夏が終わった。より詳しく述べるとすれば夏休みが終わった。何とかギリギリ課題は全部終わらせたとはいえ、長期休暇の終わりというのは憂鬱だ。今日から学校。そう思えば思うほどにテンションはだだ下がりする。後に午前中だけということでほんの少しだけいつも通りに戻る。むしろ初日から六時間も授業があってみろ。大多数の生徒によるボイコット起きるぞ。我々はー! 始業式初日からー! 勉強することをー! 拒否するー! 学生の本分は勉強ではなく青春だとー! 今ここに声高らかに宣言したーい! ははっ、青春を謳歌せしリア充どもよ。砕け散れ(アニメヒッキー感)。もしくは爆発しろ(原作ヒッキー感)。
「学生の本分は学校を嫌だと思いながら行くことだと思うんだよなぁ……」
「何その暗い考え。もっとポジティブに行こうよ」
「俺は女性が苦手。でもこの容姿のお陰で女性からの接触は少ない。こんな惨めな体に生まれて良かった」
「すっごいネガティブ……」
うーんこの。なんか調子上がんねぇなあ。やっぱり夏休み明けだからか。色々とテンションがぐだぐだしてた頃から変動しないのであります。プールやら海やらにも行かずに部屋で殆ど過ごしてたし。一夏も女の姿でそこらに行くのは嫌だろうし。やだ、友人を気遣えるとか植里くんかっこいい! 抱いて! どう足掻いても幻想。そんなこと行ってくれる子なんていません。
「ま、最近は女慣れしてきたけど」
「それだけ言うとなんか変態っぽいよ」
「男子中学生なんてみんな変態」
「多分違うと思うなぁ……」
お前何言ってんだ。男子中学生の八割は野生の猿と同レベルだぞ。頭の中はオナニーとセックスで埋め尽くされてる性欲の化身ですよ。普通なら伏せていく単語を敢えて堂々と使っていくスタイル。変に伏せるくらいならもうぶっちゃけた方がいいじゃない。よくない? なんか頭良い風に思えてきた。別にパスタを茹でながらゆっくりと射精したりはしないけど。うん。下ネタが多すぎるなこれは。自重自重。健全な男子中高生のためにも健全な小説であらないとね。プライオリティの高いそれを重視することで他の作品よりアドバンテージをとり緻密に練られたアジェンダのもと書き続けることをコミットした上でタイトになった場合はリスケしていく。頭良いというより意識高い()ですねぇ……。
「さて、一体何人が夏休み課題と奮闘しているのか」
「弾は確定としてね」
「あいつマジでやってこねぇからな……」
「私たちに見せてもらえるからでしょ」
五反田くんはいけない子。同じ名前を持つ者として馬神くんを見習いなさい。さっさとダブルブレイブ(意味深)するんだよおうあくしろよ。男じゃ無理? そこに食べ物を入れるところと出すところがあるじゃろ? あとは……言わずとも分かるだろう。男だらけの3Pとかマジで誰得だよ。つーか下ネタ自重出来てねぇな。下らんことを考えていればいつの間にか教室前まで辿り着いた。ガラリと引き戸を開けて挨拶。
「うーっす」
「おはよー」
前者のやる気無さげなのが俺。後者の地味にほんわかしてるのが一夏。これだけで圧倒的な差が出てくる不思議。やっぱりイケメンには勝てないんやな、例え性別が変わろうとも。俺がTSしたところで特にこれと言った特徴も無い地味子ちゃんになりそうですし。家事とかも軽くしか出来ませんし。一夏ちゃんと比べたら凄く低スペックなことが露呈してる。ぶっちゃけこいつが凄すぎるだけなんですけどね……。
「おー、仲良し二人おは……て、誰?」
「おはよう一夏ちゃん……と、誰?」
「朝から可愛いな一夏……で、誰だ?」
「一夏ちゃん可愛い……と、誰や?」
「おう一夏宿題見せ……え、誰それ?」
集まる視線。並び立つ疑問符。どうして俺の姿が認知されてないんですか。もしかしてこの数ヵ月でとっくに記憶から消し去ったんですか。やめてくれよ。心が叫びたくなってくるだろ。てか現在進行形で叫んでる。悲痛な叫び声が体の中に木霊してるよ。そんなにも俺は要らない存在でしたかそうですか……はぁ。鬱だ、死のう。
「いっそ殺してくれ……」
「あ、蒼の目からハイライトが!?」
最後はどんな死に方がいいかな。定番で首吊りってのもいいんだけど、リストカットも捨てがたい。むしろもう一回車に突っ込むか? 高所から飛び降りれば痛みは感じないらしいしありだな。しかし歩行者を巻き込む危険を考えるとやっぱり自室で首吊りか。よし、帰りにホームセンターによって作業用ロープでも買おう。
「え? 植里くん?」
「うっそ、マジで? 植里!?」
「嘘だと言ってよ、バーニィ」
「ほぇー、植里眼鏡かけたんかワレ」
「あ、蒼か。よく見ればうん。分かるな」
何その微妙な反応。なんなの、やっぱり俺の眼鏡姿って合ってないの? ただでさえ酷い容姿がもっと酷くなってたりするの? やめて(本音)。やめて(切実)。そんなのうっかりまた死にたくなっちゃうだろオイ。もぅマヂ無理……リスカしょ。ちくしょうが、明日からはコンタクトにするよそれで良いんだろ!
「……そんなに似合ってないんすか、眼鏡」
「いや、その、なんというか……」
「知的に見える……というか……」
「クールな人っぽい……」
「COOL! 最高だ! 超COOLだよアンタ!」
「はいはい君はこっちでスナイプされようねー」
あら、思ってたより……というか思ってた以上に評価が高くない? 嘘やろ、たかが眼鏡かけただけでそんな人の印象なんて変わるかよ。鏡で確認したけど普通に眼鏡かけてる俺くらいにしか思わなかったぞ。一夏だってわざとらしく微笑みながらいいんじゃないくらいしか言わなかったし。もしかしてここは俺の夢の世界である可能性が……ねぇな。普通に感覚とかあるもの。
「うん、似合ってるよ植里くん!」
「あざーす」
「まともになったじゃないか」
「うっす」
「これでやっと顔が見れるね!」
「お、おう……」
ん?
「ふぅ、吐き気を催さなくてすむようになるのか」
「ちょ、ひど……」
「精神が安定するわぁ……」
「うわぁん……」
「泣いちゃったよ……」
何なのこの波状攻撃。一回ガードしても連続でごっそ削られるんですけど。性能+2は必要ですね。こんなのまともに受けたら貫通ダメージの大のけぞり間違いなしだよ、心が。まるでナイフを突き立てられた気持ちです。誰か傷付いた俺を慰めてくれないですかね。精神的にも身体的にも。マジで悲しい。愛と哀しみのボレロってやつね。かなーしいーことーがーあるーとー、ひらーくーかわーのーひょうしー。
「よしよし、蒼。良い子良い子」
「一夏ぁ……お、おぉ……おおぉ……ッ!!」
「うんうん。泣いて良い。泣いて良いよ」
「おっぱい……」
「蒼なんて知らない」
ぺいっと投げ捨てられた。教室の床にケツを打ち付けて痛い。いやだってあれは誰でも意識しちゃうでしょうがよ。女の子に頭抱えられてよしよしされたら大抵は当たりますしね。お胸が。乳が。おっぱいが。男たちの夢と希望を詰め込んだのがおっぱいなんだって親戚のおじさんが言ってた。多分というか絶対酒飲んでたけど。いや、しかしながらおっぱいが好きな人に悪い人はいないとも聞くし、となるとおっぱいってやっぱり最高なんやな!
「いやぁ、夫婦漫才ですねぇ……」
「はよ結婚しろ」
「式場の予約はした!? ドレスは!? ケーキは!? 初夜の準備はぁぁぁあ!?」
「ステイ。落ち着くんだ。彼らはまだ付き合ってすらいないんだぞ」
なんだか教室の奥の方が騒がしいな(難聴)。うん。ぼくみみがわるいからきこえないんだ。一体何の話をしているのカナー? ぼくには分かんないナー。本当どんな内容なのか気になるナー。……聞こえません聞こえません。あんなカオスじみた言葉なんて聞こえないの。
「でも、本当似合ってるから安心して」
「あ、はい。お世辞でも嬉しいけど」
「お世辞じゃないんだよね……」
「え、マジ?」
「結構マジ」
やったぜ。普通に喜ばしいことなので自然と顔がにやける。と言っても必死に誤魔化そうと全力を尽くしているので、軽く微笑むくらいに留まっていると思うが。周りの反応を見ても引かれている様子はない。むしろ呆然とした様子で此方を覗いている。え、なに? 俺なんかやったの? 内心首を傾げていれば、不意に手の甲をぐいっとつねられる。犯人は勿論こいつ。
「なにデレデレしてるの」
「へ? いや、別にしてねえよ」
「してたよ。分かるもん」
「いやしてねぇって。つーか何でお前怒ってんの?」
「……分かんない」
最近の一夏。分かんないけど行動に出ることが多い。これって何かの前触れとかですかね。
知人にこの小説がバレてホモと呼ばれた私が通りますよー。こんな作品書いてるやつがホモな訳ないんだよなぁ……(確信)ほら、これって健全で真面目な純愛小説じゃない? よって作者はホモじゃない。Q.E.D.証明終了。
ぶっちゃけイチャラブ足りてないような……足りてないよね? 頑張るから今は耐えてくれ。ほら、ホモは我慢強いってよく言うし(てきとー)