午前の種目が終われば昼休憩と弁当である。午後に向けてもう一頑張りするためには重要な時間だ。といってもやる気なんてあまり無い。どうして休みの日に態々体を動かさなければいけないのか。休日出勤ならぬ休日登校は憂鬱以外の何物でもない。就職希望の学生さんたちはせめて完全週休二日制くらいはきちんと調べて知っておくんだゾ。お兄さんとの約束。兎も角として100m走を思いっきり駆け抜けたからか、何時もより腹が減っている。だったらどうする? 答えは一つだ! 弁当を用意する、箸を握る。そして、飯をかっ喰らう!! いかん、数馬のナニカが伝染ってきてる。とまぁ、そんなこんなで折角の家族団らん。開放されてる体育館でご飯を食べることにした俺なのだが、いつの間にか織斑家まで交ざってた。一体どういうことなの……?
「すまんな一夏ちゃん。うちの馬鹿息子がさぞ迷惑かけたろ」
「い、いえ、むしろ助けられてるくらいで」
「ほう、それなら良いんだが……なぁ? 蒼」
「あの、母さん。怖いっす」
ギロンとガン飛ばしてくるマイマザー。女性なのにそこらの男より男らしいっす。口調もどちらかと言うと男寄りだし、母性仕事しろと言わんばかりだ。これでも甘えん坊らしいのだから女性って分からん。ソースは勿論マイファザー。母さんの隣でニコニコしてる優しくて真面目そうな顔の人がそうです。あんたら性別逆じゃないんですかね。母さんが引っ張って父さんが支える。女尊男卑だから一応合ってんのか……? つーかそれで良いのか父さん。男としてのプライドとか無いの? と言っても実に現状で満足そうだから良いんだろうが。
「まぁまぁ。蒼だって頑張ってたし、今日くらい許してあげたら?」
「……ちっ。今回だけだぞ」
ナイス父さん。流石は未だ尚新婚夫婦感を漂わせる二人。家にいる時はナチュラルにメンタル削られて凄く辛かった。息子の前でイチャつくんじゃねえぞオラ。父さんから美女だの大和撫子だの言われた母さんが頬染めながら罵倒する光景とか本当どこのツンデレヒロインかと思ったわ。しかもそれを全部分かってるよって顔でニコニコ笑って受け止める父さんも父さんだが。
「本気出すんなら最初からやってろっつーんだ」
「なぁ父さん。どうしてうちはこんなにもスパルタ教育なんだい?」
「母さんなりの愛情表現だよ、蒼。怒られているうちが花とも言うじゃないか」
激しい愛情表現ですね(白目)。そんなこと言うもんだからまた父さんが母さんの照れ隠しを受けてる。横から肘で脇腹どつかれても笑ってられるマイファザーは世界最強の男性かもしれない。多分内心で照れてる母さん可愛いとか思ってんだろうなぁ。カップルかあんたら。
「千冬も。こいつに何か失礼されてないか」
「その質問が息子に失礼なんですが……」
「いえ、立派な息子さんですよ、蒼さんは」
「へぇ……こんなのがねぇ……」
呟きながらちらっと視線を向けてくる母さん。心が、心が痛いよ。転生者だからといっても一応は育ての親なのである。色々とあれな感情があると言うのに、それを全てぶち壊す勢いだ。あと千冬さんが久々に真面目モードしててちょっと違和感。さん付けで名前呼ばれたのこれが初めてだよ多分。いっつも名字でしか呼ばれないからね。
「千冬姉、いつもああなら良いんだけど」
「無理だろ。ネジ外れてるもんあの人」
「言わないで。なんか悲しくなってくるから」
「頑張れ一夏ちゃん」
一夏がTSしてからのあの人はリミットブレイクしてるからしゃーない。多分あれでダメージ入ったんだろうね。千冬さんはリミットブレイク4。もしも5だったのならばセーフかも知れなかったというのに。
「つかぶっちゃけ飯食いたいんだけど」
「あぁ、はいこれ」
「お、サンキュー。マジで空腹感がヤバイ」
「あれだけ頑張ってたからね」
そりゃあな。一人の男子中学生としてあのシチュエーションを頑張らないのはありえねえ。結局変態三人と普通二人というマジ混沌とした100m走になったけど。参加者のうち三人が不純な動機で走るとかこの学校の体育祭どうなってんの。しかもその不純な動機で走った奴が一位とるんだから本当ふざけてる。いや、俺たちの目線で言えば当たり前とも言えるが。基本変態はチート性能持ってるからね、仕方無いね。
「なんだ、お前弁当作ってもらったのか」
「まぁ、いっつも飯作ってもらってるし」
「ふぅん……
ニヤニヤと笑う母さん。やっぱりこの人どう足掻いてもこえーわ。実に愉しそうですね。僕は全然愉しくありませんけど。小さい頃はもっと可愛がってくれてたんだけどなぁ……それこそ親馬鹿かってくらいに。あの時の愛情は一体何処へ。一人息子なんだからもっと優しくしてくれていいのよ? つーかして下さい。愛されてないのかと思っちゃうだろ。
「良かったじゃねえか、蒼」
「いや、なにが」
「お前の一番の懸念事項が消えて私は嬉しいよ」
「全く意味が分からないんだけど」
え、唐突になに(非リア特有の鈍感)。なんか良く分からんけど取り敢えず俺に関することなんだろうってだけは察した。でも一夏に飯作ってもらってるのと全然繋がらないんですが。なんなの、俺の一番の懸念事項って一体何よ。栄養か? 栄養が偏り気味な食事をすることなのか? それくらいしか思い浮かばねえ。しかしおかしいな。母さんには俺の不摂生自体バレてない筈なんだけど。バレたらどうなるかって? それこそ火を見るより明らかじゃないっすかね。
「蒼。はい、お箸」
「ん、さて。いただきまっす」
「ちゃんと味わってよ?」
「了解了解」
早速いただこうと箸を握れば、不意にぽんと肩を叩かれた。見れば父さんが慈愛の表情で此方を向いている。何だか分からないけどやっぱり父さんは優しい。厳しくしてくる母さんとは大違いだ。いや、どっちも好きと言えば好きですけどね。こんな俺を放り投げずにきちんと育ててくれた人達だもの。愛のムチなんでしょう? 分かってる分かってる。
「良かったね、蒼」
「父さんまで何なんだ……」
「大切にするんだよ? お父さんとの約束」
「うん。一体何のこと?」
うちの両親はどうしちゃったの(モテない系男子特有の鈍感)。大切にしろと言われても何を大切にすればいいのか。体か? 体を大切にしろってことか? 確かに事故ったからそんな心配されても仕方無いけど。むしろそれ以外に何かあったっけ? 俺が大切にしなきゃいけないモノとか精々命と平穏とベッド下の同人誌くらいしかないけど。なんか最後だけやけに具体的やな。年上モノ同人誌……一夏ちゃん……馬乗り……逆レ……うっ、頭痛が(唐突)。これ以上はいけないと第六感的な何かが必死に訴えてる気がする。
「千冬、うちの息子を宜しく頼む」
「宜しくお願いします」
「いえ、此方こそうちの一夏をお願いします」
「あぁ。無理矢理にでも大切にさせる」
何だか保護者組がこそこそと言い合ってますね。なになに? やっぱり男らしさ溢れる女性として通じ合うものでもあったの? けど千冬さん。先に言っとくけど母さんはあんたほどチートじゃないよ。精々が素手でリンゴを簡単に潰せるくらい。うん。どこが大和撫子の美人だって話だ。アイアンクローとかされた日には頭痛が治まらなくなる。頭蓋骨凹むからやめてほしいです。
「あ、蒼。ほっぺにソース付いてる」
「マジか、どこよ?」
「ここ」
一夏がつんつんと右のほっぺをつつく。そんなとこにソース付けるとか俺は小学生か。仕方無いのでティッシュを一枚取り出して右頬の適当そうな場所にそっと当てる。一夏の示した通りなら多分ここなんだが。よし。多分拭けた。取れたかという確認の意味も込めて視線を向ければ、くすっと笑って近寄る一夏。え、なに。
「違うって。ほら、貸して」
「え。あ、うん……ほい」
言われた通りティッシュを渡す。受け取った一夏はそれを丁寧に畳んで整え、そっと俺の左頬を拭う。近い。何が近いって一夏の顔が近い。思わず少しだけ身を引いちゃったわ。いつまでもチキンな童貞の鏡。この不名誉な称号を捨てられるのはいつになるやら。最後にちょんちょんと軽く当てるようにして、まじまじと見詰めたあとににこぱーっと笑顔。
「うん。取れた」
「ぉ、おう。サンキュー……」
何だこれ。何だこれ(錯乱)。ちょっとお前スキンシップが明らかに友達の範囲を越えてない? 気のせい? どちらにしろ俺の心臓に悪いことだけは事実だ。夏休みにもごりごり削られたのに二学期に入ってもごりごり削られるとか聞いてないんよー。このままじゃSAN値がマッハで直葬コース。お前いい加減可愛いことを自覚しろや。だから唐変木なんだよ。
「中学生のくせに甘いなぁオイ」
「僕たちも似たようなもんじゃ無かったっけ?」
「一夏の明るい笑顔……やっぱりいいなぁ……」
一人方向性違うんだけど。
いち……かわ……(白目)パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだか、とてもいちかわいいんだ……(末期)
夢でポンポン持った一夏ちゃんにふれーふれーされながら必死に小説書いてたどうも作者です。多分精神状態おかしいんです許して下さい。あんな素晴らしい絵を描いてくださった絵師さんたちが悪い(褒め言葉)
みんなのために……はやく……イチャラブを……