ラブライブ!-女神と武神のアイドル戦極記-   作:Professor灰猫

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バラバラだった彼らの運命は

交差する





拾貮話 二人の戦士

駆紋凱斗は非常に不機嫌だった。

 

別に初めて(?)の夏休みがつまらなかった訳では無い。どちらかと言えば楽しかった方だ。

 

始めは海未と登山しに行った。記憶が無くなってから山に登るのは初めてだったが、海未がしっかりリードしてくれた。

狸や狐も意外と可愛いもんだった。熊に襲われそうになったが、海未が何だか飼い慣らした。いや飼ってはいないが手懐けてしまったのだ。

後は凱斗がカレーライスを作ったり、テントで一緒に寝たり、朝起きれば海未の服の中に手を入れていて「破廉恥です!」と高速ビンタをくらったりもしたが楽しかった。しかし、あのビンタは中々痛かったのだが。

 

次に凱斗と海未、穂乃果、ことりでプールに行った事だろうか。こちらも記憶が無くなってからは初めてである。

泳げるものだろうかと凱斗にしては少々弱気だったが、余裕で泳げた。しかもそこら辺の高校生よりも速い。海未はあれだったが、穂乃果とことりの水着姿を見るのは正直恥ずかしかった。やはり可愛いからか、かなり男に絡まれていたが凱斗がギロりと睨むと逃げていく。

そしてプールから上がる時に滑ってしまい、海未の水着に手をかけて一緒にプールに落ちてしまった。更には上の水着が外れてしまい「破廉恥です!」と高速ビンタをくらった。

 

後は前にあったシュラみたいなヤツから、インベスを召喚されて襲われた事しか覚えていない。だが、正直言って弱い。シュラが使っていた初級インベスと呼ばれるヤツしか出して来ない。そして勝てばヒマワリやマツボックリ、クルミにドングリのロックシードが、自分の所に飛んでくるのだがどんなシステムなのだ。シュラと戦った時も、オレンジとドングリが落ちていた。全く訳が分からない。

余談だが、大体一緒にいる海未も巻き込まれるので、「自衛の為に特訓です」と剣道を実家の道場で行い、シャワーを浴びているのを知らずに入ってしまい「破廉恥です!」と何度か本気でビンタされた。

 

おや、今思い返してみればビンタしかされていないような気がしてきた。何だか無性に腹が立つ。いや、きっと悪気は無いのだろう。きっと。

 

 

話を戻そう。何故、凱斗が今不機嫌なのかだ。

 

 

実は今日、音ノ木坂学院の学園祭なのである。元々、大人数と戯れるのが余り好きでは無い凱斗なのだが、問題はクラスの出し物にあった。

 

最初は凱斗が、何かしら簡単な料理を作って提供すると言ったようなモノを提案したのだが、ヒデコがメイド喫茶を提案。更にフミコやミカ、挙句の果てには穂乃果やことりも賛成し、クラス全体がそんな空気になり、凱斗の異議も通らないまま決定した。

 

そうか、メイド喫茶か。ならば凱斗は厨房でフルーツタルトを作っていようと考えていた。だが、何故か凱斗は今スーツ姿である。

始めこそフルーツタルトを作っていたのだが、ことりに強引に着せられ、執事をやらさせていた。

 

 

「おい、海未。貴様もメイド服を着ろ」

 

「嫌です! 私はそんな卑猥な服は着たくありません!」

 

「残念だけど、海未ちゃんもメイドさんだよ?」

 

「こ、ことり! やめてくださいぃぃぃ!」

 

 

自分だけが店員として駆り出されるのは流石に腹が立つので、弓道部の部室に隠れていた海未を引きずり出し、メイド服を着させたのだ。弓道部の部員達も喜んで協力してくれた。

そしていつもはほんわかしている、ことりの目線が何故か鋭い。

 

 

「うぅぅ……恥ずかしいです……」

 

「別に弓道部は出し物が無いのだろう。ならばメイド服を着てこちらの接客をするというのが運命だ」

 

 

腹が立つという私情もあったが、弓道部は学園祭では何も発表などは行わないらしい。なら無所属等が集う、クラスでの出し物に強制参加は確定である。

海未は顔を手で隠して恥ずかしがっているが、これは運命なのだ。

 

 

「ぐへっ……疲れ、た……」

 

「凄いよ! 朱果ちゃん似合ってるじゃん!」

 

 

何故か最初からへばっている朱果が、着替え用の教室から出てきた。その姿は海未はことり、穂乃果と同じメイド服に包まれているが、サイズが無かったのだろうか、服がダボダボである。

それでも穂乃果が褒める通り、朱果のメイド服姿は似合っていた。これも可愛さ補正というモノなのだろうか。

 

 

「ごめんね、朱果ちゃん。サイズ合わせるの間に合わなくて……」

 

「ううん……結構、気にいってる……から」

 

 

このメイド服のサイズ調整は、ほぼ全てをことりが担当したらしい。イベントなどの衣装を作ってみたかったらしく、これなら大したもんだとクラスメイトは感心していた。

朱果も、このメイド服を気に入っているらしく、いつもは中々表情に出てこない筈の笑みが溢れていた。

すると朱果が凱斗の目の前にやって来て、くるっと横に一回転してみせた。だが、凱斗は何を求められているのか、まるで分かっていない。

 

 

「……何だ?」

 

「凱斗……これ、似合って……る……?」

 

「知らん」

 

 

朱果の質問に、凱斗がぶっきらぼうに即答する。朱果は顔を顰めてからぷくー、と頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。そして海未がはぁ、と溜息を吐きながら言ってきた。

 

 

「凱斗……流石に冷たいですよ」

 

「俺に何か求めても、期待するような答えが返ってこない事ぐらい知っているだろう」

 

「まぁ……そうですが」

 

 

相変わらず、凱斗が返す言葉は冷たかった。変な所で冷たい言葉を投げかけるのが、凱斗の課題点でもある。きっとこれのせいで、あんな風に変な組織に狙われているのかと思うと、海未は頭を抱えたくなる。

 

そうして海未が離れて行くと、凱斗は控え室として作られたスペースにある椅子に腰掛けた。腕を組み、ふんぞり返る。

 

 

「あぁ、凱斗くんは座ってていいよ」

 

 

ヒデコに頼んで、凱斗は指名でしか出ない事にした。愛想が悪い自分が接客をしても仕方が無い。ただただ客が、凱斗の鋭い目つきを見て逃げて行くだけだ。なので「執事指名メニュー」という謎のメニューでしか出ない事にする。凱斗を選ぶ物好きなど、誰一人いないだろうと思っていた。

 

だが、座ってから数分もしない内に控えのスペースの扉を開けて、穂乃果が入ってきた。その表情はとんでもなく満面の笑顔である。何故だろうか、凄く嫌な予感がする。

 

 

「凱斗くん! 指名、入ったよ!」

 

「……チッ」

 

 

あぁ、世の中にはとんでもない物好きもいるもんだなと、嫌悪感を感じながらも椅子から気怠そうに立ち上がった。にこにこしている穂乃果の横を通り過ぎると、突然出てきた凱斗に客は皆、目がいってしまう。

 

その凱斗の表情は非常に険しく、見る者全てを睨みつけていく。その目に睨まれた客は皆、視線を外し、冷や汗が首をつたっていた。

 

凱斗の視線は、それ程までに鋭いのだ。

だが、凱斗の目の前のテーブル席に座っている、男女のペアは違った。女の方ははぁー、とため息をつきながら哀れみが溢れた目で凱斗を見ていた。一方、男の方はそんな反応を見て、苦笑していた。

 

 

「アンタも相変わらずね、凱斗」

 

「……矢澤、確か俺の事を知っているのだったか?」

 

「記憶喪失だったわね……まぁ、いいわ。確かに知ってるわよ、駆紋凱斗。それにしても、何で私の事知ってるのかしら?」

 

「貴様の事は、出雲から聞いている。だが貴様から、昔の記憶を聞き出すような事はせん」

 

「あっ、そう。まぁ私も今日は客として来たのよ。早速、これお願い」

 

 

にこはあっさりと答えた。あまり人の手を借りようとしない凱斗の性格は、にこでも分かっているつもりだった。

そうして、にこが指を指したメニュー表に、凱斗は目を移した。そこには『執事が作るスイーツタルト!』と表記されている。

執事となったクラスの男子は確かに居るのだが、凱斗以外は料理が全くと言っていい程出来ないのだ。そうなると、このメニューは強制的に凱斗がやらなければならない。凱斗も嫌々だが、納得せざるを得なかった。

 

 

「……分かった、で」

 

 

凱斗は深くため息をついた後、にこの隣に座っている男子生徒を睨みつける。

 

 

「貴様はどうするんだ」

 

「だって、裕也。どうするの?」

 

「あっ、じゃあ俺も同じヤツで」

 

「そうか」

 

 

裕也が淡々と言い、それを聞いた凱斗が背中を向ける。

 

スーツのズボンのポケットに手を突っ込みながら歩いて行くと、その先は厨房として作られたスペースである。そこに凱斗は入ると、スーツを脱ぎ捨てて黒と赤のエプロンを身に付ける。頭にはコック帽。それは凱斗だからなのだろうか、様になっていた。

 

何故教室にキッチンがあるのかというと、あの創唯凌馬が自作した物らしい。持ち運び機能付きなど、一体どんな技術をしているのだろうか。

 

また板を広げ、その上でオレンジ、バナナ、キウイ、リンゴ、マンゴーと次々とフルーツを丁寧にカットしていく。カットしたフルーツを、軽く水で濯いだアルミのボウルに入れる。

 

冷蔵庫から、予め作って冷やしておいた、ババロア入りのタルト生地を取り出す。多少味が落ちてしまうが、これは学生が行っているメイド喫茶(仮)だと、凱斗は自分に言い聞かせる。出来るだけ完璧を求めたかったが、これは致し方ない。ボウルからフルーツをタルト生地に盛り付けようとしたのだが。

 

 

「ん〜、このイチゴ美味しいね!」

 

「……貴様、何をしている……!」

 

「い、痛いなぁ凱斗くん! 私の頭を掴んでいる手を離してくれると、ぎゃぁぁぁ!?」

 

 

ボウルから伸びていた綺麗な手は、イチゴを穂乃果の口に運んでいた。穂乃果は口に広がる甘さに何とも微笑ましいが、凱斗は即座に穂乃果の頭をアイアンクローで握る。イチゴが消えた穂乃果の口から悲鳴が上がった。

 

 

「何をやっているのですか、穂乃果! ほら、あっちに行き……」

 

「あ……えいっ!」

 

「むぐっ!? ……このマンゴー、熟してて美味しいですね」

 

「おい……」

 

 

やって来た海未も、穂乃果から口にマンゴーを突っ込まれ、その美味に一瞬だけだが怒りがかき消されてしまった。凱斗はお前もかと、肩を落として呆れていた。

 

 

「……じゃありません! 接客をしてきて下さい!」

 

「わ、分かったよ。んじゃ、ほむまん宣伝してくるねー!」

 

 

いや、お前の接客とは自分の実家の『穂むら』の宣伝をする事なのか。だが穂乃果は、その穂むら饅頭、略してほむまんを片手に走って行ってしまった。海未は仕方ありませんね、と口から漏らしている。

 

海未は皿洗いに行ってしまう。ん、お前は接客しに行かないのか、海未。と、凱斗は心の中でツッコミを入れていた。

 

はぁ、と溜息をつきながらフルーツを盛り付けていく。最後に粉砂糖を適度に振りかけて、凱斗特製のフルーツタルトが完成した。早速、あの二人の先輩共にフルーツタルトを持っていく。

 

 

「……フルーツタルトだ」

 

「ふーん。アンタが作ったにしては、いい出来ね」

 

「へぇー……上手いな。朱果、食うか?」

 

「ん……食べる」

 

「あっ、ズルイわね! 裕也、私にも食べさせなさいよ!」

 

 

にこの発した言葉に、喧嘩を売っているのかと凱斗は顔を顰めそうになるが、そうすると面倒な事になりそうなので、急いで表情を戻す。

 

裕也が朱果にフルーツタルトを、スプーンにすくって食べさせた。にこは嫉妬しているのか、その光景を羨ましそうに見ていた。朱果、お前は仕事をしろと言いたくもなったが、朱果の何とも言えない嬉しそうな顔を見たら、何だか口に出せなくなってしまった。

 

ふと、入口の扉の方を見る。

 

 

「いらっしゃいませ、御主人様! こちらの席にどうぞ」

 

「の、希……私こういう所、入った事無いんだけど……」

 

「も〜、大丈夫やで、えりち。なんも卑猥なお店やないんやから」

 

「ひ、卑猥って」

 

「御主人様、少々お待ち下さい」

 

 

何故かビクビクしている、えりちと呼ばれた金髪の先輩と、朱果から話を聞いた事のある、おっぱい先輩こと希。その接客をしているのが、正にメイドその物のことりの姿であった。

 

すると、ことりが控え室の中に入っていく。暫らくすると、何かが入った網の丸い籠を腕にブラブラとかけてくる。その籠から何かの人形を取り出し、テーブルの上に置く。えりちと呼ばれた先輩が気になったのか、その人形を手に取って質問した。

 

 

「この人形って?」

 

「御主人様、それは私を助けてくれたブドウを身に着けていた方です。後、これがオレンジの侍と、今噂になっているバナナの騎士です」

 

 

えりちが持っているのは、確かにブドウらしき鎧を身に着けている緑の人らしき何か。そして、ことりが更に籠の中から、オレンジの青い侍とバナナの赤い騎士と取り出した。えりちはことりの言っている事が、余り理解出来ていないのだが。

 

 

「まぁ……助けてくれたと言っても夢の中なのです。でも、それはそれはカッコよくて……て、凱斗くんは何で転んでるのかなぁ?」

 

 

凱斗は六歩歩いて二歩くじき、床にすっ転んでいた。えりちの隣にいた希はそっぽを向き、裕也とにこはフルーツタルトを食べていた為むせて、朱果は無表情だったが、顔から冷や汗が出ていた。

 

何と言っても、この反応した五名は少なからずとも関係者である。しかも、その内の二名は似た姿に変身する事が出来る。何故、それをことりが知っているのだろうか。ただの偶然か。

 

 

「いやぁ、今のカットいただいたよ。駆紋凱斗くん!」

 

「……」

 

 

そのくじいたシーンを、椅子に座りながらビデオカメラで撮影していた凌馬。服は制服のままで、広報部員の仕事だろう。それにしても、あの顔は腹が立つ凱斗である。

 

その隣には陽子。そっぽを向いていて表情は確認出来ないが、プルプルと肩を震わせている。凱斗は今にも爆発しそうだった。そして、陽子はこちらを向く。その顔は笑いを堪えていた。

 

 

「さっ……さっきの……こけ、こけたっ……ぶふっ……ダサ、ダサ……ダサ男っ……ぷぷぷっっ……」

 

「湊、喧嘩なら買ってやる。女でも容赦はせん」

 

「貴方のようなダサ男に負ける訳無いでしょう。フルボッコにしてやりましょうか?」

 

「ふん、貴様のような弱小アマに負けるわけあるか。かかってこい」

 

「ハハハ、実に愉快だね。皆もそう思わないかい?」

 

 

陽子の挑発に凱斗が青筋を立て、バチバチと二人の間に電撃が走る。何故か、この二人は非常に仲が悪いと見て取れる。仲が悪いというか陽子の対応が凱斗に対しては厳しく、そこに凱斗が毎回キレて口喧嘩が始まる。これでも、暴力をふっかけた事はどちらからも無い。

 

爆笑している凌馬の言葉に、教室にいる生徒は「えぇ……」と微妙な顔をしている。

 

 

「あの、凱斗」

 

 

拳を握って構えている凱斗の後ろから、海未が声をかける。何だ、と凱斗は海未の方を振り向くが、その声と表情は真剣で、その後には先輩と思われる生徒が困り顔で立っていた。

 

 

「……凱斗に会わせろといった他校の男子生徒が、校門の所にいるみたいなのですが……どうしますか?」

 

「何……?」

 

 

凱斗は教室の窓から顔を覗かせる。

 

校門の所には不良と思わしき他校の男子生徒二名が、オラオラと前にいる女子生徒を怒鳴りつけている。あの制服は、都内でも言わずと知れた不良率120パーセントの高校────石矢魔高校だっただろうか。ビクビクしながらも何とか静止させようとする女子生徒だったが、もう持たなそうである。自分が引き起こしただろう事は、自分で片付けようと凱斗はその場を動こうとした。

 

 

その二人の不良の掲げた右手には、それぞれロックシードが握られていた。そして、その不良はロイミュードを、解錠したのだ。

 

 

「キャァァァ!」

 

「……チィッ!」

 

 

突如響く悲鳴。先程までは楽しげな学院が、クラックというイレギュラーの登場により、一瞬で凍り付き戦場と化した。凱斗もこれは想定していたケース(・・・・・・・・・)である。もしもの最悪のケース(・・・・・・)とならないようにと、凱斗は扉に向かって走る。

 

 

「海未、この場を頼むぞ」

 

「……えぇ、分かりました!」

 

 

凱斗が海未に声をかけると、その意思を察したかのように海未は深く頷く。その様子を見て、凱斗は廊下を走る。

 

 

「ねぇ、さっきの悲鳴って────」

 

 

廊下の途中で穂乃果に声をかけられるが、そんな事を気にしている時間などない。空き教室を探し当て、その中に入る。

 

 

「ねぇってば! 凱斗く────」

 

 

『バナナアームズ! Knight of Spear!』

 

 

凱斗の後を追いかけ、空き教室に入った穂乃果。だが、穂乃果が目にしたのはいつもの凱斗では無く、きっと噂とされているバナナのライダー、バロン。そのバロンは穂乃果が呆然としている中、教室の窓から飛び降りた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……雑魚が」

 

 

窓から飛び降りたバロンは、初級インベスと交戦していた。召喚された初級インベスは二体。だが、初級インベスなどバロンの敵では無い。初級インベスが襲いかかってくれば躱し、右足で蹴りを入れてバナスピアーで突き刺す。その繰り返しだった。更に使用者のコンビネーションが合っていないのか、連携攻撃もろくに出来ていない。

 

 

『カモンッ! バナナオーレ!』

 

 

バロンがカッティングブレードを一回倒すと、バナスピアーに黄色いオーラを纏い、回転して初級インベスをたたっ斬った。初級インベスは爆発四散する。

 

爆発痕を見つめた後、インベスを召喚した不良の元に向かおうとする。

 

だが。

 

 

「ま、まだ終わっちゃいねぇ!」

 

 

一人の金髪不良が、まだ手に持っていたのだ。それはイチゴロックシード。それを解錠してインベスが出現したのは、海未達がいる教室。まさかの遠距離での召喚だった。

 

 

「っ……! 貴様ぁ!」

 

「はは……ははぁはははぁぁ!」

 

 

バロンがその不良の胸ぐらを掴む。その不良は狂ったように笑いながら、ロックシードを地に落とす。

 

もう一人の不良は逃げたのか、もうその場にはいなかった。だが、問題はそこでは無く、落としたロックシードである。

 

召喚主がロックシードを手放した場合、インベスへの命令が一切効かなくなり、暴走する。つまり、召喚された教室は地獄。それを意味していた。

 

 

「……待ってろ、海未」

 

 

不良を地面にたたき落とす。あまりの衝撃に、その不良は白目を向きながら気絶してしまった。

 

聞こえてくる悲鳴。バロンは校舎に向かって、全力で走り出す。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「イヤぁぁぁぁ!」

 

 

そのコウモリインベスが召喚された教室は、完全にパニック状態に陥っていた。逃げ惑う生徒達が、教室を覆う。

 

 

「何でこの怪物が……?」

 

 

その中で、ことりは一番戸惑っていた。あの夢に出てきたコウモリの怪物と、色は違ったかもしれないが、特徴がほぼ一緒だ。もしかしたら、あの夢は本当にあった出来事なのか。そんな疑問が生まれていた。

 

その立ち尽くしていることりの前に、海未が背中を向けて立つ。その手には海未の持ち物だろうか、竹刀が握られていた。

 

 

「う、海未ちゃん……?」

 

「……ここは私が死守します。ことりは早く逃げて下さい」

 

「でもっ……それじゃ、海未ちゃんが……」

 

 

ことりは勿論の事、海未も分かっていた。自分達が、それもただの女子高生が、あんな理由無き悪意に勝てる訳がないことを。

 

だから信じるのだ。海未は凱斗がバロンとして、ここに戻ってくる事を。それまでは自分がこの場を守らなければならない。そんな使命感が。

 

 

「……!」

 

 

徐々に近づいて来ていたコウモリインベスだったが、黒い影によって吹き飛ばされる。海未とことりは一瞬唖然とした。

 

 

「大丈夫……?」

 

「朱果ちゃん!?」

 

 

その影はメイド服を着こなし、何処からか持ってきたダイヤモンドコートフライパンを片手に、心配そうな顔をする朱果だった。コウモリインベスは、きっと朱果のフライパンによって吹き飛ばされたのであろう。

 

それでも、朱果の力量はあったとしても、所詮フライパンはフライパン。コウモリインベスには効果が薄く、すぐに立ち上がって飛翔して向かってくる。

 

 

「はっ!」

 

 

だが、コウモリインベスはまたもや壁に吹き飛ばされる。それを行ったのは完全に戦闘モードに入っていた陽子。壁を蹴り、そのまま飛び蹴りをくらわせたのであろう。

 

 

「いやぁ、流石は湊くん。素晴らしい飛び蹴りだったよ」

 

 

緊急事態にも関わらず、相変わらず凌馬は椅子に座ってビデオカメラを動かしていた。

 

しかし飛び蹴りも上級インベスには効果が薄い。ジワジワと近づいて来るコウモリインベスに、海未達は追い詰められてしまった。

 

 

「お願い……来て下さい……」

 

 

無力であることりは、ただひたすら手を合わせて願った。あのブドウの戦士と、オレンジの侍が来てくれて、自分達を助けてくれると。

 

 

その願いは、少し違った方向で叶う事となる。

 

 

『ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!』

 

 

「おらぁ!」

 

 

赤い刀が一閃。コウモリインベスを斬り裂いた。

 

 

「……っ! 貴方は……!」

 

「おや、救世主が来たようだねぇ」

 

 

凌馬は淡々と言うが、正に今はその通りだった。

 

ことりが見た、あの後ろ姿と瓜二つ。夢か現実か解らない場所で助けてくれた鎧武者。

 

 

「フルーツジュースにしてやるぜ!」

 

 

アーマードライダー鎧武……では無く、武神鎧武がコウモリインベスに向かう。

 

右手の赤い大橙丸で大振りの一撃。次に無双セイバーを引き抜き、それと同時に腹部を横に斬り裂いた。コウモリインベスも負けじと、また飛翔する。武神鎧武は撃ち落とそうと、無双セイバーのスライドを引こうとするが、その手が止まる。しなかった、いや出来なかった。

 

 

「っ……」

 

 

そこは教室。限られた空間の中、まだ生徒がいるのに強力な弾丸の発砲など出来なかった。更に、この教室を破壊するなど、出来ればしたくは無かった。

 

だが、何故か手がスライドに近づいていく(・・・・・・・・・・・・・・・・)。脳では引かないと命令している筈なのに、勝手に手がスライドを引こうとする。これは、裕也が武神鎧武に変身してから、初めての違和感となった。

 

それを見た凌馬は何かを察したのか、少し目を細くさせる。そして口を開いた。

 

 

「湊くん! それと園田くん! この場にいる全員を避難させたまえ!」

 

「分かりました、プロフェッサー」

 

「え、あっ、はい!」

 

 

いつもとは違う凌馬も張る声に、海未は驚きながらも内容を理解する。陽子と海未はすぐさま周りにいた生徒を避難誘導する。凌馬は変わらずビデオを撮ってたが、その顔は口角が少し上がっていたが、険しかった。

 

途端、武神鎧武がスライドを引き弾丸を装填、トリガーを引いて光弾を発砲する。一発目は天井に命中してしまい、ポロポロと破片が落ちてくる。二発目は見事コウモリインベスに命中。そのままコウモリインベスは床に落下した。

 

 

『ブラッドオレンジスカッシュ!』

 

 

「はぁぁ……うらぁ! ……おぉらぁ!」

 

 

そのチャンスを武神鎧武は見逃さず、カッティングブレードを一回倒す。大橙丸と無双セイバーに赤いエネルギーを纏わせ、コウモリインベスをクロスに斬り、爆散させた。

 

その場に、窓からバロンが入ってくる。武神鎧武もバロンに気付き、両者は警戒しながら見つめ合った。

 

 

「貴様……何者だ」

 

「……お前こそ」

 

 

バロンの警戒もそこそこだが、武神鎧武の警戒は非常に強かった。何故なら、他に会った戦極ドライバーの装着者は、皆襲ってきた。だから、絶対に警戒は解かない。

 

だが、そのとき。

 

 

『斬れ……きれ……キレ、キレ、キレ……!』

 

 

「がぁっ……!? あぁぁ!?」

 

「なっ……」

 

 

突如、武神鎧武の変身者である裕也に、頭が割る程の頭痛が襲う。そして、呼び掛ける声。その声は低く、恐ろしく、おぞましく、禍々しい。

 

 

キレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレキレ

 

 

「穂乃果っ!?」

 

「……!」

 

 

海未の声に気づく凱斗、すぐさま廊下に飛び出した。

 

数メートル前には、緑色の龍の化物────セイリュウインベスに捕まった穂乃果の姿。そして、その後にはあの逃げたと思っていた不良。この混乱に応じて学院の校舎内に侵入したのだろう。

 

 

「貴様っ……! ソイツを離せ……!」

 

「ハッ……誰が離すかよ、駆紋凱斗! コイツは人質なんだよ!」

 

 

大きく舌打ちをするバロン。それ以上に凄かったのが、周りの反応だった。

 

避難誘導していた海未や陽子はそれ程までに驚かなかったが、武神鎧武の状況を見に来ていたにこ、希、朱果。付いて来ていた、えりちと呼ばれた先輩。海未の傍にいた、ことり。彼女達は驚く。

 

頭を抑えながらもやって来た武神鎧武こと裕也も、彼がバロンだという事に驚きを隠せなかった。が、それと同じくらい、人質である穂乃果がセイリュウインベスに手を掛けられないか、睨みつけていた。

 

 

「……俺に用があるなら場所を移せ。それでいいだろう」

 

「そうだなぁ……それでいいなら行くぜ!」

 

 

穂乃果を抱えたセイリュウインベスは、窓から降りて不良と共に走り去る。バロンもその後を追いかけて走って行った。

 

 

「ぐ……ま、待てっ……! 凱斗っ!」

 

 

武神鎧武も頭を抑えながら窓から飛び降りる。海未やにこも、それぞれ凱斗と裕也を追いかける為に階段を降りて、学院から飛び出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

セイリュウインベスを引き連れた不良と、人質の穂乃果。バロンと武神鎧武は近くの廃工場に場所を移した。穂乃果を不良がナイフで脅しながら捕まえると、セイリュウインベスに命令する。

 

 

「行けぇっ!」

 

「凱斗……ここは共闘と行くしかないよな」

 

「ダックは性に合わんが……行くぞ、鎧武」

 

「あぁ……ちなみに俺は武神鎧武なっ……!」

 

 

向かって来たセイリュウインベスに、バロンと武神鎧武も、それぞれバナスピアーと大橙丸を握り走る。大橙丸で斬り付けようとし、バナスピアーで貫こうとするが。

 

 

「何っ……!」

 

「かっ、かってえ!?」

 

 

セイリュウインベスの硬い皮膚が、大橙丸とバナスピアーを弾く。武神鎧武とバロンの攻撃はまるで通じなかった。

 

 

「がっ……」

 

「ぐぉっ!?」

 

 

セイリュウインベスは大橙丸を地面に叩きつけ、武神鎧武を爪で切り裂いた。更にバロンを蹴りで、近くの金網に吹き飛ばす。その力は強く、今までダメージを殆どくらった事の無いバロンに、傷をつけた。

 

 

「だったら!」

 

 

『アナナスパイン!』

 

『アナナスパインアームズ! 撃砕・デストロイヤー!』

 

 

武神鎧武はアナナスパインロックシードを解錠し、アームズチェンジを行う。アナナスパインアイアンで、何とかセイリュウインベスに打撃を与える事が出来た。

 

セイリュウインベスも押されている訳ではなく、逆にアナナスパインアイアンを弾きながら、武神鎧武に攻撃していた。

 

 

「ほう……ならば」

 

 

何を思いついたのか、バロンは立ち上がりロックシードを取り出す。それはマンゴーの形をしている錠前────マンゴーロックシードであった。

 

これは前に一度だけ襲ってきた上級インベスを使った男から奪い取った、Aランクのロックシードであった。だが、バロンはバナナロックシードが一番使いやすいと思っていた為、バナナロックシード以外使用はした事が無かった。

 

 

「使い分けも必要な訳か」

 

 

『マンゴー!』

 

 

「マ、マンゴー……?」

 

 

バロンがマンゴーロックシードを解錠すると、クラックからマンゴー型の鎧が現れる。それを見た穂乃果は興味深そうにつぶやく。バロンはマンゴーロックシードを、戦極ドライバーに施錠した。

 

 

『ロックオン!』

 

 

西洋風の待機音声が鳴り響き、ろくに聞く暇のないままカッティングブレードを倒した。

 

 

『カモンッ! マンゴーアームズ! Fight of Hammer!』

 

 

バナナのアームズが光の粒子となって消え、マンゴーのアームズがバロンに被さった。展開されると、後ろにはマントが王の貫禄のように揺らめき、右手にはマンゴパニッシャーが握られている。

 

それを引き摺りセイリュウインベスに近づくバロン。その姿は誰が見ても圧巻で、武神鎧武と穂乃果は自分の立場を忘れて、一瞬カッコいいとも思ってしまっていた。

 

バロンはマンゴパニッシャーでセイリュウインベスを横殴りにする。セイリュウインベスはドラム缶を吹き飛ばしていった。その力技は誰が見ても分かる。強い。

 

武神鎧武もセイリュウインベスの横に回り込み、アナナスパインアイアンで上に吹き飛ばす。そして、落ちてきたセイリュウインベスをバロンがマンゴパニッシャーで殴った。セイリュウインベスはボロボロである。

 

 

「何で……何でだよ……」

 

「ひっ……!?」

 

 

不良は押されているのに怯え、穂乃果にナイフを近づけながら後ろに下がる。穂乃果の首にナイフの刃が数センチと近づいて来ている。穂乃果は目をつぶった。

 

 

「……が」

 

「……え?」

 

 

だが、肩をつかんでいたはずの不良が地に倒れ込んだ。後ろを見れば竹刀を持った親友の海未が立っていた。穂乃果は海未に抱きついた。

 

 

「海未ちゃん……! 怖かったよ……」

 

「えぇ、穂乃果。もう大丈夫ですよ」

 

「何とか、なったみたいね」

 

 

海未と一緒に、溜息をついていたにこもいた。この三人は、何とか今安堵する事が出来た。

 

 

「これで思い切って暴れる事が出来る」

 

 

『カモンッ! マンゴーオーレ!』

 

『アナナスパインオーレ!』

 

 

人質がいなくなった今、攻めるタイミングが出来た。そう吐いたバロンと武神鎧武が、カッティングブレードを二回倒す。マンゴーパニッシャーとアナナスパインアイアンにエネルギーが充填され、回転しながらマンゴー型のエネルギーとアナナスパイン型のエネルギーを、セイリュウインベスにぶっ飛ばした。セイリュウインベスは強力なエネルギーによって、爆散した。

 

 

「これで一件落着……か」

 

「……」

 

 

武神鎧武とバロンは変身を解除する。中からは裕也と凱斗。それぞれ顔を確認して、裕也は言いたい事や質問したい事が様々あったのだが、凱斗はふん、と鼻を鳴らすと背を向けて歩き出す。

 

 

「ねぇ、アンタって……」

 

 

にこが凱斗を呼び止める。だが、凱斗は振り向かず。

 

 

「貴様らが俺と同じ様な力を持っていようとも、協力はせん。この戦極ドライバーやロックシードが何かも知りたいが……俺は自分で調べていく。そして俺は俺の道を生きる、それだけだ。」

 

 

それだけ言い残すと、凱斗は廃工場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




約一ヶ月ぶりの投稿でした。すいません……色々、忙しくて

はい、バロンマンゴーの回でした。何だか今回からアーマードライダーがどんどん出会っていきます。そしてガチシリアスに少し突入。裕也を襲った頭痛の正体とは……?

終わりは雑になってしまいましたが……凱斗は出来るだけ協力体制は敷きません。かなり一匹狼で突っ切っていきます。今の所はですが

裕也としては協力したかったでしょうね……謎を一番知りたそうですし

次回は裕也編! 今回ちょっと出てきた、えりちが出てきます! やったぁぁぁ! これでμ's全員出てくるよ!

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