だったか? 覚えてはいない。だから今、思い返してみるのもいいかと思う。
『りん! かよちん!』
そして煉とまた逢えるであろうか。それなら今度は花陽や朱果も連れて、ラーメンを食べに行こう。ついでにラーメンの代金も返さなきゃならないのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
"骸"の手にあるのはくしゃくしゃになった一枚の写真。哀しそうな目線の先には、スーツを着た四人の少年少女が写っている。
一番、左側にいるのはオレンジ色の髪の色。ショートヘアーの少女だった。その少女は隣のベージュ色の髪をした大人しそうな少女に引っ付いている。更にその隣には、黒髪のタレ目な少女。この中では一番身長が小さく、物静かな雰囲気を漂わせていた。その隣、一番右側には一人の少年。隣の少女と顔が似ているが、ツリ目で目付きが鋭い。
そして、その後ろにある建物は小学校。桜が舞い、新学期が始まりそうな柔らかい雰囲気。誰もがこの写真を見たら、この少年少女の入学式を想像するだろう。
「……っ!」
"骸"は突然襲ってきた殺気に気付き、後ろを振り向くと共にその写真をジーンズのポケットに突っ込む。右手に黄泉丸を持ち、その殺気の塊の攻撃を迎え撃った。
それはヘルヘイムの森の住人、インベスであった。その姿は紅い、ライオンインべス。気付けばその後にはクラックが開いており、他にも三体の初級インベスが飛び出してくる。完全に野良のインベスだ。脳裏には謎の男と、巫女の姿が浮かんだ。
「"蛇"の言ってた通りか……? "運命の巫女"の力が弱まってきている……いや」
その"蛇"が言っていた通りなら、武神の影響力も抑える"運命の巫女"の力が弱まり、反逆するインベスが出てきたのだろう。だが、別の化物の姿も浮かんできた。何故ならクラックから、青い蝗の様な化物も出てきたからだ。
「"コウガネ"が復活しようとしている……のか?」
"コウガネ"と呼ばれた、あの腐った林檎の事だ。まさかあの姿で地下帝国にさえも抗い、単独で行動しようとしているのだろうか。なら巨大なヘルヘイムの器である"骸"か、写真に写っていた"理由無き悪意に影響されない女"を自分の身体として求めているのだろう。それか他の器か……ならば。
「消すまでだ……な」
そう、消すまでである。この世界から消してしまえば何の問題もない。ただ自らの欲望の為に腐っていく金メッキも、"骸"の異能の力を使って現世と黄泉の世界をひっくり返そうとする地下帝国やカルト宗教も。
"骸"は戦極ドライバーを腰に当てる。長い骨の様なベルトが伸びて、"骸"の腰に戦極ドライバーを固定させる。そして取り出したのは肋骨が彫られた錠前『フィフティーンロックシード』だ。その錠前を"骸"は右手で解錠する。
『フィフティーン!』
『フィフティーン』それは地下帝国が創った、悪のアーマードライダー。その悪のアーマードライダーの器には、この"骸"が選ばれた。なら何故、"骸"は地下帝国に背いているのだ。それは"骸"自身にしか分からない。
解錠されたフィフティーンロックシードを"骸"は手放すとゆっくりと落ちてゆき、腰の高さの辺りで止まった。すると戦極ドライバーの窪みに自動的に嵌め込まれ、"骸"は叩くようにして施錠した。
『ロックオン!』
インベスがいる殺戮と化した公園に流れゆくギター音。そして"骸"の上空に出現する骨のクラック。そこからは巨大な"髑髏"が現れる。激しく荒ぶるようなその空気を斬るように、"骸"はカッティングブレードを下ろした。
「変身……!」
奇妙な音楽と共に、頭上の髑髏を被った"骸"。身体が黒いライドウェアに包み込まれ、胸には六本の骨が伸びてくる。そして髑髏は消え、六本の骨は鎧に。出てきた兜には十五。そう、"骸"はアーマードライダーフィフティーンへと姿を変えたのだ。放たれる黒い殺気に、知能が少ないインベスでも身構えた。
だが次の瞬間、一体の初級インベスの視界が紅く染まる。その初級インベスは黄泉丸の串刺しになっていた。背中の硬い装甲も貫かれ、身体からは赤緑の鮮やかな血しぶきが飛び交う。他の初級インベスや蝗の怪人も後ずさった。
黄泉丸がズルッ、と音を立てて抜かれ、それに付着した返り血をフィフティーンは、黄泉丸を縦に一振りして払った。また、動き出す。
次には二体の初級インベス身体が、横に真っ二つになっていた。頭部は地面に勢い良く落ち、下半身はだらし無く膝をついた。辺り一帯が血塗れになる。
普段は"コウガネ"にただただ従う筈の蝗怪人も、その光景には恐怖していた。そして考える間もなく、蝗怪人の身体はバラバラになっていた。その分散した蝗の数匹はクラックの中に逃げる。そして残った数十匹は。
『フィフティーンスカッシュ!』
ギター音と共に、黄泉丸から放たれた黒いエネルギー刃によって消し飛ばされた。もう蝗怪人に関しては跡形もない。初級インベスの死体も消滅していき、血溜まりも蒸発するかのように消えていった。
「…………」
"骸"であるフィフティーンが行動した場所には、もう何も残っていなかった。ただ静かに風が吹く公園。この静寂が続くかと思われていた。だが、そんな事は叶わない。
「貴方が謎のアーマードライダーね?」
男とも女とも取れない、気持ち悪い声が響く。その声の方、自らの後ろを振り向く"骸"。その先には男が四人。公園の入口に仁王立ちしていた。
「だったら、どうする……?」
「勿論、ワテクシ達に捕まって頂きますわよ。ユグドラシル以外のアーマードライダーは皆、敵……それだけで理由は充分でして?」
男……いや、オカマ。その坊主頭のオカマ、凰蓮・ピエール・アルフォンスは"骸"の問に答える。どうやら"骸"を捕らえに来たようだ。"骸"は金メッキからも、地下帝国やカルト宗教からも、挙句の果てには大企業であるユグドラシル・コーポレーションからも、十五人いる武神ライダーからも狙われている存在だ。こんな事、日常茶判事である。
「随分と余裕があるようだが……僕達を相手にして勝てると思うなよ」
「城之内……挑発も大概にしとけよ」
「っ…………」
眼鏡をクイッと上げて挑発してくる城之内秀康。だが、緊張した空気を漂わせる赤と黒の衣装を着たザック、ペコ。そして全員の腰には、戦極ドライバーが巻かれている。四人の手にはそれぞれ、ロックシードが握られていた。
「変・身!」「変身!」「ふぅ……変身!」「へっ……変身!」
『ドリアン!』
『ドングリ!』
『クルミ!』
『マツボックリ!』
それぞれロックシードを解錠する。上空にはクラックが開き、ドリアン、ドングリ、クルミ、マツボックリの形を象った鎧が降りてくる。四人はロックシードを戦極ドライバーに施錠する。
『『『『ロックオン!』』』』
響いてくるギター音、ファンファーレ、法螺貝の吹く音……四人はカッティングブレードに手をかけて、勢い良く下ろした。
『ドリアンアームズ! Mr.Dangerous!』
「さあ始めますわよ! 破壊と暴力のパジェントを!」
その姿はまるで悪役の世紀末。展開されたドリアンの鎧は刺々しく、頭には赤く鋭いモヒカンがデザインされている。
『ドングリアームズ! Never・Give Up!』
「まっ、僕自身が戦いに参加するかは分からないけどね」
茶色く丸っこい姿に変化する。ドングリの鎧が展開されても非常にスマート。
『クルミアームズ! Mr.knuckleman!』
「ふぅ……行くぜ!」
黒い古代の鎧をモチーフにしたような姿。クルミの鎧はかなりゴツゴツしている。
『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・インザシャドウ!』
「…………」
和風の足軽デザインにゴーグルアイ。マツボックリの鎧はドングリ同様スラッとしていた。
するとグリドンと黒影がそれぞれ三つ、計六つのロックシードを取り出した。黒影の方にはオレンジ、バナナ、ブドウ。グリドンの方にはパイン、マンゴー、キウイが握られている。そしてそのロックシード全てを解錠した。
「……ほう。数で来るか」
そしてフィフティーン、ブラーボ、グリドン、ナックル、黒影、六体の上級インベスを囲むように特殊なフィールドが張られる。それはまるでレスリングの、リングの様であった。そのフィールドには電磁結界が張られていて、逃げ出す事は叶わない。するとブラーボに無線が繋がってきた。
『やぁ。謎の"アーマードライダーフィフティーン"は見つけてくれた?』
「見つけましたわ、プロフェッサー戦極。今からミッション開始と行きましょう」
無線のイヤホンから聞こえるのは、若い女の声。それはこの戦極ドライバーの開発者でもある『戦極』の声であった。彼女は笑っている。
『賢虎や光真くんとか幸汰くんには内密な仕事だからねぇー? 危なくなったらさ、私も行くけどー?』
「依頼された仕事は必ずこなします。それがプロフェッショナルですから」
ブラーボは淡々と答えていく。この仕事には自信があったのだ。
『そうー? んじゃ、頑張ってねー』
プッ……っと無線が切れた。ブラーボ達はフィフティーンと対峙する。
数はこちらがアーマードライダー4人、インベス6体に対して、相手はアーマードライダー1人だけである。数ではブラーボ側の方が、圧倒的に有利であった。
『Battle Start!』
ロックシードの機械音と共に、ブラーボとナックルが動いた。
ブラーボは真正面からドリノコを構えて走る。ナックルは一旦、フィフティーンの後ろ側に回り込んで、叩くという戦法だ。対人慣れしていないグリドンと黒影は、上級インベスの指示に専念した。
「ハッ!」
「……フン!」
ドリノコと黄泉丸の刃が交える。ジリジリと火花を散らせて動かない……かと思いきやいきなりブラーボが押され始めた。
「……! 只者じゃ無いってわけね」
ブラーボは元々、フランスの軍隊に所属していた軍人だ。そんやそこらの人間だったり、力に自信のある男ですらも倒せるのだ。なのに、そのブラーボが押されている。という事はフィフティーンの変身者も相当な腕前の様だ。
『クルミスカッシュ!』
いきなりのギター音。フィフティーンはブラーボを蹴り飛ばし、後ろを振り向き黄泉丸で防御する。危うく、ナックルのクルミボンバーに纏った、クルミのエネルギー玉をまともに食らうところだった。
だが、右方向からの衝撃。フィフティーンはよろめき、更に左方向からの衝撃にも襲われる。
「敵は二人じゃないんだよ」
グリドンがそう笑う。攻撃してきたのはグリドンが操るシカインべスと、ライオンインべスであった。フィフティーンは一度ついた膝から、立ち上がろうとする。
しかし、後方からの斬撃。セイリュウインベスの爪であった。
『ドリアンオーレ!』
またギター音。後ろを振り向けばブラーボが、掲げるドリノコの中央にドリアンのエネルギー球。それをフィフティーンに向けて、発射した。
「ちぃ……!」
『フィフティーンスパーキング!』
フィフティーンも三回カッティングブレードを下ろし、黄泉丸に闇のエネルギーを纏わせる。その黄泉丸でドリアンの球を突き刺し、相殺した。
それでも後ろからはビャッコインベスとコウモリインベスの連携攻撃。フィフティーンはまた地面に手をついてしまう。
『クルミスパーキング!』
「うぉらぁぁ!」
そして懲りないギター音が鳴り響く。フィフティーンのまた後ろにいたナックルが叫び、クルミボンバーにエネルギーを溜め、フィフティーンに向かって発射した。
『フィフティーンオーレ!』
フィフティーンはカッティングブレードを二回倒し、黄泉丸を地面に突き刺した。地面からはまるで噴火のように紫のエネルギーが、クルミのエネルギーをまたもや相殺。
しかし、
『カモンッ! ドングリスカッシュ!』
『ソイヤッ! マツボックリスカッシュ!』
『ドリアンスカッシュ!』
『クルミオーレ!』
前方からはナックルがクルミボンバーにクルミのエネルギーを纏い走ってくる。右側からはグリドンがドンカチを持ち、高速回転しながら襲いかかる。左側からは影松を持った黒影が、ジャンプしながら飛びかかり、後方からはドリノコにエネルギーを纏ったブラーボが走ってくる。何処からどう見ても絶体絶命である。この時、四人は勝利を確信した。
だが、
『ディケイド!』
フィフティーンが武神十五ライダーロックシードを解錠した瞬間、まるでその場が凍りついたかのように静止した。四人はフィフティーンが持っているロックシードの存在に唖然とする。だが、フィフティーンは待ってはくれない。戦極ドライバーに施錠すると、カッティングブレードを倒した。
『ディケイドアームズ! 破壊者・オンザロード!』
骨のクラックから降りてきたのは、『武神ディケイド』の巨大な頭部。被るとそこにカードの様な長方形の物体が差し込まれ、鎧が展開した。そして右手に持ったカードケース状の銃剣『ライドブッカー』を回転しながら一振り。必殺技を出した筈の四人が、一撃で吹き飛ばされた。
「ぐふっ……!?」
「がぁ……!?」
「痛たたた!」
「あはーん!?」
電磁結界まで吹き飛ばされ、四人は激突した。グリドンと黒影は痛みに耐えながら、ロックシードを握りしめる。そうでもしないとこの電磁結界が破れ、インベス達が暴走してしまう。急いでインベスに指示を出すが。
「数なら数で勝負といこうか」
『ディケイドオーレ!』
フィフティーンはカッティングブレードを二回倒す。すると、どういう事だろうか。フィフティーンの隣に分身でもしたかのように同じ姿の人物が、二人現れたというのだ。こんな効果を持つロックシードなど聞いた事が無いし、頭を被るアームズですら異常だった。
次の瞬間、分身したフィフティーンがライドブッカーでインベス達を斬り裂いていた。実像化した上級インベス達からは血が飛び散り、悲鳴を上げて爆散した。
どういう事だろうか。タダでさえ攻撃力と耐久力、更には知能が優れた上級インベスが一瞬にしてやられてしまった。ロックシードはフィフティーンの所に飛んでいく。
「っ……させっか!」
『ソイヤッ! マツボックリスパーキング!』
ロックシードは渡さまいと黒影が、カッティングブレードを三回叩いた。そして影松の槍先にエネルギーを溜め、縦に振り発射する。六つのAランクロックシードは音を立てて爆発する。何とかロックシードがフィフティーンの手に渡らず、破壊も成功した様だ。
『オーズアームズ! タトバ・タートバー!』
ただし冷たい電子音声が鳴り響く。だが、冷たいのは電子音声だけでは無い。周りには冷気が立ち込めて、自分達四人の足は地面に凍り付いていた。
その冷気の中から紫色の羽根の生えたフィフティーンが、上空に飛んでいく。その手には凶悪な斧『メダガブリュー』が、そして銀色のメダルを四枚入れ、フィフティーンは変形させた。
『ガブッ、ゴックン! プ・ト・ティラノ・ヒッサーツ!』
小さな大砲のようになったメダガブリューの銃口に、紫色の莫大なエネルギーが充填されてゆく。それは大地を揺らし、風の向きを変える。
「ボウヤたち! 下がりなさい!」
『ドリアンオーレ!』
まずい。そう直感的に感じたブラーボはカッティングブレードを二回叩く。またドリノコを掲げ、ドリアンのエネルギー球を創った。
「っ……やばい!」
『クルミスパーキング!』
ブラーボの焦りを感じ取ったナックルも、カッティングブレードを三回叩く。クルミボンバーにエネルギーを纏う。
『オーズスパーキング!』
だが、上空にいるフィフティーンはカッティングブレードを三回叩いた。ブラーボ達に向かって、紫色のメダル状のエネルギーが三枚重なった。そしてメダガブリューのトリガーを思いっ切り引く。
「破壊者と欲望に呑み込まれろ。そして砕け……」
メダガブリューから放たれた200tものエネルギー砲は、メダル状のエネルギーを潜ってブラーボ達に降り注ぐ。ブラーボとナックルのエネルギー波はまるでかき消され、意味を成さない。
あまりの衝撃にロックシードで生成された電磁結界は崩壊し、公園全体に爆風が吹いた。あの電磁結界があった中央からは砂煙が立ち込め、大きなきのこ雲の様になっている。
暫くして砂煙が収まる。そこに倒れていたのは変身が強制解除され、傷だらけでベルトを着けたままの凰蓮、城之内、ザック、ペコ。ライドウェアのお陰で大怪我は免れたが、それでもダメージは凄まじい。そして紅く染まる空の下、そこにフィフティーンの姿は無かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
"骸"は疲れていた。
インベスを倒したかと思えば、ユグドラシルからアーマードライダー四人と上級インベスのプレゼント。別に怪我をした訳でもないが、今回は多少手こずった。
毎日、命を狙われる身も辛いなと、星空を見上げて溜息をついた。
「よぉ。"骸"。今回も散々暴れたようじゃねぇか」
「蛇か……」
突然、自分の横に現れる民族衣装を着た"蛇"を見て気怠い顔をする。"蛇"は笑っていた。
「十五の武神の力……まったく、末恐ろしいもんだ」
「"黄金の果実"に比べればそうでも無いだろ……」
確かに『十五の武神の力』を自在に操る事の出来るこのロックシードも恐ろしい。それも『この世界』だからだ。他の武神が存在する世界だからだ。
だが、それでも"黄金の果実"と呼ばれたモノはそれよりも化物である。
「今は消えろ。俺は疲れたんだ」
「はいはい。今日は帰らせてもらいますよ」
意外にあっさりと"蛇"がデジタル像の様に、すうっと消えていった。
はぁ、ともう一度"骸"は溜息をつくと、右手に巻かれた猫の刺繍がされたハンカチを見つめる。
「……まだ持っててくれたのか」
"骸"はそれだけ呟くと、静かに目を閉じた。
フィフティーンの一人勝ち。うん。
はい、新キャラの葵骸煉の登場でした。今回は凛ちゃんが多かった。めっちゃ気合入れて書きました。
やはり謎が多過ぎますよね……コウガネに地下帝国。そしてカルト宗教。更には凛や花陽との関係……まぁ、凛ちゃんとかよちんは覚えてないんですけど。
そして何気にブラーボ、グリドン、ナックル、黒影の総変身回でもありました。黒影はまさかのペコ! 初瀬ちゃんじゃない!?
それでもフィフティーンの恐ろしさが伝わってきたかと思われます。フォーゼアームズでバリズンソードを使うなら、オーズアームズでメダガブリューを使うのもおかしく無い……かと。
やっぱりチートやん! ですが弱点も勿論あります。一体、いつ敗北する事になるんでしょうかねぇ……。俺TUEEEE系は嫌いなので絶対負かします。応援して下さい!
武神鎧武やバロンはフィフティーンに勝つ事が出来るのでしょうか! 是非、これからも見てください!
そして第壹幕終了記念に、簡易プロフィールを活動報告で公開しました。ご不明な点があったら是非感想欄で質問して下さい。
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