邂逅の古狸達   作:robotomy

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接触

グルフェーの城門を前にし、老人は辺りを見渡した。

先の宇宙港と打って変わり、街は出入りする業者や住民の活気が感じられた。

門番や自警団など武装した人間は見当たらず、ほぼ無防備と思われる城門をくぐると、総合案内所という看板を掲げた粗末な建物が目に映った。

砂埃を揚げ往来するトラックを避け、案内所に入ると、これまた粗末な長机に日に焼けた初老の男性が座っていた。

男性は肌の異なる色白の老人を見るや、慎重な物腰で来訪の目的を求めた。

だが老人は名と町に来た目的、立法院の高層の名を告げると、態度を急に軟化させ、マーティアルの立法院までの道を丁寧に教えてくれた。

しかもマーティアルの関係者と知ると、町の観光案内はおろか立法府に関わる裏事情までも饒舌に語った。

城門の雰囲気といい、男性の対応といい、グルフェーではよそ者に比較的寛容に思われた。しかしそれは宗教的な教えだけでなく何か抑圧された意思とも感じ取れた。

その証拠に宇宙港での経緯を話すと、一瞬だが男性の顔が強張り、老人を疑惑の目で見つめたのだ。

グルフェーが宇宙港の軍隊と関わりのあることは確認できた。そして門番や見張りの類が見当たらないのは抵抗の意思を見せないためのカモフラージュであることを老人は悟った。

 

総合案内の男に謝礼(実際には口止めのつもり)に金貨を一枚渡すと、男は嫌味もなく先程の態度を謝罪しながら案内所入り口まで見送ってくれた。

老人が教わった通りに道を進むと、町の大通りを出た。そこは都会の整備された道とは程遠く何百年もかけて踏み固められた砂と土の道を町の民が溢れていた。

道の両脇には近代的な建築物は少なく簡素な造りの露天商で埋められていた。

街の建造物といえば、白色の石材で積み上げられた二、三階建て極めて簡素なものか、柱状の岩をくり抜いて作られたこの土地独特の住居で占められていた。

交易都市という名を持っているが、それは砂漠の隅々へ物資の中継地として栄えている意味合いが強いようだ。

それでも莫大な物資の行き交う事で膨大な富がこの街に集中している事には変わりはない。

マーティア的な解釈をすれば戦いのない所に文化は発展しないため、ここでの文化レベルは千年前と差はないと思われた。

ほどなく通りを進むと噴水に人だかりが出来ているのを見つけた。

老人は横に店を構える露天商の果実を適当に買いこみ、店主の老婆にギルダン金貨を一枚渡した。

釣りがないと困惑する老婆に

「釣りはいらん。その代り、少し聴きたいんじゃが」

と老人はそう切り出した。

まず人だかりの原因を訪ねると、

「あれは『五つの薔薇』様が来られているんだよ」

と老婆は前歯の抜けた顔で笑って答えた。

次に「五つの薔薇」について尋ねると、

「あんた、どこから来なすった?」

一瞬警戒の目になるが、金貨の効果が残っていたのだろう、老人の質問に素直に答えてくれた。

グルフェーでは古来「五つの薔薇」と呼ばれる5人の顔役=執政官によって街の秩序が保たれてきたという。

顔役達はいつも昼過ぎにあの薔薇が植え込まれた五角形の腰掛にやって来ては、親身に住民の声を聴き、子供や家畜に祝福を与えている、との老婆は誇らしげに言った。

ふと五人の顔役の中に褐色の肌を持つ五十がらみの男性に気づく。

他の四人が色白でかなりの高齢のため、その男性の容姿はかえって目立っていた。

「あの若い顔役は?」

店の老婆に三度尋ねると、若い男に対する好色な目をしながら言う。

「あのお方はロサ・バートラーさね。相変わらずいい男だねぇ。」

老婆の話では、若きロサは遠方の農作物の取引で成功を収めた貿易商「バニラ商会」の社長で、先の五つの薔薇の欠員に伴い、若いながら顔役の一人に抜擢されたとの事だった。

なお「ロサ」とは顔役への敬称である。

 

老婆の話を聞き、老人の記憶に三十二年前「触れ得ざる者」と共に行動していた連中の事が蘇った。

連中の中に確かに褐色の若い男がいた。

アフロヘアが短髪になり、皺が顔に刻まれようとも、褐色のロサはあの時の男と記憶が合致した。

『やはり生きていたか・・』

その男を含み「触れ得ざる」に関わる人間は、惑星クエント消失時に行方が途絶えていた。

一度はア・コバと呼ばれる街で確認されたが、連絡してきた将校は消息不明により、その後連中の足取りが途絶えた。

この直後、相次ぐ失態を理由に降格、閑職への左遷となり、「触れ得ざる」に関わる情報は殆ど入手できない時期が続いた。

最後に彼らの存在が確認できたのは、「触れ得ざる者」がコールドスリープ直後の事だった。

それ故「触れ得ざる者」のコールドスリープの知らせは余りにも衝撃的だった。

生まれながらの異能者が争いを避けるために選択したという事が到底理解出来なかった。

若き日の老人が軍を去ったのはそれから間もなくである。

 

老人は歩みを早め褐色のロサに接触を試みるが、ロサの手の菓子を目当てに群がる子供や住民の壁に行く手を阻まれた。

周りを押しのけてまで会う面倒を避けたい理由から老人は高揚する気持ちを抑え、いったんその場を離れた。

この集会が終われば、容易く近づけるだろうし、その間に今日の宿を確保する必要があった。

老人は通りを離れ、立法院を目指した。

立法院は市場を離れた街を一望できる東の高台にあった。

立法院に到着すると、すぐさま修行僧らしき若い男が老人を出迎えた。どうやら案内所の男が気を使って先に連絡していたらしい。

修行僧の案内で立法院の高僧へ挨拶に回る途中、長い銀髪の僧と廊下ですれ違った。

銀髪の僧は軽く会釈し早足にその場を立ち去ったが、老人はその僧の鋭い眼光と颯爽とした態度に何かしらの野心を感じ取っていた。

しかし、面倒を避けたいという無意識の思いと、若きロサへの強い関心から銀髪の僧の事は直ぐに忘れていた。

 

一時間程かけて高僧への挨拶廻りが終わると、修行僧に寝室を案内された。

部屋は質素ながら清潔な印象で街の方角に大きな窓が据え付けられていた。

老人が窓を開け、下界を見下ろすと先程ロサ達がいた大通りも見渡せた。

ただ五角形の腰掛の周りには既にロサ達の姿はなく、ごった返す人の往来だけが見て取れた。

「ちと、ものを尋ねたいのじゃが」

部屋を出ようとした修行僧に老人は若きロサの事を聴いてみた。

幸い修行僧も若きロサの事を耳にしていた。

市場の老婆ほどではないが、長々と語る修行僧の話に辟易しつつ、話が一段落したところで若きロサの住まいを尋ねると、僧は部屋の窓からやや北西の高台を指さした。

老人が目を凝らすと、この地の建築様式ではあるが明らかに大きく豪奢なつくりの三階建ての建物が目に入った。

直ぐにでもロサの邸宅に向かう気持ちはあったが、日は既に傾き、窓から肌寒い風が入って来た。

修行僧の話では、この時期のグルフェーでは夜間に氷点下近くまで下がるらしく、夜の外出を控えるよう忠告された。

老人も慣れない土地での夜間外出もまた面倒と考え、その日は立法院の好意に甘える事にした。

 

翌朝遅めの朝食をとると、老人は空の膳を取りに来た昨日の修行僧に昼過ぎまで外出することを告げた。

立法院の坂を下りながら、朝霧がまだ消えぬ街を眺めると、見慣れた緑豊かなアレギウムとは異なる風景に一層異国の地に来たという思いが増していた。

 

昨日の五角形の腰掛まで来るとロサ達やそこに集う民衆は見られなかった。

時間的にあのロサも自宅にいるかもしれないと考え、道を急いだが、立法府からの風景を頼った移動はかえって道に迷ってしまった。

仕方なく昨日の市場の老婆を尋ね、ロサの自宅までの道のりを尋ねた。

マーティアルの関係者と思っている老婆は何の疑いもなく解り易く道順を教えた。

大通りを抜け、教えて貰った区画から右に曲がると、そこには例の大邸宅までの坂が直ぐに見えた。

坂を上ること約二十分、坂を上りきったところで目指すロサの邸宅があった。

立法院から見えたその豪邸は、大きさを除けば地元の石灰岩を用いた伝統的建築物ではあったが、そこかしこに他の大陸の中世様式の彫刻や装飾品で彩られ、優雅さを放っていた。

同じく石灰岩でできた門の前に立ち、臆することなく老人は呼び鈴を押した。

インターフォン越しに小間使いと思われる女性の声で何者か尋ねられた。

「ここの主人のバートラーさんに用があるのじゃが」

老人はあえて名乗らず、ロサの面会を求めた。

小間使いは主人の留守を理由に門前払いを決めかけていたが、老人の次の言葉に考えを改めた。

「クエントで出会った軍人が訪ねてきた、とでも伝えて下さらんか」

 

 

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