ラブライブ!-女神と武神のアイドル戦極記-   作:Professor灰猫

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ロックシード

異界『ヘルヘイムの森』と現実世界を繋げる錠前。その中には膨大な未知のエネルギーが収縮されている。

インベスの召喚など、非常に危険な事が出来る代物。
また戦極ドライバーとのセットで使用する事で、アームズを召喚しアーマードライダーへと変身する事も可能である。







陸話 騎士

季節は雨が降りしきる、梅雨真っ只中の六月。音ノ木坂学院に一年生が入学してから、早二ヶ月が経った頃。それは期末試験の結果が、生徒に返された後の放課後だった。

 

一年生の教室に怒鳴り声と、とてつもない悲鳴が上がった。

 

 

「穂乃果ぁぁ!!」

 

「う、海未ちゃん!? おおおちついて!? ぎぁぁぁぁぁ!?」

 

 

声の主は綺麗な茶髪をサイドテールに結び、椅子から転げ落ちた女の子、高坂(こうさか)穂乃果(ほのか)だった。彼女は今、幼馴染みに怒られていた。

 

その幼馴染みとは、清楚に長く伸ばした黒髪を持ち、大和撫子という言葉が最適であろう園田(そのだ)海未(うみ)である。彼女が穂乃果に対して怒っている理由とは、

 

 

「穂乃果! あれ程、赤点を取らぬように忠告しておいた筈ですよ!? 何故……何故、貴女は……!」

 

「だ、だってぇ〜! 私、数学だけは苦手なんだもん!」

 

 

そう……高坂穂乃果は期末試験の数学で、見事に赤点を取っていた。見ると、数学以外は七十点を越えているのだが、数学だけは四十点を下回っていた。

 

 

「だって、ではありません穂乃果! ほら、ことりからも何か言ってやって下さい!」

 

「えっ、私……?」

 

 

グレーの髪の毛をサイドテールに特徴的な鶏冠の髪型を持つ、ゆるふわとした(みなみ)ことりは、海未から突然話を振られて戸惑ってしまう。

 

 

「うーんとね……次、頑張ればいいんじゃないかな……?」

 

「ほら! ことりちゃんもそう言ってるよ!?」

 

「ことり! 穂乃果を甘やかしてはいけません!」

 

 

ことりは穂乃果には甘く、『次、頑張れ』でその話を濁していた。逆に海未は、穂乃果を甘やかすとろくな事にならないと思っているので、穂乃果には厳しかった。

 

 

「あ、ほら! きっと凱斗くんも赤点だと思うよ!」

 

「高坂、誰が赤点だ」

 

「げっ……凱斗くん……」

 

 

穂乃果がそう吐くと、その後ろには音ノ木坂学院でも数少ない男子生徒が立っていた。

 

ツンとした茶髪に、尖った目付き。170センチメートルはある身長を活かし、ずんと仁王立ちしている男、駆紋(くもん)凱斗(かいと)である。

 

海未は待ってましたとばかりに、凱斗に笑顔を見せつけた。

 

 

「穂乃果。凱斗は成績優秀ですよ?」

 

「ふん、赤点など授業を真面に受けていれば、余裕で回避できる」

 

「えぇっ!? う、そ…………」

 

 

凱斗は鼻を鳴らすと、期末試験の解答用紙を穂乃果に見せつける。それを見て穂乃果は唖然としていた。

 

そこには八十以上の点数が記載されていた解答用紙が、目の前にあったのだ。更に凱斗が得意とする英語は、九十点を越えている。

 

 

「でも凱斗くん家では勉強しないって、海未ちゃん言ってたよ!?」

 

「だから授業を真面に受けていれば復習等という物はいらん。毎時間寝ている貴様が悪い」

 

「そんなぁ……」

 

「あはは……穂乃果ちゃん……」

 

 

自分の悪態を凱斗に突かれて、ぐぅの音も出ない穂乃果は机にのだれてしまった。それを見て、海未と凱斗は呆れて溜息をつき、流石のことりも苦笑している。

 

だが、まだ穂乃果は自分と同レベルの人物を探すのを諦めていなかった。その標的となったのは……

 

 

「朱果ちゃん! テストどうだった!?」

 

「はぁ……呆れるな」

 

「自分と同じレベルを探して、引き込むのに必死なんでしょうね」

 

 

同じクラスの出雲朱果だった。彼女は比較的おっとりとしていて、授業中も睡魔に勝てないのか、子供のように寝ているのだった。

 

海未やことり、そして凱斗は余り彼女の事を知っている訳では無いし、話す訳でもない。ただ、穂乃果は実家にお饅頭を買いに来る子で定着しており、それなりの交流もあった。

 

穂乃果は彼女の祖性をある程度は知っている。だから……と踏み込んだのだろう。だが、その希望(?)は大きな土砂崩れの様に崩されてしまう。

 

 

「穂乃果の、期待している様な……答えは、無いよ……?」

 

「えぇぁぁぁぁぁ!?」

 

 

朱果の解答用紙を見た穂乃果は、顎が外れる様な勢いで口を開ける。その口は塞がらなかった。穂乃果の凄まじい反応を見て、三人も気になったのか覗き込んでしまった。

 

その解答用紙全てには、棒が一つと丸が二つ…………そう、百点と呼ばれる幻の数字しか載っていなかった。全ての答え、計算式なども完璧で、凱斗達も思わず驚いてしまう。

 

 

「……こんなの、一瞬で記憶できる。計算式も……方法、覚えれば……活用方法なんていくらでもある」

 

「凄いねぇ……朱果ちゃん」

 

 

まるでスーパーコンピューターの様な無理難題を平然とやってのける朱果に、ことりは絶賛の言葉を贈った。

 

凱斗は少し悔しいのだろうか、ある事を質問してみた。

 

 

「……貴様。円周率は最後まで言えるか……?」

 

「……言える。3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679821480865132823066470938446095505822317253594081284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461284756482337867831652712019091456485669234603486104543266482133936072602491412737245870066063155881748815209209628292540917153643678925903600113305305488204665213841469519415116094330572703657595919530921861173819326117931051185480744623799627495673518857527248912279381830119491298336733624406566430860213949463952247371907021798609437027705392171762931767523846748184676694051320005681271452635608277857713427577896091736371787214684409012249534301465495853710507922796892589235420199561121290219608640344181598136297747713099605187072113499999983729780499510597317328160963185950244594553469083026425223082533446850352619311881710100031378387528865875332083814206171776691473035982534904287554687311595628638823537875937519577818577805321712268066130019278766111959092164201989………………」

 

「分かった。もう言わなくてもいい。俺が悪かった」

 

「いい……の……?」

 

「あぁ。それ以上言うと、アイツの脳が耐え切れなくなって死んでしまうからな」

 

「穂乃果ちゃん!?」

 

 

訂正しよう。出雲朱果はスーパーコンピューターを超えた、人間ハイパーコンピューターだったのだ。円周率の答えが求められているとなると、人間の社会的に大問題なので、凱斗は朱果を止めた。

 

一方、穂乃果は自分の脳が状況を整理し切れなくなり、気絶していたのだ。ことりが肩を揺さぶって起こそうとする。

 

 

「……あ、部活の時間。穂乃果は……大丈夫……?」

 

「心配するな。俺と南で保健室に運んで行く。貴様と……園田。お前も部活があるんじゃないか? あるなら先に行っていろ」

 

「分かりました。ならお言葉に甘えさせてもらい、弓道部の方に行こうと思います。……そう言えば朱果さんは、何部に入ってるんですか?」

 

「私……アイドル、研究部」

 

「へぇ〜そんな部活があったんだねぇ」

 

 

部活動に所属している海未と朱果は、もう教室を出なければならない。海未は弓道部に所属していて、朱果はアイドル研究部に所属している。ことりはアイドル研究部の存在を知らなかった事を口にしているが、海未や凱斗もその存在を知らなかった。

 

 

「南、その部活に興味があるのか?」

 

「ううん。ただ衣装作りとかアイドルっぽい事もしてるのかなぁーって。凱斗くんは?」

 

「ふん。何がアイドルだ。あんな物ただの俗物に過ぎん」

 

「またそんな事言ってぇ……ごめんね朱果ちゃん……ってあれぇ?」

 

「何故、貴様が謝るんだ」

 

 

ことりと凱斗が話し込んでいる内に、海未と朱果の姿はもうなかった。一言、言ってから行けとも凱斗は思ったが、それよりもことりが凱斗の代わりに謝ろうとしたのか気になった。

 

 

「だってぇ……凱斗くん素直になれないし……。あ、これっていわゆるツンデレかな?」

 

「誰がツンデレだ。俺はそんな物ではない」

 

 

凱斗は自分が素直になれないという性格なのは、自分自身が良く知っている。だが、別に治すつもりもないし、変えようとも微塵と思っていない。

 

ただ、自分がよく言われる『ツンデレ』と呼ばれる物かと言われれば、そうでは無いと言う。ツンはしているかもしれないが、デレはしていない。デレはしていないぞ、決して。

 

 

「……話が逸れているな。高坂を運ぶぞ、南手伝え」

 

「あっ……待ってよぉ〜! 凱斗くん!」

 

 

話が逸れていると凱斗が指摘し、気絶している穂乃果をおぶって教室を出る。それを追うように、ことりも教室を出て行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「うぅーん……ん? あ、あれ?」

 

「あ、穂乃果ちゃん。おはよう」

 

 

穂乃果が目を覚ますと……まず始めにことりが見えた。頭の後には柔らかい感触がある。顔をずらして確認すると、ことりの膝だった。つまり穂乃果は膝枕をされていたのだ。更にここは保健室であった。

 

何故膝枕をされているのかと、眠る以前を思い返してみた。だが、朱果からテストを見せてもらった……その後の記憶が無かった。

 

よく見ると保健室の奥には凱斗が座っていた。なので二人に聞いてみる事にした。

 

 

「え、えっとね凱斗くん、ことりちゃん。何で私はここでことりちゃんに、膝枕をされてるのかかな?」

 

「貴様覚えていないのか? 出雲が円周率を……」

 

「あー! 分かった、ストップ! 止めて止めて!」

 

「だ、大丈夫だよ〜、穂乃果ちゃん。落ち着いて……」

 

 

穂乃果は思い出した。あの悪魔の数字が並ぶだけの戦慄を……。トラウマにでも鳴っているのだろうか、身体を起き上げて耳を塞いだ。

 

 

「はぁ……落ちついたよ。ことりちゃん」

 

「それはそうと、高坂。今日も決闘を申し込む。反論は認めん」

 

「えぇ〜!? 今日もするの!?」

 

 

穂乃果の精神が落ち着いたのを他所に、凱斗は"決闘"というモノを申し込んだ。他人から見て決闘が何だか分からないが、反応からして今日が初めてでは無いようだ。

 

 

「そうと決まれば早く行くぞ」

 

「ちょ、ちょっと凱斗くん!? 私するって言ってないよ!? ことりちゃん助けて!」

 

「えぇーっと……穂乃果ちゃん、ファイトだよっ……?」

 

「何でぇぇぇぇぇ!? てかそれ私のセリフぅぅぅぅぅ!」

 

 

凱斗が穂乃果の制服の首元を掴むと、ズルズルと引きずっていく。今の穂乃果に異論とことりの助けは有らず、強制的に凱斗に連れていかれるのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「あ、駆紋くんと高坂さん。今日も来たんだね」

 

「ははは……すいません。凱斗に強制的に連れてられてきました」

 

「いいんだよー。駆紋くんと高坂さんの試合、高レベルでいつ見ても面白いから。今日も派手に使っちゃってねー」

 

「私に異論を吐く権利は無いのか……」

 

 

凱斗達は音ノ木坂学院の体育館に来ていた。最早、凱斗と穂乃果の決闘とはご恒例の様で、先輩達に顔を覚えられている。そして、その決闘の内容という物が……

 

 

「早く防具を着けて準備をしろ」

 

「まさか、高校に上がっても剣道をする事になるとはね……」

 

 

そう、それは日本古来からの武道である、剣道での試合であった。これは凱斗が穂乃果の試合を見てから、殆ど毎日行っている。

 

実を言うと穂乃果は小学生の頃から剣道をやっており、中学生の頃には大会で地区優勝を果たしている実力者なのだ。凱斗はそれを見ると、挑まずにはいられなかったのだ。

 

 

「凱斗くん、また防具しないの? 今度こそ怪我しても知らないよ?」

 

「毎回言っている事だが、俺はこっちの方が立ち回りしやすい。防具など飾りだ」

 

 

穂乃果は防具を身に着け立っているというのに、凱斗は防具を一切身に着けていない。言っておくが、凱斗は最近やり始めた初心者だ。竹刀が当たったら一溜りもない。

 

 

「ならいつもの特別ルールって事でいいのね?」

 

「あぁ」

 

 

なのでこの決闘と呼ばれる試合は、特別ルールで行われる事となる。それは時間制ではなく、どちらかが一度でも相手の身体に竹刀を当てれば勝ちというモノだ。そうでもしなければ、大変危険である。

 

 

「ねぇ、凱斗くん。何でそんなに戦いたがるの?」

 

 

穂乃果は問いたかった。何故、危険を承知に自分と戦いたがるのか。そこまでして得られる物はあるのか……と。

 

 

「それは……」

 

 

そして、凱斗が口を開くと同時に。

 

 

「自分の強さを証明したいからだ」

 

『初めぇぇ!』

 

 

戦いの火蓋が切って落とされる。

 

二人は全力で、目の前の決闘相手に向かっていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……で、今日も凱斗が勝ったという訳ですか」

 

「当たり前だ」

 

 

時間は過ぎて、雨が降りしきる帰り道。凱斗と海未は傘をさし、二人並んで話しながら歩いていた。その話とは……そう、今日の決闘の結果だった。

 

結果は凱斗の圧勝だった。最初は竹刀と竹刀がぶつかり合っていたが、穂乃果が飛び込んで来たのをかわし、凱斗の竹刀が胴の胸当てを突いた。そして勝利が決まった。

 

なんと凱斗は穂乃果に一度も負けた事は無い。実力者を初心者が倒す。それも白熱した戦いを毎回繰り広げるのだ。

 

 

「そう言えば、穂乃果とことりはどうしたのですか?」

 

「高坂は実家の手伝い。南も用事がある……だそうだ」

 

 

決闘の後は海未の部活が終わるのを待って四人で帰るのだが、今日は穂乃果は実家の店の手伝いがあり、ことりも用事があるようだったので、こうして凱斗と海未は二人で帰っていたのだ。

 

 

「そうですか……」

 

「…………」

 

 

海未が素っ気なく言ってからそっぽを向くと、長い沈黙が続いた。やはり異性と二人きりになるのは恥ずかしいのだろうかと、凱斗も少し意識をしてしまい恥ずかしくなった。その沈黙を破ったのは、意外にも海未の方だった。

 

 

「それで……何か思い出しましたか(・・・・・・・・・・)?」

 

「……いや、何も」

 

「そうですよね……」

 

「…………」

 

「早いですね……凱斗が倒れていたあの日から早三ヶ月ですね。その日もこんな風に雨が降っていました」

 

 

彼────駆紋凱斗は今から三ヶ月前の三月。道端に倒れていたのを偶然海未が発見し、実家に運んで行った。その時は救急車を呼べばいいとも思ったが、右腕に怪我をしていて、救急車を待つより自宅で応急処置を取ってから……と判断したのだ。

 

その次の日に凱斗は目を覚ましたが、彼は記憶喪失というモノだろう。三月からそれ以前の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。分かるのはその当時着ていた、黒の生地に赤のラインが入ったコートの裏地に刺繍された『駆紋凱斗』という名前だけだった。

 

凱斗はその時何が何だか分からずパニックになっていた。そんな状態だったからこそ、海未は彼の面倒を見ようとした。

 

しばらくして怪我が治った後も記憶喪失だった為に、海未がしっかり面倒を見ようと家族に頼み込んだ。園田家も、記憶喪失の凱斗が可哀想だと思い、凱斗は乗り気では無かったが、記憶が戻るまでそのまま居候する事となった。

 

そして彼を自分と同じ位の年齢だと踏んだ海未は、ことりの母親の理事長にかなり無理を言ってだったが、凱斗を音ノ木坂学院に入学させたのだ。

 

 

「すいません。記憶を取り戻すのに、余り手伝えなくて」

 

「……何故、謝る。俺は園田に感謝している」

 

「えっ?」

 

確かに海未は忙しい。毎日、学校で学ばなければならないし、弓道にも精を出さなければいけない。だから彼女は、凱斗の記憶を取り戻せずにいたのを悔やんでいた。

 

だが、凱斗は謝られる理由が分からない。いや、分かるだろうが謝る必要は無いと思う。何故なら

 

 

「俺は貴様に命を助けられた。挙句の果てにはその後の世話もしてもらった。かなり苦労をかけてしまったようだが……。だからこそ感謝している。毎日を楽しませてくれる高坂にも南にも……勿論、園田にもな」

 

 

見ず知らずの自分にここまでしてくれたのだ。感謝しない奴はいないだろうと思っている。これが彼の口から言える、最大の感謝の言葉だった。

 

 

「……ふふっ」

 

「…………何が可笑しい?」

 

「いや……凱斗も随分と柔らかくなりましたね」

 

「ふん、貴様と同じだ」

 

「なっ……凱斗! それどう言う意味ですか!」

 

「そのまんまの意味だ」

 

 

彼は変わった。前は今よりも更にツンツンしていたのだが、穂乃果やことり、そして海未との出会いによって性格が柔らかくなっていた。それは凱斗自身、しっかり自覚している。

 

同じと言われて顔を赤く染めて反論する海未。彼女も凱斗との出会いによって変わり始めていた。

 

 

「もういいです……それにしても……」

 

 

彼女は諦めがついたかのように言葉を吐くと、脇に抱えている鞄からとある物を取り出した。

 

 

「それは確か……俺と一緒に落ちていた物だったか?」

 

「はい……園田に伝えられてきた家宝と、全く同じ形をしているのですが……一体これは何なんでしょうか?」

 

 

取り出した物とは、小刀のついたバックルの様な物と、錠前である。これは凱斗が倒れていた隣に落ちていたものらしい。記憶を取り戻す鍵になるのではないかと、ずっと持ち歩いていた。

 

小刀のついたバックルには、赤い西洋の騎士の様な顔が描かれている。錠前は、まるで全てのパワーを失ったかのように、黒ずんでいた。

 

園田家にも、これと似ている様なバックルと錠前が家宝として伝えられている。だが、それもバックルと錠前は錆びており、とても使える様な状態では無かった。

 

……と、傘に当たる衝撃が大きくなっていく。雨が強くなってきたようだ。

 

 

「ついつい話し込んでしまいましたね……早めに帰りましょう」

 

「……あぁ」

 

 

海未はバックルと錠前を鞄に仕舞うと、少し歩くスピードを速める。凱斗もそれに合せて歩くスピードを速めた。

 

この後はこのまま普通に家に帰り。いつもの様に過ごそうと、二人共思っていた。

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

ファスナーが開かれる様な音と共に、その思いは打ち壊された。

 

 

 

 

 

「っ……!? 園田! 伏せろ!」

 

「えっ……!?」

 

 

凱斗が傘を放り投げ、海未を庇う様に身体を掴みしゃがみ込んだ。凱斗はそのファスナーが開かれる様な音を、本能的に危険と感じて咄嗟に行動をとったのだ。

 

頭の上を緑色の長く凶悪に尖った爪が、風を切って通過する。凱斗は後ろに右脚で蹴りを入れ、距離を取って相手の様子を確認した。

 

 

「な…………」

 

『グォォォォォ……』

 

 

そこにいたのは……この世の生物とは思えない様な異型。二足でその地面に立っている、緑色の異型だった。二足となると限られてくるのだが、その異型はまるで見た事が無い程におぞましい。

 

殺意を放つ頭は、まさに白虎。右腕は鉤爪が奇妙な程に膨れ上がり、身体には中華風の模様を持つ…………まさに異型の怪物だった。

 

 

「逃げるぞ、園田! 来い!」

 

「っ…………は、はい!」

 

 

凱斗は海未の手をしっかり握り締めると、これ以上無いとも思える速さで、土砂降りの雨の中を必死に走り出した。後方に居るであろう殺意を放つ異型から、海未を逃がす為に。

 

全力で雨の中を掻い潜る。背後を見ると白虎の異型が追いかけて来ていた。初めは距離があったが、それも徐々に……徐々にと距離が縮まってくる。

 

 

「チッ…………こっちだ!」

 

 

園田家に向かって一直線に走っていたが、このままでは拉致があかないと判断した凱斗は、舌打ちをしながら狭い路地裏を潜って行く。

 

 

「っ……! 行き止まりですか!?」

 

 

広い空間に出たかと思ったが、そこは四角形に区切られた場所。一本しか無い路地から、あの白虎の異型が迫って来る。とうとう追い詰められてしまった様だ。

 

 

 

 

 

すると白虎の異型の後ろから、男が姿を現した。

 

 

「おいおい、何で逃げるんだよ? 俺が知ってる駆紋凱斗は、逃げる様な弱者じゃないぜ」

 

「貴様は……?」

 

「このシュラ様を忘れたとは言わせねぇ! 駆紋戒斗ぉ!」

 

 

金髪で柄が悪そうな男はシュラと名乗った。その男の手にはオレンジの錠前が握られている。

 

 

「……まさか貴様が、この怪物を操っているのか……?」

 

「大正解だぜ。すげぇよなぁ……このロックシードはよぉ!」

 

「ロックシード……? 俺を狙う理由は何だ」

 

「お前は組織の奴から殺せと言われてるんでなぁ……まぁ、個人的な怨みもあるんだけどなぁ!」

 

 

自分は危なっかしい組織から狙われているのかと、凱斗は耳を疑ってしまう。凱斗には前の記憶が全く無い。この男にも怨みを買われたようだ。記憶が無い頃の自分は一体何をやらかしたんだと、呆れてしまう。

 

 

「残念だが俺は記憶喪失とやらなんでな。だが……そんなに相手をしたいなら来い!」

 

「凱斗っ!?」

 

「……園田。お前は逃げろ」

 

 

だが凱斗には記憶喪失や個人的な怨みなど関係ない。目の前に戦うべき相手がいるなら戦う。ただそれだけだ。更にそこには海未を逃がすという思惑もある。

 

 

「いいぜぇ……駆紋戒斗。行け! ビャッコインベス!」

 

『グラァァァァァ!』

 

 

ビャッコインベスと呼ばれた異型は、その巨大な鉤爪を振り下ろして来る。

 

 

「ぐっ……」

 

「何っ……!?」

 

 

だが凱斗はその攻撃をよけずに、近くに落ちていた鉄パイプを拾い何とか爪を受け止める。相手は化物を使っているのだから、武器を使ってもフェアだろうと考えた。

 

だが相手は訳の分からない化物。来る衝撃がとても重く、一筋縄ではいかない。

 

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

『グオァァ!?』

 

 

だが凱斗は無理やり鉄パイプをビャッコインベスの身体に押し当てて、近くの壁に押し付ける。

 

 

「園田ぁ! 早く逃げ……ろ……?」

 

「凱斗っ!」

 

 

海未を逃がすのに距離を取った。ビャッコインベスを押し付けたまま海未の方を振り向く。

 

……そこには灰色の異型に囲まれた海未の姿。男の手にはドングリのロックシードが二つ。解錠された状態であった。

 

 

「ははっ……こんな時に初級インベスも役に立つじゃねぇか」

 

「貴様ぁぁ! 卑怯者の……屑が……!」

 

「はっ……勝利の為なら卑怯も薤も関係ねぇ! 駆紋戒斗っ! お前は死ねぇぇあ!」

 

「がはっ…………!」

 

 

ビャッコインベスの凶悪な爪が、凱斗の身体を貫通する。腹部は赤く染まっていく。

 

 

「凱斗ぉっ!」

 

「う…………みぃ…………」

 

 

凱斗の薄れゆく意識の中、かすれかすれの言葉はまるで届かない。

 

 

「ハァハァ……ハハハハハァァ!」

 

 

その下衆なる男の笑い声が響く中。

 

 

凱斗の身体が地面に倒れ込み、彼は意識を手放した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……んっ? ここは……何処だ……?」

 

 

凱斗が目覚めたのは、鬱蒼と木々が茂っている森の中。何故か赤い血のような雨が降り注いでいるのに、身体は濡れていない。ビャッコインベスの爪で貫かれた身体の傷は無い。自分はもしかしたら、死んでしまったのだろうかとも思った。

 

 

「……? これは……」

 

 

凱斗の制服の中には、海未が持っている筈だったバックルと錠前が入っている。相変わらず錠前はエネルギーを失っている様に黒い。

 

 

『────貴方は運命から逃れた筈だった』

 

「……! 何者だ!」

 

 

突然、自分の後ろから女の声がする。凱斗は警戒しながら振り向くと、そこには金色の滑中な髪に赤と青のオッドアイを持つ神秘的な巫女が立っていた。

 

 

『貴方は……どうするの?』

 

「俺は……」

 

 

凱斗はその意味がすぐに理解出来た。今自分がするべき事……それは

 

 

「俺は戦う。戦うべき相手がいるからな」

 

 

あの卑怯者の下衆漢を叩き潰さなければならない。あそこにはまだ弱い海未を残して来ている。そうしなければ後悔する事となる。

 

巫女は、また問うた。

 

 

『戦えば、その運命からはもう二度と逃れられない……それでも?』

 

「俺は、俺の道を歩き続ける! 運命など知った事か!」

 

『そう……』

 

 

凱斗は自分の信念を貫き通す……そんな男だ。それを分かっていたかの様に、巫女は哀しい目のまま微笑み、凱斗の手に己の手を添える。

 

すると先程まで持っていたバックルと錠前が光出した。錠前にはまるで力が戻ったかの様に、黄色いバナナの形をしていた。

 

 

「…………」

 

『それは貴方の戦う力……貴方の名は『バロン』。その事を忘れないで』

 

「バロン……か」

 

 

バロン────それは爵位の最下位である男爵の称号。何故その名なのか戸惑い巫女に問おうとしたが、巫女の姿はもう無かった。

 

 

「ならば……俺はそこから這い上がって見せよう! それが俺の試練だ!」

 

 

巫女の思考を受け取ったかの様に強く。そう吐くと、彼の意識は覚醒した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「凱斗……! 何故、貴方はそこまで凱斗を……!」

 

「あんたには関係無い事だ、嬢ちゃん! ……とも思ったが見ちまったからには死んでもらおうかぁ!」

 

「い……が……!」

 

 

凱斗がビャッコインベスに貫かれる所を見た。彼女には何故そこまでして凱斗を殺そうとしているのか分からなかった。もはや分かる猶予も無いまま、ビャッコインベスに首を掴まれ持ち上げられる。海未の身体は宙に浮いた。

 

痛い、苦しい。それよりも凱斗を助ける事が出来なかった自分を、海未は悔やんでいた。自分はこの様な存在には無力。そして凱斗を殺してしまった様なもんだ。

 

弱い。弱い。弱い。自分は凱斗の様に強く無い。弱者だ。

 

 

「か…………はぁ…………ぁ…………」

 

 

息が途切れ途切れになる。呼吸が出来ない。自分は死ぬのだろうか。

 

全て自分の弱さが仇となった。凱斗を助ける事も出来ず、穂乃果やことりといった幼馴染みを残して自分は弱いまま死んでいく。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……謝っても誰にもその声は届かない。それも弱さだ。凱斗が強さを求めるのも分かる気がした。記憶を思い出そうとして強さを求めるのも、この様な修羅場をくぐり抜けて来たからだろう。

 

結局、最後に信じれるのは自分の強さだ。

 

彼女は弱い。

 

 

「何、弱音を吐いている。園田」

 

 

瞬間、彼女の身体は地面に落ちる。薄れている視界の中、ビャッコインベスと初級インベスは奥に吹き飛ばされていた。そして目の前には

 

 

「か……いと……」

 

 

あの男。貫かれた筈の凱斗が、傷一つ見せずに立ち尽くしていた。その背中はまさに強者。

 

 

「園田……いや、海未。その弱さを今は悔やめ。深く悔やんでいるがいい。そして、今度はそこから強くなれ。ただ……それだけでいい」

 

「つよ……く……?」

 

 

海未にその言葉が深く染み込む。凱斗なりの言葉のかけ方が、ハンカチに落ちる涙の雨の様に。

 

 

「俺はお前の様な卑怯者を潰しに戻って来た。今度は負けはせん」

 

「なっ……駆紋戒斗! 何故、戦極ドライバーを持っている!」

 

 

その戦極ドライバーと呼ばれたバックルを、凱斗は自分の腰に当てる。すると、自動でベルトが巻かれ始めた。

 

そして彼の右手には、ロックシードと呼ばれたあの錠前。だがその錠前は、あの時の様に黒ずんておらず、今は力が溢れるかの様な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「変身」

 

 

『バナナ!』

 

 

「バ……ナナ……?」

 

 

凱斗がそのロックシードを解錠すると、愉快な音声と共に上空にジッパーの様な裂け目が現れた。そこからはバナナ型の鎧が現れて、そのまま鎮座している。

 

凱斗はバナナのロックシードを一回転させて握り締めると、戦極ドライバーの窪みに施錠した。

 

 

『ロックオン!』

 

 

施錠と共にファンファーレが鳴り響く。ここからは凱斗のステージだと、そう強く主張しているかの音楽だった。

 

 

「バロンだ!」

 

 

海未の言葉に反応すると、戦極ドライバーの小刀を倒した。バナナの鎧が凱斗に落ちてきたかと思えば、今度は身体を赤いスーツが包み込む。そして鎧が開かれた。

 

 

『カモン! バナナアームズ! Knight・of・Spear!(ナイト・オブ・スピアー)

 

 

その姿は、まさに西洋の騎士と言ってもいい姿。身体にはバナナの鎧を着込み、右手には槍が握り締められている。

 

 

「お前……一体何者なんだよぉ!」

 

「さっきも言っただろう…………バロン。アーマードライダーバロンだ!」

 

 

そして此処に────最弱で最強の騎士の戦士(アーマードライダーバロン)が今、再び蘇った。

 

 

 

 

 

「ふざけろぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ!」

 

『グオァァァァァ!』

 

 

シュラの怒号と共に、ビャッコインベスと初級インベスがバロンに向かって猛接近してくる。

 

 

「はぁぁ! ふん!」

 

 

だがバロンはその様な操り人形に遅れを取る筈が無い。ビャッコインベスを右手に握りしめられた槍『バナスピアー』で貫くと同時に、初級インベスを足で蹴り、もう一体はバナスピアーではじき飛ばす。バロンの洗練された動きが、それを可能にした。

 

 

「……強い」

 

 

海未が放った一言。そう……バロンは圧倒的な強さを見せ付けていた。最早その動きには、あの怪物ではついていけず、3対1の不利な状況をバロンは覆していた。

 

 

「何で……何でオレはオマエに勝てない……!」

 

「そんなの決まっている。貴様は『勝利には卑怯も薤も関係ない』と言ったな。そんなの俺の前では、ただの戯言に過ぎん。貴様の様な卑怯者の負け犬が、俺に勝てると思っているのか!」

 

「負け犬……? 俺は……俺は負け犬何かじゃなぁぁぁいぃぃぃ!」

 

 

シュラの怒りと共鳴して、インベス達が一斉に襲い掛かってくる。それを見たバロンは、カッティングブレードを三回倒した。

 

 

『カモン! バナナスパーキング!』

 

 

バナスピアーにエネルギーが充填され、そのバナスピアーをバロンは地面に突き刺した。ビャッコインベスの下からはバナナのエネルギーが突き刺さり、ビャッコインベスは爆散する。その姿を見るともう一度、カッティングブレードを倒した。

 

 

『カモン! バナナスカッシュ!』

 

 

またバナスピアーにエネルギーが充填され、今度はバナスピアーを直接初級インベスに突き刺した。内部から流れ込むエネルギーに耐えきれず爆散。そして後ろから襲い掛かって来た初級インベスにも突き刺し爆散させる。インベスは全て爆散していた。

 

 

「あ……ぁ……あぁぁぁぁぁ!?」

 

 

シュラは驚きや怒りや様々な意思が込められた悲鳴を上げると、一目散に路地を走って逃げて行った。

 

 

「……大丈夫か、海未」

 

「凱斗……貴方は一体何者なんですか……?」

 

 

錠前を閉じて変身を解除し駆け寄ってくる凱斗。海未は率直に疑問をぶつける。『貴方は一体何者なんだ』と。

 

それは凱斗自身分かる事ではない。何故、変な組織から狙われているのか。何故、この様な力を持っているのか……記憶が戻らなければ分からない事だらけだ。ただ

 

 

「俺は弱者を潰す強者……だ」

 

 

それだけは自分でも分かる。今、するべき事は何か。自分は何者なのか。

 

 

 

 

 

先程まで降っていた雨は止み、夕日が雲の間から顔を覗かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。非常に長い回となりました。今度からこれくらい書くと思われます。

突然のシリアス……これが俺の作品だ!

突然出てきた記憶喪失の少年『駆紋凱斗』の登場回となりました。いつもの様に穂乃果……では無く海未に拾われています。しかもバロンになった時がお強い事……

そして誰もが疑問に思うでしょう。何故、武神では無くアーマードライダーなのかと。それはしっかりとした狙いがあります。ここ重要です。

そして初っ端から出てくるシュラ。今回はただの負け犬です。卑怯も薤も大好物だぜ!

そして今回も登場した出雲朱果ちゃん。まさかの超天才キャラでした。裕也の思惑は外れ……朱果ちゃんの知能は未知数です。運動神経の良さはまた今度。

穂乃果ちゃんが意外にも振り回されてる……。星を数えて組?まだ出ません。

次回はまた裕也視点に戻って夏休み!多分行き先はプールか海です。そこで久しぶりに幸汰さんの登場です。そしてあの人気アイドルとブドウ……?

ことりちゃんと穂乃果ちゃんの活躍はその次ぐらいかと……。後、マッキーも。

前回はkiellyさん。評価ありがとうございました!

感想・評価お待ちしております。

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