「い、一夏」
「うん。久しぶりだね、箒。六年ぶりだっけ?」
「……あ、あぁ、そうだな」
「すぐに分かったよ、昔からその髪型だもんね」
「蒼ぉ!!」
ひしっと
「ほ、箒さん、ちょ、あの」
「何故だ。これは誰だ。私の知る一夏ではない」
「えっと、正真正銘一夏なんすけど……」
「ならどうして女みたいな喋り方なんだッ!!」
くわっと目を見開いて迫る箒さん。怖い。ちょっと一旦落ち着いてよもっぴー。幾ら理不尽になれている蒼くんと言っても物理的火力が段違いな貴女には強引な手段を容易にとれないのよ。千冬さんとかになると以ての外だが。熟練者の振るう木刀より強い生身って一体何なんですかね。ISの身体補助機能なしでIS専用ブレード振り回すとかなめてんの?
「そ、それには深い訳があってですね……」
「……一応聞いておく」
「えっと……あ、あはは……あの」
「さっさと言え」
これ言ったら俺殺されるんじゃね? 今は手ぶらで何も持ってないけどいきなりどこからともなく真剣とか取り出して
「これは蒼のために……ね?」
「貴様が原因か。答えろ蒼」
「一夏てめぇ!!」
なんてやつだ。俺の怒声もスルーしてふんとそっぽを向く。不機嫌モード全開ですね。俺もそろそろキレちまいそうだよ。よく考えたら何も悪いことしてないのに攻められる立場なのだから当然。何度も言うように俺は悪くない。悪いのは天才であって俺は無関係なのだ。全てはやつの責任。この世全ての悪とも言える。いや、それは言えねーか。くさっても世界を変えた天才だし。
「なぁ、どうなんだ蒼。答えてくれ」
「……え、えっと、その拳はなに……?」
「返答次第によってはお前の腹にこれをぶち込む」
「俺は関係ありませ──ッ!?」
そこまで言ったところで箒さんの拳が揺れる。あ、殺られる。ぐいっと引き絞られる右腕。ぐぐっと主張するおっぱい。さらさらと靡く黒髪。状況観察これだけ出来てるとか案外余裕じゃねーか俺。そこまでの恐怖を感じていないということか。確かに幾ら天災の妹と言っても同一の存在でもなければ大人な訳でもない。篠ノ之箒さんは未発達な女子高生である。エロい。
「嘘を」
「ッ!?!?」
「嘘を、つくなよ……」
当たるかと思えばまさかの寸止め。うおおおおおこええええええ。むしろ直撃より嫌な怖さがある。拳圧がぶわって来た時なんか思わず変な声出そうになったわ。箒さん怖い。がったがたがたきりばーと震えていればジロリと睨まれた。はい、すいません。
「いっ、いや、それはあの、はい。俺の責任というか、なんというか。えっと」
「はっきり言え」
「俺の責任ですすいません」
「スゥー……ハァー……。衝撃のォ!!」
腹に来るぞ! 気を付けろ!
「ファーストブリットォォォオオ!!」
「ぶほぁっ!?」
「あ、蒼が吹っ飛んだ」
どんがらがっしゃーん。ドアを越えて廊下にまで転がっていく俺氏。どうにかして体勢を持ち直すも腹のあたりが地味にジンジンして痛い。一応手加減してくれてるあたり箒さんは優しいなぁ。とか一瞬思ったが全然優しくなかった。ちらちらと周りを見渡せば客寄せパンダ(自分)を見に来た先輩たちが数名。というか大勢。他クラスのやつらが数名。というか大勢。結論。大勢の女子からじーっと見られた。これならいっそ意識ごと持っていって欲しかったです。
「……ど、どもです」
「あれが世界初の男性IS操縦者……」
「なんか変わった子だねー」
「てか殴られてなかった?」
「知ってる? 彼女持ちらしいよ」
「リア充死ね。あと死ね」
そそくさと教室に入る。無理。あんな状況耐えられない。ひそひそ話とか駄目なタイプなのよ。被害妄想が激しいとも言う。キモい。だからこいつ前世で彼女出来なかったんだよ。まさか転生して出来るとは夢にも思わなかったが。かなり特殊な人種だけど。普通に考えたらあり得ないような存在だけど。
「蒼は人気者だね?」
「馬鹿言うなよ一夏。珍しいだけだろ……つか目が怖いんだけど」
「……む」
「ん? どうしたの箒さん」
聞けばビシッと指差してきた。なに? 直々にぶちのめしちゃうの? オラオラされちゃうの? 幾らなんでも理不尽すぎやしませんかね。そんなことされたら怒らないことに定評のあるかどうか分からない微妙なヘタレの俺でもキレちゃうよ? ヘタレがキレたところで別に怖くねぇな。
「それだ、蒼。今気付いたが」
「それって……この眼鏡?」
「違う。お前、スムーズに話せるようになったんだな」
「あ、うん。一夏のお陰だよ」
こればっかりは本当こいつに感謝である。吃りに吃りまくっていた俺がこうまで自然に女性と話せるようになった。この恩恵はかなりデカイ。マジ感謝。最早感謝しすぎて一夏が神格化するまである。女神イチカ。対になる夫がいたとすれば凄く共感できそうだ。多分嫁さんの尻に敷かれてるんだろうなぁ。分かる分かる。
「一夏の?」
「こいつが女みたいな振る舞いで接してくれたからな。いつの間にか耐性がついたらしい」
「……なるほど、それでこうなった訳か」
まぁ、他にも蘭ちゃんだって結構助けてくれたんだけどね。それを言ってしまうと箒さんはともかく一夏の地雷を盛大に踏み抜いてしまう恐れがある。蘭ちゃんと弾が家に来てあんなことしてただなんて恥ずかしいのと怖いので言えない。特に言ったあと。どんな反応が返ってくるのか分からないのが本当もう駄目。
「……しかし、そうか。蒼に何か違和感を覚えたわけだ。うむ。眼鏡、似合っているぞ」
「お、おう。サンキュー……っす」
「……なにデレデレしてるの」
「してねーよ!?」
ちょっと不意打ち気味だったからビビっただけだ。嘘と言いたげにじとっと睨んでくる一夏をスルーして頭をがしがしとかく。やっぱ褒められるのはなれねぇな。どうしても恥ずかしくなる。つか慣れてしまう環境にいたら最早それは俺じゃない。「カッコイイね!」に対しての返答が「いえ、別に……」な時点でお察し。「よく言われます」とか言ってみてーわ。
「複雑な気分だ。私の言動で嫉妬させてしまう……とても複雑な気分だ」
「全部お姉さんにぶつけたら良いかと」
「……だな。今夜は姉さんを寝かさない」
おぉ、箒さん積極的。なんて思ったところへ二時間目の開始を告げるチャイムが鳴る。なんだかんだでちょうどいい。世界最強が来てからでは遅いのでその前にじゃあと別れを告げて席に戻った。時間にルーズなようでは現代社会を生き抜けないもの。
──ちなみに原作で一夏の撃沈した二時間目の授業内容だが、見事に一夏ちゃんはパーフェクト理解。俺は原作を見習って撃沈となった。後で教えてもらう約束です。
いち
かわ