一夏♂「やめろよ箒。俺たち異性だぞ」キリッ
箒♀「いいじゃないか……異性、いいだろぉ」ネットリ
一夏♂「ちょ、ま、どこをあぁんっ♡」ビクンビクン
箒♀「一夏の一夏は可愛いなぁ……」ネットリ
そんな夢を見た、昨日の夜。
「しかしお前も運が悪いな」
「はぁ……」
ツカツカと前を歩く黒髪の女性から声が掛かる。ビシッとスーツを着こなした可愛いというより綺麗系のその人は何を隠そう世界最強。ブリュンヒルデ。関羽でお馴染み織斑千冬さんである。姉の顔を見て第一声があれはかなり酷いと思うの。どんだけ恐怖の象徴として君臨してたんだって話。尤も今のあいつは千冬さんに対して恐怖のきの字もないだろうけど。
「あの馬鹿に目を付けられてこれだろう?」
「……そーっすね。本当怠いっす」
本心から漏れ出た言葉は思っていた以上にどんよりとした気分にさせる。明らかに選択肢を間違えた。間違えすぎてしまった。アホ毛が特徴的なラノベ主人公の青春くらい間違えたんじゃなかろうか。やはり俺のIS世界に転生した人生は間違っている。
「あいつも随分酷いことをする。……いや、それは昔からだったな」
「もう駄目じゃないっすか……」
「アレと関わった時点で既に駄目だと思うが」
「それブーメランですよ」
さっきから束さんのことを「あの馬鹿」だの「あいつ」だの「アレ」だのと頑なに名前を呼ばない辺りその苦労と恨みが窺える。千冬さんも色々とやられたんですね(しみじみ)。謂わばこの人は俺の先輩とも言える人物である。ち、千冬先輩! 一生ついていきまっす! 実際そうなりそうなんですが……。
「正直なところ」
「……?」
「私への被害が軽いことに少し安堵している」
「うわぁ……」
やっぱりもうついていきません。千冬先輩がそんな人間だとは思わなかったよ。ちくしょう。自分があまり被害を被っていないからってそんな態度はねぇよ。ありませんことよ。俺だって好きで天災からの被害を受けている訳ではない。というかあの被害を好き好んで受ける奴なんて精々ドMか全力で束さんを愛せる人だけだと思う。恋愛感情的な方で。あの人の理不尽は裏を返すと愛情表現とも言える……かも、しれない、多分、恐らく、凄く曖昧な捉え方をすれば。
「私だって目を付けられた被害者の一人だ。人生最大の失敗だよ、あんなのと関わったのは」
「言ってる割に楽しそうですね」
「同じ被害者の様子を見るのが案外面白くてな」
「人の不幸は蜜の味……」
確かにそうは思うけど。自分に向くと心底嫌気がさすのに同じ境遇の誰かに向けられている様は実に愉快な気持ちにさせられる。なるほど、これがメシウマってやつですね! 天災の被害で今日もメシが美味い! 尚、結構な確率で己にも向いてくる模様。あの人もう自然災害として登録すればいいんじゃないかな。明日はくもりのち雨で時折天災も現れるでしょう。なにそれ警戒体制しいとかなきゃ(確信)。しかし警戒していてもそれを突破するのが天災。結局どうしようもない。
「さて、ついたな」
「すいません。腹痛が痛いので帰っていいですか?」
「駄目だ。そして日本語をきちんと学べ」
「ず、頭痛がするんで早退……」
「あぁ、ここでは織斑先生と呼べ、植里」
「最早無視っすか……」
酷いや、千冬さん。俺の懇願するような視線をもスルーしてさっさと教室へ入っていく。あ、やべ。マジでお腹痛くなってきたんだけど。真面目にこれ帰っていいかな? というか帰らせてください。日常へ。俺の愛すべきありふれた日常へ。あ、教室の中の一夏と目が合った。小さく手を振ってくる。うん。ちょっとだけ救われた気分。サンキュー。
「あはは、安心s胃ががががが」
はてさてお気付きの方もいるだろうが、今俺のいるここはIS学園。99.9%の生徒が女子であるこの学園は、文字通り女の園と言っても過言ではない。その残った0.1%の汚物が俺です。どうしてこうなった。その理由は数週間前に遡る。と、その前にひとつだけ。
死ね、クソうさぎ。
◇◆◇
『──って事があってね、珍しく数馬が狼狽してたよ』
「へぇ、そりゃまた面白そうな事を」
こうして一夏と通話するのも既に二桁を越えた。予想通りというかなんというか、案の定二日に一回のペースなんて一度連絡手段を持ったこいつが耐えられる筈もなく。めでたいことに俺の計画は破綻。平均一日一回の時折昼間と寝る前で二回という普通の生活をしているなら地味にハードな所業を強いられている。俺は、一夏と過度に通話することを……強いられているんだ!(集中線)
『あはは……蒼は、まだ帰れないの?』
「ん? あぁ、束さんに聞いてはいるんだけど、なんか返事が曖昧でなぁ。それと」
『それと?』
「……最近、機嫌が悪いんだ」
これ。マジでこれ。最近の束さんは明らかにご機嫌斜めである。一回あの強烈な悪者顔で「ちょっと黙っててくれるかな?」って言われた時は軽く死を覚悟した。ちょっとじゃなく永遠に黙らされるのかと思った。めっちゃ怖かったです。その後に直ぐ様正気に戻ったのか「あ、ごめんごめん! そういうつもりじゃ無かったんだよ! ちょっと束さん的によろしくない事が続いてストレスが溜まってただけで、あーもう本当さっさと条件のんで言いなりになってろよクソ政府どもが」なんて言いながら頭を撫でてくれたが。あの時だけは束さんに目を付けられてて良かったと思う。
『束さんでもそういう時ってあるんだね……』
「人間アピールもいいとこだ。勘弁してほしい」
『確かに私も不機嫌な束さんとはちょっと』
「だろ? お陰で最近胃がキリキリする」
このままじゃ胃薬使っちまいそうだよ。俺も将来胃薬が手離せない系キャラになるのだろうか。嫌だな、絶対不健康な生活を強いられる。俺は不健康な生活を……強いられているんだッ!!(集中線)はいはい天丼天丼。個人的に天丼より牛丼の方が好み。重いけど。安定した価格と美味しさ、いいよね。重いけど。
『えっと……大丈夫?』
「お前の声聞いてるから大丈夫」
『ふふっ、なにそれ』
「一夏の声で癒されるってことだよ」
言えば向こう側からの音声がぱったりと途切れる。あら? もしかして充電切れた? そう思って画面を確認してもまだ80%はある。電波も良好。通話状態も継続中。ふんふむ。不思議に思って再び耳に当てると、小さく呻くような声が聞こえた。うん。大丈夫そうだ。
「どうしたー。大丈夫かー?」
『とっ、唐突にそんなこと言わないでよ。恥ずかしくなるじゃん』
「あ、すまん。……一応本音なんだが」
『だからこそだよっ』
ですよねー。まぁ分かってた。一応これは会話の主導権を握るための練習である。一夏ちゃんってば主導権渡しちゃうと本当手が付けられなくなるからね。上手くこちらが握っておかなければやられてしまう。無理矢理奪われる時もあるが。しょうがないね、植里くんは基本貧弱な男だからね。貧弱貧弱ゥ! 俺ごときの抵抗など無駄なんだよ無駄無駄ァ! 「
「まぁ、こっちはそんな感じで苦労してる」
『そ、そっか。……助けてあげたいんだけど、ね』
「こうして話してくれるだけで十分助かってるよ」
『な、なら、良かった……かも』
なんて話していた時。ふと俺の携帯に押し当ててない方の耳が何かの音を拾う。むっ、これは明らかに足音。しかも近付いている。近付いているぞ。凡人の俺にでも分かるくらい大きな足音で近付い──ってこれもう直ぐそこじゃね? あ、嫌な予感。思った瞬間にバーンと開く部屋の扉。入ってきたのは当然。
「あーっくぅーん!!」
「げぇっ! おっぱい!?」
『蒼ッ!?』
「えへへ、あっくんあっくーん」
がばりと抱き付いてすりすりしてくるおっぱい。間違えた束さん。おっぱいがでかすぎて束さんがおっぱいなのかおっぱいが束さんなのか分からなくなる。どっちでも天災だから関係ねーな。
「ど、どうしたんですか、そんなテンション上げて」
「喜びなよあっくん! ISを起動したことによって消えようとしていた君の人権とか安全とか名前とか存在とかを死守できたのさ! 尤も国籍とかそこら辺はアウトだったけどっ☆」
「へ、いや、いつの間にそんな……」
「いやぁ、やっぱり最初から脅しておけば全部丸く収まったよね! 変に会話なんかするとレベルが低すぎて疲れちゃうよ」
俺の知らない間に俺の存在が消えようとしてた事に驚きを隠せないんですが。え、なんなの。男なのにIS動かせるってどんだけ凄いことなの。原作一夏って普通に過ごしてた気がするんだけど。あ、あれは身内に世界最強がいるからか。やっぱり千冬ネキ有能。
「……あれ、てことは身の安全は……」
「うん。確保されたよ。いやー、これで取り敢えず第一関門突破だね。早速次の段階へ行っちゃおー!」
「え?」
「ん?」
『へ?』
あれ?
「……帰れないんすか?」
「当たり前だよ。まだまだやることはイッパイあるんだから♡」
「(白目)」
『あはは……。が、頑張って、蒼』
イッパイ。どうせならおっぱいが良かったです。天災てめぇその豊満なおっぱい寄越せやコラ。そんなこと言うとダブル、もしくはトリプルにやばい状況を引き起こしそうなので言わないが。天災からの同意&交換条件。一夏からの無言の圧力。千冬さんからの本気の殺意。死んじゃう。
いつの間にか五十話を突破していたようで、よくここまで続いたなと自分で思いました。うん。単純に考えると五十日も連続投稿。馬鹿じゃねーのこいつ。だから最近周りの人に体調を心配されるんだよ。
ともかく、これからも頑張っていきますので何卒よろしくお願いします。どうか暖かい目で見守ってください。