ラブライブ!-女神と武神のアイドル戦極記-   作:Professor灰猫

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『仲間』『友』

それは

時に楽しませ

時に苦しめさせるモノとなる







短編 思い出を仕舞い込んで

 

 

 

 

 

七月。

 

それは、一年にとって最もジメジメと蒸し暑い日が続く月であり、海開きや海の日、七夕など夏に関しての年中行事が多い月でもある。

蒸し暑くてベトベトする日が続くのは憂鬱だと考えたりする者も、これから夏が始まるんだと高揚感に浸っている者も多種多様といるだろう。

 

これは武神鎧武こと裕也が、浜辺で斬月に敗北する約一ヶ月前のちょっとした、いや彼女らにとっては大きなアイドル研究部での話である。

 

 

 

 

 

彼女は先程話したようではないのだが、この七月という季節は少し憂鬱になる。

 

それは湿気の事もあり、酷くべたついてしまうからといってエアコンや乾燥機をかけてしまえば、それこそ肌の天敵である乾燥が起こってしまう。ケアは何とか自分で考えているのだが、何とも言えず困難を極めている。

 

といっても、憂鬱の原因は別にそれが大部分を占めている訳では無い。

 

どちらかと言えば去年の事だろうか。できればもう割り切りたいところなのだが、どうしてもこの時期になると思い出してしまう。

 

 

 

『仲間』と思っていた存在が、突然天と地をひっくり返したかのような態度になった事。

 

 

 

確かに、あれは自分も悪かったと思っている。練習内容を少しキツくしてしまった事や、ピリピリした態度を取ってしまった事。

ただ、それ以上にアイドルというものに少しは真剣に取り組んでもらいたかった。彼女達の思いを無駄とは言いたくない。でも、自分から見てみればやっぱり思ってしまうのだ。

 

アイドルの事を何もわかってなんていないって。

 

少しでも、ほんの少しでもアイドルとはどういう事なのか伝わってほしかった。

 

 

 

 

 

アイドルとは『笑顔を与える。その為に、何時でも自分自身が笑顔』なのだと。

 

 

 

 

 

だからこそ、自分は強く当たりすぎてしまったのかもしれない。自分も笑顔を忘れて、『仲間』だった彼女達すらも笑顔にできなくて、すぐ近くにいてくれる裕也や希に心配ばかりかけて。

 

 

「いっ……つぅっ……」

 

 

あの日を思い出したせいか、右脚に痛みが走る。本当ならもう治っていて、痛みなど来ないはずなのだが。これも、あの出来事に対する恐怖から来るのか。

 

少しふらつく脚を、何とか踏ん張らせる。流石に支えきれないと壁に右手をつく。暫らくすると、しっかり立ち上がった。そして、また歩き出す。

 

現実の脚はこんな風に歩いているのに、アイドルになる大きな『夢』というのはもう止まってしまったのか。あの日から彼女の心のギアは錆び付いたままなのだろうか。あの日の血潮がギアを泊めているのか。

 

 

ただ自分が動いて、仲間と思っている者を失うのが怖いだけなのか。

 

 

 

 

 

「「「ハッピーバースデイ!!」」」

 

「…………えっ」

 

 

彼女がアイドル研究部の部室である扉を開けば、飛び出てきたのは何かを祝う声とクラッカー音。

普通の人なら、この状況を何とか把握できる筈なのだが、彼女は本当に何が起こっているのか理解出来ず、苦い笑みを溢れさせながら頭についたキラキラの紙テープを握っていた。

 

 

「……何だか、予想と……全然、違う……反応……?」

 

 

首をかしげたのは、豪快に五つのクラッカーをぶっぱなしてきた少女、朱果であった。

 

 

「ウチらは内緒で準備してたから、驚くのも無理ないんやない?」

 

 

にしししっと、手で抑えているが笑みが隠せていない希。

部室の中を見渡すと、色とりどりに飾り付けがされていた。

 

 

「ほら、だって今日はにこの誕生日だろ」

 

 

そう彼女に声をかける裕也。

彼女はハッとなり、部室にかけてあるカレンダーに駆け寄った。

 

 

「そう……だった」

 

 

 

今日の日付は七月二十二日。

 

 

 

 

 

アイドル研究部の部長である彼女────矢澤にこの誕生日だ。

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、まさかにこっち自分の誕生日忘れるなんてなぁ」

 

「仕方ないでしょ……本当に分かんなかったんだから」

 

 

にこは持ってきた鞄を床に置くと、用意された椅子に座ってもう一度部屋の飾り付けを見る。それは生半端な準備では出来ないような装飾もされており、本当に前から考えてくれたんだなと見て取れる。

 

自分でも、自分の誕生日たるものを忘れるとは思ってもいなかった。最近、裕也が果実を被ってしまう鎧武者に変身してしまったり、いつも通り妹弟達の世話が忙しかったりとそんな事は頭になかったのだ。

 

 

「で、これウチらからのプレゼント」

 

 

そして希からにこに手渡されたのは、綺麗なピンク色の小箱。可愛らしい青とオレンジのリボンが巻かれており、これも手が込んだものだなとにこは感心する。

 

 

「開けてもいいの?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

 

リボンを引っ張ると、結構楽にスルスルと解けていった。箱の蓋を開けて中を確認してみる。

その中には首飾りだろうか、銀色のきめ細かなチェーンが出ている。それを引っ張ると、その先にはハート型のチャームがついていた。

 

 

「これって……」

 

「その中、開けて……みて……」

 

「え?」

 

 

呆けた声が漏れてしまった。ハートのチャームをよく見てみると、開閉できるようになっている。開けてみたが、まだ何も入ってはいない。つまり、これはロケットペンダントなのだ。

 

 

「どうだ、喜んでもらえた」

 

「いやいやいや、これ高かったんじゃないの!?」

 

 

裕也の言葉を遮って、にこが必死に叫ぶ。

ロケットペンダントはそれなりに高い。一万円から二万円程、安い物でも八千円はする。このペンダントの重量や装飾を考えると、もしかしたら一万円はするかもしれないのだ。こんな高価な物、こんな自分が受け取っていいものかと。

 

 

「まぁ、それなりに値段はしたんやけど……ウチら三人でお金出したし」

 

「そういう事じゃなくて」

 

「いつも、頑張ってる……部長、さん……へ」

 

「って事だし、にこも素直に受け取ってくれないか?」

 

 

『いつも頑張ってる部長さん』

 

そんな事を言われる資格があるのだろうか。

自分なりに苦労はしているかもしれない、だがそれ以上に周りには迷惑をかけている。まだ、自分の中では誰も笑顔に出来ていない。夢の一歩すら踏めていない気分。

 

やはり、みんなを笑顔にしようと旅に出た憧れのあの人のようにはなれないのか。

 

 

「そうね……受け取っておくわ」

 

「……」

 

 

欲しくない訳では、全く無い。自分が受け取れるのか、そんな資格があるのか。頑張っているのか、誰も笑顔に出来ていないのに。

だからといって受け取らなければ、がっかりさせてしまう事になる。

 

あぁ、受け取った瞬間、自分はどんな顔をしていたのだろうか。また自分は笑顔を作れてはいなかったのだろうか、そんなのでは誰も笑顔には出来ない。

 

 

「あとこれ、弥生(やよい)と幸汰からだって」

 

「え……えぇ、ありがとう。弥生って……あの弥生?」

 

「うん」

 

 

裕也から手渡された物を見て、言葉が詰まりながら反応してしまった。

やはりちょっとした邪念は、表情にも言動にも出てしまう。やっぱり駄目だなと顔をうつむかせながらも、その物を受け取った。

 

弥生とは裕也の妹である戦極弥生の事である。弥生が親について行って以来、会ってはいないのだがこうしてプレゼントを貰う事は多い。

 

そこには茶色の小包が二つ。持った感じとしては別に重くはなかった。小物か何かだろうか、落胆したままだったが小包を開いてみた。

 

 

「安全祈願の御守りと……えっと、アニメ……? 何かのアニメのストラップかしら……」

 

 

出てきたのは紫色の布に白く『安全祈願』と書かれた御守りと、黄色の髪に白い西洋の銃を持ったアニメキャラのストラップ。

これは何かと思っていれば、アニメキャラのストラップが入っていた小包の中からメモ紙がヒラリヒラリと落ちてきた。

 

 

『拝啓────親愛なるお兄様の幼馴染である矢澤にこ様。

誕生日おめでとうございます。

「ティロ・フィナーレ」

敬具────戦極弥生』

 

 

「親愛なるお兄様なのね……ってティロ・フィナーレはこのキャラの名前かしら」

 

 

そこについついツッコミを入れてしまうにこ。弥生が執筆する大体の文章には、こんな風に書かれているのが当たり前なので特に気に止めることもないのだが、やはりツッコミを入れてしまうのが定番になっている。非常に稀にだが、たまに理解出来ない電波文章を書いてくる事もある。

ちなみにティロ・フィナーレとはイタリア語で「最終砲撃」を意味するのは全くの余談だ。

 

となると、この安全祈願の御守りは幸汰からだろうか。何故この御守りかは幸汰のセンスを疑うが、あの化物に襲われた事もあるのでその事を心配してからの事かもしれない。何だか幸汰らしいのか、らしくないのか。

プレゼントを貰うのは嬉しいが、やはり自分は心配しかかけていないなと、また少し落胆してしまった。

 

 

 

 

 

「ねぇ……部長」

 

「何? 朱果」

 

「その……プレゼント、やっぱり……嬉しく、なかっ……た?」

 

 

基本いつも無表情な朱果が、沈んでいるのが分かる表情で聞いてくる。視線を落とし、唇を噛み締め、腕を少しながらプルプルと震えさせている。出会ってからまだ二ヶ月しか経っていないが、こんな姿を見るのは初めてだ。

 

 

「だっ、全っ然嬉しいわよ! あんた達が選んでくれたんでしょう。それなら嬉しくないわけがないわよ」

 

「ほ、ほんとっ……?」

 

 

嬉しいに決ってると、慌てながら訂正させる。仲間と思っている人達からプレゼントされたものなら尚更だと。

 

 

『仲間』

 

 

「だから、そんな顔にならないの。ほら、にっこにっこにー♪」

 

 

相手は仲間も思っていなくても。いや、自分が仲間だと思っている朱果を信用しないで、仲間と言えるかは矛盾しているかもしれないが。

それでも、せめて仲間には笑顔になってほしい。それが、にこの気持ち。

そして、にこが行ったのは尊敬している父親から教えて貰った持ち芸()。『これなら誰でも笑顔になれると』そう教わった。そもそもこの技を自分に教えてくれた父親も、その親友であり、尊敬しているもう一人の人から教わったようなのだが。

 

離れないで。私の所から行かないで。

 

 

「……ふふっ」

 

「っ……」

 

 

あぁ、笑ってくれた。今まで見たことがない、ちょっとした無邪気な笑顔。だが、それを見ると心が痛んだ。

これは笑顔になってほしいからではなく、自分の所から離れてほしくないという邪念から出てきた持ち芸なのだろうか。そう思ってしまう自分がいた。

 

 

「さっきあげたペンダントね、朱果ちゃんが選んだんよ」

 

「えっ……?」

 

「本当は別のペンダントにしようと思ったんだけどな、朱果がそれがいいって」

 

「そ、そうなの……? 朱果?」

 

 

にこがそう聞くと、朱果はこくんと頷いた。

 

 

「うん……だって、それに……この、『仲間』の……思い出、しまえるかな……って」

 

 

朱果がその言葉を深い意味で放ったかは分からない。単なる無邪気な子供心かもしれない。『仲間』というのは、ただ嘘が表に塗られた虚言なのかもしれない。

 

だがそんな事を考える前に、にこの心に少し光が射した気がした。

 

 

 

 

 

『あんた誰よ……新入生?』

 

『えっと……間違って迷い込んじゃったとか?』

 

『……ここ、どこ?』

 

 

新学期が始まってから初めて、それも突然部室に訪問して来たのは、部活動体験の場所を間違ってしまった少女。

 

 

『いや、あんたまた来て……って、それ保存用の伝伝伝!? 何勝手に見てんのよ!』

 

『……これが、アイドル……!』

 

 

自分の保存用である伝伝伝を、部室のパソコンを勝手に使って勝手に見ていた少女。その目はにこが目指すアイドルを見て、とても眩しくキラキラしていた。

 

 

『……アイドル、って……どんなの、です……か?』

 

『え、えっと、アイドルは見てくれる人みんなに笑顔を与えるものよ!』

 

『へぇ……アイドルって、凄い……ですね……!』

 

 

自分が求める理想のアイドルの姿を教えると、凄いといって言葉を荒らげていた少女。

 

 

『……あんた、アイドルに興味あんの?』

 

『ん……分から、ない……でも、凄くカッコいい……とは、思う』

 

『じゃあ……この、アイドル研究部に入らない?』

 

『……うん!』

 

 

アイドルに『興味がある』ではなく『凄くカッコいい』と言い、その顔を見て何故か勧誘してしまった少女。

 

 

それが、出雲朱果だ。

 

 

 

 

 

後輩に認めてもらえるとか何だか変な話だが、それでも朱果に『仲間』と言ってもらえたのが嬉しかったのだ。アイドル歴は二ヶ月とまだまだにわかの域にいるのだ、失ってしまった仲間と思っていた少女達と同じ。

それでも、この出雲朱果の純粋な気持ちに、自分が心打たれてしまったのかもしれない。

 

 

「やっと、笑ってくれた」

 

「えっ」

 

「ほら〜、写真撮るで。ほらほらゆうっちも」

 

「ちょっ、おまっ」

 

 

朱果が吐露した言葉に、にこは疑問に思って声が出てしまうが、それも希と裕也が押し込んできたことによって何処かに飛んでいってしまった。

 

 

「はい、チーズ!」

 

 

 

 

 

あの時、撮った写真には最高の笑顔が写っていた。これは裏が無い、作られていない最高の笑顔。

これも写真にしてしまえば、今では『思い出』だ。思い出はイイものもあるし、勿論苦い思い出もある。

苦い思い出は『仲間がいる頃』、イイ思い出も『仲間がいる頃』。それは内容が違っても、外見は変わらない。

 

兎に角、この思い出はこのペンダントという宝箱に大切に仕舞っておこう。

もしかしたら、また進めるかもしれない。アイドルを純粋に思っているこの子と、スクールアイドルとして。ついついこんな事も頭の片隅に置いてしまっている、ただ朱果に期待しているだけなのかもしれない。

いつか、自分の目の前から消えてしまうかもしれない存在なのに。

 

 

だからこそ、この『仲間達』と撮ったこの写真を、仕舞っておきたいのだ。

 

 

本当の『仲間』となれた、この瞬間を撮った写真。『今が最高』と思えた写真を。

 

 

 

 

 

矢澤にこ生誕記念 思い出を仕舞い込んで -終-

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

『オレンジスカッシュ!』

 

「セイハァァァァァ!!」

 

 

まだ謎が解明されていない森、ヘルヘイム。

そのど真ん中で、オレンジを被った鎧武者────アーマードライダー鎧武が大橙丸に纏ったエネルギーでインベス達を切り裂き、一掃する。

爆発後の焦げ臭い香りと、インベスが撒き散らした液の臭いが混ざりあって鼻をくすぐる。それはとても、いい匂いとは言えるものでは無かった。

 

 

「ふぅっ……」

 

 

まるで激しい運動が終わった後のような生温かい吐息を漏らしながら、鎧武はオレンジロックシードのキャストパッドを閉じた。

オレンジの鎧であるアームズとライドウェアが粒子となって消えると、その中から現れたのは葛葉幸汰だ。

 

 

『もうすっかり身体に馴染んでいるようだね。でも、そんなに戦って疲れていないかい?』

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

『いやぁ疲れてるんだったら、ちゃんと休んでね? そうしないと、私賢虎に怒られちゃうし。アハハハハ』

 

 

幸汰が身に付けている無線から飛んで来るのは、愉快爽快な女の声。あまりにも幼稚過ぎるこの声が、この戦極ドライバーの開発者(・・・・・・・・・・・)だと思うと、何だか呆れてしまう。『花道オンステージ』や『Knight of Spear』を考えた人物というのは、納得できてしまう自分がいるのだが。

 

 

『んでね、でね。戦極ドライバーの事についてなんだけど────』

 

 

正直な話、この人の解説やらそんなのは幸汰には理解出来ない。

幸汰はどちらかと言えば、脳を使って理解するというより身体を使って理解する等の体育系の人間なのだ。

 

そんな訳で幸汰は開発者の話を聞こうともせず、あさっての方角を見つめながら思考回路を回想へと向ける事にした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『幸汰さん。大切な話があるんですけど、今からいいですか?』

 

 

裕也やにこと共にヘルヘイムの森から命からがら脱出した後、幸汰は光真に話があると電話で呼び出されていた。

いつもと同じ丁寧かつ軽快な口調。話といえば何だろうか、きっとチーム鎧武の事だろうか。そう思っていた。

 

場所は有名な洋菓子店であるシャルモン。

中に入って何処にいるのかと、あたりを見回して光真を探す。日が暮れ始めているからか、客はほとんど居ない。

 

「幸汰さん」と光真の声。

声がした席を見てみると光真、その隣にはスーツを着こなした見知らぬ男性が座っていた。目の下に隈が出来ている、いかにも仕事の重役を任されていそうな人物。

 

 

「っと……貴方は?」

 

「こうやって会うのは初めてだな、葛葉幸汰。私は光真の兄である呉島賢虎だ。いつも光真が世話になっている」

 

「あぁ、あんたがミッチの兄貴……って、えぇぇぇ!?」

 

「幸汰さん、静かに……」

 

 

光真の兄と知った瞬間、幸汰は声を荒らげて驚いた。流石に店内で騒ぐとここの店主が黙っていないので、それを光真は何とか静める。

何故なら光真の兄といえば自分が通うUTX学院の理事長であり、姉が働いているユグドラシル・コーポレーションの重役にも就いているという凄い人なのだ。幸汰からしてみれば、そんな表現しか出来ない。

 

 

「すみません……で、ミッチ。話って何だ?」

 

「話というのは本当は僕ではなく、兄さんからなんです」

 

「えっと、賢虎……じゃなくて、呉島賢虎さんが?」

 

「そうだ、すまないな。あと賢虎で構わない」

 

 

光真に聞いてみれば、話があるのは自分ではないと言う。賢虎だと言うのだ。

 

 

「えー……賢虎さん。俺に話とは何ですか……?」

 

「む……と、何と言えば良いのだろうか」

 

 

賢虎が顎に手を当てながら悩んでいるようだった。しかし光真の兄の理事長が直々に話す内容で、しかも話しにくいような内容とは一体なんだろうか。

 

あれか、ついこの間行ったテストの点数が悪かったからだろうか。確かに春休みの期間はチーム鎧武の皆と遊び呆けたいた為に、歴史に関わらず本当にボロボロだったのが脳裏に過ぎる。

ちなみに歴史を含めた社会は12点。ユグドラシルに勤める姉とは似ず。

まずい、このままでは退学という進路だろうか。せっかく入学料が免除されて入ったUTX学院だ。退学だけは本当に辞めてほしい。

 

そんな事だと思っていた。

 

 

 

「もし、この世界に『理由無き悪意』が迫っているというのなら、君は信じるか?」

 

 

「…………は?」

 

 

賢虎の口から漏れた言葉が理解出来ずに、思わず呆けた声が出てしまう。

 

「兄さん。幸汰さんじゃなくても、それだと分からないと思う」と光真。何だか馬鹿にされた気がするとは気のせいか。

「あぁ、すまない。これでは分からないな」と賢虎。

 

理由無き悪意とは一体どんな意味なのだろうか。一瞬、さっき遭遇した森と化物の姿が過ぎり、妙に悪寒がする。

 

 

 

「君はUMAなどの目撃情報がここ最近で多発している……といったネットワークでの書き込みを知っているか?」

 

「耳にした事はあるんですけど……あまり興味なくて」

 

「そうか。UMAというのは未確認生物の事だ。勿論、ネット上に散らばっている99%は嘘で塗り固められた物と言っていい。しかし、一部例外があるのだが」

 

 

UMA、通称未確認動物。それはこの世界に存在する可能性はありながらも、まだ確認されていない未知の生物。だが、転がっている情報の殆どはガセネタとされる偽の情報、あるいは最初から創作された都市伝説とされている。

幸汰は昔、希からある程度聞いたりした程で、そのような現実味の無い事に興味はなかった。最近はそのような事も幸汰のクラス内で話題にもなっていたりするが、入学したばかりなので特別友達が多い訳ではなくそのような話題に入りにくい。それ以前に幸汰は興味が無い。楽しそうに語る希から聞くのは別なのだが。

 

なので自分が微塵の興味すら無い現実離れした事を、見た通り現実主義のような賢虎の口から出てくるのはあまりにも意外だった。

だが、このような真剣な顔で話されると、逆に寒気がする。先程、そのような体験をしたばかりなのだ。少しだけ、あれは夢であってほしいと。

 

賢虎の胸ポケットから取り出される数枚の写真、それをのぞき込むと幸汰はゾッとし顔が歪んだ。

 

 

「これっ……さっきの……っ!」

 

「……その反応はインベスを知っているようだな。そうなると、君は完全に無関係とは程遠い存在となる」

 

「いん……べす……?」

 

「幸汰さん……」

 

 

写真に写っているのは、あの灰色の化物。

 

『インベス』と謎のワードを賢虎は口にする。困惑する幸汰を心配するかのように、光真は横から大人しく見ていた。

 

賢虎は横に存在感を無くすかのように置いていた黒い大きめの鞄から、『何か』を取り出した。その『何か』は怪しく黒光りして、幸汰の目に届く。

 

 

「それは……」

 

「……これは『禁断の力』だ。受取りたくなければ別に構わない。間違って使ってしまえば自らの身を滅ぼすだけだからな。インベスの事は他言無用にしてもらい、いつもの日常に戻ってもらっても構わない。君はまだ幼いのだから」

 

 

だが……と賢虎は言葉を続けた。

 

 

「……葛葉、君は見たか? インベス達は何をするか」

 

「あ……ぁ……」

 

「理由無き悪意と共に、人間などの生物に対して殺意を持っている。分かっているが理由は無い。ただそれだけで、大人、子供、教師、学生、家族……そして────」

 

 

「────昨日まで普通だった友が殺される」その言葉は聞かなくても、最も『友』を大切にしている幸汰には分かりきった事だった。

さっきもだ。自分達三人はインベスに殺されかけたのだ。それを裕也が鎧武者────武神鎧武となって何とか撃退してくれた。一方、幸汰は何も出来なかった。ただにこと隠れることしか、自分が守らなければいけない友なのに。

 

だから、幸汰は震える手でその黒光りする『何か』を────戦極ドライバーを握りしめた。隣には『禁断の果実』とされる錠前────ロックシード。それをじっと見つめた。裕也と同じ『禁断の力』を。

 

 

「それが君の答えか」

 

 

賢虎はそう吐くと、何故か哀しそうな瞳で幸汰を見やった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『────というのが今回の計画って訳で……って、幸汰くん? ちゃんと聞いてる?』

 

「……ん、あぁ、わりぃわりぃ。で、何だっけ?」

 

『戦極ドライバー拡張スロットの試作品が出来たんだけど、試してもらいたくって……あ、勿論リスクがあるかもしれないから嫌ならいいんだけど』

 

 

開発者である『戦極』の声が介入し、幸汰は回想から現実に引き戻される。

 

『戦極ドライバーの拡張スロット』とは最近制作しているという戦極ドライバーの付属品だ。ロックシードの力を限界まで引き出す為、リスクがあるのは必須だろう。しかし、幸汰は────

 

 

「いや……やってみる価値はあるだろ」

 

『そう! じゃあいつ────』

 

「明日の放課後でいい」

 

『えっ……でも君は学生だよ? 何でそんなに……』

 

「別に俺がやりたいんだからいいだろ? まず学生をモルモットにしたいって言ったヤツ誰だよ」

 

『ははっ……私だったね!』

 

 

クククと笑う声が無線から聞こえてくる。戦極が不気味に笑っているのは明確だった。その笑いは不快極まりないのだが、幸汰の心にそんな事を思っている余裕は無い。

 

幸汰が戦極ドライバーとロックシードを受け取って一週間もせずに、裕也が武神鎧武に変身している事がユグドラシル側に発覚してしまった。

幸汰も薄々感づいていたのだが、裕也はユグドラシルから盗まれた戦極ドライバーを偶然拾って変身(・・・・・・・)してしまったのだ。ユグドラシル側では無いアーマードライダーなど、ユグドラシルが黙ってはいない。

一度はアーマードライダー斬月である賢虎が武神鎧武の戦極ドライバーを奪還しかけたのだが、何故か撤退。ほぼ勝負はついていたというのに奪還しなかった。それに今では強引な奪還にあまり乗り気ではなく、様子見をしている。

 

ただ武神鎧武である裕也が確実な力をつけているのも事実。これではユグドラシルのアーマードライダーと完全に対立し、もしかしたらだ────死者が出てしまう争いに発展がしかねないのも目に見える。

 

 

だから────

 

 

 

 

 

────俺が何とかしなきゃ。

 

 

 

 

 

『じゃあ詳しい説明は明日、私の第一研究室でね。それじゃ────』

 

 

ブツン────と無線が切られた。理解し難い話、そもそも会話すら消費体力が多い人物である戦極との無線が切られた事に、少々安堵して溜息をついた。吐息が青い空気と混じりいる。

 

だが、このヘルヘイムの森では安心の心の許容も許されない。

 

その場の空気が震えた。

 

 

「────ッ!」

 

 

ここは死の世界、ヘルヘイム。ヘルヘイムの森に相応しい殺気。幸汰の後ろには先程倒し損ねたであろうか傷ついた初級インベス。腹部から垂れてくる美しくも禍々しい緑色の体液が、見ているだけでも痛々しいのにも関わらず虫の息のままインベスは殺意を幸汰に向けている。

 

あの日と同じ────この理由無き悪意から守れなかったのだ。変身してしまい今では狙われている裕也、本来なら自分が護るべき筈のにこ。

その二人をただ何も分からずに見ていた自分────あの時、何も知らずに浮かれていた自分に幸汰は罪悪感を持っている。

 

あの時、自分が戦極ドライバーを拾い変身していれば、二人を護ると同時に自分がユグドラシルに狙われるだけで済んだのではないか。もしくはユグドラシルともっと平和的な解決があったのではないか。

今こうやっているのは全て自分の落ち度……初めは関係なかったスピリチュアルな友達や、人気アイドルの友達にインベスの恐怖を見せつけてしまい、昔の根っからの親友は狙われ続け、初恋の少女すらも護れず────

 

 

それだから、これからは────

 

 

「変身ッ────!」

 

 

『オレンジ!』

 

 

『ロックオン!』

 

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!』

 

 

走る。戦極ドライバーにセットされたオレンジロックシードをカッティングブレードで叩きながら、オレンジの鎧を被り武神鎧武とほぼ同一の鎧武者となり。

 

その殺意を、理由無き悪意である個体に向かって。強く、粘り気のある地面を蹴り上げて。

 

 

『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!』

 

 

「────ウオラァァァァァ!」

 

 

その強い叫びと共に、エネルギーを纏ったアーマードライダー鎧武の右脚はインベスを貫通する。よって、インベスは炎の中に消えた。

 

 

 

 

 

────俺が裕也の代わりになって戦う。そしてツバサと英玲奈やあんじゅ。チーム鎧武の皆、ミッチ、裕也、希、そして……にこを護るんだ。

 

 

 

 

 

その強過ぎる『友』への執着は、歪み、歪み続ける。そこに恋心があれば────破滅するのだ、自分も『仲間』も。

 

 

影武者となりし人は絶望の道を辿る。

 

 

まるで運命に定められるかのように。

 

 

 

 

 

短編 歪み行く信念 -終-

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「あっ、葵骸さーん! お久しぶりです」

 

「……凛か」

 

 

ふと、黒き少年の煉は辛味噌ラーメンを啜るのをやめると、自らの名前を呼ぶ人物を確認する為に横の扉の方を振り向く。頭の後からは亭主の挨拶が飛んでくる。相変わらず威勢のいい亭主だ。

そこには星空凛がいた。確かに久しぶりだなと煉は思う。最近はラーメン屋を食べ歩きしながら自らを襲う化物共を狩っていたので、一ヶ月程この店には訪れていなかった。

 

 

「えっと……凛、葵骸さんに名前教えてないと思うんですけど……」

 

「お前の一人称で分かるに決まってるだろ……。あと、その妙な敬語……やめとけ」

 

「えっ……何でですか?」

 

「俺とお前とでは歳が同じようなもんだ。だから別にいい……とそんな事はいいんだ、これこの間のヤツだ」

 

 

凛の真面目なボケに突っ込むのと、妙な敬語を止めさせた。

 

煉と凛では歳は変わらない。それは煉だけが知っている事で、凛や他人は知らない。元々、関わりがあった人達でもだ。

 

 

だって何もかも忘れてしまったのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

と、そんな事はいいと煉は凛に肌色の布を差し出した。

 

 

「あ、これ凛のハンカチ!」

 

「血のシミが残らないよう綺麗に洗っておいた」

 

「てことは煉くん、怪我治ったの!」

 

「一ヶ月もすれば嫌でも治るだろ……」

 

 

猫の刺繍がされたハンカチを受け取った凛は、即座に煉の右手を握った。そこには傷痕がまるで無かったかのように綺麗に治っており、それを確認してホッとしたあと男性の手を握っているのが恥ずかしくなり少し頬を赤くしながら手を離した。

 

ハンカチには血のシミが一つもなく、それ程まで綺麗に洗ってくれたのかと思う。

 

ちなみに凛が『煉くん』と呼んでいるのは自覚が無く自然と、だ。

 

 

「ッ────おやっさーん! 凛にも辛味噌ラーメン一つ!」

 

「あいよー!」

 

 

だがそう呼んでいるのに気付いてしまった凛は、誤魔化すかのようにラーメンを注文して煉の隣に座る。その行動を不思議と思った煉は疑問を投げかける。

 

 

「……何故、俺の隣だ」

 

「だ、だってラーメンは友達と食べる方が美味しい……かなって」

 

「……クっ」

 

 

それを聞いた煉は肩を震わせて笑う。何故笑われたのか分からない凛の顔は、恥ずかしさで真っ赤に染まりそうだった。

 

 

「なっ、何が可笑しいんだにゃー!」

 

「っ、いや、相変わらずだってな」

 

「……?」

 

 

訳が分からないよと凛は首を傾げる。それを見て煉はまた笑いそうだった。久しぶりに笑った気がする。どれくらい笑ってなかっただろうか。

 

 

────『友達』か。

 

 

「はい、凛ちゃんに辛味噌ラーメンね」

 

「飯塚さん、ありがとにゃー!」

 

「まぁ、バイトだから。それじゃあゆっくりしていってね」

 

 

神主をやっている筈の飯塚もご苦労なこった。

 

凛が注文した辛味噌ラーメンを持ってきた飯塚は、煉を見やるとニヤッと笑ってゆっくりしていけ、そう言った。それを聞いた煉はチッと舌を鳴らす。

 

 

「じゃあ食べよーっと! いただきまーす!」

 

 

 

 

 

その日、とあるラーメン屋には共にラーメンを啜る音が聞こえたんだとか。

 

 

 

 

 

短編 また会えたね -終-

 

 

 

 

 









まず一言。

送れてすみませんでしたぁぁぁぁぁ!


にこ誕に添える短編の幸汰編で一旦止まってしまい、体調不良など色々ありまして……

今回については特に語りません。強いていえば全員『仲間』を大切にしています。特ににこや幸汰は……

変な描写でしたら申し訳ございません。文字にするのはこれで限界です。

これからのにこや幸汰、そして謎の人物である葵骸煉の物語にご期待下さい。

え? 主人公の裕也と凱斗の影が薄い……? はは、そんな訳……


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