俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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友人の家事力が高い件について。

「ふんふふーん♪」

 

 そう鼻歌交じりにキッチンで料理をしているのは、先程まで焦りに焦っていた姿こそ違えど我が友人(♀)である。つまるところの織斑一夏。インフィニット・ストラトスというライトノベルの主人公。鈍感で唐変木でどうしようもないほど人の好意に気付かない、それはもうイケメンな男の子だった(・・・)。過去形? 当たり前だろ、目の前にいるのは紛うこと無き超絶美少女なんだから。いやぁ、千冬さんもかなり美しい部類に入っているし、織斑家ってやっぱ頭おかしい(褒め言葉)。姉は刃のように綺麗で格好いいクール系美女。弟(♀)は凄くモテる優男だったキュート系美少女。なるほど、クールにキュートと来れば次はパッションですね!

 

「……そんなに楽しいか、料理」

「まぁ、嫌いじゃないし」

 

 ふんふむ。何ともすばらな光景ですね。しかし残念かな、こいつの本性は男なのだ。しかも憎きイケメン。本来の性別だったとしても絵になるとは思うが、思春期の中学生としてそれを見るのはご遠慮願いたい。男が男の部屋に上がり込んで料理とか、それどこのBL漫画。加えて鼻唄までやってたら、パーフェクトアウトじゃあありませんか。うん。そう考えると失礼だがこいつがTSしておいて良かったと思う。絵面的にもこう……萌える方に傾いてくれたからね。エプロンは無いけれども。すまんな、俺は殆ど料理なんてしないんだ。自炊しなきゃとは思ってるんだけどなぁ……。

 

「なんつーか、本当すまんな。任せっきりで」

「いいさ、別に。気分転換にもなってるし」

 

 なんて会話をする理由は、数分前のことにまで遡る。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 件の一夏が腹減ったなどと言ってきたので、仕方無く食事を優先することになった。とりまコンビニでいいかー、なんて軽く考えて立ち上がれば、近くに突っ立っていた一夏ちゃんから一言。

 

「どこ行くんだよ」

「え、いや……コンビニ?」

「は? なんで?」

 

 如何にも分からんと言った風に首を傾げる一夏。いや、人がこの状況でコンビニに行く理由なんて限られてくるでしょ……。というか正直どうでも良くないですかね。俺がコンビニに行く理由とか。

 

「腹が減ったって言ったのはお前だろ。飯買いに行くんだよ」

「え? 作らねーの、飯」

「残念ながら俺にそんな主夫力は無いのです。……つーわけでちょっと行ってくる。何がいいよ?」

 

 言った瞬間、一夏ちゃんから向けられていた視線が強くなる。え? なに、俺なんか気にさわること言った? ちょっと待ってくれよ、今のお前女性だから視覚情報には弱いの。許して。許してヒヤシンス。

 

「お前、まさか毎日コンビニ弁当かよ」

「馬鹿を言うな。そんな無駄遣いはしない。三、四日ほどはきちんとしたモノを食べるし、それ以外の日もカップラーメン一個とか、カロリー◯イトとウ◯ダーとか、そんなもんだ」

 

 びしり、と一夏の体が固まる。つーかちょっと震えてない? 肩がふるふるしてない? フルフル。なに、ヴェアアアアアアみたいな叫び声あげるの? 怖っ。

 

「……今から俺が朝食を作る。それでいいな?」

「いや、でもそれは──」

「 い い な ? 」

「はい」

 

 ごめんなさい、別の理由で一夏ちゃん怖いです。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「あの時は命の危機を感じたぜ……」

「何言ってんだ蒼」

 

 ほら、なんて言いながら俺の目の前に置かれたのは、織斑一夏特製の朝ごはん。白ご飯に漬け物、先程焼いていた魚にお味噌汁、おまけに卵焼き。ご飯とお味噌汁に関してはインスタントですけどね。うむ。人類の技術ってすげー。なになに、卵焼き? もちろん食べりゅ。

 

「しっかし食べ物が華やかだな」

「どんだけ偏った食生活を……だから体調崩すんだよ蒼は」

 

 そりゃあ自覚するほどに酷いものですよ。すまんな、こちとら不健康を地で行く現代っ子なんや。カップラーメンマジで神。あれさ、固まってる麺を三つに割ったら三食一個で乗り切れるんだぜ! ただこれ、あんまやり過ぎると体壊すから。マジで体育の途中にぶっ倒れた時は死ぬかと思った……。あれから結構改善したと思うんだが、一夏的にはアウトだったらしい。なんでだ、きちんとした飯はちゃんと食ってるって言うのに。

 

「いや、朝起きたらいつも気分悪いし、朝食とかちゃんと作るの面倒だろ」

「それは不規則な生活をしてるからだ。いつも健康的にすごしていれば体の不調なんて殆どない」

 

 ふん、なんて真面目な顔でそう言ってくる一夏。確かにこいつが体調崩したことなんて滅多に見ない。年中元気に女子へと笑顔を振り撒いてる。めっちゃキャーキャー言われてる。しかしそれをただの(・・・)好意と受け取ってしまうのが一夏クオリティ。付き合って。いいよ、買い物か? なんてあまりにも有名なフレーズ。お前本当頭ん中どうなってんのと聞いた俺は悪くない。相手の女子凄い可哀想だったじゃん。勇気出して告白したのにその対応はねぇよ。マジねぇよ。

 

「…………さっすが、この年で健康を意識してる奴は言うことが違うな」

「当たり前だろ。いい老後はいい生活から」

 

 言い切って胸を張りながらぱくぱくもぐもぐ。こいつ食べる時まで姿勢良いのかよ……(驚愕)。いや、薄々気付いてはいたけれども。何故今更そんなことを気にするのかと言うと、胸を張ってるおかげで自己主張の激しいそれがもうわがまま。Tシャツだから余計に分かる。密着した時にもしやと思ったが、結構でかいんじゃないんすかねこれ。正直目のやり場に困って仕方ない。やめてくれよ、俺のSAN値が直葬コースだよ。もうやだ、凰さんに謝れよこの野郎。

 

「……気にしてもしょうがない、よな……」

「? 何がだよ。それより食わねーのか?」

 

 お前さっきからそればっかだな。本当どうして気付かないのかなぁこの朴念仁。……いいや、最早考えても無意味だな。こいつが昔からそうなのは知ってるし。むしろ生まれる前から識ってる。元々織斑一夏ってキャラクター自身がそうなのであって、何もしなければこうなるのは必然なのだ。何もしないというより出来なかった自分に敬礼。お前のおかげで、数多の女子が救われたと思うよ……多分。ほら、告白が意味無いって分かって。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 手を合わせてぽつり。確かに不規則な生活を送る現代っ子だが、食べ物に関する感謝の念を忘れるほど馬鹿でもない。というか忘れたら一夏に殺される。無駄にそういうところ真面目だからこいつは本当お節介。トラブルメーカーでもあるが。尤も、振り回されるのは主に周りにいる俺達だけだがな! 駄目じゃねぇかオイ。巻き込まれ系転生者とか、そういうところで巻き込むんじゃない。もっとシナリオに関する場面でだな……いや、それこそ勘弁してほしいけど。

 

「おお、うまい」

「ん、そっか。なら良かった」

 

 流石は幼い頃から家事を行ってきただけはある。マジでうまくてちょっと感動しちゃったじゃねーか。なるほど、これがおふくろの味ってやつね。一夏がおふくろとか、何それ男なのにぷーくすくす……なんて言える状況じゃないんだよな、現在進行形で。だって一夏ちゃんだもの。どこからどう見ても完璧に女の子ですよ。やったねちーちゃん妹が出来たよ! はてさて、それは本当に喜ぶべきなのか。いいや、喜ぶべきじゃあない(反語)。

 

「つーか、女になって真っ先に来るのが女苦手な俺のとこって、そこはかとなく悪意を感じるんだが」

「うっ……すまん。だって、身近で頼れるのがお前くらいしかいないし、家も一番近いし、何よりもう訳が分からなかったし……」

「あーすまんすまん悪かった、別にそんな困らなかったしいい、だからほら、あの、泣くなよ……」

 

 お前いつからそんな涙脆くなったんだよ。千冬姉を少しでも助けてあげたい(キリリッ)とか言ってたお前はどこ行ったんだ本当。カムバック一夏くん。カムバック友人。こんなの織斑一夏じゃねぇ!(断言)……いや、気持ちとしては分からなくもない。朝起きたら女になってるとか、そんなもん混乱して泣いたとしても仕方ないだろう。おまけにほら……俺って冷静に見えるらしいし。内心凄い焦ってテンパってるんですけどね。何はともあれ、頼れる人がいたらつい溢れたのかも知れん。でも、美少女なので結構真剣に泣くのはやめてほしいです(懇願)。

 

「……そういや蒼。俺と喋るのは大丈夫なんだな」

「まぁ、外見はともあれ一夏だし。何より話し方がいつも通りだからな。これで女みたいだったらやば──」

「私のことは大丈夫なんだね?」

「──っひゃい!?」

 

 びっくーんと自分でも驚くほど肩が跳ねる。手に持っていた食器を落とさなかったことだけは褒めてやりたい。だがその反応については忘れたい。ちょっと女子っぽくされただけでこれとか、やばい。ガチでへこむ。何で俺はISの世界なんかに転生させられたんだろう。軽く自己嫌悪に陥っている間、現状を作り出した元凶はどうしているのかと言うと。

 

「ぶふっ。っひゃい。っひゃいってお前ッッ……」

 

 爆笑しておられた。

 

「てめぇ一夏この野郎……」

「あ、すまん蒼。醤油とってくれ」

「今それ言うか。あとここ人ん家だからな?」

 

 飯を作ってくれたとは言え、許せないことはある。いやまぁ、醤油はきちんと渡しましたがね。


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