ラブライブ!-女神と武神のアイドル戦極記-   作:Professor灰猫

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戦いに理由を求めてどうする

答えを探し出すより先に、死が訪れるだけだ


この世界には理由の無い悪意がいくらでも転がっている


漆話 浜辺の斬月

「……暑いわね」

 

「あちぃ……」

 

「あ……つ、い……」

 

 

季節は梅雨の七月を跨ぎ、ジリジリと日差しが照りつける真夏の八月。東京の高校生達は皆、素晴らしい夏休みの真っ只中である。……と思ったのだがこの三人は違う。アイドル研究部の三人は、部室で真夏の暑さと戦っていた。

 

 

「家のクーラー壊れてるなんて……部室もクーラー壊れてるとか本当に意味分かんないんだけど!?」

 

「お……俺の部屋のも壊れてるとは……。やっぱり、定期的に点検するべきだった……」

 

 

にこは最初、裕也の部屋に行ったのだが、まさかの裕也の部屋は熱帯雨林の様だった。にこと裕也は地獄を味わいたく無い為に、部室のクーラーに希望を持ったのだが……まさかのオーバーヒート。絶望を希望に変えるどころか希望が絶望に変わってしまい、自分の身体から何か化物が生まれそうだった。

 

 

「じゃあ……何で私を、呼んだの……?」

 

「いや、どうせ学校に来るんだったら部活やろうと思うじゃない……?」

 

「違う……私を、地獄に……引きずり込む、為」

 

「いいよなぁ……お前は。家はユグドラシルのマンションじゃねか……」

 

「笑ったわね……!? 今、私を『ボロアパに住んでる壁部長』って笑ったわね……!」

 

「先輩達……暑さで、頭……やられ、た……! あと……壁だと、同化……する、から……まな板、で」

 

 

朱果を呼んだのは勿論、この疑似アマゾンに共に落ちる為である。確かに朱果は孤児院に居たのをユグドラシルに引き取られ、今は高級マンションに一人暮らしと来た。

 

朱果の言った通り、二人は暑さのせいで言動が何処かの地獄兄弟の様にやさぐれていた。更に朱果がにこの自虐ネタに毒を吐いた為、にこの苛立ちが有頂天に達し、扇いでいた団扇をバキバキと折り曲げてしまった。

 

 

「そう、言えば……いっつも、居る……おっぱい先輩、は……?」

 

「希なら『スピリチュアル感じてくる』とか言って、ただ今絶賛パワースポット旅行中よ……」

 

「きっとマイナスイオンとか涼しいんだろうなぁ……」

 

 

希は久しぶりに親が帰って来た為、親子水入らずの全国パワースポット巡りの旅行中だ。ちなみに、にこの母親はにこの弟妹達と田舎帰り中であり、裕也に関してはそもそも両親がユグドラシルから帰って来ない。一体どれだけ忙しいんだろうか。

 

希がマイナスイオンを浴びている姿を想像した三人は、いいないいなと声を漏らす。すると、朱果が何か思いついたかの様に、ポンと手を叩いた。

 

 

「そうだ……私達、も……涼しい場所、出掛け……よ……!」

 

「涼しい場所って言っても何処だ? どうせプールもファミレスも人混みが凄いんだろ……」

 

 

今は都内中の殆どの学校が、夏休みの筈だ。どうせプールに行ってもファミレスに行っても、人の汗臭いのを嗅ぐ事になるのがオチだ。そこ光景を想像するだけで暑苦しい。

 

 

「んじゃ……海、は……?」

 

「今から!? 今はまだ午前の九時よ……え? まだ九時なの?」

 

 

時計を見ると針は九を指していた。あえてもう一度言おう、まだ九時だ。

 

実は、にこと裕也が此処に来た理由は暑さから逃れる為ともう一つ。それは暇だからだった。仮にも二人は夏休みの課題をもう済ませている。にこが後々苦しむのを裕也が阻止する為だ。お陰様で二人は夏休みの『ひ魔神(暇人)』と化していた。暇人と化した先輩である。それよりも九時からこの暑さはどういう事なのだとツッコミたい。

 

 

「大丈夫、だ……問題ない。まな板部長……パソコン、で……都内から、一時間以内の……海水浴場、調べて」

 

「分かったわ……その代わり後で一発殴らせなさいよね。貴方も充分まな板だから……それっ」

 

「あっつぅ!? コンピューターの熱風あっつ……!? 死ぬぅ! 焼け死ぬぅぅぅ!」

 

 

まな板部長が勢い良くパソコンの電源を入れると、ファンからとんでもない程の熱風が吐き出される。裕也はただ暑くなるだけなのに腕をブンブン回していた。

 

その内にまな板部長が検索ウェブを立ち上げ、『都内 一時間以内 海水浴場』と打ち込みエンターキーを押す。そして様々な海の風景写真がヒットし始めた。

 

 

「これ……いいんじゃ、ない……? 鎌倉……の」

 

「あっ、此処結構有名な所じゃない!? ……何で気が付かなかったのかしら」

 

「はぁ……はぁ……ん? 結構、電車賃も安いんじゃないか?」

 

 

そこは鎌倉の海水浴場。駅からも近く、周囲の施設も充実した観光地であった。ユグドラシルの地域開発の影響もあるのか、電車賃も安く移動時間も秋葉原駅から約五十分程である。

 

 

「そうと、決まれば……十時、まで……秋葉原駅、集合……ね。じゃあ……!」

 

 

そう言うと朱果は部室の扉を思いっ切り開け、まるで風の様にそのまま走り去ってしまった。にこと裕也は少し固まっていたが、少し時間が経つと気を取り戻し、水着の用意をする為に家に帰って行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「海……キタ……!」

 

「「疲れた…………」」

 

 

気が付けば、もうそこは砂浜の上。目の前には広大な海が広がっていた。ひんやりした海風がイイ感じに涼しい。

 

その涼しさとは真逆に、にこと裕也が同時に溜息を吐き肩を落とす。此処に来る為に電車に乗ったはいいのだが、満員電車で人混みに押し出されそうになったり、その中でちっこい朱果が電車の中をちょこまかと動き廻ったり……と非常に頭を抱える問題にぶつかって来た。この汗臭さを海水で流したいとも思っている。

 

 

「それにしても、朱果……その水着」

 

「これ……小学校の、高学年から……ずっと、着てる」

 

「そ、そう……。だからって……何でスク水なのよ!?」

 

 

朱果が着ていたのは、よく昔に見たトップスとボトムスが一体となったワンピース型の紺単色の水着……いわゆるスクール水着だった。胸の辺りには平仮名で『いずくも』と書かれており、朱果が供述した様に、小学校高学年から体型が変わっていない事を物語っていた。

 

何だろうか、このとてつもない犯罪臭は。周りにいるエロオヤジ共の趣味とマッチしているのか、朱果に危険な視線が向けられていた。朱果は何の事か分からず、頭にハテナマークを浮かべている。

 

 

「……あ、胸なら……まな板部長、自虐ネタ……だよ……?」

 

「はい。一発追加ね。貴方を殴れる回数が二回に増えたわ」

 

「それ……自分の、胸……見てから、言おっか」

 

 

朱果がまた毒を吐くと、にこがウキー! と地団駄を踏みながら騒いでいた。

 

にこが着ていた水着は、前に中学二年生の頃の臨海学校で着ていたピンクのフリルが付いた水着である。……そうなると、もう分かるであろう。これが胸囲の格差社会である。

 

いつも通りツインテールだった為か、これもエロオヤジの趣味と合致している為、危ない視線が集まっている。勿論、本人は気付くよしもない。

 

 

「ゆ……裕也か……?」

 

「ん?」

 

 

裕也は声がする方を振り向いた。そこにいたのは……裕也の親友、葛葉幸汰だった。

 

 

「幸汰! 偶然だな」

 

「お、おう……ははは、本当偶然だなぁ……」

 

「……?」

 

 

何やら幸汰の様子が少しおかしい。いつもならハイテンションで話し掛けてくるのだが、何だか今日は無理やり笑顔を作っているようにも見えた。

 

 

「幸汰さーん! どうしたんですか?」

 

「あれ……君は……」

 

「えっと、コイツは……」

 

 

すると幸汰の後ろから年下かと思われる少年が走って来る。容易は黒髪に、運動する幸汰よりも肌が白い。どちらかと言えばひょろっとしていて、顔は中性的な美少年とでも言えるだろうか。

 

 

「あ、僕は呉島光真です。確か貴方は戦極裕也さんでしたよね? 幸汰さんからはお話を伺っています」

 

「君が光真くんかぁ……」

 

「ミッチでいいですよ? 裕也さん」

 

「おう。 分かった、ミッチ」

 

 

彼は前、幸汰から少し話を聞いていた呉島光実であった。口調は丁寧で、性格も温厚そうに見て取れる。チーム鎧武等のストリートダンサー『ビートライダーズ』は、ステージの奪い合いで揉め事を起こす事が多い。コイツにチーム鎧武を任せても、きっと大丈夫だろうと裕也は内心ホッとしていた。

 

 

「ふーん。アンタがミッチねぇ……」

 

「あっ、矢澤にこさんですね? にこさんのダンスは『伝説』でチーム鎧武の中では知れ渡ってるんで、幸汰さんから聞く前から知っていました」

 

「えっ……いつの間にそんな呼び名がついてたの……?」

 

「さ、さぁ……?」

 

 

確かに、にこはかなり激しいダンスが上手く、特にラップ調の音楽では特に素晴らしく、見てくれる人のウケも良かった。今ではチーム鎧武内では『伝説』と呼ばれており、他のビートライダーズも知っている者は少なく無い。

 

 

「幸汰ー? 何やって……えっ!?」

 

「誰よ……って、え? えぇぇ!?」

 

「まさか……チーム鎧武、生きる伝説のにこちゃん!? 会いたかったぁぁぁぁぁ!」

 

「ぐえっ……!? まさか……A-RISEの綺羅ツバサさん!?」

 

「えっ……まじで?」

 

 

更に走って来た少女は……まさかのA-RISEのリーダーである綺羅(きら)ツバサであった。ツバサはにこを見つけると、目を輝かせてにこに飛びついて来た。にこは大物に抱き着かれたのに驚き過ぎて、今にでも意識が飛びそうである。

 

 

「私、にこちゃんのだぁぁぁぁぁ…………いファンなのよ! 握手! 握手して!」

 

「いいい、いえ! ツバサさんに比べれば私なんて小物です! 握手お願いします! 私、いつもライブ見に行ってますから!」

 

「そうなの!? なら、にこちゃんには特等席を用意しないとね!」

 

「いいいいいいいい、いえ! ととと、とんでもないですよ!」

 

「何ですか、これ……」

 

 

まさかあの綺羅ツバサが、ビートライダーズの元メンバーであるにこの大ファンだとは、驚きだ。にこは緊張し過ぎて、言葉が噛み噛みである。しかし、女子とはここまですぐ仲良くなれるものなのだろうかと男性陣は思う。

 

 

「もしかして君は、チーム鎧武元リーダーの戦極裕也か?」

 

「え?」

 

「英玲奈ぁ? きっと彼、本物よ?」

 

「君、そうなのか!?」

 

「は……はい」

 

「そうか! 私は統堂英玲奈だ! 握手を頼む!」

 

「は、はぁ……って、えぇ!? もしかしてA-RISEの統堂英玲奈さんと、優木あんじゅさん!?」

 

「えぇ、私が優木あんじゅよ。よろしくね?」

 

「凄い……! 本物の、A-RISE…………!」

 

 

裕也に握手を求めて来たのが、A-RISEのメンバーである統堂(とうどう)英玲奈(えれな)であり、もう一人がA-RISEのメンバーである優木(ゆうき)あんじゅである。となると、今この場にはA-RISEのメンバーが勢ぞろいである。誰がこんな事態を想定しただろうか。朱果もアイドル好きなので、目を輝かせている。

 

すると後ろに、ビデオカメラを持っている少年がいる。右側の前髪だけを伸ばしており、一部だけ白く染めてある。更にハワイアンなバカンス帰りといったような服装をしている特徴的な男を、裕也やにこ、更に朱果は嫌でも知っていた。

 

 

「おい、創唯……何でいるんだよ」

 

「おや……戦極くんにアイドル研究部の皆さんじゃないか。偶然だねぇ」

 

「いや、だから何でアンタがいるのよ」

 

「これも広報部の仕事でねぇ……A-RISEという人気スクールアイドルの秘訣を探し出そうと、プライベートを取材中という訳だ」

 

「……何で、こんな奴……取材、おーけー……したの……?」

 

「別にプライベートって言っても、ちょっとした取材なんだしいいんじゃない?」

 

 

彼の名は創唯(そうい)凌馬(りょうま)。音ノ木坂学院の一年生であり、広報部員でもある為、何かと交流がある。朱果と張り合える程の天才(ただし彼の独特な趣味からか、文系は苦手な様)なのだが、その特殊な性格からか裕也やにこは苦手としており、同じ学年の朱果に至っては彼を嫌っていた。ツバサはあまり気にしていない様だが。

 

 

「大変……だね、港」

 

「まぁ、仕方ありません。私は彼の世話係なのですから……って、プロフェッサー! 余りA-RISEの皆さんに迷惑はかけないで下さい!」

 

「いいじゃないか、港くん。これぐらいの方が素の彼女達を見れるじゃないか」

 

 

そして隣にボディガードの様に引っ付いている彼女は(みなと)陽子(ようこ)だ。同じく音ノ木坂学院の一年生の広報部員であり、凌馬の世話役である。何故プロフェッサーと呼んでいるのかは分からないが……。彼女曰く問題児の凌馬は、自分が居ないと暴走してしまう癖があるという。つまり凌馬のストッパーという訳だ。ちなみに彼女は凌馬とほぼ正反対の性格で、朱果とも仲が良い。

 

 

「それにしても……」

 

 

すると突然光真が、にこと朱果、そして英玲奈を見渡し呟いた。

 

 

「まさに……絶壁ですね」

 

「……おい、呉島。言っていい事と悪い事があるぞ……?」

 

「痛だだだだ!? 英玲奈さん、やめてくださいぃぃ!」

 

「確か、君は朱果といったな。一緒にやるか?」

 

「うん……混ざる」

 

「ギ、ギブです! ギブギブ! 本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁ!?」

 

 

英玲奈が光真を砂浜に倒し、右腕に腕ひしぎ十時固めを決める。更に朱果が左腕を担当している。光真の肩からはボキボキを骨が軋む音が聞こえてくる。本当に痛そうだ。

 

その光景に幸汰達は苦笑していた。凌馬は面白可笑しそうにビデオカメラで撮影している。裕也はもしかしたら光真は、いつもこんな風に毒を吐いているのかと、心配になっていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「あちぃー……」

 

「まぁ日陰なだけいいじゃねぇか……」

 

 

結局、裕也と幸汰はビーチパラソルの下で涼んでいた。裕也は電車の人酔いもあって、余り泳ぐ気にはなれない。

 

 

「なぁ……裕也」

 

 

すると幸汰が口を開く。その顔を見ると、何だか難しそうな顔をしている。さっきもそうだった。何だか今日は幸汰の様子がおかしい。

 

 

「何だよ、幸汰────」

 

「幸汰さん。ちょっと」

 

「あ、すまねぇ裕也。また後でな」

 

 

だが光真が割入ってくる。急ぎの用だろうか、少し焦っている様にも見えた。

 

数分程すると、幸汰が戻ってくる。だが、やはり顔が険しい。

 

 

「裕也。ちょっと俺等、急用出来ちまってよ……」

 

「急用?」

 

「あぁ……だからアイツらの事頼むわ……。んじゃ……」

 

「おい、幸汰────」

 

 

裕也が幸汰を呼び止めようとするが、走って行ってしまった。俺等……という事は光真もだろうか。見渡すと光真の姿も無い。

 

 

「幸汰君達はどうした?」

 

「あ、英玲奈さんとあんじゅさん。何か急用があるって言って走ってっちゃって……」

 

「そうなの? 何だか最近、あの二人忙しそうなのよね……」

 

「そうなんですか……?」

 

 

一体どれ程、忙しいのだろうか。幸汰はプライベートを大切にする人間だ。そんな幸汰がプライベートをほっぽり出して行く程の用事とは、一体何なんだろうと裕也は疑問に思う。

 

 

「隣、いいだろうか?」

 

「あ、はい。いいですよ」

 

「じゃあ私も座ろっかなぁ」

 

「えっと…………」

 

 

英玲奈とあんじゅがそれぞれ、裕也の隣に座り込んだ。敢えて言うが彼女達は水着姿だ。裕也は目のやり場に困ってしまう。更には大物のA-RISE様々だ。周りからの視線が痛い。

 

そして続く沈黙。隣には有名人という事もあり、裕也も緊張しているのだろう。何か話さないとと、裕也は口を開いた。

 

 

「あの、幸汰とはどうやって知り合ったんですか?」

 

「あぁ幸汰くんとは、マネージャー募集の時にだよ。元々、彼がビートライダーズというのも知っていて、ジャンルは違えどダンスも上手かったからマネージャーとしてスカウトしたんだ」

 

「幸汰がマネージャーか……」

 

 

言っておくが幸汰はダンスが上手いが、マネージャーなど教える側となると……どうだろうか。幸汰はどちらかと言えば説明するより見て学べと言うタイプだ。マネージャーなど容易に想像出来ない。

 

 

「じゃあミッチともビートライダーズ経由で?」

 

「いや、それは違うわよ。言っとくけどミッチくんはUTX高校の理事長の弟よ? 何だかんだで私達とは長い付き合いなのよね」

 

「えっ? ミッチが理事長の弟……!?」

 

 

何だかさらっと放たれる事実に、驚きを隠せなかった。確かに礼儀正しい子だなとは思っていたが、まさか金持ちの超有名校であるUTX高校の理事長の弟ときた。何故、こうにも自分の周りには特徴的な人しか居ないのだと、裕也は頭を抱える。

 

UTX高校の理事長は、どんな記事にも顔写真や名前までも記載しない事で有名である。UTXの理事長は光真と似ている顔なのだろうか。余り想像出来ない。

 

そういえば自分の両親はどうしているのだろうか。UTX高校の理事長はユグドラシル・コーポレーションの社員でもある筈だ。裕也の両親も研究者として重役に就いていると聞いた事がある。とすると、理事長とは顔を合わせているのでは無いのだろうか? まぁ二年前に仕事が忙しくなってから、親とも一回も顔を合わせて無いのだが。

 

 

「君達の事も知っているぞ。凄くダンスが上手いじゃないか」

 

「はは……どうも」

 

「だが気になる事もある。矢澤にこの事だ。彼女はダンスの才能もあるし、アイドル研究部……? の部長なんだろう? 音ノ木坂学院には少しの間だけだったが、スクールアイドルがあった筈だ。だが何故『ラブライブ!』に出場しなかったんだ……? 今になっては活動もしていない様だしな……」

 

「それは…………っ」

 

 

あの時の事────

 

それはにこにとっても裕也にとっても、詮索されて欲しく無い領域だった。自分もあの時の事件を思い出したくは無かった。

 

もう、にこの悲しむ姿を見たくは無かったから…………

 

昔からの夢を諦めかけた、あの姿を。

 

 

「……嫌な事を聞いてしまったか……?」

 

「えっ、あ、いいんです……」

 

「いや、すまないな……私は好きだぞ? 君のダンスも、矢澤にこのダンスも」

 

「私も最近までは知らなかったけど、英玲奈に勧められて見てみたわ。あれは凄かったわね……スクールアイドルとはまた違う魅力を感じたわ」

 

 

自分の顔は今、どんな顔だったのだろうか……英玲奈やあんじゅには気を使わせてしまったみたいだ。英玲奈もあんじゅも率直な感想を述べているのと同時に、必死にフォローしているのだとも伝わって来た。

 

そして、また続く気まずい沈黙。そこにはキャッキャと少年少女達の、楽しそうな声が響き渡ってくる。

 

 

「そぉーれっ!」

 

「ふべらぁっ!? ……やったわねツバサ! お返しよ!」

 

「おぼらぁ!? にこちゃん水鉄砲はずるいわよ!」

 

「ハハハ! 面白いじゃないか! もっとはしゃぎたまえ!」

 

「……凌馬、キモい」

 

「プロフェッサー、キモいです」

 

「おや……何だか酷い言われようじゃないか」

 

 

「……何だか楽しそうだなぁ」

 

「確かにな」

 

「そうねぇ〜」

 

 

にことツバサは海水をかけ合いながらはしゃいでいた。水鉄砲を何処から持って来たかはツッコまない。いつの間にか名前で呼び合うような仲にまで発展していた。

 

それに比べて朱果と陽子は、ビデオカメラで撮影する凌馬を罵っていた。だが、それでも顔は少しニヤついている。皆、笑っていた。

 

 

「……よし!」

 

「えっ……英玲奈さん!?」

 

 

突然、英玲奈が裕也の手を掴み立ち上がって、砂浜を駆け出した。裕也は驚いて名前を呼ぶ。すると英玲奈が振り向いた。

 

 

「過去の事は一旦置いといて、私達も今を楽しもうじゃないか! な、あんじゅ」

 

「そうよ。ほら、にこちゃんもあんなに楽しんでるんだから、裕也くんも楽しみましょ?」

 

「……そうですね」

 

 

確かに昔はあんな事があったが、にこは今を楽しんでいる。それは朱果が、アイドル研究部に入ったからでもある。また仲間が出来た。また笑顔が増えた。これなら、また再出発も夢ではないのではないだろうか。

 

 

「あっ、英玲奈達も来たのね?」

 

「あぁ、そうだ。折角だから皆で、あのフロートまで競争しようじゃないか」

 

「それ、いいんじゃないかしら。にこちゃん達はやる?」

 

「そうねぇ……やらない手は無いわ」

 

「面白そうですね……プロフェッサー、私も参加してよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わないよ。私は此処で撮影しているから好きにしたまえ」

 

「じゃあ……最下位、なった人……海の家で、奢り……ね」

 

「いいじゃないか。それでは! よーいドンだ!」

 

「英玲奈さん!? それはずるいんじゃないですか!?」

 

 

今はこんなに愉快な人達がいる。変なバックルを拾って怪物と戦う事もあったが……折角なら、今を楽しむのも悪くは無い。そう思った裕也だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「まさか……俺が最下位なんて……」

 

「ハッハッハ! 実に面白いレースだったよ、戦極くん! 女子に負ける男子を見るのも実に愉快だったよ!」

 

「凌馬……うるさい。でも……戦極先輩、奢り……ゴチに、なります」

 

 

結局、泳いで最下位だったのはまさかの裕也だった。裕也は勿論体力があるし、泳ぎもそこそこ自信があった。

 

だが隣で泳いでいた朱果の圧倒的な水圧に押され、裕也は砂浜へと身体が戻って行った。ちなみに一位は朱果である。一体、彼女の小さな身体にどれだけの頭脳と体力が詰まっているのかを知りたくなる。

 

そして裕也は、英玲奈の言った通りに全員に海の家で奢る事となったのだが。

 

 

「おっ、裕也じゃねぇか! 海、来てたんだな!」

 

「坂野さん!? 何でいるんですか!?」

 

 

まさかの海の家で坂東さんが働いていたのだ。いつも着ている不思議なアロハシャツが、今は余り違和感を覚えない。

 

 

「んまぁ夏だし、海の家の方が稼ぎになるじゃん?」

 

「いや店の方はどうしたのよ!?」

 

「あぁ、それならイヨとバイト達に任せたんだ。きっと大丈夫だろ」

 

 

よく見ると看板には『出張! ドルーパーズ! 夏限定フルーツかき氷』と書かれてある。

 

イヨとはドルーパーズで働いているバイトの女の子の事だが、いつも携帯を弄りながらレジをしている子だ。いくらバイト仲間が居たとしても、店を任せるのはどうかと思う。きっと大丈夫じゃ無いだろう。

 

 

「えっと……フルーツかき氷?」

 

「そ。フルーツのシロップ縛りだ! あとフルーツも添えてある!」

 

「んじゃ、私オレンジで」

 

「ほう……ツバサがオレンジか。なら私はパイナップルを」

 

「ふぅーん。じゃあ私はイチゴかな」

 

「うげ……バナナ味って何よ……。でも、気になるわ……私はバナナ味ね」

 

「なら私はレモンといこうじゃないか」

 

「プロフェッサーはレモンですか……なら私はピーチ味を」

 

「へい、まいどぉ…………って裕也が全部払うのか?」

 

「まぁ……ちょっとした勝負事に負けまして」

 

 

皆がフルーツかき氷を次々と頼むと、裕也は苦笑した。フルーツかき氷は一つ、四百円である。財布から三千円は飛んでいく事を覚悟しながら財布を取り出す。

 

だが一番楽しみにしていた朱果が、注文していない事に気付いた。ふと、隣を見るとメニューを見て顔が険しくなっていた。目線の先には『フルーツかき氷 リンゴシロップ』と記載されている。これが食べたいのだろうか。

 

 

「朱果? これが食べたいのか?」

 

「……! ううん……私、林檎……嫌いな、だけ……それよりも、これ」

 

「ん……?」

 

 

基本何でも食べる朱果が林檎嫌いな事には驚いたが、一々気にしていられないので指で指したところを見てみた。

 

 

「早食いチャレンジ?」

 

「おっ、朱果ちゃん。それに挑戦するのか?」

 

「うん……メロン、シロップ……で」

 

「ばっかじゃないの!? これ失敗したら二千円持ってかれるわよ!」

 

「別に……食べれる。それに……戦極先輩、の……奢り、だから」

 

「ははっ……そうだよなぁ……」

 

 

そこには『早食いチャレンジ! 一人で五分で食べ切れるか! 成功したらタダ 失敗したら二千円!』と書かれている。無論、朱果はこれにチャレンジするつもりだ。

 

裕也は『アイドル研究部の小娘がかき氷チャレンジに成功する訳が無い』などといった、ライトノベルの様なタイトルを頭に浮かべながら、財布から更に二千円吹き飛ぶ覚悟をした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「はい。これはA-RISE様々の」

 

「えっ……坂東さん、A-RISEって言えんの?」

 

「そりゃあ、結構前から来てくれる様になった常連客様々だからだよ」

 

「いやぁ、坂東さんの作るパフェって美味しいよね」

 

 

坂東さんがかき氷にシロップをかけて持って来た。そして坂東さんが『アライズ』と言える事ににこと裕也は驚いていた。てか、常連客なら何で前から『アライズ』と言えなかったのだろうか。ツバサもこれ程、坂東さんが作るパフェを絶賛しているのに……とも思った。

 

 

「そういや裕也はかき氷食わねぇのか?」

 

「あっ、忘れてた……」

 

 

裕也はすっかり奢る事ばかり考えてしまっていた為、自分の食べる分を考えていなかった。改めてメニュー表を確認する。

 

 

「じゃあ……ブラッドオレンジで」

 

「だったら朱果ちゃんのかき氷を作ってからだな」

 

 

裕也はブラッドオレンジシロップのかき氷を頼んだ。そして坂東さんはどれだけブラッドオレンジ推しなのだろうか。自分とにこがパフェを絶賛し過ぎたせいだろうか……そこも気になる。

 

 

「じゃ、私達は先に食べるとしましょう」

 

「いただきまーす……ん! オレンジ、美味しい!」

 

「パイナップルの酸味が効いているな……美味い」

 

「かき氷のイチゴ味はやっぱり主流よねぇ……やっぱり違うのにしたら良かったかしら」

 

「えっ……バナナ、バナ……バナナが意外といけるですって……!」

 

「やはりレモンは美味しいじゃないか。私の目に狂いは無かったようだ。ポッカレモンをかけてみたら、もっと美味くなるんじゃないかな。そう思わないかね、湊くん」

 

「思いません。プロフェッサー自体は、充分狂ってますけどね……あっ、ピーチ味美味しいです」

 

 

やっぱり坂東さんにフルーツを任せると自在に操るんだなと、裕也は改めて思った。それにしても、にこの食べているバナナ味とは本当に美味しいのだろうか。バナナは癖のある味だ。そして凌馬は何故、ポッカレモンを持参しているのだろうか。かけるな、かけるな。

 

 

「へぃ、朱果ちゃんの『早食いチャレンジフルーツかき氷 メロンシロップ』お待ちどおさん」

 

「うげっ……何よ、この量」

 

 

坂東さんが持って来たかき氷の量は明らかにおかしかった。砕けた氷の高さはゆうに一メートル越えていて、メロンの緑色に染まったその塊が威圧感を発していた。

 

今このかき氷で隠れている朱果の顔はどんなのだろうか。そんな事を想像する全員である。

 

 

「どうやってこんな量作ったんだよ……」

 

「あれはな、ドルーパーズ特別受注である特製のかき氷マシンで砕いてんだ。そりゃあ価格もしたがお客様に夢と希望と、ふわっとした氷の素晴らしい食感を与える為だ……おっと、んじゃあ朱果ちゃん! 始めるよぉ……って、あれぇ……?」

 

「えぇっ……?」

 

 

坂東さんが何か三十秒程語り始めた後、朱果の方を向くとその光景が目に入った。それは朱果の目の前にあったかき氷が姿を消しているのである。満足そうに「けぷっ……」と息を吐く朱果と、何かとんでもない物を見たかのように顔を真っ青にしているA-RISE、にこ、陽子。そして微笑みながら「まっ、こうなるだろうね」と吐く凌馬。一体、何があったというのだ。

 

 

「何が、起こったんだ?」

 

「たっ……食べたのよ!? 朱果が……それも、一瞬で……!」

 

 

一瞬? 何を言っているのだろうかにこは。こんな小さな女の子の胃袋に、あの鬼の様にあったかき氷が吸い込まれる筈が無い。だが改めて考えてみるとどうだろうか。朱果とは超天才的な頭脳と、驚異的な身体能力を持つまだまだ謎の多い子だ。これなら底知れぬ胃袋を持っていても不思議では無いだろうと、裕也は静かに心の奥で悟る。

 

 

「美味し……かった、よ……? ねぇ……戦極先輩、もっと……食べて、いい?」

 

「やめて朱果ちゃん!? そんなんじゃウチ商売にならないで経営破綻しちゃうから! 本当に無職になっちゃうから!?」

 

 

美味しかったもっと食べたいとねだる朱果だったが、それでは坂東さんが可哀想である。朱果は頭も痛くないようで、お腹も壊していないよう。こんなんだったら、本当に朱果が坂東さんの店を自らの胃袋(ブラックホール)に吸収しかねない。そしてイヨやそのバイト仲間達も職を失いかねないので、流石にやめとけと朱果に伝える。

 

 

「ん……? ありゃ、何だ?」

 

 

すると必死に頭を下げていた坂東さんが、下げるのをやめて海の方を見始めた。裕也達も気になってその方向を見つめてみる。

 

そこには砂浜で城を作る子供達、寝そべって身体を焼く大人。泳いだりビーチバレーで遊ぶ若者達…………の中にその存在はあった。

 

それは空間に開いたジッパーの様な不思議な物。奥には森が広がっている────そう。クラックだ。突如、そこからはあの森で戦ったにこと裕也も覚えがある灰色の怪物────初級インベスが飛び出してくる。その途端、その場の空気が一瞬で変わった。

 

 

『キャァァァァァ!』

 

 

突如現れた謎の脅威に、人々は逃げ惑う。まだ灰色の怪物に襲われた者などいないが、その異型からはとんでもない殺気しか漂ってこない。まさにそこは日常が打ち壊された…………死の戦場であった。

 

 

「えっ……何、あれ……」

 

「っ…………!」

 

「おい……裕也くん!? 危険だぞ!」

 

 

何が起こったのか理解しきれていないツバサとあんじゅ。危険だと警告する英玲奈を気にもとめず、裕也は戦極ドライバーとロックシードがあるビーチパラソルの下に向かって走り出した。

 

 

「ったく……! ブラッドオレンジのかき氷食う前に、こっち使う事になるとはな……っ!?」

 

『ギュルァァ!』

 

「危ねぇよ……!」

 

 

裕也が嫌味を言いながら戦極ドライバーとロックシードを取り出すと、初級インベスの振り下ろしてきた爪を間一髪で地面に転がりながら避ける。

 

そして起き上がって戦極ドライバーを腰に付け、それと同時にブラッドオレンジロックシードを素早く解錠した。

 

 

『ブラッドオレンジ!』

 

 

「えっ……赤いオレンジ、降りてきたわよ!?」

 

 

いつもはそこそこに冷静な筈のあんじゅも、見慣れない光景に声を荒らげて驚いている。裕也はロックシードを施錠すると、勢い良くカッティングブレードを倒した。

 

 

『ロックオン! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!』

 

 

「ええっ!? オレンジを被ったぁ……!?」

 

「裕也くんの姿が……変わった……?」

 

 

ギター調の音楽が鳴り響いた後に、裕也の身体に鎧が降りてきて鎧が開くと、同時に身体がアンダースーツに包み込まれて変身が完了する。

 

 

「……? カッコイイ、けど……戦極先輩、が……何で、あの……姿、に……?」

 

 

朱果はカッコイイと率直な感想の反面、相当な違和感を覚えていた。それもそうだろう。あの姿は前に先輩と一緒に見た書物に描かれている『武神鎧武』の姿と瓜二つなのだ。何故、あの姿なのだ、と。

 

 

「っしゃあ! フルーツジュースにしてやるぜ!」

 

 

武神鎧武はそう決めゼリフっぽい事を叫ぶと、大橙丸を握りしめ初級インベスの軍勢に突っ込んで行った。

 

 

「へぇ……中々、面白い事になりそうじゃないか……」

 

「ちょっと、アンタ何撮ってんのよ! ちゃんと隠れてなさい!」

 

「…………」

 

 

凌馬がテントの外でビデオを撮影するのをにこが制止させ、流石にイラッと来たのか朱果は無言で凌馬を睨み付けている。陽子はその姿を静かに見守っていた。

 

一方、武神鎧武は大橙丸でインベスを一体、もう一体と順調に斬りつけていき、有利な状況に持ち込めたかと思ったのだが。

 

 

『キュァァ!』

 

 

「っ……! 流石に多過ぎる……!」

 

 

空間に次々とクラックが開き、そこからは初級インベスが十数体と大量に出現する。流石に変身して身体能力が上がっている武神鎧武でも、戦い慣れはしていない。この数は捌ききれなかった。

 

更にそこに追い討ちをかけるかのように、一体のインベスがヘルヘイムの果実を食べ始める。どんどん肉体が変化していき、上級インベスであるシカインべスへと姿を変えてしまった。これは武神鎧武にとって、最大のピンチでもあった。

 

だが、そこに

 

 

「────ハァッ!」

 

「何だ、何だ!? 今度はメロン着たヤツが出てきたぞ!?」

 

 

緑色のメロンの鎧を身に付けた、白きライダー────和の兜には月をデザインした鎧武者(アーマードライダー)斬月とでも呼ぶべきだろうか。突如として現れた斬月が、右手に持った無双セイバーで初級インベスを切り裂く。坂東さんは更に非現実的な者が現れて、パニックになっていた。

 

 

「あぁ……ったく、一体何なんだよ!」

 

 

『ブラッドオレンジスカッシュ!』

 

 

武神鎧武は同じ戦極ドライバーを身に付けた斬月を見て、訳が分からないと愚痴を零しながらカッティングブレードを一回倒す。大橙丸の刀身にエネルギーが溜まり、横に一振りでエネルギー斬の大橙一刀を繰り出した。近くにいた数体のインベスは切り裂かれ、爆散していく。

 

だが強敵のシカインべスや、初級インベスがまだまだ居る事には変わりは無い。武神鎧武は次のロックシードを取り出す。

 

 

「だったらこれだ!」

 

 

『アナナスパイン!』

 

『アナナスパインアームズ!粉砕・デストロイヤー!』

 

 

ブラッドオレンジの鎧が消え去り、変わりにアナナスパインの鎧が装着される。武器を腰の無双セイバーと取り替えると、シカインべスに攻撃を仕掛ける。

 

 

「……中々、使いこなしているじゃないか」

 

「…………?」

 

 

凌馬の不可解な発言に、朱果はもう一度凌馬を睨み付ける。凌馬や、僅かではあるが陽子の口角が上がっているように見えた。朱果は不可解に思う。

 

 

「…………」

 

 

『ソイヤッ! メロンスカッシュ!』

 

 

そんな事を朱果が考えている内に、斬月の方は静かにカッティングブレードを一回倒していた。無双セイバーに充填されたエネルギーを、回転するかのように刃を振り回し、エネルギー波を放った。周りに十数体はいたであろう初級インベスが、一気に爆散していく。圧倒的な強さだった。

 

 

 

「これで……どうだっ!」

 

『ロックオン! 一・十・百……アナナスパインチャージ!』

 

 

武神鎧武もシカインべスを弱らせ、アナナスパインのロックシードを無双セイバーに施錠した。そして横に一閃────紅いエネルギーがシカインべスの肉体を切り裂き、見事に爆散させた。これで脅威はもう居ない。

 

 

「……なぁ」

 

「…………」

 

「アンタ、そのベルト……戦極ドライバーの事やこのロックシードって奴の事知ってんのか……? 知ってるなら────」

 

 

────教えてくれ。と言いかけた。武神鎧武は完全に油断していた。この状況を一緒に切り抜けたあの鎧武者なら、きっとこの戦極ドライバーやロックシードの事を知っているのでは無いだろうかと。

 

 

 

 

 

だが、斬月は

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………!」

 

 

 

 

 

静かに無双セイバーの銃口を向け、武神鎧武に銃弾を放った。

 

 

「がはっ……!?」

 

「裕也ぁっ!」

 

 

武神鎧武の鎧からは煙が上がる。勿論、武神鎧武にはダメージが通っていた。それでも、斬月は容赦無く無双セイバーの刃で斬り付ける。

 

 

「っ……離して! ツバサ!」

 

「何言ってるのよ、にこちゃん!? 危険なのよ!? 貴女も怪我する気なの!?」

 

「で、でもっ……!」

 

 

にこは斬り付けられている武神鎧武の姿を見て、飛び出そうとした。だが、ツバサはそれを止める。

 

斬月が放っているのは、紛れも無く他人へ向けた殺意であった。このまま、にこが飛び出していけば怪我どころか殺されかねない。

 

 

「ぐぁっ……ぁ……」

 

 

武神鎧武の鎧は、徐々にひび割れていってるのが分かる。これはダメージが一定以上なのを、そして確実に裕也自身にも痛みが伝わっていくのを物語っていた。

 

それでも斬月は斬る事を止めない。

 

 

「なっ…………出雲! 戻ってこい!」

 

「朱果っ!?」

 

 

英玲奈が叫ぶ。その視線の先には先程まで一緒にいた朱果が、全速力で武神鎧武と斬月の戦いの場に向かっているのが見えた。

 

 

「……やめて」

 

「お前は…………」

 

 

倒れ込む武神鎧武の前に、朱果が立ちはだかった。思いがけない子供という乱入者の登場に、斬月は少し戸惑った。

 

 

「……どうして、戦う……の……?」

 

「何故、だと? 敵に何故だと問いかける……そもそもこんな子供に助けられる様だったら、そいつに戦う資格は無い。そのベルトは過ぎた力だ。手放してもらおう……」

 

 

斬月は話を聞く気が無かった。それでも朱果は説得しようとする。

 

 

「でも……この力が、無かったら……沢山の人が、犠牲に……なってた。それでも……意味は、無いって……言うの……?」

 

「…………」

 

「それに……この人は、私達にとって……大切な、人。……だから、奪わないで……ぇっ……!」

 

「…………!」

 

 

朱果は涙ぐみながら斬月に告げる。何故だろう。目の前の存在が恐怖だからだろうか、それとも自分の大切な存在を失いたく無かったからだろうか……朱果には分からなかった。

 

それと同時に武神鎧武の変身が、強制解除させられる。一定ダメージ量を超えた為に、ベルトの安全装置みたいな物が作動したのだろう。現れる傷ついた裕也の姿を見て、何故か斬月は動揺した。

 

 

『ソイヤッ! メロンスカッシュ!』

 

 

「っっっ……」

 

 

だが現実とは非常に無情な物である。斬月はカッティングブレードを一回倒すと、無双セイバーの刃を朱果に────

 

 

「ぇ……?」

 

 

────下ろさなかった。朱果の身体には傷一つ見当たらない。斬月からも、もう殺意は放たれていなかった。

 

斬月は無言のままロックシードを解除する。それはサクラハリケーンに変形し、斬月は変身したまま跨った。そして

 

 

「もう……君から大切な物を奪うつもりは無い(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…………?」

 

 

斬月は意味深な事を朱果に告げると、サクラハリケーンに乗ったまま砂浜を走り去って行った。

 

大切な物とは何だろうか……朱果には覚えがなかった。

 

 

「ぁ…………っぁ…………」

 

「戦極、先輩……!」

 

 

裕也が虫の息な事に気が付くと、朱果は駆け寄る。

 

 

「坂東さん! 救急車を!」

 

「お、おう! 分かった!」

 

「裕也ぁぁぁっ!」

 

 

次々と裕也に、にこやツバサ達が駆け寄ってくる。その目には涙が浮かんでいた。

 

意識が朦朧としていた裕也は、気づくはずが無い。

 

 

この場で、ただ一人。

 

 

「中々、素晴らしかったよ。戦極くん…………」

 

 

創唯凌馬が嘲笑っていたのに。

 

 

救急車のサイレンと、心配の声が響き渡る中。裕也は意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 







まさかの前回より長かった件について。まぁ、いいでしょう。

今回も少しシリアスかな……? 武神鎧武の裕也が謎のアーマードライダー斬月に敗北する回となりました。

新キャラの『創唯凌馬』と『湊陽子』そして前から言われてきた『呉島光真』の登場回となりました。

まずは創唯凌馬と湊陽子…………うん。あれだね。大体分かるよね?

そして呉島光真。この子、今後普通に主要キャラとして出てくるんですけどね……今はこんな感じです。

そして様子がおかしい幸汰さん。ここは考察してみてください。


第一幕は、後残り二話程を予定しております。大体一幕で約十話と言ったところですね。ラブライブ!原作突入まではプロットを大体組んでおり、約二十話程度を予定してます。

次回は朱果ちゃんが大活躍! 斬月に敗北した裕也は立ち直る事が出来るのか!? 後、凱斗さんや二年生組(現在は一年生)と湊くんも出てきます。後、あのスターと愛すべき馬鹿がやってきます……!

前回はウィングゼロさん。感想ありがとうございました!

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