数馬の乱入によって女体化騒動はうやむやとなり、結局今日はそのまま放課後になってしまった。弾は面倒くさいことを嫌ってかそそくさと帰ってしまい、救世主数馬は初日から遅刻と言うことで今頃担任からありがたいお説教を貰っているだろう。しかも遅刻した理由が女子小学生を口説いてましたって、妙にキリッとした表情で言ってんじゃねーよクソロリコン。あんな性癖さえなければ彼女の一人や二人くらい出来るだろうに、なんと勿体無いことか。完全非モテ男子である俺をおちょくってんのか。流石に弾みたいにあー……彼女欲しー、とは言わないが。あー……童貞捨ててー。もっと先に行っちゃった件について。
「空なんか眺めて何かあるの?」
「……いや、なんでもねーよ。はぁ……」
そして件の女体化騒動の張本人である一夏に残されたのは、消去法的にも自由選択肢的にも俺のみ。教室に残っていても良いことなんてないので、さっさと鞄を引っ掴んで出てきた始末である。思わずため息が出てしまうのも仕方無い。まだ昼にもなっていないのにどっと疲れた。これほどの疲れは一夏TS初日以来か。やっぱ学校なんて行くんじゃなかった。美少女と帰宅できるからプラマイゼロ? 中身が一夏だからプラスマイナスマイナスでマイナスじゃない? やだ、打ち消されてない。
「蒼が青空を眺める、なーんてね。ふふっ」
「はは。面白いな一夏。その胸揉みしだくぞ」
「そこまで怒らなくてもいいじゃん……」
「でかいもん持ってるお前が悪い」
西瓜やメロンという程ではない。逆にまな板やRJのようなすとーんすかーんつるんでもない。……ん? 今どこからか殺気を感じたんだが……。まさか中国のやつ、海を越えてなおプレッシャーを与えられるというのかっ!? あ、ありえん。いや、この話はこれ以上やめよう。何か不幸なことが起こると俺の第六感的なセブンセンシズが告げている。六なのか七なのかはっきりしろよ。ただ一つ言うとすれば、中学三年生で確かな膨らみを制服の上から見てとれると言えば紳士諸君には分かってもらえるだろうか。うん。ナイスおっぱい。
「……なんだか不躾な視線を感じる」
「そう睨むなよおっぱい。じゃなかった織斑」
「わざとだよね? 私のこと織斑とか普段呼ばないもんね?」
「冗談だよ一夏」
ぱちんとでこぴんしてやれば、あうっなんて漏らしながら若干仰け反る。そんな仰け反ってたらGP高出力出来ませんよ。立ち直った一夏はおでこを擦り、ジト目で此方を睨んできた。おいおいやめろよ。照れちまうだろ。美少女のジト目ってどちらかというとご褒美の領域だよね! そう思わない? 俺は思う。あれ、これもしかして既に調教済み?
「蒼の馬鹿」
「馬鹿で結構」
「ろくでなし」
「だから?」
ぐぬぬ……、と唸る一夏。
「アホ」
「アホでも生きていける」
「間抜け」
「別にそれでも構わん」
なんか段々可愛く思えてきたな。こいつの性格上人の悪口とかあまり言うタイプじゃないし、探すのに一苦労ってところか。本当こいつはおかしい。今時の中高生は軽くスキンシップでの暴言とか吐くぞ。やっぱり時代は流れてるんですねぇ……。
「毎朝ちゃんと食べなよ」
「めんどくせぇ」
「ちゃんと寝なよ」
「眠たかったらな」
「体を大切にして」
「善処する」
……あれ? 確か俺って一夏に罵倒されてた気がするんだけど。一体何が起こった。つーか悪態ついてまで人の体の心配すんな。自分の心配をしろってんだ。俺の不規則な生活態度から来る体調不良より、明らかにTSしてる一夏のほうが辛いだろうし。むしろ何で俺に関わってんだろとさえ思ってくる。
「あ、そういえば食材切れてたんだった。近くのスーパーに寄ってかない?」
「ん? 別にいいけど……金は?」
「元々そのつもりだったから、ちゃんとあるよ」
「おお、さすがはイケメン」
今は美少女ですけどね。
◇◆◇
昼時ということもあり、適当に立ち寄ったスーパーは意外と人が多かった。主夫の皆さまお疲れさまです。家の掃除なんてしてもお金貰えないのに、毎日ご苦労様です。女尊男卑社会はマジで生きにくいからね。もっと男を大切にしてくれと思う。じゃねーと世の女性どもは結婚出来ねえぞ多分。駄目だな、婚期の話はNGってどこでも言われてるから。決してニュージェネレーションズではない。
「蒼はお昼何がいい?」
「なんでも」
「……それが一番困るんだよね」
眉を八の字にしながらため息をつく一夏。確かに俺も何がいいって聞いてなんでもって答えられたらちょっとイラッとしてしまうかもしれん。ならば、なんと答えれば一番嬉しいのか。顎に手を当てて考え込むこと数秒。瞬間的に脳裏をよぎったことを口に出して繰り返す。
「じゃあ、お前」
「さーて買い物買い物」
「待てやコラ。ちゃんと突っ込め」
放置されたらぼくただの変態じゃなですかやだー! ボケというものはツッコミがあってこそ成り立つんやで。お笑い的にも社会的にも。つまり数馬はロリコンってことだ。対象年齢が六歳から十二歳って聞いたときはこいつ頭大丈夫かって真剣に考えちゃったわ。実際頭おかしい奴でしたけどね。登下校中に美幼女見付けたら華麗な話術で円滑に会話してんだぜ。怖いわ。そのスキル俺も欲しいわ。女子と円滑に会話出来たらどれだけいいことか。
「なら、真面目に何がいいの?」
「……肉」
「率直すぎてびっくりだよ」
まあいいけど、なんて呟きながら買い物かご片手に歩いていく一夏。その様は歩き方から何までどこからどう見ても女の子にしか見えなくて、春休み中に随分と変わったことに気付く。頑固なあいつのことだから意地でも男のままあり続けるかとも思ったんだが、多分殆ど俺のせいでああなってるんだよな。そう考えると地味に罪悪感が湧いてきた。たかが一人の男の吃り癖を直すのに口調と立ち振舞いまで変える。普通はそこまでしない。というかむしろこいつが徹底しすぎなんだよなぁ……。
「肉だけじゃなくて野菜も食べてもらうよ?」
「別にいいけど。あ、椎茸はちょっと」
「知ってるよ。何年友達やってきたと思ってるの」
食えない訳では無いんだけど、どうにも好きになれないというか。調理法によって好き嫌いが別れるというか。松茸は食えるんだけど椎茸は苦手というか。何とも言い難いあれがあるのだ。もっと酷いやつはなんで菌糸類を食べなきゃいけないの? なんてほざく奴もいるし。キノコって凄いんだけどね。大きくなったり小さくなったりとても大きくなったり。或いは秘薬だったり強走薬だったり鬼人薬だったり。キノコってすげー。同じくしてなすの方のきのこもすげー! 人類皆強大。
「あ、玉ねぎが安い」
「肉と玉ねぎ……牛丼?」
「牛肉は高いから駄目だよ」
「うわぁ、家計に優しい友達だなぁ」
一夏ちゃんの主婦力が天元突破しすぎてヤヴァイ。どれくらいヤバイかっていうと、つい何でもしますからと言ってしまった時くらいやばい。また君か壊れるなぁ。ん? 今なんでもするって言ったよね? 自分の放った言葉には責任を持たなくちゃいけない(戒め)。そうじゃないけとケツを掘る♂……間違えた墓穴を掘ることになるからね。
「あらあら、仲の良い学生さんねぇ。もしかしてカップル?」
不意に、隣で同じように商品を眺めていた女性からそんな声をかけられた。うふふ、なんて言いながら口元に手を当てているけど、しっかりにやけているのが丸分かりである。これは確実にからかわれてますなぁ……。やっぱり、年の差にはどうしても勝てないって。
「い、いや、残念ながら、その、友達ですよ」
「あら? そちらの男の子は残念なの?」
「え、ちが、あの、そうじゃなくて」
「あらあら、うふふ」
あたふたしてたら笑われた。しかもくすっというような感じで。今の時代にこんな穏やかな人がいんのかよ。女神にさえ思えてくるぜ。つーか実際女神なんじゃねえかな。人を完全にからかってきていますがね! 目がもう面白いもの見ーつけた☆と言わんばかりに煌めいてる。キラキラ輝いてる。キラキラキラキラ、輝くの。
「あはは。普通に幼い頃からの友達です」
「あら、そうなの。ふふ、邪魔してごめんなさいね」
「いえいえ、そんな」
「男の子も、精一杯頑張りなさいね?」
何をですか。
「……なんか、疲れた」
「そう? 私はそうでもないけど」
「だって女性相手だし。しかも初対面だし。地味に綺麗な人だったし」
「でも、前より吃っては無かったよね」
言われて思い返すと、確かに酷かったの吃りが普通の会話が出来るレベルにまで落ち着いている。気付かなかった。というより必死で気付けなかった。段々と慣れていっている、ということだろうか。そうだと嬉しいのだが。
「でも、私と蒼が恋人なんてちょっと想像つかないよね」
「だな。先ず容姿的にありえねー」
「容姿は関係ないでしょ。蒼には蒼の良いところがあるんだよ?」
「そうか? まぁ、お前がそう言うんならそうだろうけど」
このあとめちゃくちゃ買い物した。一夏ちゃんの作るお昼ご飯は美味しかったです、とだけ言っておこう。
あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ! 俺は小説を投稿しようとログインしたらいつの間にか目を閉じて夢を見ていた。な、何を言っているか(ry
訳:遅れて申し訳ありません。許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)
感想でも言われましたが、どうやらグダっているみたいですね。どうにかもっとハイテンションにハイペースでいきたいものです。