一夏の変な態度に少し不安を覚えつつも眼鏡を無事購入し、俺の日常はやっと平穏を取り戻すだろう。主にぼやけず見えるという点で。余談だが店員さんにとてもいい彼女ですね、ってにっこり微笑まれた。違うわ。ただ相手が女性だったのもあり、苦笑いしながら後頭部を押さえるくらいしか出来なかったが。あれは絶対に誤解してるだろうなぁ……。むしろ誤解させるような行動をした俺に責任がある。くそっ、やっと結構吃らず喋れるようになったというのに。完全に直ってない時点でアウトじゃねーか。
「ねぇ、蒼」
「なんだ一夏」
夕食も食べ終わりゆっくりとくつろいで居たところ、台所で洗い物をしている一夏から声がかかる。ちらりと視線を向ければ、顔をこちらにやらず持参したエプロンを付けた一夏の後ろ姿のみが映った。つーかあれっていつの間にか俺の家に置かれてたやつですよね。おかしいな、どうして俺の家に一夏の私物があるんだろう。それを見て「あぁ、一夏のか」って納得してた俺も俺だけどさ。なんで納得してんだよ馬鹿野郎。
「お風呂って入れるの?」
「多分な。ギプス濡らさないようにすれば大丈夫とかなんとか」
その準備がちょっと面倒くさいですけど。まぁ、自分で招いたことなので仕方がない。むしろ腕と目だけで済んで良かったなラッキーボーイ。事故に遭っても美少女(イケメン男子)に心配されて身の回りの世話までしてもらえるなんて、ぼくはしあわせものだなぁ(白目)。一夏ちゃんよ。もうちょっと適当でも宜しいのよ? むしろ適度に離れてくれた方が精神衛生上いい。女の子はまだまだ少し苦手なんや。
「体とか髪とか洗える?」
「まぁ、何となるだろ。少しキツいけど」
片手でも意外と出来ることは多い。左だから使い難いことこの上ないけど。こういう時に両利きの人は羨ましく思う。片手怪我したとしても逆の方で代用が効くとかいいっすね。両利き裏山。いっそのこと両手とも右手にすれば両利きに出来る。それどこの吊られた男。この俺が貴様を絶望の淵にブチ込んでやる。
「……キツいの?」
「そりゃあ、慣れない左手だしな」
確認するようにぐっぱぐっぱとしながら言う。別に調子に乗ってる訳じゃありませんよ。俺は一夏と違いますし。この阿呆は調子乗ると直ぐこれやるから分かりやすい。本当分かりやすい。そしてそれを見ると油断慢心ダメ絶対って心底思える。簡単なことでミスってんじゃねえよ。だからお前は原作でもセ尻アさんに折ルコットされてんだよ。なにそれイミワカンナイ。
「…………」
「無理ではないと思うけど」
そうそう。頑張れば左でもできるできる。やればできる。やってやれないことは無い。やらずにできる訳がない。つまりやろうと思えば出来るんだよ! 人生は根性でなんとかなる。あとネコ火事場弓でもなんとかなるって親戚のお兄さんが言ってた。性能なしのバックステップで咆哮回避が俺の目標。ブシドー? お前ちょっと4g戻ってきてみろよ。
「……よし。ねぇ蒼」
「ん? なんだよ続けて」
くるりと此方を向く一夏。長い黒髪がつられてふわりと揺れる。綺麗ですねぇ。思わず脳内シャッターをバシバシきってしまった。女の子の髪の毛が靡くと凄く美しいからね。仕方ないね。例え一夏でも外見は超絶美少女な訳ですし。現実でも写真におさめたい。だが残念なことにカメラが近くにないんだよなぁ……。ちくせう。
「手伝うよ」
「なにを?」
「お風呂」
………………What?
「誰が?」
「私が」
「誰の?」
「蒼の」
……ふぅ、一旦落ち着け。そう。こういう時は素数を数えるんだ。素数を数えて落ち着くんだ。2……3……5……7……11……13……17……19……23……29……31……落ち着きますた。素数は1と自分の数でしか割れない孤独な数字。つまりモテない数字。モテない俺の心を癒してくれる。やっぱり素数は万能。困ったときは素数数えてればどうにかなる。800ドルもするズボンに蛙が引っ付いて来ても大丈夫!
「却下」
「む。なんで」
「俺は男。お前は女。一緒に入浴は駄目。精神衛生的にも外聞的にも絶対駄目。よって却下。はい終了」
「私一応は男なんだけど」
じろりと睨む。頭の天辺から足の爪先まで再確認。可愛いお顔。綺麗で長い髪。ふくよかなおっぱい。くびれのある腰。柔らかそうなお尻。弾力がすごそうなふともも。どこからどう見たって美少女じゃね? というか最早男の要素ゼロじゃん。パーフェクト美少女一夏♀ちゃんじゃん。いちかわいいじゃん。エプロンしてるから新妻みたいに見える。ご飯にする? お風呂にする? それとも……えと、わ、わた、し? とか言ってくれんの? 羞恥心半端なさそう(小並感)。
「今は女。つまり女体。思春期の男子中学生には毒だぞお前」
「蒼ってまず性欲あるんだ……」
「はっ倒すぞゴラ」
俺にだって男として並みの性的欲求はありますよ。ほら、これでも人生二回目で一度も童貞捨ててないし? 彼女とか一人もいたことないしぃ? 前世の時からほんの時々女性と仲良くはなれてもそこから先には進まなかったすぃ? 女体の神秘なんて一切知りもしませんすぃぃ? まーたこの子は
「いや、蒼のイメージだよ」
「ばーか。どこをどう見たらそうなる」
「いつも冷静だし。女の子のことあまり見ないし。なんというか、達観してるというか」
「見ないんじゃない。見れないんだ」
忘れたのか一夏。俺は女性が大の苦手だったんだ。結構マシになったとは言え、それもマシになったというレベル。依然として少しは吃ってしまうし、一対一で話すのは少しキツいものがあるのです。男子が他にいたりすると結構話せるんだがな。
「とにかく、入浴は駄目」
「むぅ……」
そんな顔しても駄目。絶対に駄目。駄目なものは駄目なんだ。やめろ。オイもうそろそろやめろよ。駄目って言ってるでしょーが。駄目ったら駄目。ぜ、絶対に駄目なんだからねっ! なんて思っていれば一夏が近くに寄ってくる。少し俯かせた顔を上げ、涙目と上目使いのコンボで一言。
「……だめ?」
「」
駄目って、言える?
◇◆◇
言えませんでした。
「んしょっ……どう?」
「あー……いいんじゃね?」
「なにそれ、ふふっ」
ごしごしと背中をこすられる。あぁ^~いいっすねぇ^~。実際背中って手が届き難いから結構いい感じ。右手が完全に使えない現状なら尚更。正直なところ嬉しいと言えば嬉しいんだが、なんならもっと心臓に優しい展開にしてほしかったですね……。女の子にお風呂で背中を
「よい、しょっ……ふぅ、よっ……」
「あぁ、うん。いいわコレ」
「そう? なら、いいんだ、けどっ」
ごっしごし。ごっしごし。力加減もなんだかちょうどいい感じ。ええやん。背中洗われるのって素敵やん。そんな一夏ちゃんの格好は別にタオル一枚とかではない。残念だったな。ぶかぶかのTシャツに短パンで裸足。肩とかちらって見えてる。なぜTシャツがぶかぶかなのかについては察してほしい。主に俺と一夏の体格差によるせいだ。ええ、俺のですが何か?
「ねぇ、蒼っ」
「んだよ」
「身体っ、大きく、なったっ?」
「そりゃ、成長期だしでかくなると思うけど……また唐突になんでだ?」
言えば後ろから笑い声が聞こえてくる。相も変らずお上品な笑い方をする奴だ。男の時から大声で笑うような奴ではなかったから、そこは変わってないとも言えるか。イケメンポイントから萌えポイントに変わってはいますけどね。
「なんか、前より蒼の背中が、大きく見えて」
「俺の背中が? ありえねえ。つか貧弱だろ」
「そうでもないよ? 頼りになる背中だし」
どうだか。この程度の背中で頼れるならどんな背中でも頼れそう。ひ弱な背中ですよひ弱な。爪楊枝で刺されたら軽く仰け反る弱さ。スタンドは無いし体も剣で出来ていないし悪魔の実なんて食べてないしグルメ細胞も無ければ惑星べジータからきた宇宙人でもない。「分解」と「再生」も一刀修羅もサラティガも幻想殺しもスターバーストストリームも滅びのバーストストリームも出来ない。光射す道にもならない。
「頼りないだろ、こんな背中」
「ううん。十分頼れるよ。だって」
ぴとっ……と違った感触。指だ。
「私は、この背中に助けられたんだもん」
「──」
掌を当てられて、さすさすと触られる。そこの部分が妙に熱くなって、ちょろっとだけ意識を強く向けてしまった。多分人肌の温もりってやつだろう。そうに違いない。今は多分少し敏感になってんだよ。ほら、緊張とかで。
「ありがとう、蒼」
「……るっせぇ」
くそ恥ずい。なにこれ。やべぇよ、風呂場でこんな熱くなってたらのぼせるわ。つかやっぱ最近のお前はおかしい。距離近いし。馴れ馴れしさもかなり増してるし。一体どんな心境のだっつーの。むしろ逆の方向で変化してほしかったわ。離れてくれた方が精神的には楽。色々と世話焼いてもらってる立場だから絶対言えねぇけど。
「よし、背中終わり」
「なら寄越せ。前は自分でやる」
「大丈夫大丈夫。元は男だし」
「いいから、さっさと出ろ馬鹿」
「……顔赤いよ?」
「うっせぇ馬鹿一夏」
あっちぃ……。
信じられねぇだろ。付き合ってねぇんだぜ、こいつら……。やっぱり一夏ちゃんの……SSを……最高やな! つーわけでいちかわいいIS二次流行れ(懇願)
祝福の歌を福音さんに歌ってもらってシンフォギアしよう(提案)