「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、植里はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
ぱんと手を打つ千冬さん。良い音やな。あの人が本気だしたら多分鼓膜が破れるくらいの衝撃を出せそうだけど。すまん、鼓膜が片方破れて聞こえないんだ。ともかくとしてうちのクラスの雰囲気がヤバイ。特に俺の彼女と原作ヒロインの間がヤバイ。どれくらいヤバイかって言うと明日までが提出期限の書類を夜寝る前に思い出して慌てながらやるくらいにはヤバイ。めっさヤバイ。
「先生、その日は用事があるので辞退します」
「ほう。どんな用事だ、言ってみろ」
「………………束さんとお茶を」
すぱこーん。
「すいませんでした」
「下らない嘘を吐く暇があるなら学べ。それでもこいつの彼氏か貴様」
「はい、はい。ごもっともです」
言ってビシッと一夏をさす千冬さん。うん。今のは俺が悪かった。言い訳として他の女性を出す辺り特にダメダメですね。一夏からのジト目がそれを語ってる。なんとなく予想はしてたけど、想像以上に一夏へ負担がかかっているような。気のせい? いや、気のせいじゃない。ぶっちゃけ俺ってそんな信用ならんの? 心のうちで涙目になりながらそう考えていれば、女子の一人がそっと手を上げる。
「……あの~、織斑先生」
「なんだ」
「織斑先生と織斑さんって」
「あぁ、…………姉妹だ」
ちょっと迷いましたね千冬さん。
「ち、千冬さまの妹っ!?」
「いいなぁ……代わってほしいなぁ……」
「姉は世界最強。整ったルックス。そして彼氏持ち。こっちもリア充か……」
「まるでリア充のバーゲンセールだな」
そんな超サイヤ人みたいに言わんでも。つか俺は別にリア充ではない。どっちかと言うとリア充(笑)に分類される。もっと言うと非リア(笑)なんて宣ってた時代があったほどだ。つまるところ結論を言えば植里くんは決してリア充ではない。一人の彼女作るまでに人生一回終わらせてんだぜ……? 俺の恋人をつくる道筋ハードすぎない? 途中選択肢で異世界転生(確率で成功)とか外した瞬間永遠の眠りにつくじゃねーか。そう考えると今生きてることって素敵。生命に感謝。粉塵にも感謝。ふんじんはやく! やくめでしょ!
「静まれ。別に家族だからと言って優しくしたりはしない。その辺は分かっているだろう、織斑」
「うん、分かってるよ千冬姉──いたっ」
「……織斑先生だ。気を付けろ」
ぽすんと頭に優しく出席簿をあてる千冬さん。おい、それは完璧に優しくしてるだろ。言い逃れも出来ねぇぞこの馬鹿姉。身内に優しいんなら俺にも優しくしてほしいです。一応一夏の彼氏ですよ千冬さん。思ってから原作の方の扱いを思い出した。ねーわ。マジねーわ。
「千冬さんそれ身内贔屓ですよ──ッ痛ぁ!?」
「織斑先生だ。それにほら、身内に厳しくしているだろう?」
相も変わらず出席簿ですぱこーんと頭を叩かれて痛がる俺氏。ニヤリと笑みを浮かべて俺の言い分を否定する千冬さん。身内と見てもらえて嬉しいことではあるが純粋に喜べない不思議。うん。確かに厳しいですね。ぼくが間違ってましたよええ。千冬さんが贔屓するのは一夏♀に対してだけだもんな。それでも十分駄目だと思うが。
「以後気を付けろよ植里。織斑も二度目はない」
「……うっす」
「はい」
一度は許される時点でお察し。次へ次へと引き伸ばされるのもお約束。一度あれば二度目が来る。そして二度あることは三度ある。やっぱ一夏って色々と恵まれた環境にいるよなぁ。天災との関わりを除けば。
「それでは今度こそ授業を始める」
考えてみると俺ってば完全に原作一夏の下位互換なのね。なんか悲しくなってきた。勝ってる部分が彼女持ちな部分くらいしかない。頭のよさは辛うじて前世知識で勝っているか。コミュ力はあちらが圧倒的に上。イケメン度も限界突破。才能は宝物庫かと思うほどある上に身体能力も高い。おまけに家事スキルは専業主
◇◆◇
「終わった……」
「お疲れ、蒼」
放課後。色々と精神的苦痛の重なった俺には最早元気の欠片も無かった。『げんきのかけら』は欲しい。瀕死の植里くんのHPを半分回復してくれ。もしくは『げんきのかたまり』でも可。
「やべぇわ……IS凄いわ……凄い訳分かんねー」
「束さんの所でちょっとは教えてもらったんじゃないの?」
「あれを教えたとは言わない。こちらの理解を前提にして話すからまるで意味分からん」
「さすが天才……」
いや、天災。学園から届いた入学前の参考書を「こんなものを読むより私が教えた方がいいに決まってるよねっ☆」とか言いながらゴミ箱へシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!! してくれた。お陰で千冬さんとどうにか連絡を取って用意しておいて下さいと頼むことに。仕方がないという風に了承されたので良かったが。しかしながら本当マジ天災。教えられたけど何言ってる全然分かんなかった。頭がどうにかなりそうだった。原作知識とか専門用語とか、そんなチャチなもんじゃねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
「あ、植里くん。まだ教室にいたんですね。良かったです」
「ん?」
名前を呼ばれてそちらを向けば、我等が副担任山田真耶先生が立っていた。常々思っていたが実物はやっぱりインパクトがある。でかい。どこがとは言わないが。いや言ってしまおう。ここで変に伏せておいてはそこらのスタイリッシュ転生者と同じではないか。俺らしくない。山田先生。おっぱいが凄く……大きいです。一夏につねられた。痛い。
「……バレバレだから」
「すいません」
「? ??」
どうやら山田先生の方は気付いておられなかった様子。いや、本当すいません。ごめんなさい。つーか何で一夏にはこうもバレるんですかね。なんなの、超能力でも持ってんのお前。そして今日だけで何回嫉妬してんだお前。マジでそんな信用ならんか俺。これはちょっと話さないといけない希ガス。やだ、植里くん強気。
「えっと、どうしたんですか、山田先生」
「あ、はい。植里くんの寮の部屋が決まりました」
あ、うん、知ってた。部屋番号の書かれた紙とキーを受け取る。それを見ていた一夏が横で「あ」と声をあげる。え、なに。なんかあったの。ちょっとビビりながら振り向けばなんとも嬉しそうな表情をしている。どうしたお前。
「私と一緒の部屋だよ」
「……マジ?」
「うん、マジ」
愕然。感じるのは明らかな手回し。千冬さん、あの人ついにやりやがったな。一体どんな手を使いやがった。恐らく単純な
「誘拐とか勧誘とか、あとハニートラップなど諸々の危険性を考えると、関係・実力共にしっかりしている織斑さんが一番だと織斑先生が……」
やはりやりやがったぞあの世界最強。
「千冬さんェ……」
「千冬姉は……うん。まぁ、ね?」
「あ! でも不純異性交遊はだめですからねっ!?」
「わ、分かってます」
「不純異性交遊……」
ぼふっと赤くなる一夏。お前って意外と初心だよな。それでも男かっつーんだ。まぁ、唐変木・オブ・唐変木ズだからしゃーないとも言える。
「そういえば荷物とかは……」
「先ほどお前のご両親から送られてきたぞ」
あ、ダースベイダー。違う違う。千冬さん。しかしながらそうか、母さんと父さんが態々……ありがとうございます。最近連絡が疎かになってる息子を許してください。生存報告はきちんとしたけど。一瞬親に部屋を漁られたと考えて嫌な予感がしたが、よく考えれば
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時。寮の一年生用食堂でとってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使う時間が違って……と言っても植里くんは使えないんですけどね」
「あ、はい」
正直シャワーだけでも大丈夫っちゃあ大丈夫。日本人として湯船に浸かりたいところではあるが。やっぱりお風呂って偉大だよ。一日の疲れがとれる気がする。日本に産まれて良かった。お風呂イベントはアレですけど。精神的に辛かったですけど。
「それじゃあ私たちは会議があるので、これで。植里くん、ちゃんと寮に帰るんですよ、道草くっちゃダメですよ」
「うっす」
「返事はきちんとしろ」
「……はい」
きゃー、千冬さま怖ーい。うん。キモいな。自覚症状はある。産まれた時から。
「……行くか、部屋」
「うん、そうだね」
「箒さんも行かないっすか?」
「……あぁ、なら同行させてもらう」
こくんと頷いて立ち上がる箒さん。彼女なりに色々と話したい事とかあるだろうし。ふふん、どうよ、気を遣える男植里くん。気を遣える男はモテるってどっかの雑誌で書いてた。おい、誤情報を載せんじゃねえよ。別にモテねーじゃねえか。せめて※ただしイケメンに限るくらいは入れとけ。
不純異性交遊、ダメ、絶対。
18歳以下のエロ本購入、ダメ、絶対。
イチャラブセックス、あ、それなら別にいいんじゃないっすかね(すっとぼけ)