俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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利き腕使えないからしゃーなし。

 事故にあってから二週間後。怪我をしたと言っても腕の骨折と視力の低下のみ。視力低下の原因は不明らしいが、大方何かの拍子にこうなったのだろう。状態としては普通に目の悪い人と変わらないらしいので、眼鏡でもかけてれば問題ない。見た目に問題はあるが。まぁ、それも今更って奴だな。もともと見た目なんて気にしてねぇよこんちくしょう。そんなこんなで検査の結果、退院しても問題ないだろうとされた俺は現在。

 

「おぉ、懐かしく感じる……」

「ずっと病院だったもんね、蒼」

 

 一夏と一緒に自分の住む部屋に戻って来ております。なんで一夏が居るのかって? もう学校は夏休みに突入したんだよ。察しろ。しかしマジで懐かしい。なんだかんだで二年弱も住んでるから、意外と愛着が沸いてるのかもしれない。何気に結構良い部屋だし。鍵を差し込んで回し、ガチャリと解錠。ドアノブを捻って扉を開けば、そこには見慣れた光景が変わらずに存在していた。くっそぼやけてるけど。それ結局見慣れてねえじゃん。

 

「なんか……変わってねぇな」

「そりゃあ、蒼の居ない間は毎日掃除してたし」

「……マジか。なんか、すまん」

「……ふふっ」

 

 言えばくすりと一夏が笑う。え、なんで。俺なんか変なこと言ったっけ? 分からずに混乱していれば、意地悪そうな顔で額に人差し指を突き付けられる。うん。訳が分かんねぇぜ。なんか普通に焦っちゃいそう。やめて、最近のお前なんつーか、狙ってんのか知んねえけど、ちょっと距離が近い。主に一緒に居る時の位置とかが。前はもっと離れてませんでしたかね? なんなの? 友情が深まったが故のあれなの? つまりこれも自業自得という訳ですかそうですか。

 

「……な、なんだよ」

「謝るより先に、言うことがあるんじゃない?」

 

 ははっ、こやつめ。

 

「……サンキュー、な」

「こっちこそ、無事退院してくれてありがと」

「テメェ……何のつもりだコラ」

「別に? ただ純粋に思ったことを伝えただけだよ?」

 

 ニコニコしながら言っても説得力無えよ馬鹿野郎。美少女だから地味に似合っててなんか腹立つ。やめてほしい。あの時の俺はどこか可笑しかったんだ。多分色々と精神的なアレとか身体的なソレとかで弱ってたんだ。だからあんな小っ恥ずかしいことを言ってしまった訳であって。つまり全部黒歴史です本当にありがとうございました。悶え死ぬ。

 

「つか、近いよお前。俺が表情見える位置とかどんだけだよオイ。あと腕とかも離してください」

「そうしないとまともに歩けないのは誰でしたっけ?」

「馬鹿言え、流石にここからは」

「そう言って五回くらい躓いて転びそうになったのはどこのお馬鹿さんだったかなぁ?」

 

 うぐぐ。否定出来ない。実際道端の段差とか全然見えねえから普通に躓く。そんで咄嗟に一夏が支えてくれること数回。呆れたこいつは俺の片腕を抱いて引っ張りやがった。傍から見ると恋人みたいだなこれ(白目)。抵抗する隙さえありませんでしたよええ。というかぶっちゃけおっぱい当たってんだよオイ。柔らかい膨らみに圧迫される腕の感触で死にそうなんですよ。結構真面目にヤバイのでやめてもらいたい。俺の評価をこれ以上下げないためにも。

 

「もう部屋の前だ、転ぶなんてあり得な──」

 

 ガッと何かにつま先を引っ掛ける。がっと一夏に腕を掴まれる。ふむ。どうやら入り口の小さな段差に躓いたらしい。ははっ、ふざけんじゃねえぞ。少しの希望を持って一夏の方を振り向けば、にっこりと笑顔で一言。

 

「座るまで行こうね?」

「……、はい……」

 

 靴を脱いで部屋に上がり、そのまま引き連れられてテーブルの前まで行く。俺は介護の必要な老人か何かですかね? 一夏みたいな見た目美少女に介護してもらえたら最高だろうけど。美少女に介護。こう、クルものがないかい? ちょっとビビッとなるというか。ティンと来るというか。ぼくはきました。てかこいつ凄え良い匂いすんだけど。女の子なの? 女の子でした。当たってる部分は柔らかいし髪の毛はサラサラだし手とか意外とちっこいし私服も女の子っぽいし。……あれ、この子誰だっけ(すっとぼけ)。

 

「はい、座るのはゆっくりでいいから」

「そこまでやんなくていいわ。俺はジジイかっての」

 

 わしゃあまだまだ元気やぞぉ! 若いもんにはこれっぽっちも負けんからのぉ! 俺がおじいちゃんとかキャラ的に似合わねーな。どちらかと言うとニートしてた方が似合ってる。親の脛かじり虫となるのだ。そんなことしたら多分うちの母さんキレると思うけど。一回冗談で働かねーとか言ったらもうちょっとで殴られそうになったことを俺は忘れない。ママン怖いよ……。

 

「やらせてよ。私が好きでやってるんだから。てことで、ちょっとお昼御飯つくるから待っててね」

「……了解。待たせてもらうよ」

 

 言って一夏はたたっとキッチンに駆け込む。あそこはもう既に俺の部屋にして一夏の領域と化している。調味料の位置は勿論のこと、どんな食材があるかとか、どんな調理器具がどこにあるのかも把握できていない。ちなみに一夏は全部覚えてるらしい。前に電話で鍋がどこあるか聞いたら一秒もかからずに特定してビビった思い出がある。一夏ちゃんこわかわいい。

 

「~♪」

 

 ったく、鼻唄なんて歌っちゃって。随分と今日はご機嫌ですね貴女は。まぁ、当たり前か。他の仲良い奴等が入院中に数回ほどしか来なかったのに対して、一夏は毎日足を運んでたし。正直来なくて良いって言ったんだが、本人にはどうも譲れないものがあるようでそれを拒否られた。お陰でうちの両親ともはち合わせして対応が面倒でしたよ。誰だこんなことにしたやつ。織斑家は暴走させちゃいけないって言っただろ! そもそもの原因が何か言ってますよ。

 

「ふふっ、~♪」

 

 ……楽しそうですねぇ。本当何がそんなに良かったのか。理解に苦しむ。ただ俺が退院しただけだというのに、些か喜びすぎな気がしてなら無い。まだ親がこうなら理解できる。したくは無いけど。でも、一夏がこうも喜ぶのはちょっとイキスギィ! じゃないだろうか。やっぱこいつ最近変だよな。変わったというか、近付くようになったというか……考えすぎだな。多分俺の気のせいだ。やめよう、今はゆっくり一夏の料理が出来るのを待っているに限る。なんせ、久々の一夏お手製だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「はい、今日は蒼が退院しためでたい日だからね。奮発して鯛飯だよ」

「おぉ、さっすが一夏」

「ふふん」

 

 胸を張りながらドヤ顔で鼻をならす一夏。あ、こいつ調子乗ってる。流石にぐっぱはしてないけど。てか、その体勢はやめといた方が良いって何度言えば分かるのか。ふくよかなおっぱいが強調されて癒されると同時にゴリゴリ何かが削れていくんですよ。多分SAN値的なものとか正常値的なものとか理性の化け物とか。それヒッキー。

 

「……で、俺のお茶碗と箸は?」

「ここにあるよ?」

「なんでお前の手元にあんねん」

「え? いや、だって……」

 

 言葉を一旦切りながら、一夏はご飯をすくってお茶碗によそう。まぁ、普通だな。何の問題もない。と思えば一体何を考えているのかそれを片手に持ち、もう片方の手に箸を握りやがった。あれ、嫌な予感。箸で湯気が立つ美味しそうな鯛飯をつまみ、お茶碗をことりとテーブルに置く。空いた手を箸の下にして、そのまま両手を此方に伸ばしてきた。嫌な予感的中。

 

「ほら、口開けて」

「え、いや、あの、自分で食えるから」

「右が利き手なのに使えないでしょ。ほら」

「えぇっとぉ……あの、ほら、そう、病院では左で食べてたから大丈夫」

 

 言った瞬間空気が凍る。あ、これはちょっとマズイ奴ですね。純粋な日本人で空気の読める俺には分かりますよ。このままだと色々ヤバイって事くらいはね。あと逃げたらもっと酷いことになるってね。選択肢が強制的に一つへ絞られてる……。なにそれ怖い。

 

「──病室で看護婦さんに食べさせて貰ってたのはどこの植里くんかな?」

「うぇっ!? いや、あの、それは──」

 

 束さんの息がかかった人で異常無しだとか正常に動作なんて訳分からんこと言った後にからかわれただけである。断じてそんな夢のシチュエーションを味わった訳ではない。味わえるほどイケメンでもねえし。言ってて本当悲しくなってくるわ。イケメンちょっとそのイケメン力三割くらい寄越せよ。せめて五割。さらりと増やしていくのは何故なのか。

 

「えいっ」

「んむっ!?」

 

 言い訳しようとしてたら無理矢理押し込まれた。危ねーだろお前。喉に詰まったらどうしてくれるつもりだこの野郎。一生責任とってくれんのか? その生涯を全て俺に捧げてくれるんですか? いや、やっぱ一夏の生涯とかいらねーわ。イケメン死すべし慈悲はない。今は美少女だけども。

 

「どう?」

「…………うまい」

「ふふっ、そう。良かった」

 

 そのあと? 勿論めちゃくちゃ食べさせられた。もう精神的にも現実的にもお腹いっぱいです。怪我して不便なのに変わりはないけど、少し得した気分だな。

 




あれ、こいつら付き合ってたっけ(錯乱)

何はともあれ作者は久しぶりに五時間も睡眠をとれて元気が出ました。ふぅ……(ツヤツヤ)

ただ、調子を戻すのにはまだ時間がかかるっぽいですね。何度書いても不安なんだよなぁ……(チキン)

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