アオイハル   作:Kの人

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すみません、この話が異様に短いと感じたそこの貴方、正解です。後半部分がすっぽりと抜けてました。ふ、伏して伏してお詫び申し上げます。なので再投稿させていただきます。前半分に変更はございません。


第五話

――朝。

 

それは学生の敵である。それもただの敵じゃあない。飛び切りの強敵。某RPGで言えば竜王並み、簡単に言えばラスボスクラスの強敵だ。それが毎日必ずやってくるのだ。ゲームならクソゲー間違えなし。何が楽しくて毎日魔王とエンカウントしなければいけないのだ。レベルを上げる暇もないじゃないか。

 

それに、特に高校生何ていう生き物は遅寝遅起きをするのが仕事みたいなものだ。朝を憎む高校生なんて奴は適当に石を投げても当たるくらいそこらにうじゃうじゃと存在するだろう。勿論、俺も例にも漏れず、朝は嫌いだ。いや、起きるのが嫌いだ。寝ている時が一番の楽しみとも言える。早起きは三文得とは言うが、早起きしたところで現金は貰えない。それに三文なんて貰っても現代社会では使うことはできないのだ。それなら、俺はまだ寝ていた方がましだ。寧ろ三文を払って遅起きをする免罪符が買えるなら喜んで支払うまでもある。

 

まぁ俺がこううだうだ言ったところで朝は来る。今日も今日とて人の迷惑を顧みず朝日は昇り、人々は会社に、学校にと行かなければいかないのだ。

 

「……ふぁあ、くそ、もう時間か……」

 

その日もいつもと同じく、携帯の鳴る音で目が覚めた。六畳一間にひかれた綿の薄いせんべい布団で寝ぼけた頭のまま目を擦る。低血圧の気がある俺にとってはこの瞬間が一番辛い。頭がぼんやりとして瞼が勝手に閉じそうになる。

 

よし、こういう時は二度寝するに限る。アラームはいつもギリギリにかけているが、五分くらいなら二度寝しても大丈夫だろう。俺の足をもってすれば全力疾走をするという前提であと十分はいける。流石に昨日の今日で寝坊して遅刻するのはまずい。だがしかし、眠いものは仕方がない。こういう時は寝るに限る。勇者もたまには魔王に負けていいのだ。それに睡眠欲は食欲性欲に次ぐ人間の三大欲求なのだ。その欲求に負けて何が悪い、いや何も悪いことはない。と、ダメ学生理論を脳内で展開つつ、ふと、気付く。

 

「……あれ? これアラームじゃないな」

 

ふと、携帯から聞こえる音が何時ものアラーム音ではないことに気付いた。いつも朝に聞こえる憎きアラームの音ではなく、でも聞きなれたそれは、

 

「着信……?」

 

それが示すは携帯の着信。電話がかかってきていることを示すそれである。鳴ってる携帯をとりあえず横目に見ながら状態を起こす。そして、そのついでに壁にかかっている時計を見る。誕生日に矢澤から貰ったアナログタイプのよく分からないキャピキャピした時計は七時を数分過ぎた辺りを指している。いつもアラームをセットしている時間よりも45分も早い。それは眠いはずだ。そう納得すると同時に怒りもふつふつと湧いてくる。こんな早朝に男子高校生の貴重な朝の眠りを妨げるとは喧嘩を売っているに違いない。怒りを通り越して殺意が芽生えそうだ。

 

「はいはい、出ればいいんだろ。何だよ、こんな早朝に……」

 

先ほどから携帯は鳴りやむ気配を微塵も見せず、延々と着信音をボロアパートの一室に鳴り響かせる。このままだと壁の薄い我がアパートだと隣から苦情がきそうだ。それはまずいので、とりあえず文句の一つでも言ってやろうと俺は相手も確認せず電話を取った。どうせ矢澤かその辺りだろうと当たりをつけて。

 

「はいはい、もしもし」

 

『よう、漸く電話に出たか』

 

しかし、電話越しに聞こえた声は俺の予想をはるかに斜め上に越えていた。電話越しでも分かる高い声は例え受話器越しであっても間違える筈もないここ三年間で聞きなれた声。

 

「……ん。 もしかして、タキちゃん!?」

 

『あぁ、そうだ。どうやらその声を聞くに寝起きのようだな』

 

予想外の人物だったことで脳が無駄に覚醒してくる。何だか一気に眠気が覚めた。決して嬉しい覚醒の仕方ではないのは確かだ。

 

「あっ、おはようタキちゃん……ってなんでタキちゃんが俺の携帯番号知ってるのっ!?」

 

『あぁ、おはよう。私が何でお前の番号を知っているかなんて細かいことを気にするんじゃない、男だろ。女は秘密の一つや二つあった方が魅力的だろう?』

 

「いや、タキちゃんは女性と言うより見た目的にようj――」

 

『何か言ったか?』

 

「い、いえ、何でもありません! 滝本先生は素敵な女性です」

 

訂正は早かった。一日の始まりから凶器(出席簿)が飛んでくる死亡フラグを立てるのは勘弁である。もう遅い様な気がしないでもないが、そこは寝ぼけてましたで押し通すつもりだ。多少強引な男の方がモテるとか何とか巷では噂らしいし。

 

『全く、お前という奴は……』

 

受話器の向こうからため息と呆れた半分の声が聞こえてきた。

 

「そ、それよりも何か要件があったんじゃないですか? こんな朝早くから電話なんて?」

 

七時が朝早いかどうかは各人の感性に任せる。俺の中では朝の八時までは十分に早朝だ。

 

『あぁ、そうだった。一つ昨日の職員会議で決まったことがあってな。それを伝えておこうと心優しい私はモーニングコールのついでに我がクラス唯一の問題児である君に電話をした訳だ』

 

今、この瞬間、タキちゃんは絶対足を組んで大人の真似をする小学生の様な澄まし顔で話している。短くない付き合いだ、それくらいは簡単に予想できる。なんなら食堂の量が多くてスタミナたっぷり男子に人気のBランチの食券を一週間分かけてもいい。

 

「あぁ、そうですか……。わざわざ、すみません」

 

『とりあえず、要点だけ伝えるぞ、私も朝は忙しいんだ。――――――』

 

タキちゃんとの電話はそれから数分後に終わった。使命が終わった携帯を枕元に軽く投げる。

 

「久しぶりに朝飯でも食うか」

 

すっかり目が覚めてしまった。一度目が覚めてしまえば今から二度寝をするのも憚られる。まぁ、数か月に一度くらいは朝食を食べるのも悪くないかもしれないな。そうと、決まればあとは早い。あっ、そう言えば冷蔵庫に食い物あったっけ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて天気は快晴。バケツ一杯の青い色絵の具を特大の画用紙にぶちまけた様な真っ青と言う言葉がそのまま当てはまる春晴れだった。行き交う人々はそんな素晴らしい青空に目もくれず一心に歩みを進める。その足が向かうのは、会社か学校か……。そのどちらでも俺には関係ないが、少しくらいは上を見る余裕位あっても良いと思う。今の日本人は悪い意味で余裕がない。……まぁ、かく言う俺も何時もは時間ぎりぎりで全力疾走でこの大通りを駆けていることが多いためこんな風に空を見上げてのんびり時間に余裕をもって登校するのも随分と久しぶりにことになるため、他人事をとやかくいう事は出来ないのだが……。

 

時間帯が少し早いせいか、いつも以上に人が多いこの通りには俺と同じく、音ノ木坂の制服に身を包んだ学生も多くみられる。音ノ木坂に向かうにはこの通りを通るのが駅から行くにも近いため必然的にその数はどの道よりも音ノ木坂の学生が多くなるのだ。

 

『ねぇねぇ、かよちん! 今日は何だか嬉しそうだにゃー!』

 

『そ、そうかな……?』

 

『うんうん、何かいいことでもあったにゃ?』

 

『え、えーと、実は! 何と! あのA-RISEのライブのチケットが当たったんだ! それも最前列っ!』

 

『あらいずってあれだにゃ、あのかよちんが追っかけている人気スクールアイドルだったにゃ?』

 

『うん、そうだよ凛ちゃん! あのA-RISEのチケットが当たったの!』

 

『それは、良かったにゃ! でも、大丈夫かよちん? 一杯人が来て、それで知らない人と横通しになるんだよね?』

 

『う、うん、心配も少しはあるけど、私の隣の席は空いているから大丈夫だよ!』

 

『あれ、かよちん最前列の端っこの席かにゃ?』

 

『ううん、違うよ。最前列の中心だよっ!』

 

『じゃあ、左右に人がいるんじゃないかにゃ?』

 

『本当ならそうなるんだけど、実は私の右横の席は有名なA-15席なんだ』

 

『Aの15席?』

 

『そうなの、ここ一年半くらいこの席にはお客さんが座ったことがないんだ。どんなに満員でもこの席だけは空いている席なんだよっ! 最前列の中央でありながらも、誰も座らないA-15、そのチケットはオークションに出せば十万円は下らないって言われているのっ!』

 

『さすがかよちん! アイドル関連には詳しいにゃー』

 

と、まぁこんな風に一緒の方向に進んでいるためか、話しながら足を進める学生たちの話声は良く聞こえる。いや、決して盗み聞ぎきではない。ただ、耳に勝手に入ってきているだけだ。悪気がないとは言え、いつまでも人の話に耳を傾けるのも悪いと思うので少しばかり早歩きで女子二人との距離を離す。それにしても語尾ににゃ、と付けるのは中々個性が強いな。ウチの高校が人数の割にはアクが強いと言われる所以は恐らくこの辺りにあるのだろう。

 

もちろん、一番アクが強いのは言うまでもなく、年齢詐欺教師のタキちゃんなんだろうけど……。

 

あぁ、そうそうアクが強いで思い出したが、ウチの高校にはアルパカがいる。そう、あの南アメリカ大陸で放牧されているラクダ科の動物だ。恐らく、日本広しと言えどもアルパカがいる高校はウチくらいなものだろう。俺も入学してビックリした。今でこそ懐かれたが、初めの内はよく唾吐きかけられたものだ。臭いんだよなぁ、あれ。ちなみに、何で農業高校でもない普通科高校でアルパカがいるのかは不明。音ノ木坂の七不思議の一つだ。ある噂によると、ウチの理事長がアルパカ好きだったからということらしいが、信憑性はちと薄い。俺も信用していない。噂なんてものは往々にして当てにならないと言うのが相場と決まっているのだ。

 

あぁ、そう言えばアルパカで思い出したがもうそろそろアイツらの毛も切ってやらないとなぁ……。アルパカの毛って切らないと永遠と伸び続けるからちょくちょく切ってやらないと毛むくじゃらの何かになってしまう。可愛くもクソもない、ただの毛ダルマだ。そうならない為にはちょくちょく毛を切ってやることが大切だ。もともとアルパカは高所に住む動物だし、毛は切らないとこれから先の暑くなる季節を乗り越えるには厳しいだろう。

 

そんなアルパカ談話を脳内の中で一人寂しく行っていた時だった。

 

「あっ、先輩っ! おはようございますっ!」

 

進行方向に立っていた一人の少女が声を掛けてきた。場所は俺が昨日裏路地にへと足を進めてた曲がり角付近。大きな瞳は朝の新鮮な光を浴びて輝やき、光の加減によっては不思議と青色に見えた。可愛らしい顔つきの彼女は十人いれば十人が美少女と言うであろう文句なしの美少女。見慣れた音ノ木坂のブレザーに赤いリボン。俺も昨日初めて知ったが、こんな可愛い後輩がいたとは人生の半分を損した気分だ。

 

「おぉ、高坂おはよう」

 

彼女の名前は高坂 穂乃果。ひょんなことから出会った俺の後輩でもある少女だ。

 

「おはようございますっ!」

 

高坂は元気よく太陽のような笑みで笑う。明るく、美人。絶対モテるよなぁ……。俺の予想では高坂のクラスの男子の殆どが高坂に惚れているとみた。男の子は単純だから、可愛い子が二コリとほほ笑めば一瞬で恋に落ちる生物なのだ。俺も後、一年若ければ危なかったな。告白して振られるまでが鮮明にイメージできる。まぁ、もし俺が後一年若くても告白する根性がないため片思いで終りそうだけどな……。

 

「どうしたんだ、こんな所で? 裏道通るならやめておけよ」

 

そう、冗談交じりに話しかけると、

 

「あっ、いえもう暫くは裏道は通りませんよ。今日は、先輩を待っていたんです」

 

「……俺を?」

 

「はいっ、先輩がどちらから来られるか分からなかったのでここで待たせていただきました」

 

「何か用があるなら学校で言ってくれれば良かったのに」

 

わざわざこんな道のど真ん中で待たなくても学校に行けば俺を探すくらいわけないだろう。それにたまたま今日は時間に余裕をもって登校しているが、何時もなら俺はあと十五分は遅い時間にここを通る。

 

「そうも思ったんですが、お礼はやっぱり早い方がいいかと思って……」

 

「お礼……?」

 

「はい。先輩、昨日はありがとうございましたっ!」

 

そう言って頭を下げながら高坂は手に持つ紙袋をこちらへと差し出す。

 

「これは?」

 

紙袋の中には落ち着いた色で包装された長方形の箱。

 

「ウチの家が実は和菓子屋でして、そこの新作饅頭ですっ! 昨日先輩にお礼は要らないと言わましたが、どうしても私がお礼をしたくて……。勿論、昨日のことは誰にも言いませんっ! だから、これも受け取って下さい」

 

「そういうことなら、ありがとう高坂。ありがたく、受け取っておくよ」

 

そう言って笑いながらその紙袋を受け取れば安堵の表情を見せる高坂。何となく裏表がない少女なんだなと俺はその表情を見ながら思った。きっと、嘘が苦手な少女と言うよりも、嘘がつけない少女なんだろう。

 

高坂は笑う俺を見ながら、それと、と恐る恐るといった感じで付け加える。その顔は何故か真っ赤に染まっていた。

 

「あ、あの、も、もしよければ私と電話番号とかメールアドレスなんか交換してくれませんかっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

――――

 

――――――――。

 

 

「――――ありがとうございますっ! これ私の家宝にしますねっ! それでは学校に行かないといけないので失礼します」

 

電話番号とメールアドレスの交換が終わると顔を赤く染めたままの高坂はそんな言葉と共に元気よく走り去ってしまった。まさに嵐のようにといった言葉がそのもの。若いっていいなぁ……。俺はその後ろ姿を見ながらそんなことを考える。まぁ、高校三年生なので一つしか違わないのだが、その一つが大きいのだ。

 

「アンタこんなとこで突っ立ってどうかしたの?」

 

「ん? 矢澤じゃないか。おはよう」

 

背中にかかった声に後ろを振り向ければ顔を合わせて三年目になる我が友人の姿。

 

「おはよう。どうかしたの?」

 

「いや、別に何でもない」

 

「ふーん、そう。ならその間抜け面は引っこめてさっさと学校行くわよ。そんな顔していたら女子にモテないわよ。それにアンタがこんな時間に登校なんて今日は雨でも降るの? 傘を忘れたわ」

 

俺の言葉に矢澤は興味なさそうに相槌を打つと俺の横をとてとてと通り過ぎる。何とも酷い言いようであるが、俺がもし矢澤の立場なら今日は槍が降るのではないかと身構えること必須なので、まだ矢澤の言い方は優しい方なのかもしれない。まぁ、槍も雨も似たような言い回しと言えばそうなんだろうが。

 

「いや、普通の顔でも女子にモテた試しがないんだが……。ついでに俺が今日異様に早く学校へと向かっているのはタキちゃんからの電話で起こされたからだ」

 

ちなみに付け加えれば通話を切るときの別れ際のセリフは『滝本先生だっ!』だった。

 

「ふーん、滝本先生も災難ねアンタみたいな問題児がクラスにいるんじゃ。それにそうだったわね。アンタが女子に人気がないことなんて今に始まったことじゃないわね。でも、心配しないでいいわよ。もし、行き遅れたら私が貰ってあげるから」

 

「それはこっちのセリフだ。お前が行き遅れたら俺が仕方なく貰ってやるよ」

 

勿論これは冗談だ。俺のことはともかく矢澤はその気になれば男の一人や二人作るのは簡単だろう。確かに正確に少々難があるかも知れないが、そもそもコイツの可愛さの前ではそれもプラスに働くことも多い。俺の中では最も早く結婚しそうなヤツとして脳内レースでトップを走っている。高校卒業して数年経てばひょっこり結婚していそうなのが矢澤と言う少女だ。東條よりも下手をすれば早いかもしれない。ちなみに、だ。そのレースの最下位は言うまでも無くタキちゃんだ。タキちゃんはまず、見た目を幼女から少女へと引き上げることが大事だ。

 

「そう、それなら行き遅れるのも悪くないかもね」

 

クスクスと笑う矢澤に軽言を叩きながら並んで歩幅を進める。手にもつ紙袋の中身が揺れる。

 

季節は春。出会いと別れる季節だ。

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