俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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家族の絆は偉大。

「──で、だ一夏ちゃん」

「一夏ちゃん言うな」

 

 ジト目でそんな抗議の声をあげながらも、持っていた湯飲みをことんと置く。兎にも角にも状況把握からだ。何をしようにも知識というものは重要であり、逆に言うと知識が無ければ出来ることすら限られてくる。キノ◯ッサとかぷふー、なんて油断していたらほうしローキックドレパンほうしローキックドレパンなんて事もある。すまない、ちょっと前世のトラウマが。本当にすまない。気にしないでくれ、発作みたいなもんだから。つらたん。

 

「先ず、どうして俺のとこに来た」

「俺の交遊関係を思い出せ」

 

 言われて思い返してみる。原作前なので勿論のこと他国ヒロインは殆どいない。取り敢えずあげていこう。篠ノ之箒さん。なんたら保護プログラムのせいでどこにいるか分からない。よって一夏を助けられない。いや、居たとしても助けを求めるのはやめた方がいいと思うが。凰鈴音さん。残念ながら引っ越してしまった為、助けに応じることは出来ないだろう。というか同じ理由で求めるのはやめた方がいいな。惚れた相手の性別が変わったとか、そんなん失神ものやでぇ……。となれば自然五反田家に行くのもマズイ。妹さんがいるから。数馬? 失礼ながら役に立つビジョンが見えなかった、すまんな。お前もそうだろとか言われると何も言えないけど。

 

「……弾、は駄目として、数馬のところとかあっただろ」

「考えてみろ。あいつらがまともな思考回路を働かせると思うか?」

 

 沈黙。

 

「…………なら、俺もだな」

「蒼はいつでも冷静だし、なんか……大丈夫そうだなと」

 

 はは、なんて笑いながらそう言ってくる一夏。瞬間、俺の中の何かが切れた。こう、決定的な何かが。貴様俺の最後の波紋を喰らわせてやろうかこの野郎。なるほど、つまりお前は俺をヘタレとして見ていたんだな。そうかそうか、良く分かったぞ一夏。ヘタレで女性に耐性が無くて意思も立場も弱いクズみたいな男だと、そう言いたいんだなお前は。よしよし、OK。理解した。

 

「ちょっと死んでくる」

「どうしてそうなった!?」

 

 がっしと後ろから羽交い締めにしてくる一夏。ええい、離せ、離すんだ一夏! こんな前世も合わせて童貞守り通してるチェリーボーイ(笑)なんて死んだ方がマシなんだろそうなんだろ! さよなら母さん父さん。今世では絶対気味の悪い子供であった筈の俺を優しく育ててくれてありがとう。中学生になると同時に独り暮らしさせるとかマジかとも思ったけど、別に何とかなってるし嬉しいよ本当。けどごめんね。今なら分かる。空を飛ぶ鳥の気持ちが、分かる気がするんだ。

 

「あいきゃんふらーい」

「無理に決まってんだろ馬鹿か!?」

 

 より強く押さえ付けられ、一夏と体が密着する。ここで初めて俺は気付いた。気付いてしまった。冷静に状況を分析しよう。今、織斑一夏(♀)は植里蒼(♂)を後ろから思いっきり羽交い締めにしており、必然的にそれは女性的部位があたるということだ。むにゅり、という感触と共に弾ける思考。飛び出すパッション。溢れるセンセーション。何イって……何言ってんだろ俺。

 

「ぅい……いい一夏、ちょっといいか」

「? なんだよ、急に落ち着いて」

 

 これが落ち着かずにいられるか(半ギレ)。

 

「えっと、その……だな。あ、当たってるん……だが……」

「何が?」

 

 こいつTSしても鈍感なままなの? なんでや、いやつい先日まで男だったからまだ分かるけど、なんで自分の体のことを把握してないんや。何となく歪んだなー、とかそういうので分からないの? 朝起きた時とかも揺れたりして違和感覚えるだろ。しかもこいつよく考えたらノーブラじゃねぇかおいマジで何してんだ嘘だろ承太郎……。

 

「……一夏」

「だから何だよ」

「おっぱいが当たってるんだが」

「は? …………はぁぁああッ!?」

 

 めっちゃ大声で叫んだかと思えば、尋常じゃないスピードで部屋の隅にまで移動。あれ、なんか凄いデジャブ(前話参照)

 

「お前気持ちわりぃぞ……」

「例え中身が男だろうが体は正真正銘女性のそれだろうが。こっちは女体の神秘の“し”の字さえ知らねーんだぞおい」

「だからって今の反応は……、うん。ごめん帰るわ」

 

 じゃ、と片手を上げて帰ろうとする友人。正直な話このままスルーしてやってもいいのだが、如何せんこの問題は俺にとっても結構重要だったりする。神様転生を果たした一人の凡人として、織斑一夏には織斑一夏(♂)でいてもらわなければ非常にマズいのだ。原作介入とかしたくない。つーかとっくの昔に諦めたわ。あんなチート共相手に何が出来るって言うんや。戦闘能力たったの5……ゴミめ、的な展開しか待ってないですしおすし。

 

「そもそも、お前身内に俺より頼れる人がいるだろ」

「は? いや、誰だよそれ」

「お前の姉」

 

 ぴたり、と動きを止めた一夏は、直後に物凄い早さでポケットから携帯を取りだし、タタタタッとボタンを連打。何今の早業。しゅごい。まるで渋谷とかにいる女子高生の如き携帯の使いよう。爺臭い一夏でもこうなのだから、人間必死になればなんでも出来るんだなー……なんてぼうっと考えた。ツーコールほどだろうか。少しの時間を待ってから、一夏の肩がびくりと跳ねる。

 

「もしもし千冬姉!? 俺だよ俺!」

 

 それ明らかに詐欺電話。

 

『……誰だ貴様は。それは一夏の携帯の筈だが』

「俺だよ織斑一夏だよ!!」

『馬鹿を言うな。私の弟の声はそんなに高くない』

「あああそうだった声違うんだったッ!!」

 

 やっぱ焦りすぎやろお前。そりゃそうだ。女の子になった一夏ちゃんは声も高くなってるんだから、余計一夏くんと信じてもらえなくてもしょうがない。少し考えれば分かる筈なのに、何だかなぁ……。いや、俺も人のこと言えた義理じゃないけど。

 

『それで、一夏をどうした。場合によっては今すぐ──』

「そうだ! 今から蒼に変わるから!!」

 

 は? いや、なして俺? ちょっと待て言いたいことは分かるがしかしおい無理矢理携帯を握らすんじゃねぇやめろ千冬さんと会話とか出来る訳ねぇだろ女性苦手なんだよ正気かおい正気か織斑一夏てめぇその胸揉みしだくぞコラァ!!

 

「……もし、もし」

『ほう、本当に植里そっくりだな。それで、本人たちはどうした?』

 

 あかん信じる気ゼロやんこの人。

 

「そ、その本人です、ちっ……千冬、さん。その、マジでヤバイんです。本当、あの、ええっと……とにかく」

『……ふむ。吃り具合から察するに本当に植里本人か。ならば何だ。イタズラか? 大人をからかうなと学校で──』

「千冬さんっ!! ……お、おおお落ち着いて、聞いて下さい」

『……何だ』

 

 

 心臓がスッゲェばくばく言ってる。女性の名前を叫んだだけでこれとか、些かメンタル弱すぎると思います。しょうがないだろ、この世界の女性は立場的に上なんだから……。IS使えるだけで立場が上とか、ちょっと納得出来ないにも程があるけれども。現実なんだからしょうがない。認めるしかないのだ。

 

「一夏って、男でしたよね?」

『あぁ、そうだが』

「俺の目の前に、織斑一夏を名乗る女の子がいるんです」

『ほう、面白い夢だな。お前の欲望が漏れ出ているじゃないか』

 

 俺にそんな欲望はない。断じてない。ない筈だ。あってはならない。というかマジで勘弁してください。そこまで行ったら俺は女性に餓えた薄汚ねぇ野郎だ。幾らなんでもそんなに性欲は強くない……と思いたいなぁ。男なんてお猿さんばっかりだから可能性としては低いけど。

 

「その、千冬さん。お手数ですけど、頬っぺたつねってみて下さい」

『それがどうした、普通に痛いが』

「現実です」

『──』

「これが、現実なんです」

 

 電話の向こうからの音声が途切れる。今、千冬さんは一体どんな表情をしているのだろうか。世界最強の驚いた顔は是非とも見てみたい。それが画面の向こう側とか一次元下であったならば。

 

『……植里、一夏に代われ』

「わ、分かりました」

 

 答えてさっと一夏に携帯を返す。会話を近くで聞いていた一夏は、もしもしと言いながらそれを耳に当てた。ふぅ……やっと終わった。長かった、これだけの時間を女性と喋ったのは何時以来だろうか。一対一で。一夏とか弾とか数馬がいるならばまだしも、一人だったり今のように電話だったりすると極度に緊張する。直さなければいけないんだろうけど、そう簡単に直りそうにないし。つーか直っても良いことねぇよちくしょう。

 

『本当に一夏なんだな?』

「あ、あぁ。そうだよ千冬姉」

『──信じるぞ。今から三時間後にそっちへ行く。場所は?』

「え? あ、えっと、蒼の住んでるマンションだけど」

『分かった。待っていろ』

 

 プツリ、と通話が終わる。色々と話の内容からして言いたいことはあるが、とりあえず一言。

 

「一夏、いいお姉さんを持ったな」

「明らかに悪い予感しかしないんだけど」

 

 しっかしあの人大丈夫か。絶対仕事とか全部放ってこっち来る気だったんだけど。まさにブラコン。社会人としての立場はなんのその。その気になれば武力で解決できそうなのもそれを後押ししている気がする。ただ、その姉すら攻略対象に入れるとか、こいつ最早ギャルゲー主人公越えてエロゲー主人公だろ絶対。R18指定入ってんだろ、知ってる。

 

「さて、取り敢えずは──」

「あ、腹減ったんだけど」

「だからわがまま言うんじゃねぇ」

 

 取り敢えずは、食事からだな。

 

 




ISの設定があやふやすぎてヤバイ。時系列とかどうなってんのあれ……おしえてエロい人。

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