一言だけ俺から言わせてもらいたい。マジか。
『あっくんといーちゃんへ。
やぁやぁあっくん、いーちゃん。元気にしてるかな? 尤もいーちゃんに至ってはちーちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど。はてさて、今回こうして手紙を君の部屋に置いたのは大切な理由があってね。さながら天災兎によるクリスマスプレゼントってやつだよ。その内容? 聞くまでもないよ。
──いーちゃんをいっくんへ戻す方法さ☆
気になる答えはこの手紙の側に置いてある指輪に隠されているのだー! そこにコードで繋がれた二つの指輪があるでしょ? それをいーちゃんの指にはめる。そしてもうひとつは“とある男性”の指にはめてもらう。するとあら不思議。いーちゃんはいっくんへ、相手方のあっく……げふんげふん、男性は女の子に! これぞまさにエキサイティングだね! メリークリスマス☆
篠ノ之束』
マジか。
「ねぇ蒼、これって……」
「……」
嘘吐きやがったなこの天災兎。三年間どころか一年もかかってないじゃねえか。これなら絶対あの時直ぐに作れたよな? 作れない訳が無いよな? しかも最後の名前だけ地味に達筆なのが余計腹立つ。死ね。ふざけてんじゃねえぞこのクソラビットが。その耳さんざんもふもふした後に引き千切ったろか。いや、先ずあれってもふもふ出来ないじゃん。潔く引き千切ろう。
「解決策みたいだな」
「そ、そう……だよね」
「……」
「……」
あぁ、うん。それでもきちんと一夏を元に戻すものを作ってくれたことには感謝する。感謝してやる。悔しいけど感謝せざるをえない。悔しいけど。だがそれもまた問題の一つだ。マジでどこまでふざけるつもりだくそみそラビット。もう少し真面目な思考回路は出来ないんですかねぇ……。天災に何かを望む時点で間違ってるか。どうせ天災に凡人の考えなんて分かっても理解出来ませんよ。
「…………」
「…………」
逆に言ってしまえば、凡人に天災の考えなんて分かりもしなければ理解も出来ない。つまり基本的凡人である俺にはあの人が何を考えてこれを作ったのかが分からない。確かに一夏を男に戻せるものなのだが、その為に一人の犠牲が必要となる。むしろこういうものは性転換希望だったり性同一性障害に悩まされている人に使うべきだと思うの。
「……はぁ」
「あ、蒼……?」
なのだが、果たしてあのクソ兎はそんな展開を許容するだろうか。既に出ている結果から分かる通りに許容する筈もない。ましてやご丁寧に自らの意向に沿えと指名してきやがった。ぼかしてる? いや、あからさま過ぎてプッツン行きそうですわ。死ね。言外に俺がやらないと駄目って伝えてきてるの本当腹立つ。死ね。この世に細胞の一片も残さずに死ね。
「よし。決まった」
「え?」
さて、植里蒼男人生最後の恨み言もこれにて終了だ。心の準備は出来ていない。覚悟なんて欠片も持っちゃいない。いわゆる勢いに身を任せる体勢というやつだ。大丈夫なんとかなるもうどうにでもなーれな気持ち。真面目に考えてたらそれこそSAN値がマッハで削れていきますわ。
「やるぞ、一夏。俺が相手だ」
「あの、ちょ、蒼!?」
スッと指輪をはめてそう告げる。早くしてくれ。今ちょっと勢いにのってるだけだから。後先考えずに行動してるだけだから。一回考え出すとマジで躊躇っちゃうからお願い早くしろよぉ! しかしながらそんな俺の思いもつゆ知らず、一夏は目に見えて狼狽える。
「ほ、本気なの……?」
「当然」
「……女の子に、なっちゃうんだよ?」
「大丈夫だ、問題ない」
大丈夫じゃない、大問題だ。
「……私は、いやだ」
「…………はぁ?」
「蒼が女の子になるのはいやだって言ったの」
「……お前、自分が何言ってるか分かってんのか」
自分自身が男に戻りたくないとかならまだ分かる。いや、出来ることなら分かりたくないが。けれども俺が女になるのが嫌っていうのは分からない。己が男へと戻れる唯一の方法なのだ。友人が進んでやろうとしているのなら先ず断ること自体あり得ないだろう。それをコイツは平然と、しかも自分以外の理由でやってのけやがった。なに考えてんだこの馬鹿。
「ねぇ、蒼。知ってる? 女の子って大変なんだよ」
「それくらい分かってる」
「本当に? 細かく理解して決めた?」
「いや、そうじゃないけど」
「……蒼」
ぐいっと一夏が迫ってくる。近い。鼻先の距離が縦にしたシャーペンひとつ分くらいしかない。当然の如くそんな近距離では瞳がばっちりと合う。透き通った綺麗な目が暗く淀んだ俺の眼球を映し出した。きったな。俺の目きったな。これはモテない訳ですわ……。
「私は蒼に同じ苦労を味わって欲しくないよ」
「なめてんのか。俺はそんなヤワじゃない」
「違う。蒼が弱くないって知ってる」
「……じゃあなんでだ」
そう一夏に問い掛ける。あれほど俺じゃあ無理俺じゃあ無理言ってたやつが何を吐かすと言われそうだが、人間ってそういうもんだ。無理だの出来ないだの言っておきながら土壇場では見事それをやってのける。必死になれば出来ることは多い。性転換したあとの生活だって何とかなる。いや、なんとかしないといけない。四月から奮闘してきた一夏のためにも。
「ッ……だ、だって」
「……?」
「──ああもうっ!」
がっしと一夏が肩を掴んでくる。え、なに。
「言うよ! 言う! もう言うから!!」
「ちょ、あれ、一夏?」
「鈍感! 朴念仁! 唐変木!」
「え、いや、えぇ……?」
この子盛大なブーメラン投げてることに一切気付いてないよ。それはこっちの台詞だ。女子からの好意に一ミクロンも気付かず千切っては投げ千切っては投げ。イケメンに鈍感属性を持たせた境地とは男子間で共通認識である。そんな鈍感で朴念仁で唐変木・オブ・唐変木ズな織斑一夏。ほら見ろ全部当たってるじゃねえか。
「蒼っ!!」
「お、おう。なに?」
「私、蒼のことが好きなんだよっ!!」
「まぁ……そりゃあ友達だしな」
「そうじゃなくて! そうじゃなくてっ!!」
ぐいっと一夏に襟首を掴まれて引き寄せられる。ただでさえ近い距離はほぼゼロ。無いも同然。つーか無い。うん。あれ、これって結構ヤバくないっすかね。このままじゃ頭突きとかかまされちゃう。絶対痛い。そう思うのも束の間。急に殺された勢いと引き換えに、ゆっくりとお互いの顔が近付いて──。
「んっ」
「っ!?」
近付いて。
「……こういう、ことだよ」
「お、おお、おまっ……!?」
近、付いて。
「分かったでしょ? 分かったよね? ねぇ?」
「いや、ま、待て、お前、い……はぁ!?」
ちか、づいて。
「“好き”なんだよ、蒼」
「え、あ、ちょ、ど、えぇ……?」
──お、おおおお落ち着けけけけけけ。待て待て待て待て待て待てステイ待てステイ待てステイ待て。いやちょっと待てやお前なにしてくれてんねん馬鹿じゃねーのマジでなに考えてんのこれでも一応は人生初ですよ人生初別に意識はしてねーけどこれ下手したらトラウマもんだぞおい馬鹿なにやってんだ馬鹿この馬鹿。
「お、俺は……お、男、だぞ?」
「知ってる」
「お前と、俺、は……と、友達、だったよな?」
「うん。私と蒼は確かに友達だよ」
だ、だよな! そうだよな! う、うん。ちょっとキャパオーバー起こしそうだけど、これも行きすぎたスキンシップだと思えば笑い話のひとつくらいに──。
「でも、好きなんだよ。蒼」
「い……一夏?」
「少し捻くれてて、素直じゃなくて、人をからかって楽しむ悪い性格で」
「あの、一夏? 一夏さん?」
「でも優しくて、頼み事を断れなくて、人のことを心配してて」
目と目が合う。
「元男とか、友達とか、そういうのは関係無くて。ただ一人の人として、織斑一夏として」
あつい。ただただそこに佇んでいるだけであつい。見ているだけで分かる。とても熱の籠った瞳。分かりやすい。こんなの誰でも分かる。それを向けられているのが自分自身なら尚更。
「私は、蒼が好きなんだよ」
まさか友人に告白されるなど、誰が予想しようか。
くぅ~疲れましたw これにて完結です!(嘘)
もうちっとだけ続くんじゃよ?(大嘘)
今日、知り合いに手の甲を見られて「お前死ぬんじゃねーの」とガチで心配されました。痩せすぎだそうです。え、手の甲って普通の状態で骨と血管くらいは見えますよね? うん。大丈夫大丈夫。
感想欄にて学園行く前に終わると思ってる方が結構いらっしゃるのですが、えっと、それでいいんすかね。てっきり学園書かなきゃと思ってたんですが
……え?