もう少し、もう少し待ってくれ……駄目なら、臨時補給……させてもらいます……(白目)
その日の夜。言動はどうであれ大活躍をしたことは事実であり、これは祝うべきだと声を揃えた両親と織斑姉妹により俺の部屋でプチパーティー的なものが開かれる予定だった。そう、予定だったんだ。
「何か弁解はあるか」
「……いや、あの俺、少食なんで……」
「あぁ?」
「ヒイッ!? すいませんすいません!」
ガン飛ばすんじゃねえよ怖えなマイマザー。もっと気楽で緩やかにいこうじゃないか。そんな風に言えたのならどれだけ良かったことだろう。うちの母さんは怖すぎて逆らうことも出来ませぬ。眼を合わせた瞬間に駄目だコレって悟るくらい。おかしいな、うちの母さんは至って普通の女性な筈なんだが……。
「まともな食事も出来ねえのかお前は。インスタントだの栄養調整食品だの」
「べ、便利だから良くないっすかね?」
「は?」
「ナンデモねーです!」
言い訳は良いわけなかった(絶望)。ワイの不摂生なんて母さんにバレる訳ねーだろへーきへーきとか思ってたらゆっさゆっさ揺らす誰かさんが告げ口してくれやがった。なんてことしてくれんのお前。オイコラ、お前だよキッチンに立って鼻唄交じりに鍋振ってる美少女。ふぁっきゅーいっち。味方だと思っていたのに……オンドゥルルラギッタンディスカー!
「食費もきちんと渡したよな、諸々とは別で」
「うっす。きちんと受け取りました」
「浮いたそれを何に使った」
「…………ご、娯楽のために……」
「殺すぞ馬鹿息子」
「ひえっ」
何故だろう、一瞬凄い寒気が走った。そんな簡単に人を殺すことって出来ないと思うんだけど。つか自分の息子本気で殺そうとは思わないでしょ、普通。母さんが普通かそうでないかは置いといて。妙に迫力のあるものだからナチュラルにビビったわ。くそ、失礼だがやっぱりこの人を可愛いって思える父さんの感覚が分からない。これが愛のムチだって? 愛のナイフとかの間違いだろ絶対。
「と、父さん! 助けて!」
「残念。これはお父さんも少し」
「いやーッ!?」
父さんも敵に回してしまったらもうこの世に味方なんて居ません。あ、これ死んだわ。覚悟完了しちゃいそうだわ。この年で逝くなんてとても不運な人生ですね。長生きはしなくて良いからせめて童貞を捨てて死にたかった。誰か俺にDT捨てさせてくれませんか。男になりたいんだよ。ちくしょう。こんな理不尽があってたまるかってんだ。俺は、俺は転生者だぞ!?(踏み台感)こんなふざけた幻想今すぐぶち殺したい。そげぶやそげぶ。
「あの、一応蒼も反省してますし、今は私がご飯作らせて貰ってるので。えっと、今はその辺で……」
め、女神や。女神が美味そうな料理を持って降臨なされた。直ぐ側には付き人の騎士も見える。ただしものスッゴイパシャパシャフラッシュ焚いてるけど大丈夫かアレ。別にエプロン姿の一夏とか珍しくも何とも無いだろうに、千冬さんは本当分からん人だ。というかあんたこんな所に居ていいんすか? どこぞの学園の決戦人間兵器としての役割もあるんじゃない?
「……はぁ。だとよ馬鹿息子。精々感謝して責任とるんだな」
「うぇ? いや、責任って……」
「あぁ?」
「イエスマイマザー」
なんか良く分かんないけど取り敢えず肯定しておけ。そうじゃないと死ぬもとい殺される。うちの母さんなら殺りそう。いや、殺るぞ(確信)。なんてふざけてみたが実際は多分大丈夫大丈夫。ほら、これでも母さんは普通に女の子らしいから(父親談)。信じられないけど甘えてくる時とかあるらしいから(父親談)。きちんと息子のことを大切に思ってくれてるらしいし(父親談)。あれ、何だか目から汗が……。やだ、泣きそう。
「俺って愛されてるなぁ……」
「そんな死んだ目で言っても説得力無いよ、蒼」
言いながら隣に座る一夏。ふむ、そこはかとなく違和感があるな。気になって思い返し、そう言えばこいつはいつも正面に座るのだと気付く。成る程、いつも向き合ってるからコレジャナイ感が酷い訳だ。つーかぶっちゃけ近すぎなんだけど。フローラルな香りと一夏特有の香りの二つが混ぜ合わさった匂いもするし。うん。これは近すぎですわ……。
「……なんで俺の横に?」
「え? 蒼が空けててくれたんじゃないの?」
「違うわ。いや、誰情報だよそれ」
「千冬姉が……植里が隣空けてるぞって」
ふぁっきゅーちっふ。ただでさえこいつは最近不思議とスキンシップが増えてるのに、これ程まで近いとかなりヤバイじゃないですか。だって見た目完璧美少女だよコレ。おっぱいぷるんぷるんだよ。中身が男とか関係無くマジモンの女性なんだよ今は。それが今日一日でたっぷり理解させられましたよ、ええ。一夏はどう足掻いても女の子。少なくとも今はだけど。はよ戻れ。俺の精神の安寧のために。
「……まぁいいや。嫌じゃないし」
「嫌とか言われたら泣く自信あるよ?」
「ははっ、一夏の隣なんて嫌だわー」
「ふふっ、もぐよ?」
「ヒィァッ!?」
一体ナニをもいじゃうんですかねぇ……。エグいこと言わんといて下さい。せめてち〇こもいじゃうから☆くらい可愛く言ってくれると嬉しい。超期待。どれくらい期待しているかと言うともう物凄く期待してる。期待し過ぎて気体になっちゃうレベル。やべぇな、俺って気化できるのか。ふっ……これが転生オリ主の実力って奴だな……跪け雑種。むしろ自分は跪く側の雑種なんですがそれは。下らんことを考えてたら不意に肩をポンと叩かれる。振り返ればそこには笑顔の父さん。あらやだ奥さん、いつも優しい父さんがちょっと怖い。
「蒼、大切にしようね?」
「えっ……あの、それはどういう……」
「ん?」
「アッハイ。大切ニシマス」
やっぱりうちの家族はヤバイ。どこからどう見ても一般的なそれと違ってます。だからこそ俺もここまで普通にやれてるのかもしれんが。そう考えると逆に良かったと思うべきなのかもしれん。つっても母さんのスパルタ教育はマジで勘弁ですがね。もっと優しくして(建前)もっとォ!(本音)あ、いや、優しくする方の意味で。スパルタの方はもうこれ以上望んでないの。お願いだからこれ以上俺を殺さないで。
「意外。蒼って親御さんに弱いんだね」
「親に勝てる子供がいるかっつーの。ましてやこんな化け物夫婦だぞ」
「誰が化け物だって?」
「ナンデモナイデスナンデモ。だからやめて母さん睨まないでッ!」
勝てない(確信)。多分この先どれほど時間か経とうと母さんにだけは勝てる気がしない。あとちょっとでも怒ってる父さんとか。加えると最近一夏にも勝てなくなってきてる。おかしいなぁ、基本的身内に弱く他者に強い筈なんだが。ソースはどこぞの変態友人二号。もとりロリコン。何でも浅いところに入れた奴はそこそこの関係として済ませるが、深いところに入った瞬間溺愛するタイプだとか。知らんわ。ぶっちゃけそんな訳ねぇだろうに。俺自身今のところ溺愛してる人間なんて居ないと思うすぃ?
「あ……」
「ほい、醤油」
「え? あ、ありがと……良く分かったね」
「何ヵ月一緒に飯食ってると思ってんだ」
それとなくなんか分かるようになったわ。当たり前でもある。マジでこいつとばっかり飯食ってるからなぁ。しかもこいつの作ったものを。毎日そんなんで飽きないのかって聞かれると、普通に飽きないから困る。普通に美味いし結構色んなもの作ってくれるし。こんなんで飽きたとか吐かしてたら一生嫁さんなんて貰えねぇわ。先ず顔の容姿の時点で絶望的ですがねぇ! クラスメートの女子によると多少はマシらしいが。多少はマシ。それを目の前でバッサリ言われた俺の気持ちが分かる?
「うん。今日も一夏の飯は美味い」
「ふふっ、ありがと」
「これならどこへお嫁に行っても安心だな」
「お嫁って……ふざけないでよ」
じろっと睨んでくる一夏。ははっ、可愛いやつめ。母さんの殺されそうで死なされそうな視線に一日殆ど晒され続けた俺にその程度で威圧できる訳無いだろう。ちょっとその目を魔眼にしてから出直せ。モノを殺すってことを理解してから出直せ。なんなら教えてやろうか。
「まぁ、(植里がもらってくれるなら)安心だな」
ほら、千冬さんもこう言ってる。
「……
「大丈夫だよ。蒼は明確な事実さえ揃えばあとは安心だから」
ほら、父さん母さんもこう……ってどういう意味だそれ。全くもって理解不能すぎる。俺は別に不能じゃありませんけど。付け加えるなら、その後の一夏はちょっとだけ機嫌が悪かったと言っておこう。
やめて! 一夏ちゃんの可愛さで蒼の理性を焼き払われたら、同棲まがいなことまでしてる蒼の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで蒼! あんたが今ここで倒れたら、千冬さんや両親との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、イチャラブできるんだから!
次回「植里死す」デュエルスタンバイ!(大嘘)