右クリックから新しいタブで開くと便利かもしれません。
シエスタの気持ちがところどころ隠れていたりします。後ろの方や、無駄に改行されてるところを反転してみましょう。完全に擬態している箇所もあります。
一応ヒントとしては、あの分かりやすい部分以前には存在しません。白文字タグで囲った文章は全部で18個くらいです
『ルイズ、これはあなたへの手紙と言うよりは状況を整理するためにしたためています。
あなたとワルドが失踪してから、世界では大変なことが起きました。まずはガリアが壊滅的な大打撃を受け、他国へと散り散りに吸収されました。そして、わが国トリステインでも様々な地方が消滅しました。同時期にアルビオンのレコンキスタが降伏。どうやら、中心的人物であるオリヴァー・クロムウェルごと、ほとんどの戦力が壊滅したようです。
ウェールズさまがご生還なされ、わたくしは感無量でありましたが、喜んでばかりもいられません。ガリアの壊滅により、エルフが人間へと宣戦布告を仕掛けたのです。幸い、人数はこちらが大幅に上回っているのですが、やはりエルフは強敵であり戦線は拮抗しています。
ルイズ、あなたがもしも隣に居たのなら、わたくしを支えてくれていたのでしょうか?それとも、わたくしと共に最前線に向かってくれたのでしょうか?きっと、これは罰なのでしょうね。我が儘ばかり言って、王に成ろうとしなかったわたくしへの。
それでは、行って参ります。願わくば、再び語り合えることを信じて。』
殺す。ただ、殺す。ひたすら、殺す。私の周りに常態のモノは居らず、その全てが笑えてくるほどメチャクチャに破壊されている。いや、どうやら小賢しい屑が一人だけ生き残っているようだ。
ぴちゃり、ぴちゃりと水音を立て、私はゆっくりとその屑に近づいていく。息を殺して震えを我慢しているようだが、赤ん坊の方がまだ隠れ方がうまいだろう。
私は、無造作に足を振り下ろした。
「ひぎゃあああああああああ!!!!」
他の塵芥の死骸ごと屑の足が吹き飛び、ソレは心地の良い絶叫を上げる。
「な、なんでぇぇぇ!!こんなぁ、こどををををぉぉぉ!!」
「……よくもまあ」
己の罪が全く分かっていない糞虫の頭を、私は容赦なく踏み潰した。頭蓋と脳漿が混じりながら弾け飛び、周囲を汚物で汚す。風の鎧に阻まれて私までは届かないが、こんな穢らわしい血で私の靴底が汚れてしまった。
地面を蹴っ飛ばすように血を拭っていると、とてもいいアイデアを思いついた。早速私は呪文を唱え魔法を発動する。私の足元から水が溢れ出し、それは加速度的な早さで量を増すと、濁流となって大地そのものを洗い流す。大地が削りに削れ風石が露出し始めたあたりで、私は靴底だけを水の中に入れて汚れを洗い流した。
私の靴底と同じように心の表面上だけがスッキリしたところで、私は一番の屑のもとへとカッ跳んでいく。大地や木々、建造物を踏み砕きながら加速し、破壊的な速度をもって私はその屑の寝床へと突っ込んだ。
轟音が響き渡り、建物の大部分を吹き飛ばすが、その程度で即死など許されるはずもない。私はすぐさま屑を捕捉すると、ソレに向かって深緑色の球を投げつけた。球が破裂し、瞬間的に強大な風の鎧が展開される。降りかかる瓦礫全てが弾き飛ばされ、何もなくなってしまった大地の上に私は降り立ち、屑を落とした。
「な、何者だ!お前は!わ、私をレコンキスタ総帥、オリヴァー・クロムウェルと知っての狼藉か!」
ああ、よく知っている。お前がどうしようもない愚鈍で、生きる価値もない屑だと言うことは。私は、無造作に屑の足を斬り飛ばす。
「ああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
目の前の屑が気持ちの悪い鳴き声を上げている。不快感以外何も感じない。私は、鳩尾を蹴っ飛ばしてやった。
「……っ!!っっ!!おぼぇぇぇぇ……」
アレは気持ち悪くうねうねと身をよじって、体液を撒き散らしている。不快だ。私は、黒球の準備を始めた。私の中の怨みを全て込め、リーヴスラシルの力でどんどん増幅させていく。
「まってぇ……やってなぃぃ……わたしじゃなぃぃ……」
弱々しい鳴き声を上げるアレ、何故かはよく分からないが、更に殺意が湧いた。黒球の魔法に更にアレンジを加え、魔力の代わりに記憶を吸い出すように変更する。それをアレの中に転移させると、クズがボロボロと崩れて塵芥になり、残滓は闇に飲まれるように消えていった。
その記憶を映し出してみると、確かにアレはどこかの売女の指示を受けていたようだ。誰かは分からないが、この売女も、そこに連なる者全て殺してやる。私からシエスタを奪った罪を刻み込んでから、どれだけ泣いて喚いて許しを乞おうと、どこまでも残酷に殺す。
私は浮き上がり、この目障りな大陸を叩き斬ろうと、闇の中からどこかで見たような気がする剣を取り出して、そこに魔力を溜めて―――
……いる。生きている。今、確かにシエスタの何かを感じ取れた!こんなことをしている場合ではない!すぐにシエスタのもとへ行かなくては!
私は土の大塊で地面に穴を開けると、シエスタのところにまで一直線で飛んでいく。早く、速く、もっと疾く!!私が出せる全速力を二回りほど超えたとき、ついに私はそこにたどり着いていた。
愛しく、求め続けたその姿が私の視界に映り、私は衝動的にシエスタを抱きしめていた。
『どうして、人は争うのでしょう。同じものを愛することができるのに。
あなたがナイフを持っていても、私は決して恐れません。よほどの理由がない限り、あなたがナイフを振るわないことを、私は知っているから。
それでも、この大きな流れを止めることはできませんでした。ならば、私の身が平和の礎をなることを願って。どうか、これ以上争いが起きることのないよう、この身を捧げます。』
「良かった……!生きていてくれて、本当に良かった……!」
「うふふ、心配してくれたんですかぁ?ありがとうございますぅ」
ただただ力の限り抱きつくルイズを、対照的になまめかしく撫で回すシエスタ。客観的に見ればどこかおかしいことが丸分かりだが、極度の安堵からルイズはその違和感に気づけていない。
しかし、それとは別の懸念にルイズは気づき、慌ててシエスタを解放する。
「はっ!?だ、大丈夫だった!!?」
「……ええ、大丈夫でしたよ。
念入りに見回すルイズの視線に合わせて、シエスタの腕が体中を扇情的に這う。ここまでされて、ルイズはやっとシエスタの違和感に気づいた。
「……何か、…………あっ、たの……?」
一度は躊躇われつつも、喉をついて恐る恐る出てしまった言葉。優しくて、純朴で、笑顔が眩しいシエスタだとは思えないほどの激しい違和感。まるでバラバラのパズルを無理矢理はめて一枚の絵にしてしまったかのような不気味な感覚をルイズは覚えていた。
「うふふ、聞きたいですかぁ?今ならまだ、キレイなままでいられますよぉ?」
ごくりと、ルイズは生唾を飲み込む。それでも口がカラカラに乾いて喉が張り付いて仕方がない。シエスタの言うとおり、これが日常の象徴を保持する最後のチャンス、引き返してしまえば最後の一線だけはつなぎ止めておけるはずだ。違和感を抱きながらも、変わらぬ日常を送ることができるだろう。
「――――話して、くれる?」
それでも、
「そう、ですかぁ。
シエスタはくるりと後ろを向き、何気なく歩き出す。その足は、恐らく人工的に作られたであろうホラ穴へと向かっている。
「さらわれた私は、ここに連れ込まれました」
ホラ穴の中は妙に明るい。恐らく松明か何かが残っているのだろう。妙に生ぬるい停滞した空気が肌に纏わりついて気分が悪い。
「最初は、怖いとか痛いとか、感じるヒマもありませんでした。ただただ困惑と驚愕が私の頭を満たし、状況すらも全く飲み込めなかった記憶があります」
不思議なテンポで奥に進むに連れて、パチパチと炎のはぜる音がだんだんと大きく聞こえてくる。こんな薄汚い場所にシエスタが連れ込まれたのだと思うと、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「それから縄で縛り上げられ、地面に転がされました。冷たい地面で頭が冷えたのか、私はそのときになってやっと恐怖が染み渡り、ガタガタと震えていましたね」
その話を聞いてルイズは一瞬で沸騰してしまう。シエスタが無事だったからいいというものではなく、“誘拐犯どもは絶対に皆殺しにしてやる”と心に誓った。
「私を連れてきた男たちはどうやらそれで大金を手に入れたようで、気分よく酒を飲み続けます。私は、始祖にずっと祈り続けていました」
その情景を想像して心がぎゅっと締め付けられるが、一つだけ疑問が湧いた。か弱い女性であるシエスタは、いったいどうやって男どもを出し抜いたというのか。
「酒も入って熱狂してきた男たち……そこで私は、どうなったと思いますか?」
まるで心の中を覗かれているかのような質問に、ルイズの心臓がドキリと跳ねる。だが、シエスタは無事だったのだから、きっと彼女の無垢な祈りが神に届いたのだろう。
「……男の誰かの良心が痛んで、あなたを解放してくれた、とか……?」
「……そうですね」
少しの間、歩みを止めていたシエスタは、再び歩き出す。ルイズは安心して、少しだけ息を吐き出した。
「男たちが酔いつぶれたあと、根が善良な傭兵が私の縄を解いてくれました」
シエスタの歩く速度が早くなる。彼女の顔は見えない。
「だから、私は彼だけを助けてもらおうと、あなたを連れて来たんです」
ルイズは全て納得して合点が行った。そいつだけなら助けることも
「……そう、だったら良かったんでしょうねぇ」
「え……?」
栗の花のような臭いが強くなってきた。シエスタの表情はまだ見えない。
「もちろん、そんな人は居ませんでした。小説や絵本じゃないんですから」
むせ返るような生臭さに、ルイズは思わず鼻をつまんでしまう。シエスタの表情は分からない。
「ほら、すぐそこです。あそこ、そこですよ、ミス・ヴァリエール」
シエスタが指し示す先には、濡れた地面と幾ばくかの白濁液が残っていた。その正体は……ルイズには分からなかった。
「私はここで、徹底的に辱められました」
淡々と語られた事実は感情が全くこもっていないことも相まって、右から左へと流れてしまった。だが、現実から逃れようとしても、事実が変わるはずもない。
「私の大事なところはもちろん、不浄のところや、口の中まで、男たちは私の全てを使って欲望を吐き出しました」
どうしても詰め込まれてしまう情報。あまりにも衝撃的であるため、どう処理していいものか分からずに、ただただ情報としてルイズの中に蓄積していく。
「どうやら最後に私を殺すつもりであったらしく、人が人にする行為だとは思えませんでしたね。泣き叫ぶ私に暴力を振るい、私のカラダをオモチャか何かのように粗末に扱いました」
ルイズの頬を静かに涙が伝う。その涙に込められた意味は、ルイズ自身理解していない。複雑に感情が混ざり合ってむしろ冷静になっていたルイズの頭には、大きな疑問が一つ浮かんでいた。ルイズの様子を知ってか知らずか、シエスタは話を続ける。
「私は始祖を恨みました。ですが、すぐに始祖の深い愛に気づくことができたのです」
突拍子もない話に首を傾げるヒマもなく、シエスタがくるりと振り向くと
「始祖は、乗り越えられる試練のみをお与えになる。この試練は、私の中の素晴らしい力を引き出すためのものだったんですよぉ」
ルイズの疑問は、口に出すまでもなく解消された。シエスタから感じられる強大な魔力。自身に匹敵するほどのこの力があれば、国すらも簡単に滅ぼすことができるだろう。ただの人間などものの数ではない。
「本来なら地獄を見せてあげるところだったんですけど、苦痛すらも快楽に変えてくれる素晴らしい力を得て気分が良かった私は、一人一回で許してあげることにしましたぁ」
とろけたような笑顔で、視線だけをちらりと奥に向けるシエスタ。そこには下腹部や口を削られて絶命した男たちが、松明にぼんやりと照らされている。
「でもぉ、一つだけ、困っちゃったんです」
今度は顔ごと視線を向けるその先に、猿ぐつわを噛まされて魔法で拘束された男が、ガタガタと震えていた。
「あの人だけはぁ、私に何もしてこなかったからぁ、お返しができなかったんですよ」
それが何故なのか、そんなことルイズは知らないし知る気もない。ただただ目を細めたルイズは、シエスタがして欲しいことを察したように、よく斬れる剣を異空間から取り出した。
「さすがミス・ヴァリエールぅ!その通りです!どうするかはぁ、ミス・ヴァリエールが決めてくれませんかぁ?」
シエスタがパチンと指を弾くと、男の猿ぐつわがほどける。
「た、頼む!み、見逃してくれ!俺は何もやってないんだ!!」
「そうね、あんたは
冷たく一歩を踏み出すルイズ。男から悲鳴が漏れる。
「悪かった!!反省もしてる!!俺には妻と子がいて!食わせるためにやっちまったんだ!!」
ルイズの歩みが止まる。男は恐怖に駆られて笑みを浮かべていた。
「……じゃあ、あんたは、自分の子供がひどいことをされて、辱められて、ソレを見ていただけのヤツを見逃す?」
「そ、それは……」
ここで即答していたら、ルイズは容赦なく首を刎ねていただろう。言いよどんだことで、男の言葉が本物だと確信できた。
「……そいつが、妻子持ちだってんなら、見逃すよ」
「…………そう、分かったわ」
ルイズは、剣を収めて後ろを向いた。男は心の底から安堵のため息をもらし、ルイズに深く感謝した
―――そして、縦に真っ二つに斬り裂かれた。
たぶん、男は同じような状況なら本当に見逃すのだろう。
「うふふ、やっぱりぃ、ミス・ヴァリエールは私のやってほしくないことがよく分かってますねぇ。これで踏ん切りが付きました、ありがとうございますぅ」
優しく、そして艶めかしくルイズに抱きつくシエスタ。恋人が愛を囁くように、彼女はルイズに囁く。
「もう一つだけ聞いてほしいお願いがあるんですぅ。この世界のヒトを、
『エルフという種族を根絶し、私たちに残ったものはなんだ?
荒れ果てた地、傷ついた民草、荒廃した街、途絶えた始祖の血……しかし、それでも私たちは前に進まなければならない!恒久たる平和のために!進んで命を捧げた勇敢なるハーフエルフの少女に報いるために!
これより、エルフとの最終戦争によって疲弊した全ての国を、ハーフエルフの少女ティファニアの名の下に統合し、彼女を最初で最後の女王とする争いのない国、我々人民が統治する国家の設立をここに宣言する!』
シエスタの口から飛び出した発言にルイズの背筋が凍る。シエスタの表情も、考えも、ルイズには分からなかった。
「どう、して……?」
全てを放棄して立ち尽くしたい気持ちからなんとか逃れ、絞り出した言葉。茫然自失とならないように、必死でなにかに焦点を合わせようとする。
「だってぇ、ワタシたちが愛し合うのに邪魔じゃないですかぁ。しがらみも、ヒトも、この世界には多すぎますよぉ」
そんなルイズの儚い意志もすぐさま打ち砕かれる。シエスタの言葉からは怒りも、恨みすらも感じられないが、何一つの偽りも感じられなかった。
「さっきも聞いてくれたんだから、もちろん、聞いてくれますよねぇ?」
できることならなんだって叶えてあげたい。それに、確かにルイズは大量に人を殺した。しかし、それは自分の中で殺すだけの理由があったからで、狂った理由で人を殺すことはまだできない。こうやって直面してよく分かった。
まるで体中の骨が消えてしまったかのようにぐらりと大きく傾きそうになるが、シエスタがそれを許さない。
「それとも、またワタシを置いていっちゃうんですかぁ?」
その言葉は呪いとなって、ルイズを雁字搦めに縛り上げる。地面に倒れ込むどころか、身動き一つもできやしない。何もできない分、シエスタへの罪悪感だけがひしひしと強まっていく……
「……わ、分かったわ」
ついに、その言葉が口をついて出てしまった。覚悟を決めた訳でもなく、ただただ身を縛る罪悪感から逃れるための、苦し紛れの口約束。それは、この期に及んでまだ“口八丁でどうにかなるかもしれない”という想いがあったからかもしれない。
「ありがとうございますぅ。では、あの二人からお願いしますねぇ」
しかし、シエスタは残酷な現実を突きつける。彼女が手のひらで指し示す場所は、先ほどまで暗がりだった場所。今は不自然に月明かりが差し込んでおり、地面の上だと言うのに、女性と子供がすやすやと眠り込んでいる。恐らく親子なのだろう、一目で分かるほど目元がよく似ていた。
「ワタシぃ、さっきまでちょっとだけ考えてたんですよぉ、誰から殺したいかって」
シエスタは不自然なほどに大きく足を突き出して、ルイズの周りを歩く。
「でも、決まりませんでした。だって、アナタ以外は等しく無価値ですからねぇ」
不気味に歩くシエスタが、もうすぐルイズの周りを一周する。ルイズはおぼろげにこの親子の正体について思案していた。
「そんなとき、ちょうど紹介してくれた親切なお方がいたじゃないですかぁ」
ルイズの背に悪寒が走る。頭の中ではどれだけ否定しようとも、考えれば考えるほど否定のための材料がどんどん否定されていく。そう、この親子は……
「まあ、その親切なお方も殺しちゃったことですし、さくっと殺しちゃってくださいねぇ」
……他の者ならいざ知らず、あの男の罪は死によって清算されたとルイズは思っている。罪なき者を殺すだけでも困難であるというのに、罪を償わせた男の家族など、どうすればいいと言うのか。
ルイズは何も考えられず、しばらくの間放心していた。
「どうしたんですかぁ?」
しかし、その答えはもう既に決まっている。
「まだ、たぁくさん殺さないといけないんですからぁ、早くしてくださいよぉ」
相手が誰であろうと殺す。ただ、それだけだ。それは、
やることは一つ、ただ殺すだけ。ルイズは機械的に剣を構える。
「……っ!」
だが、どうしても未だに線引きをしてしまう。ここで引いたとしても、常人としての一線はとっくに越えてしまったというのに。頭ではソレを理解しても、心が体を繋ぎ止める。ルイズの動きは、剣を上段に構えたまま止まってしまった。
……どれほど時間が経ってしまったのだろうか。シエスタは不気味に佇みながらルイズを見つめるだけで、彼女を叱咤も煽動もしない。
しかし、ルイズにはそれがたまらなく恐ろしかった。全貌を明かしてくれないシエスタは、ルイズの不安そのものとなって存在している。今すぐ後ろを振り向きたいが、シエスタを正しく認識してしまったら正気ではいられなくなってしまうだろう。そうでなくとも、徐々におかしくなっているのだから。
狂わずにはいられないこの状況でも、ルイズは心のどこかで場の動きを期待していた。例えばシエスタが心変わりするだとか、例えば何者かが駆けつけて有耶無耶になるだとか。しかし、ルイズの望みは出来うる限り最悪な形で叶えられる。
「ん……うぅん……」
極限まで張り詰めた場に響く弛緩した声。こんな声を出せる者は、ルイズでもシエスタでも、ましてや闖入者でもない。
「あーあ、ミス・ヴァリエールが遅いから起きちゃいましたよぉ」
そう、目の前の母親だ。彼女は滑稽に見えるほど愚鈍に伸びをすると、寝ぼけ眼を覚ますように目をこすりながら、瞼を上げた。
「……あれぇ……?どこぉ――ひっ!?」
目の前には、壮絶な表情で剣を振り上げる少女。嫌でも一気に覚醒し、思わず後ずさってしまう。
「ダメですよぉ、逃げちゃぁ」
しかし不気味なほどに優しく肩を受け止められて、その動きは止まる。そこには、一瞬前までは確かに前方にいたシエスタが存在していた。
「たっ、助けて!」
「それもダメですねぇ。あなたは殺されるんですからぁ」
恐怖と、その言動を理解できないために母親の動きが完全に止まってしまう。かろうじて口の動きだけで疑問を訴えているが、声は出ないまま消えてしまう。しかし、更なる絶望に突き落とすためか、シエスタは甘くとろけるようにおぞましい真相を語る。
「決まってますよぉ。あなたの亭主さんがぁ、ひどいことをされてるワタシを見捨てたからぁ、あなたは殺されるんですよぉ」
母親の反応など気にせずにシエスタは口を動かし続けた。ルイズはその内容を聞き取ることができなかったが、恐らくシエスタは、己が受けた所業を嘘偽りなく話しているのだろう。
みるみるうちに青くなっていく母親とは対照的に、シエスタは愉しげだった。
「う、ウソ――」
「本当にウソだと思いますかぁ?」
シエスタは、真っ黒に染まったその瞳で母親を射抜く。深い、深い、闇のような瞳は、母親が僅かに抱き、縋ろうとした儚い希望を完全に飲み込んでしまったようだった。
これ以上シエスタを見つめていても絶望はより深くなるだけで、かと言ってルイズに視点を合わせてしまうと死を強く意識してしまう。どうしようもない現実から逃れるために、せめて視線だけを朧気にさ迷わせていた母親が、不自然に一点を見つめ始める。
「あの子は……どうなるの……?」
弱々しく、ぽつりと零れたその言葉。彼女の視線の先には、未だに幸せそうに眠っている己の子がいた。
「そりゃあ殺しますよぉ。当たり前じゃないですかぁ」
無慈悲で甘いシエスタの言葉、恐るべき矛盾は恐怖を煽る。それでも、母親の目には意志の光が宿り始めていた。
「……」
「どうかしましたかぁ?今更悔いても遅いですよぉ?」
「…………わたしが」
「はい?」
「私が、代わりになりますから……どうか、あの子だけは……!」
一瞬だけ、シエスタの動きが確かに止まった。その意味を誰にも悟られぬまま、シエスタは変わらぬ表情で問いただす。イイですねぇ、使えそうです
「へぇ、お子さんの方が大事なんですかぁ?」
「…………はい……!」
震えながら弱々しく、しかし確かに言い切った母親の顔を、シエスタは天使にも悪魔にも見える甘い微笑みを浮かべたまま見つめている。
「分かりましたぁ。ワタシ、そういうのキライじゃあないですよぉ。ワタシのご主人様があなたから殺したのなら、見逃してあげますよぉ」
「っ!うぅ……ありがとうございます……」
子供が助かる可能性が出てきたとはいえ、自分は確実に殺されてしまうのだから簡単に受け入れられるはずがない。それでも狼狽えながら受け入れ、母親は嘆願するようにルイズを見つめる。
ルイズは、覚悟を決めて母親の願いを受け入れるのではなく、楽な方向へと逃げるために曖昧な意識のまま剣を振り上げる。そのまま母親を切り裂くために、無造作に剣を振り下ろした。
「……え?」
意外と軽く、特段何も感じない肉を断つ感触の後、
「どう……して……?」
声を失ったまま絞り出した涸れた声。絶望しか感じられないその声は、
衝撃的な事実はルイズをむしろ現実へと引き戻す。震えて定まらない目線を必死に動かせば、自らが作り出した惨劇が余すことなく意識の中に入り込む。ぐちゃりと水音を立てて地面に零れ落ちた内臓は、死にたくないとでも言うかのように、少しの間だけ弱々しい鼓動を刻んでいた。
「それじゃあ、さようならぁ」
トンと、シエスタが母親のお腹を軽く押すと、あまりにも簡単に大きな穴が空いた。理解も痛みも追いつかぬまま、母親の体からは命が抜けていく。
「……い、や……だ…………」
弱々しく呟いたソレを最後に母親は事切れた。遺言の意味は何なのか、ルイズには分からない、考えたくない。それでも世界はルイズを責め立てる。“許してくれなかったお前が嫌だ”、“シエスタをこんなにしてしまったお前が嫌だ”、“人殺しのお前が嫌だ”…………。
どくん、どくんと心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。じんわりと手から力が抜けていく。呼吸の仕方さえ忘れ、あの子供がこちらをじいっと見つめている。暗く、陰鬱な瞳で、何を想うでもなくただじいっと。“当たり前だ、子供は死んでしまったのだから。この、私の手によって。”
背中から怖気が一気に這い上がる。血液が
子供の頭が無造作に踏み潰された。そこには一切の感情もなく、ただ路傍の石を蹴飛ばしてしまうこととなんら変わりがなかった。
顔を上げる。そこには、優しい笑顔を浮かべるシエスタがいた。アナタは、ワタシだけを見ててくださいねぇ
「さあ、行きましょうかぁ。まだまだたぁくさん残ってますよぉ?」
いつの間にか
「そうね」
ルイズはシエスタと共に魔法で街の近くにまで転移する。そしてそのまま、街に火を放った。一瞬で燃え盛る街、悲鳴を上げる間もなく数多の命が一瞬で焼き尽くされる。
「これで、いい?」
「ええ、よくできましたねぇ」
赤子のように問い掛けるルイズに、母親のように応えるシエスタ。大火にて照らされる二人の横顔には、
『争いのない国?まあ、確かにそうでしょうね。
法の名の下に、反乱分子はコトの大小に関係なく死刑。投票制とはいっても名ばかりで、票数の詳細は公表はせず、貧富の差を広げるような政策ばかり打ち出すんだから、争いなんて起こしたくてもできないわよ。
でも、こんなことを聞いてどうする気?いくら私が最高議員の一人とはいえ、公表したらあなたも私も一族郎党縛り首よ?
……ああ、なるほどね。私は別にどうだっていいわ。革命の灯にも、政府の犬にもなりたくない。だからあなたのことは報告しないし、革命軍にも入らない。ここで殺されてもあなたのことは恨まないけど、政府にカンづかれると思うわよ?
……そうね。昔ならあなたたちに協力したんでしょうけど、今はもう何もやる気が起きない。死ぬ気も起きないから、惰性で生きているだけよ。
ルイズが行方不明になって、あの戦役でタバサが亡くなって、私の『微熱』は完全に冷めてしまったの。もう二度と私の『情熱』が燃え上がることはないわ。』
「次はどこにしますかぁ?」
「……ガリア」
「うわぁ、大きくいきますねぇ」
大火に焼かれる街の外で、二人の乙女が世間話のように次の標的を決めている。驕り高ぶるヒトに罰を与えるためでもなく、刹那的で背徳的な享楽に身を沈めるためでもない。必要だからする、ただそれだけだ。
「じゃあ、とりあえず王都からやりましょうかぁ」
シエスタの提案にルイズがコクリと頷くと、ガリアの宮殿まですぐさま転移する。全てを破壊するためにルイズが魔力を溜め始め、シエスタはルイズを優しく抱きかかえて空へと上がる。
ルイズの右手に魔力が凝縮されていき、シエスタは微笑んだままだ。しかし、シエスタは訝しむように表情を変える。すでに王都を消滅させるだけの魔力は溜まっているのに、未だにルイズは魔力を溜め続けている。国ごと全て滅ぼすのかと考えたが、そうだとしても度を超えている。そのとき、ルイズの左腕だけが小刻みに震えていることにシエスタは気づいた。
「どう――
ついに魔力が解き放たれる。闇が急速に王宮を飲み込むと、一気に凝縮されて渦を巻く。半径5メイルほどの渦になった闇は、巻き込んだ全てのモノのカタチを忘れさせる。カタチを忘れたモノは、ただ塵と成って消え行くだけ。
……ならば、ならば何故、
「一応隠れてたのに、よく分かったわねー。中々やるじゃん」
一瞬で闇が晴らされ、
「あ?なによ、その顔。アタシが気に入らないっての?こっちがワザワザ様子を見にきてあげたってのに、ムカツクわねー」
「あああああああああああ!!!!!!」
シエスタすらも振り解いて一直線に向かったルイズは、狂ったように剣を振るう。その刀身に闇を纏わせて、一太刀でも浴びれば虚ろに飲まれ無に還る恐ろしい斬線で攻め立てる。
ガンダールヴで得た才知をミョルズニルトンで引き上げ、ヴィンダールヴで限界を超え、リーヴスラシルで増幅させる。音を断ち、光を断ち、空を断ち、時すらも断ち斬ろうとも、その刃が届くことはなかった。
「あ゛っ!!」
面と化していたはずの斬撃を乗り越えて、真正面から正体不明の衝撃を受ける。小石のように吹き飛ばされて、気づけばそこは森の中だった。何メイル移動したのかすらも分からない。分かるのは、
「あ、ああ……!逃げ、なきゃ……!」
ずるりと軽くなった体を重く引きずり、ずるずると這いずり回る。ただ、ただ遠くへと動くために立ち上がり、片足が引きつっているかのような動きで、小走りに彼方へと歩き出す。世界をまたぐ準備に至ったとき、
「どこ行くのよ?アタシはココよ、ココ」
まるで縫い止められたようにルイズは動きを止め、どういう訳か異世界への転移魔法も発動しない。もう立ち向かうことなんてできるはずもなく、ルイズは震えたまま動かない。意志を持つ災害から逃れたい一心で、
「まさか、これくらいで『まいった』なんて言うんじゃないでしょうね?」
「殴られっぱなしで悔しくないワケ?」
答えない。それどころか、ルイズは視界の一切を捨てて丸まったまま動こうとしない。どうしようもない天災は過ぎるまでやり過ごすしかなく、自分が無力だったと思い知らされたルイズに、もう抵抗の意志は残っていなかった。次はワタシが間に入って──
「……っかつく」
苛立ち混じりのその声に、ルイズは更に体を強ばらせる。しかし、来るはずの衝撃は感じられなかった。ワタシは死んで、アナタの中で生き続けましょう♪
「は?」
誰ともつかぬ声がした。予想を裏切られ、呆けたようなそんな声。不自然な静寂と共に極度の悪寒がルイズの背を貫く。物事の判別がつかぬまま錆び付いた体を動かし、視界を開いた。
目の前に、シエスタがいた。浮かべている笑顔はどこか哀しげに見え、その瞳に光は宿っていない。そして、その、体は……彼女の、体は…………存在していなかった。
首から滴る真っ赤な血の中に、何か白いものがあった。近くには、腕のようなものが一つ、半分ほどになった足のようなものが一つ、胴体のようなものはなかった。ルイズは、シエスタの髪を撫でる。触り心地の良いつややかな髪を、震える腕でゆっくりと。そのまま瞼を閉ざそうとするが、シエスタの瞼は開いたままだ。そんなはずがないのに、シエスタがこちらを見つめている気がして、ルイズの感情が──弾けた。もう、一緒ですよぉ
不思議そうに自分の拳を見つめている女性にルイズは肉薄する。恐怖からではなく、明確な殺意から振るった剣は、避けられることなく防がれていた。
「ちょっと待ちなさいよ!あんなモンじゃアイツは死──」
「お前ェ!!お前が殺したんだ!!殺してやる!!」
ルイズの激しい殺意に呼応するように、剣のカタチまで禍々しく変わる。極めて大きな苦痛を与え、生命を確実に終わらせるカタチに。血で形成された刀身で、できるだけ大きく削り取れるように胴体を狙うが、それでも防がれてしまう。
だが、既にそんなことは関係ない。刀身に纏わせた闇を真一文字に振りぬくと、迸る闇が女性以外の全てのものを次元ごと消滅させていく。間髪入れずにルイズは自らの腕を破裂させ、大量の血液を女性に浴びせかけた。『神の心臓』による魔力の暴走的増幅は、始まる前に終わってしまう。『神の頭脳』と『神の左手』による破滅的な知識の増幅も全く効いていない。時空をバラバラに断絶させても、『
「……そりゃ、アンタをイジメたのは悪かったわよ。だけど、おかしいのよ」
「黙れ!黙れぇ!!シエスタを殺しておいて!!戯言を言うな!!」
再びルイズは女性に迫るが、今度は凄まじい衝撃が来て吹き飛ばされてしまった。力を入れても全く動けそうになかった。
「力もないクセに、うっさいのよ。シエスタってヤツを守れなかったのも、アンタに力がなかったから。アタシを倒すほどの力があれば……全部、救えるほどの力があれば……もう、遅いのよ……」
「クソ……クソッ……!」
「…………アタシはプリエ、魔王プリエよ。もっと力を付けたら、アタシんとこに来なさい。アタシは逃げない、いつでも相手してあげるわ」
プリエがいなくなったことにも気づかず、自分のやっていることも分からないまま、ルイズは意思を取り戻す。いつの間にか自分の手は血まみれで、目の前にはキレイな姿でシエスタが横たわっていた。深く昏い闇の中だというのに、その姿はハッキリと見えた。
今は目を閉じているシエスタは、嬉しそうに微笑んでいるように見える。優しく語り掛けて頬にキスをすれば、幸せな気持ちのまま今にも起き上がってくれそうだ。無理ですよぉ、ワタシはもうアナタなんですから
「……」
しかし、何をしようともシエスタが目覚めることはない。これは死化粧、何もできなくなってまった死者のために、生者が最後に施すことのできる行為。少しでも死出の旅路が良くなるように、少しでも生者の悲しみを和らげるようにするためのもの。ならば、
死者でもなく、生者でもない、何者でもない自分。昔、どこかで誰かが囁いていたような気がする。たしか『ゼロ』だったか。しかし、どこか
それに、自分はまだ『ゼロ』ではない。自分の全てであったシエスタの反対側に、図々しくも居座るプリエという存在。それだけが、自分が空っぽであることの邪魔をする。空っぽでなければ、死んだ後にシエスタを受け入れられない。だけど、今の自分ではプリエを殺すことはできない。
いつか必ずプリエを殺して、自分を空っぽにしよう。そのときになったら万象一切を消し去って、自らも虚無へと還る。世界が
「……待っててね、シエスタ」
『ここは、最悪の魔王が生まれた地。そして、永き因縁の始まりの地だ。
『伝説の魔王』として名を馳せ、全魔界を統一した『統一大魔王』ことプリエ。力の象徴とされ、未だ力を追い求める彼女と対等の力を持つと言われる最悪の魔王『
その後、統一魔界歴13年に魔王プリエが漏らした一言により観光名所となり、二ヶ月ほどで魔界となった。危害を加えても祈りを捧げても死に絶え、見ただけで呪われる無名の石碑や、かつての呪いの中心部は人気スポットであり、腕試しをしにいって帰ってこない悪魔が後を絶たない。』
邪魔なのが滅んで、本当に良かったです。これで、アナタと繋がりを持つのはワタシとアイツだけですねぇ。それと、安心してくださぁい。ワタシと少しでも繋がりを持とうとするモノは殺しますから。
そういえば、あなたもそうですよねぇ?
裏最終話
伝説
\ 完 /
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裏最終話 クリアボーナス
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バッドエンド 虚無
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エキュー 0エキュー
ごほうびアイテム なし
と、思いましたかぁ?
待っててくださいねぇ
ワタシが殺してさしあげますよぉ!!
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