黒い森に百合は咲く   作:梅人

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副隊長

 ある日の戦車道の授業。

 私たち戦車道受講者は全員が隊長を前にして綺麗に整列していた。

「戦車道の授業を始める前にみんなに伝達することがある」

 隊長が一息挟んだ。

「これより、全国大会の出撃メンバーを発表する」

 そう、もうこんな時期なのだ。

 現在黒森峰は全国大会を9連覇している。そして今年も優勝すれば、数字的に区切りがいい10連覇となる。

 10連覇が目の前に見えている私たちは、やる気は勿論その栄光を掴み取るための一員に誰もがなりたがっていた。

 隊長が一人ずつ搭乗戦車、役職を含めて名前を上げていく。

 名前が呼ばれた者は全員笑みを浮かべ、喜びを表していた。

 まだ、私の名前は呼ばれない。

 一人また一人と名前が呼ばれていくなか、私は自分の名前が呼ばれるかどうかの不安で緊張し、喉がカラカラになって唾を飲み込む音が大きく聞こえ、心臓が激しく動き、冷や汗が流れて来る。

 そしてメンバー発表が終盤に差し迫った頃。

「Ⅲ号戦車J型戦車長、逸見エリカ」

 私の名前が呼ばれた。

 隊長が私の名前を口にした瞬間、この身が激しく舞い上がった。私の実力が隊長に認められたのだ。

 やった! やった! 嬉しい・・・けど、

 私はずっと喜びに全身を浸かることが出来なかった。なら一つ不安なことが残っているから。

 それは、未だにみほの名前が呼ばれていないのだ。

 もうすぐ発表も終わる。

 まさか、そんな筈は、と思ったその時

「Ⅵ号戦車戦車長兼副隊長、西住みほ」

 これにはもう驚いた。驚きすぎて呆然としてしまった。周りもざわざわと話し始めてきたが、隊長の一声が響いた。

「みほには一年生ながらも副隊長という大任を任せる。これは身内びいきという訳ではない。公正に全員の能力を比較し、尚且つ次の代への繋ぐことを考えた結果だ。この判断に異議を唱える者はここで手を上げろ」

 周りは静かになり、誰も手を上げることはなかった。戦車道の授業が始まってからまだ日は少ないが、それでも全員がみほの実力を知っていた。彼女が副隊長になっても問題は無いと理解していた。

 隊長がその光景を見て一つ頷くとみほを前へ促した。

「では新副隊長から一言言ってもらおう」

 なるほど、隊長はみほが副隊長になったことを明確に認めてほしいのか。

 ここでみほがしっかりすれば、みんながキチンと副隊長として認識するはず・・・なのだが。

 みほがみんなの前に立つ。

 オドオドしている姿はとても頼りなく見えてしまう。

「えっと、あの・・・その」

 口をもごもごさせて必死に何かを言おうとするが、遂には顔を俯かせて黙ってしまった。

 再び周りがざわざわと騒ぎ始める。聞こえてくるのは彼女が副隊長で本当に大丈夫か、という懐疑的な声だ。

 あぁマズイ。これでは誰もみほの事を認めない。

 そう考えたら、私はみほに向かって声を張り上げていた。

「副隊長! 頑張ってください!」

 私の声に反応してみほの顔がハッと上がる。彼女の瞳が私を捉えた。

 よし、顔を上げた。

 そこへ、更に別の声が上がってきた。

「副隊長! 頑張って!」

 声を上げたのは、同級生である赤星小梅だ。

 そして、次々と「副隊長!」「みほさん頑張って!」「貴女なら出来るわ!」「頑張って!」等といった声が同級生をはじめ、先輩方からもみほに向かって掛けられていく。

 みほは驚きで目がとても見開いていた。

 それでようやく腹を括ったのか、顔を引き締め、大きく声を上げた。

「副隊長に任命された西住みほです! 精一杯頑張ります!」

 本当に一言だったが、それに込められたやる気を確かに感じさせた。

 みほが一礼すると、大きな拍手が沸き上がる。

 今度こそ、みんながみほの事を認めた瞬間だった。

「よし、ではこれより戦車道の授業を始める。一同、礼!」

「「「よろしくお願いします!!!」」」

 

 

 

 戦車道の授業が終わった後のこと。

 私の所にみほがやって来た。

「エリカさん」

「あら、どうかしましたか副隊長」

「む~ もう戦車道の授業は終わりました」

 不満ありありの顔だ。

「はいはい。どうしたの、みほ」

「えっと、今日はありがとうございました」

「挨拶のやつ?」

「はい。エリカさんがあの時声を掛けてくれたおかげで、私は頑張ろうって気持ちになれました」

「あれは、副隊長があんなに情けなかったら、選んだ隊長の判断が間違っていたと判断されてしまうのが嫌だったからやっただけよ。貴方の為じゃないわ」

「それでも、エリカさんの声が私に勇気をくれました。私はそれがとても嬉しかったです」

 にっこりと笑いながらむず痒くなることを言ってくれちゃって・・・ああ、あの時を思い出したら恥ずかしくなってきた。

「ッ~~~ ああもう! 私にお礼を言うなら小梅にも言ってきなさい! 私の次に声を掛けてくれたんだから」

「はい! 赤星さんの所にも行ってきますね」

 みほが立ち去った後、私は真っ赤にした顔を冷やすのに必死になった。

 あの娘は真正面から恥ずかしいことを言うんだから困ったものだわ。

 ちょっとしたため息をついていると、今度は隊長が私の所にやって来た。

「エリカ、ちょっといいか」

「た、隊長! はい、大丈夫です」

 思わず気をつけをしてしまう。

「そう堅苦しくしなくてもいい」

「は、はい」

「今日はみほのこと、感謝する」

 隊長が頭を下げてきたことにぎょっとしてしまう。

「そんな! 別に隊長が頭を下げるほどのことではありません!」

「みんながみほの事を認めてくれたのは、エリカが声を上げてくれたおかげだ。そこに間違いは無い」

 隊長が私と目を合わせる。

「それでなんだが、エリカには一つ頼みたいことがある」

「頼み、ですか?」

 隊長の頼みとは一体何なのだろうか。

「私の次の隊長はきっとみほになるだろう。だがエリカも知ってのとおり、みほは引っ込み思案なところが強い。みんなを一人で引っ張っていくのはとても難しいことだろう」

 隊長の切実な願いが、私を頼ってくる。

「だから・・・エリカにはこれからもみほを支えてやって欲しい。みほの足りないところを、エリカが補っていってほしい」

 隊長の願いに、私が返す言葉は一つしかない。

「そんなの、当たり前じゃないですか」

 私は胸を張ってこう言った。

「みほは・・・大事な友達ですから」

 隊長は薄く微笑みながら告げた。

「ああ、安心した。エリカ、これからもよろしく頼む」

「はい!」

 隊長はそのまま去っていき、私だけがそこに残った。

 私が立っている位置は隊長やみほよりも低い。

 私はいつか、彼女たちと並んで歩んでいけるような存在になりたい。

「よし!」

 この日は、もっと努力して彼女たちに追いつくんだ、と決意を新たにした日になった。




投稿初日から評価、感想を貰えるとは思っていませんでした。
お気に入りをしてくださった方も本当にありがとうございます。

ちなみにですが、私は病んでる西住殿とかも好きです。

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