訳:盛大に遅れてすまぬ……すまぬ……。なんもかんも政治が悪い。許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)
ことの始まりは夏休みが間近に迫ったとある日。その頃になれば織斑一夏TS騒動も落ち着いて、いつもと変わらぬ普通の学校生活に戻りかけていた。クラスの奴等と馬鹿やって、はしゃぎあって、精一杯楽しむ。そんなんでいいのか受験生とか突っ込んではいけない。今の時期って案外デリケートだから。余計なこと言うと心が折れちゃうから。なんて言っても俺の進路は決まってる訳だが。
「暑いね……」
「だな……」
俺はパタパタとカッターシャツの内側に風を送り込みながら、一夏は軽く手で扇ぎながら歩く。学校からの帰り道。今日もお天道様から降り注ぐ光はギラギラと輝いていた。やめて。もうちょっと出力抑えて。省エネモードとかないんですかねぇ……。
「まだ七月半ばだぞオイ……」
「だからこそなんじゃないかな……」
マジか。それらもやっぱり地球温暖化の影響ってやつですかね。絶許。オゾン層破壊とか堪ったもんじゃ無いから何とかしてくださいよレックウザさん。りゅうせいぐんとかでどうにか出来ません? こう、ぽぽぽぽーんて。無理だろ。なんだそれ、ACのCMかな? すーてきーな、なーかまーが、ぽぽぽーん! 思い返してみると仲間が死んでるようにもとれる不思議。
「早く帰りてぇ……」
「クーラーの効いた蒼の部屋……」
「思いっきり居座るつもり満々じゃねーか」
こいつって奴は本当に。見た目だけなら完璧美少女なのに、勿体無いというかなんというか。一夏がこの見た目なのは納得いくけどいかないというか。言ってしまえば一夏の性格とこの容姿は組み合わせ的にアウトなんですけど。外見も中身もほぼ完成されてる美少女とか一体どこのヒロインだよって話だ。本当ならこの子きちんとした主人公なんだぜ? しかも戦う度にヒロインを増やしていくハーレム系バトルラブコメの王道主人公。すばらです。いや、何がすばらなんや。
「ご飯作るんだし良いじゃん」
「まぁ、そこは感謝してる」
「ならOKってことで」
「強引だなぁ……」
つっても一夏に飯を作ってもらってるのは事実だし、それが美味しいからありがたく思ってるのも本当だ。冷房の効いた部屋を提供するくらいは許してやろう。めっちゃ上から目線。心の中でぐらいしか大きく出れませんしね。強いハートを持ちたかったぜ。ふぅ、やれやれ。やれやれ系キャラはあまり好かれないと知っておきながら積極的に使っていくスタイル。いいセンスだ。
「今日は何がいい?」
「冷奴」
「……まぁ、たまにはそれもいっか」
「なにいってんだ、冷奴最高だろ」
馬鹿言っちゃいけない。冷奴とか名前からして冷たそーじゃねえか。そうめんより涼しく感じるぞ馬鹿野郎。かき氷には負けるけど。つまり、なんだ。その、食べたくなるのも仕方無い。豆腐っておいしいよね! みんなも一緒に食べよーよ!(魔王スマイル)やめてください咲さん僕たちは死んでしまいます。
「時々私は蒼のことが分からなくなるよ……」
「逆に分かられてたらこえーよ」
阿吽の呼吸って奴ならまだしも、一方的に知られてるってのは中々心臓に悪いもんだ。貴方のことは何でも知ってるのよ、なんて言われた暁には真面目に逃亡を図るレベル。ヤンデレは二次元でお腹いっぱい。個人情報ただ漏れとか怖すぎィ! 包丁持ち出されて来たら抵抗出来る訳がないしね。幾多ものギャルゲー主人公がバッドエンドを迎える理由は、包丁持ち出された時点で余計な言い訳をせずにセルフで手錠やら南京錠やらをつけないからだ。自分から拘束されにいったのなら、それはまさしく愛じゃないですか? いいえ、愛です(反語)。だがそんな芸当出来るのはドMの変態くらいなので、結局のところ無理そうなんだけど。うん。そうだよ。ボクドエムチガウモン。
「いや、普段は大体分かるんだけど……」
「えぇ……(困惑)」
「声のトーンとかで機嫌の良し悪しだったり、あとは何しようとしてるか……みたいな? まぁ、大体だけど」
「……はぁ、ここ数ヵ月殆ど一緒にいるしな……」
だからだろう。だからであってくれ。そうじゃなければ今から首吊って死にます。怖ぇよ。一夏ちゃんマジでちょっと怖ぇよ。チートの一族といってもやって良い事と悪い事があるんですよ。千冬さんの妹と考えれば不可能に思えないのが余計怖い。いつかこいつも世界最強に躍り出るんじゃねえの? ほら、IS適性Sとかいう馬鹿高い数値だし。十分狙える圏内じゃねーか。
「蒼ってホント面白いよね。色々と分かり難いクセとかも多くて」
「へーへーそうですか。俺は面白くねぇ」
「だろうね」
でも、それを言うなら俺だって一つ、生まれる前から知っている一夏のクセがある。ちらりと視線を下げてみると、ちょうどそれが起こっている時だった。左手をぐっぱーぐっぱーと開いて閉じて開いて閉じて。たしか、調子に乗るとこのクセが出るんだっけ。加えてこれが出たときは大抵初歩的なミスをおかすという。難儀なもん持ってんなぁ、こいつ。自分で気付けねーのかと言いたいが、それは無理な話か。なんといっても調子乗ってますから。
「……一夏、段差気を付けろよ」
「へ? なに──うぁっ!?」
ほーら言わんこっちゃない。道にあった少しの段差でつまずくとかお前は小学生か。事前に注意しておきながらこの有り様ってどういうことよ。ある程度は予測していたのでがっしと一夏の手を掴み、ぐっと引っ張る。もちろん抱き留めたりはしない。そんなこと出来るのは一夏くんみたいなイケメンだって何度も言ってるだろいい加減にしろ。手を引かれてバランスを取り戻した一夏ちゃんは、ととっとたたらを踏みながら立ち直る。
「ほら見ろ馬鹿」
「あ、あはは……」
「……ったく。次から気を付けろよ」
「はい……」
少ししゅんとした様子を見るに、どうやら反省はしたようだ。もし転んだりしたら俺の身がどうなっていたことやら。多分世界最強に木っ端微塵にされてたぞ。人体が木っ端微塵て。それどこのドラゴンボール。いや、千冬さんなら十分可能だと思いますが。やっぱ織斑家は魔窟。むしろ魔王城なんじゃないのかとさえ思ってくる。大魔王ちっふー。回避とカウンターを絶えず繰り返して油断したところに一撃必殺の攻撃いれてプレイヤーをハゲさせるんですね分かります。また髪の話してる……。
「なんか負けた気分……」
「勝ち負けとかねーだろ」
「そうなんだけどぉ……」
「何をそんな気にして──」
そう聞こうとした時だった。思わず己の目に映った光景を疑わざるをえない。けれどもどうしてだとか、なんでなんだろうという疑問は決して思い浮かばない。ただ只管に脳内で何かが警鐘をかき鳴らす。うむ。緊急事態ですよこいつは。一夏は項垂れていて前方を確認できていない。つまり目の前から突っ込むように迫ってくるあの乗用車のことも一切知ってはいない。パンツですよパンツ。間違えたピンチ。さて、このままでは二人とも轢かれてしまいそうだし、さっさと退くとしよう。速さ的に絶対アウトでもだ。人間気合いでなんとかなる。ここで全力全開フルぱぅわーで猫火事場を発動させるんや俺! いけるいける! いけない。
「うわっ──」
気付けば一夏を盛大に押し飛ばしていた。しかもちゃっかり車に当たらないような位置に。何故だ俺。自衛本能的に己の体の方を守りなさいよ。こういうのはイケメンがするから格好良いのであって、俺みたいな奴がやっても意味なんて一切無いの。余計なことだよこんちくしょー。あぁもうやけだやけ。このまま受け身でも何でもとったる。多分生き残れる。ほら、二メートルほど前から突っ込んでくる車を見てみろ。どう見ても大丈──。
(──あ、これ死んだわ)
無☆理。
◇◆◇
……なんだこれ、暗っ。目の前真っ暗。しかも痛っ。熱っ。苦しっ。三重苦どころか四重苦。キリの良い数字だしこのまま死ぬんじゃねえの。縁起でもねぇな。しかしながら何ともヤバイ。恐らく車に撥ねられたんだろうけど、意識もうっすらとしてるしあんま考えられねぇし目は見えねぇし耳は雑音が酷いしでどうかしてる。つーか何も出来ない。声すらあげられない。指一本ピクリともしないし、これ本格的に死んだんじゃ。
「──蒼!? おい! 大丈夫か!?」
おう、一夏の声。体に響くから大音量はやめちくりー。そもそもお前はこの俺が大丈夫に見えるのか。いや、見えるんだったら別に良いんだけど。あと、お前口調戻ってんぞオイ。
「と、取り敢えず、救急車か? いや、千冬姉ならなんとか……でも急だし……えっと、えっと……」
救急車でお願いします(懇願)。千冬さんが来たら酷くなる未来しか見えない。もとより来れないだろあの人。こんなマジガチ緊急事態に。どれくらい緊急事態かと言うとチェンジしたのに手札全部トリガーくらいの緊急事態。立ち上がれない……。あ、指先動いた。
「! 蒼? おい、蒼!?」
お前俺のこと見すぎでしょ。そんな暇あるんならはよ電話して。救急車でも何でも呼んで。死ぬ。ぼく死んじゃうから。とりあえずそれを伝えよう。声が出ないから口パクで。お・わ・っ・た。
「──え?」
驚いたような一夏の声を最後に、ぷっつりと意識が途切れる。操り人形の糸を切ったら多分こんな感じ。転生オリ主で操り人形とかそれやべーな。
◇◆◇
──
母音が一緒だとそれらしく見えるよね!(強引)しかしどうしてこうなった。もっとこの小説って純愛なハートフルを描く筈だったのに。おうイチャコラさせるんだよあくしろ(セルフ)
更新、まだまだいっくよー(予定)