俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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おはようからおやすみ(死)まで千冬。

「蒼ー?」

 

 新しい朝が来た。希望の朝だ。さて、ラジオ体操でもしますかね。起きて早々にそんなことを出来るほど植里くんは強くありません。むしろ弱い。朝の陽光で体が燃え尽きるくらい弱い。ぐあぁぁぁぁぁぁぁ! からだがはいになっちゃうのぉぉぉぉぉぉぉぉ! まるで吸血鬼みたいですね。大丈夫大丈夫、引きこもり予備軍はみんな太陽の光に弱いから(震え声)。日光を浴びると途端にテンションが下がってやる気もなくなる。夜になると変な安心感に加えてテンションがアゲアゲになる。もう立派な夜型人間。深夜のテンションは偉大。

 

「朝だよ、起きないの?」

「……あと五分……」

 

 朝? なにそれ美味しいの? 出来ることならこの布団の中でぐっすりと惰眠を貪りたい。起きたくない。学校に行きたくない。女子からの刺さるような視線を背に授業受けたくない。もうなにもしたくない。寝て起きて寝る。それが私の生き様だっ! 植里蒼十五歳。将来の夢は自宅警備員です。……リアルにそれを実行しようと考えたら途中で五回くらい死んだ。一回目は千冬さんに殴られて死亡。二回目は千冬さんに蹴られて死亡。三回目は千冬さんに突き飛ばされて死亡。四回目は千冬さんに抱き締められて死亡。五回目は千冬さんに空中コンボされて死亡。全部千冬さんじゃねえか。

 

「……千冬姉に怒られるよー」

「オハヨウゴザイマスっ!」

 

 がばっと起き上がって一言。いやぁ、良い朝ですね! 清々しくて寝起きもばっちりだよ! 別に冷や汗なんてかいてない。想像したら死ぬ瞬間だったとかそんな事はない。いかんいかん、千冬さんを悪い方向にイメージしすぎだ。昨日の教師モードが強すぎて引っ張られている。いつもの千冬さんは普通に優しい人ですから。俺みたいな凡人に対しても平等に接してくれる良い人だもの。優しくない筈がない。その優しさを適応してくれと切実に思う今日この頃。はい、二日目です。

 

「おはよう、蒼。ほら、さっさと着替えて。朝ごはん食べに行くよ」

「お、おう。分かった……けど、その起こし方はどうなのよお前」

「起きない方が悪いよ。……嫌なら今度から別のにするけど?」

「ならそれで頼む。マジで心臓に悪いわ」

 

 思わず「千冬さんが来るよぅ!」って叫ぶところだったわ。その後の展開は読めている。背後から漂うオーラ。殺意の漲った声で「私が、どうしたって?」と聞かれたが最後。振り向き様に一発ぶち込まれて人生お疲れさまでした。火力的には抜刀大剣溜め三や4G準拠の高出力くらいありそう。

 

「言ったね? 言質はとったよ」

「え、ちょ、何を企んでやがるお前」

「さぁね? まぁ、楽しみにしておいてよ」

「……なんだか嫌な予感が」

 

 勘弁してくれ。女性に慣れてなんとかなると思ってた? 残念! 慣れても完全に直ったわけじゃなかったよ! ふざけんな。全くもって面倒なものを引っ提げてますねこいつは。一番IS世界に転生させちゃいけない人種だと思うの。どちらかと言うと男ばかりの世界に転生……させると途端にホモォの香りが漂うからやめとこうか。うん。よし、ISの世界に転生できて良かった!

 

「なにしてるの蒼、はやく」

「ちょっと待てよ。ったく……」

 

 そそくさと寝巻きから制服へ着替える。うーん、この服に着られてる感。似合わなさすぎて周りから変に思われてないか心配だよ。やっぱりこれは一夏専用の制服なんやなって。これをきっちり着てばっしり決まるとか流石だぜイケメン。崩したら崩したで担任様からのありがたいお叱り(物理)が待ってるしなぁ……。

 

「ふぅ、お待たせ……って、箒さん?」

「うむ。おはよう、蒼」

「あ、うっす。おはようです」

「箒も一緒に行こうって。良いでしょ?」

 

 まぁ、断る理由が無いしな。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「む、これは美味しいな」

「うん。鮭もご飯も良い感じ」

「おぉ、マジでうめぇ……」

 

 朝八時。一年生寮の食堂。三人揃って和食セットを頼んだわけなのだが、それについての感想がこれである。三人とも結局のところ美味いとしか言ってない。さすがだぜIS学園。世界各国から生徒を受け入れているだけはある。食事レベルもトップクラスということか。美味い飯食って難しい授業を受けて厳しい訓練する。素晴らしい環境じゃないか。アメとムチの比率が1:2なところとか実にそう思う。人間、少しのアメさえあれば大抵頑張れるからね。

 

「あ、そういや箒さん」

「む? ……んっ。なんだ」

「束さんとはなにか……」

「あぁ、そういえばそうだな」

 

 言いながらもぐもぐとご飯を口に運ぶ箒さん。こう見ると凄い礼儀正しくて凛とした大和撫子だよなぁ……じゃなくて。そんなのは一々言わずとも昔から分かりきっていることでして。いやいや、そこスルーしちゃいけないよ箒さん。なして何事も無かったかのように食事に専念してんの?

 

「箒さん? あの、束さんとは……」

「そうだな。それもISだな」

「箒さんっ!?」

「あぁもう、分かった。話すから落ち着け蒼。ひっひっふー。ひっひっふーだ」

「箒、それ産まれるやつだよ」

 

 ひっひっふー。男がやったところで何の意味が。普通に深呼吸をさせたんでいいんじゃないっすかね。その前に何か問題がある気がするけど分かんないから別にいっか。特に大した問題でもないだろう。ノープロブレム。無問題。つまり問題なんて無かった。いいね?

 

「なんか面白そうだったから」

「へ?」

「それが一夏を女にした理由らしい」

「そ、そうだったんだ……」

 

 嘘吐けクソウサギ。絶対裏があるって分かってますよ。腐っても天災にして天才。緻密に練られた計画がうんたらかんたらって理由なんだろ。知ってる。でもあの人の性格を考えるとそんな理由だとしても実行しかねないから否定できない。マジで面白そうとかいうだけで女にされたらたまったもんじゃねぇだろ。キレるぞ一夏。比較的俺に対して以外は温厚な一夏がキレるぞ。いや、セシリアさんの件を見るに俺以外でも温厚じゃないな。

 

「もう、なんだ。どうでも良くなった。一夏が女? 蒼と付き合ってる? 別に良いさ、好きにすれば良い。私には関係ないことだ」

「箒さんが諦めの境地に立ってる……」

「ちょっと箒、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。大丈夫だ」

 

 どう見ても大丈夫じゃないんですが。基本的に大丈夫じゃないと言う人は意外と大丈夫で、大丈夫と言う人はマジで大丈夫じゃない。比べてみると分かる。大丈夫かという質問に対して「もう無理……」とか言われたら「あ、こいつあとちょっといけるな」って思うのに対して「だ、大丈夫、です……ッ!」とか言われると「もう休め」なんて言いたくなる。甘い。

 

「えっと、辛かったら愚痴ぐらい聞きますよ?」

「ありがとう、蒼。今度お邪魔させてもらう」

「あ、マジであるんすね、愚痴」

 

 即答ということはかなり溜まってるんだろうなぁ。全部受け止めきれるかなぁ。途中から憂鬱になってくる未来しか見えない。やっぱよく考えずに提案するのはいけませんね。あとあとろくな目にあわない。つっても言ってしまったことは仕方ないのできっちり箒さんの愚痴は聞きますけども。いつかIS学園の愚痴を聞いてくれる人とかになるんじゃなかろうか。さすがにそれはねーな。なんて考えていたらツンツンと脇腹を肘でつつかれる。犯人はもちろん一夏。

 

「蒼が優しいのは知ってるけどさ、程ほどにしなよ」

「や、別に優しくねーよ。普通だフツー」

「……惚れられたらマズイらしいのに」

「? なんか言った?」

「別になにも」

 

 空耳か。なんか言ってた気がするんだけど。ともかく学園生活二日目。気合い入れていかなければ。気合い! 入れて! いきます!





かゆい

うま

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