アオイハル   作:Kの人

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第六話

そして時間は流れ土曜日。ライブの日だ。昨日までの重い灰色の曇天の空から一転、今日は海の青を鏡映しで映し出したようなマリンブルーが頭上を覆い、その青を引き立てるように羊雲がまるで海に浮かぶ純白の島のように泳いでいた。二文字で表すのなら晴天。これ以上に表しようがないスッキリとした空模様。

 

「ってか、服装ってこれでいいのかな?」

 

ライブなんて行ったことも見たことも無い。とりあえず、適当に無難な服装をチョイスしたのだが、これいいのだろうか。まぁ、チョイスといっても普段着何て数着しかないため、選ぶも何もこれしかないんだけどな……。もしかして、制服とかの方が良かったりする? 矢澤あたりに聞いておけば良かったかな、アイツ部活もよく分からんアイドル関係の部活をやってるぐらいだし、俺よりも幾分か詳しいだろうし。

 

まぁ、考えてもしょうがない。考えたところで着ていく服が増えるわけでもなければ、服を買う金が財布の中に湧いてくるわけでもない。それなら、考えるだけ時間の無駄だ。

 

さて、と。左腕につけている時計を見る。時間は11:45分。チケットを確認するとライブの開始時間は12:00。ここからUTXまでは曲がり角を一つ曲がればすぐ。どうやら10分前には着けそうだ。これで間に合わなかったらあの子になんて詫びを入れればいいかわからないからな。俺は確かに貧乏だが、生活がいくら苦しくても誠実でありたいと思う。約束は出来る限り守るし、契約は履行したい。我々の確かな報酬は誠実であると言うことだけだ、とはアメリカの偉い人の言葉だと記憶しているが、本当に人生大切なことはそれだと思う。

 

「ん? なんだこの騒ぎ」

 

この曲がり角を曲がればUTXまで目と鼻の先といった曲がり角。ワーワーキャーキャーといった黄色の声援が聞こえた。結構な音量だ。何かやっているのか? そんなことを考えながら曲がり角を右へと曲がれば、

 

『ちょっと、押さないでよ!』

 

『いいなー、私もチケットさえあれば!』

 

『あと、十五分よ!』

 

『今回は抽選漏れたしたけど、次は絶対チケットとるんだから!』

 

結構な数の人がUTXのビルに埋め込まれている大画面の前に集まっていた。人数の内訳は女の人が7割に男の人が三割。しかし、どちらもこれだけの量がいれば中々に壮観である。

 

服装はカラフルな半被をそのほとんどが着ている。手にはよく分からないキラキラと光る棒状の物。そんな人だかりがUTXの前に出来ていた。

 

……なんだこれ?

 

思わず暫くその様子をボンヤリと眺めてしまった。いや、誰だって目の前にそんな光景が現れればそうなってしまうだろう。いくら俺が秋葉にほど近い所に住んでいるとは言え、そんなよく分からん人だかりをよく見ていると思えば大間違いだ。そもそも秋葉にはよく行くがそれはバイトがほとんどで歩行者天国なんて通りもしない。地元の人間なんてそんなもんだ。

 

「きゃっ!?」

 

その様子を漠然と眺めていると背中にポスンと軽い衝撃が走った。

 

「――おっと」

 

振り向いてみればその子にいたのはショートカットの女の子。どうやら彼女とぶつかってしまったようだ。

 

「ごめん、大丈夫か?」

 

こんな所に突っ立っている俺が明らかに悪いので謝罪の言葉を口にする。立ちどまるならこんな曲がり角付近じゃなくてもう少し道の端で立ちどまるべきだったな。これじゃあぶつかられても文句は言えん。寧ろ、言われても仕方がないだろう。

 

「だ、大丈夫です。凛こそぶつかってごめんなさい」

 

ぺこりとお辞儀をした後、

 

「あっ、凛は急いでいるからし、失礼します!」

 

そう言って元気に人ごみに向かって去って行ってしまった。

 

その背中を見送りながら、綺麗なフォームだなぁ、陸上でもやってたのかなぁ……、なんて馬鹿な考えをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い人だなぁ……とりあえず、A-15、A-15っと」

 

UTXの屋上へと辿りとたどり着いた俺は、その足でライブが開催される会場となっている屋上へと足を運んでた。その途中にUTXの設備に驚いた俺だが、(だって鏡張りの上に何十階も階数があり、それにエレベーターだぞ、ウチの学校もそこそこ綺麗だなぁ……何て思っていたが、これは流石に格が違う。流石は東京一、いや日本一有名なUTX。これは人気が出るのも頷ける)その屋上でさらに驚くことになる。

 

屋上にあったのはパイプ椅子が均等に並べられて作られた客席にステージ。そして、その並べられた椅子に座り待つ大量の人、人、人……。まさに満員御礼雨あられ! ってな状況だ。UTXの表にいた人と同じく半数はカラフルな半被を着ており、また会場にいる全員が光る棒状のよく分からん物を持っていた。まだスタートまで時間がまだあると言うのに、全員が今か今かと待ち望んでいるのが一目で見て取れた。

 

――これは勘違いしていたか……?

 

遅まきながらとんでもない所に来たと後悔の念がよぎる。どうやら、俺は学生アイドルと言うのを甘く見ていたらしい。学生アイドルなんて所詮、部活であって、軽音部のライブとか吹奏楽部の発表会と同じくらいだと考えていたのだが、それはどうやら大きな大きな勘違いだったようだ。

 

ここには若い女性が確かに多いが全てがUTXの学生な訳ではないだろうし、それに老若男女多くの人が目に入る。俺は大小含めてもライブと言うものに今まで行ったことがなかったが、これはもしかするとプロのアイドルと何ら変わらないのではないだろうか……。

 

空が近くなった分、日差しも心なしか強くなったように思える。青い、蒼い頭上を覆う。

 

そんな頭上からの恩恵を受けて、さらに人々のボルテージが上がっていく。そんな錯覚を覚える。

 

人の列をかき分けるように席を探す。

 

「おっ、ここか、ここ」

 

席は直ぐに見つかった。どうやら縦列が最前列から奥に行くにつれ、ABCとなっており、横列がステージを正面に見て左端から1,2,3と順番に並んでいるようだった。

 

……つまり、A-15とは、ライブ何て行ったことも無ければ興味も無い俺でも分かる――

 

「――最前列の真ん中ってわけだ」

 

――一番の特等席ってやつだ。

 

「……え? この席なんですか?」

 

席に座ろうとした時、横の人が驚いた様な狼狽えたような声を漏らしたのが耳に入った。

 

「ええ、一応ここです……多分」

 

ピンクの半被をした少女。髪は短く耳が隠れる程度、大きな目が特徴で何となく温和な印象を受ける。そんな少女だった。

 

言葉に自信がないのはいつもの事と言うことで流してくれ。なんか雰囲気に呑まれてしまいそうだ。

 

「ま、幻のAの15に人が……そ、それも男の人!?」

 

「ま、幻のAの15……?」

 

幻って何だ幻って……。

 

そんな俺の狼狽を他所に、

 

『おい、見て見ろあれ!』

 

『あの席ってAの15じゃないか……!?』

 

『なんだアイツなんであの席を!?』

 

『Aの15は販売されていない席じゃないのか!?』

 

『しかも、冴えない男だと!?どこで手に入れたんだ!?』

 

『我々がまだ知らないルートがあるだと!?』

 

『市場に出回らないはずのチケットをなぜ……。犯罪か!?』

 

 

こんな感じでざわざわと騒ぎが広がってしまった。何だその幻とか、出回っていないとか販売されていないとか……。それに犯罪って何だよ犯罪って……。俺は生まれてこの方お天道様に顔向けできないようなことはやってない。校則はあれでだが、法律は遵守する模範な日本国民だ。

 

ヤバい、なんか完全にアウェーの様な気がして来たぞ……。

 

別に何も悪いことはしていないつもりだが、何だか吊し上げられた気分だ……。とりあえず、こういう時は周りの人にどういうことか、話でも……。

 

どういうことか聞こうと口を開いた時だった。

 

――それでは時間になりましたので、UTX学園、スクールアイドル、A-RISEのライブを始めます。

 

そんな放送と共にステージの幕が開かれた。

 

 

「みなさーん、こんにちは! 今日は私たちのライブに来てくれてありがとうございまーすっ!」

 

壇上に立つ少女と目があう。

 

「私は――」

 

何時もバイト先に来てくれるあの子だ。

 

「アライズのリーダーをさせてもらっている――」

 

そう、見慣れたあの子だ。服装は違えど、彼女だ。

 

それは間違いない。

 

「綺羅ツバサです――」

 

でも、明らかに違う。輝きが違う、オーラが違う。一目で分かる。学園アイドル? スクールアイドル? そんなものじゃない。彼女たちは間違いなく――

 

「今日は皆さん楽しんでいってくださーい!」

 

そう言って挨拶を終えると、彼女は再び俺と目を合わせる。

 

「――チュッ!」

 

そして、投げキッス。

 

「うおおおおおおおおおおお!」「きゃああああああああああああああああああ!」

 

俺の事なんてもう誰も眼中にないらしく、上がる観客のボルテージ。

 

そう彼女たちは誰がどう見ても――

 

     

 

 

 

――アイドルだ。

 

過去を振り返ってみれば、俺がスクールアイドルと言うものを知ったのはこの時だったに違いない……。

 

 

 

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