Braver&Dreamer~勇気ある者と夢見る者 作:鯖味噌煮込みうどん
うざったい少年が主人公です。
午前の授業が終わり、休み時間となった。俺は喧騒を避けるために青空の下で本を読んでいた。天才である俺にはこれが似合っている。すると、静寂を壊すように声が響く。
「やーい、俺らを捕まえてみろよー!」
「将来勇者になるんだろー?ほーら、さっさと走ってこいよー!」
「どうしたー?おっそいぞー!」
馬鹿どもが下賎な笑い声を上げながら俺を煽り走り回る。イラッとした俺は本をたたみ、走って追いかけるがどうしても追いつかない。くっ、天才である俺がこんなところで遅れを取るなんて…
「く、くそっ!待て…!待ち…やがれ…!」
息が切れて途切れ途切れになる。
「おめーには勇者なんざ向いてないんだよ!」
「一生机に向かってろ!ガリ勉ヤロー!」
馬鹿どもが近づいてきて馬鹿みたいな顔をこちらに向けて嘲笑ってくる。
「ハァ、ハァ、うるせえ!お前ら…なんかなぁ!俺が…ハァ、ハァ、俺が本気を出したらなぁ!」
「どうなるのか言ってみろよ!腕相撲で女にも勝てない雑魚が俺らに勝てんのかよ!」
「うるせえ!黙れ!お前ら馬鹿に天才の考えはわかんねえだろうがァ!」
俺は魔術で手のひらに炎を纏わせる。力がなくともこれがあればいい。こいつら馬鹿とは違うんだ。
「結局魔法頼みだなおめーはよぉ!」
「先生呼んでやろうか?あぁん?」
その言葉に俺は炎を消さざるを得なかった。天才的で強力すぎるこの魔術は俺を二度停学に追いやっているのだ。もう一度何かあったら退学もありえる。そうすりゃこの馬鹿どもより底辺の人間だ。そうなるのだけは嫌だった。
「くそっ!覚えてろよ馬鹿どもが!」
俺は背を向けざるを得なかった。嘲笑う声が聞こえる。きっと馬鹿どもが俺のことを指さして笑っているのだろう。俺は歯を食いしばりながらその場を去った。
「ただいま…」
自宅であり、宿である自宅の扉を開ける。
「おかえり。また何か馬鹿にされたんかねあんたは。」
母親というものはどうしてここまで勘が鋭いのだろうか。
「関係ないだろ…」
図星であることを隠してそう言う。
「気にしなさんなよ!あんたには腕っ節はなくとも魔術がある!あたしにゃよくわからんけど凄いんだろう?先生からも聞いてるよ。」
褒められると気恥ずかしくなる。顔を隠して自室に向かおうとする。
「そういや今日は旅人さんが来てるから大人しくしてるのよー。」
この街はここらじゃ一番大きく、リジェクターがかなり甘いためよく旅人が来る。どんな旅人なのだろう、と少し考えながら自室への階段を登る。
日が暮れるまで考え事をしていた。どうすればあいつらに自分の力を認めさせることができるだろうか、どうすればあいつらに勝てるだろうか、どうすればあいつらを…そんな時、下で表扉が開く音がした。旅人が帰ってきたのだろうか。
「こんにちはー、ただいま戻ってきましたー。」
明るくはきはきとした若い女の声だった。わざわざ宿の人間にそれを伝える必要があるのかはわからないがなかなか感じのいい可愛らしい声だった。声の主を確認するために俺は階段を駆け下りた。
旅人の姿を視界に捉える。刹那、視界は明るく輝き、心臓がドクンと大きく一度跳ねた。俺は言葉を失い立ち尽くしていた。
「こちらの方は?」
旅人は俺のことを母親に訪ねた。
「私のバカ息子でね、名前はフォルティス。力強い子に育ってほしかったのに態度だけふてぶてしく育っちゃってねえ。」
母親は謙遜なのか本気なのかわからない言い方で大きく笑う。
「……う、うるせえ!」
「あんたどうしたんだい、やけにぎこちないね。」
俺はそれ以上何も言わなかった。
「よろしくお願いしますね。」
旅人はニッコリと笑いかけてきた。俺は顔を伏せ、階段を駆け上がった。途中聞こえてきた母親の笑い声が俺をより恥ずかしくさせていった。
自室に篭り、顔を抑える。熱い、火照っている。視界が歪み、動悸が激しくなる。何が起きたのかわからない、初めての感覚だった。俺はどうすることもできず、ただただベッドに顔を埋め続けた。そんな中、先程の旅人の姿がまぶたの裏に浮かんだ。背は低いが、顔立ちからして歳は同じか少し上くらいだろう。綺麗な黒髪を後ろで結っており、端正な顔立ちがより際立っていた。しかし、そのこぼれる笑みは子供のような無邪気さを覚えさせ、可愛らしく思えた。そして、気になるのは後ろに背負っていたものだ。背丈の半分はある何かが入った黒い革袋、ちゃんとは見れなかったが不思議な形をしていた。また会えたなら何かを聞いてみよう。ちゃんと話しかけられるだろうか…
その日はどうも寝られないでいた。大きな鼓動は収まらず、目が冴えていたのだ。そんなこんなで毛布の中でもぞもぞとしていると、ジャラランと小さな音が聴こえた。何の音かは分からなかったが、その小さな音に耳を澄ませてみたくなった。次第に音は連なり、曲を奏でていった。聴き覚えのない力強くも素朴で聴き心地の良い音を奏でている。しばらく曲が続くと、小さな声で歌が聴こえてきた。声は旅人のものだった。可愛らしくも、心に響く、強さを持つ声だった。演奏も歌唱も宿の人間のことを考えて小さく抑えているのだろう。俺は耳を澄ませ、その歌が止むまで時間を忘れていた。
リジェクターは不滅少女旅譚の方で出してるので解説はなしです。わからない人は不滅少女旅譚を読んでください。