邂逅の古狸達   作:robotomy

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推算

「改めて聴く。32年前、お前さんらがキリコとフィアナのコールドカプセルを見送ったのか?」

「ああ、そうじゃ。二人の希望でな。そのために儂らがギルガメスの小型船を奪って、とある宙域でカプセルを放出した」

「ならば、二人がコールドスリープする理由を知っておったのか?」

老人に言葉に翁は一瞬戸惑ったが、老人に逆に問いただした。

「・・何故、そのことを聴く?」

「儂は『霍乱』の後にその事をようやく知った。正直驚いたよ」

「驚いた?可笑しな事を言うのう。キリコはこれ以上戦争に関わりたくないから・・」

「二人は戦争に利用されることに嫌気がさしてカプセルに入ったと儂も聞いていた」

「・・・儂にはそう話した・・」

「だが真相は違っていた。お前さんはフィアナが逃亡の最中、日に日に弱っていくのを見ていたはずじゃ?」

老人の質問に約2年間の逃亡の日々が翁の脳裏に蘇る。

「確かに次第に衰弱しておったのは覚えておる。しかし、それはジジリウムの放射線が不十分だからと思っておった」

「そうか・・他の者はどうじゃ?」

「いや、同行していたのは3人も気づいていなかったと思うが」

「3人とは?」

「お前さんが会いに来たバニラと、バニラと結婚してさっきの娘の母親となったココナ、それからクエント人じゃ・・」

「そのクエント人はクメンで傭兵をしていたル・シャッコか?」

「ああ、そうじゃ。シャッコじゃ」

「・・他の二人は別として、クエント人は気づいておったじゃろうか」

「あの後、奴とはあの後すぐに別れて以降、連絡はしておらんから・・確認のしようがない・・」

「そうか・・」

「しかし、何故お前さんが二人のコールドスリープの事を知りたがるんじゃ?」

翁の問いに対し、老人は含み笑いをしながらこう答えた。

「それを答える前にもう一つ確認したい事がある。そのためにわざわざここに来たのじゃからな」

「確認?」

答えをはぐらかされた翁に対し、老人は言葉を続けた。

「二人、いやフィアナに関するちょっとした確認じゃ。複雑な計算が必要なのじゃが、儂の老いた頭だと細かなことが分からんのでな」

老人の物言いに不満を感じながらも、翁は好奇心に負けた。

「・・手伝うことはあるか?」

老人は再度机のパソコンを指さし、

「この端末はネット通信可能か?」

翁はすかさずパソコンを起動させ、ネット回線を開いた。

「一応メルキア全土のサーバとのアクセスは可能じゃ。お望みとあれば銀河の反対まで惑星間通信もできるぞ」

戦争により軍の検閲は厳しいものだったが、通信手段としてのネット回線は普通に用いられた。しかも翁の用いている回線は複数の裏回線を経由可能な特別製で暗号化・セキュリティーとも最高水準のレベルにあった。

「そこまでいらん。ただメルキア近辺、半径数光年の星の配置とそれらの引力分布図が分かればいい。出来れば最新のものが良いが」

「それなら心配無用じゃ。手持ちの輸送船の航行用にギルガメス星域の『海図』は常に揃えておるわ」

『海図』と称する天体データは宇宙船を利用する者にとっては欠かせないものであり、軍・民間に問わずネットでのダウンロードは可能だった。

「それから・・宇宙空間でのデブリの慣性移動に関する計算式があればいいのじゃが」

「輸送船じゃと慣性航行用プログラムがあるが、質量が大きすぎるな・・」

考え込む翁に老人はすかさず訊ねた。

「スイーランザの大学にはアクセス可能か?」

その質問に翁ははっとして答えた。

「・・なるほど。宇宙航空力学の研究機関なら専門で研究している奴もおるな。軍関係で無ければ、外部からの論文閲覧は可能なはずじゃ。早速繋いでみよう」

翁は念のため発信元が分からないよう複数のサーバを経由してメルキアの首都スイーランザの全大学にアクセスできる複合サイトに繋いだ。

宇宙工学関連の研究資料は国家機密扱いのものも存在するが、それ以外の論文は制限を受けず閲覧は容易に行えた。

「どれどれ、『無重力下での睡眠障害についての考察』、『外宇宙における暗黒物質のスペクトル解析』と・・これじゃないな・・・お、『宇宙空間における輸送用カプセルの運動力学的検証』なんかどうじゃ?」

論文項目をいくつかスクロールさせると老人の注文通りの研究論文に行き当たった。

「これは・・コールドカプセル運用に使われた基礎研究のようだ」

現在コールドカプセル輸送は民間が取り扱う程普及した技術であるため、基礎研究のみならず応用研究も広く公開しているようだった。

「しかもご丁寧にシミュレーション用ソフトまで添付しとる。こいつをダウンロードして、『海図』のデータを入力すれば、良いんじゃないか?」

「ああ、『偶然』とはいえ、正に儂が求めていたものじゃ」

余りにも偶然が重なった経緯から、老人はいささか疑心暗鬼気味になっていた。

「・・意味深なもの言いじゃな・・文句がなければシミュレーターを落とすぞ」

直接の経由ではないため、シミュレーターを落とすのに20数分要した。

ダウンロードが終了すると老人はソフトを起動させ、必要項目にカプセルの重量・射出座標・初速・射出角度、宙域の恒星・惑星及び衛星の配列・重力分布を可能な限り細かく入力し、決定キーを押す。

シミュレーターは老人のおおよそ予想通りの結果をはじき出した。

「やはりか・・約836時間後に通過するか・・」

「何じゃ?数字ばかりではさっぱり分からん・・」

画面の表記を数値設定にしていたため、翁は幾分困惑した。

「いちいちうるさい奴じゃ。こうすれば分かるはずじゃ」

老人は画面端のボタンをクリックし3DCGの表記に切り替えた。

数十秒の演算処理の後、星々を移動する点とその軌跡が映し出された。

「おお・・」

軽い感嘆の声を上げる翁に老人は画面を不備さしながら説明する。

「これが計算対象の物が射出された地点、これがその軌跡じゃ。そしてこいつはメルキアの脇を通過する結果を出した。恐らく第3宇宙速度で移動しているから、メルキアの重力に引かれずに約35日後に・・・・何とこの座票だとグルフェーの上空も通過するぞ!」

計算の上の誤差はあるにせよ、結果は老人の予想を良い意味で裏切った。

「この上空を・・それはいったい何じゃ?」

更なる疑念も持った翁に老人は淡々と答えた。

「フィアナが入ったカプセルじゃ・・」

 

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