二日目の授業。思い出したくもないような初日の授業とはうってかわり、案外最低限の理解は出来た。これも一夏に教えてもらったお陰か。理性を応援するのに必死で半分くらい聞いてなかったけど。やっぱ少しでも分かってくると安心感が半端ないわ。やっと絶望の淵から救い上げられた感じ。尤もIS学園という地獄からは抜け出せませんでしたがね。糸は、お釈迦様の垂らしてくれる蜘蛛の糸はどこですか!?
「ところで植里、お前のISだが」
「あ、えっと……」
「
「……らしいっすね」
俺のIS、天災が自ら作ってくれるってよ! やったぜ。なんて簡単に喜べる筈もない。喜べるのはあの天災と関わってない一般人くらいだ。良いよな、世の中には知らない方が得することって多いんだぜ。俺だって知ってはいても体験したくはなかった。やはりあれか、豆腐メンタルだからいけないのか。植里くんがこうなったのは豆腐メンタルがすべての原因か。多分違う。
「専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援♂が……」
「あぁ^~いいっすね^~専用機」
正直専用機を貰ったところで「え? 大丈夫? 俺だよ?」という思いしか浮かんでこない。マジで大丈夫なのか日本政府。俺だよ? 資料見たら分かる通りごく一般的な普通の人間だよ? いくら天災に脅されたからって流石にそれは……あ、天災に脅されたからか。なら仕方無いね。世界のパワーバランスを軽く崩壊させるあの人に脅されてまともに対応できる国があるだろうか。いや、ない(反語)。
「一応データ収集という目的は伝えた。が、どうなるかはあいつの気まぐれだな」
「神のみぞ知るってやつっすね」
「どちらかと言うとあいつのみが知るが」
つまるところ俺の機体がまともか否かという点はその日の天災の気分によってがらりと変化するのだ。今日は天気が良いからチート性能にでもしよっかなーだったり。はたまた今日は天気が悪いからとびきり扱いづらくてとびきり勝ちにくい性能にしようだったり。そうなったが最後、どう足掻いても植里くんは勝利の二文字を掴めない負け犬人生まっしぐら。わんわん吠えまくってしまうかもしれない。弱い犬ほどよく吠える。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして……」
そんな時、一人の女子がおずおずと手を上げてそう尋ねた。ふむふむ。これは盛大に地雷を踏み抜いた予感。箒さんと束さんの間柄はお世辞にも宜しいと言えるものではない。少なくともこの時期の原作ではそうだったと覚えている。ぶっちゃけ今の質問もなんかあったように記憶してますし。うーむ、曖昧。それに対して千冬さんの答えは。
「あぁ、アレの妹だ」
さすがや千冬ネキ! 個人情報もなにもあったもんやないな! 箒さんが深くため息をついてらっしゃった。気持ちは分かる。あんな人が身内だったら俺の場合常に姿勢を低くしているかもしれん。うちの姉がご迷惑をかけましたとか謝り倒すことになりそうだ。身元バレした瞬間にすいませんでしたとか言って最早土下座も辞さないレベル。心労が凄そうですね!(白目)
「えぇーっ!!(マスオ並感)す、すごいっ!」
「クラスに有名人の身内が二人も、だと(困惑)」
「ねぇねぇっ、篠ノ之博士ってどんな人!?」
「天才なの!? 天才じゃったかなの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりするの!?」
いいえ、天災です。てか一人明らかに女子じゃなかったんだけど。日曜夜六時半に帰りなさい。そもそも束さんが天才で箒さんも天才なら天災というのも適応されてしまうだろ。嫌だよ、そんな箒さん。「いっくん、大好きだぞっ☆」とか言うの? それ結局束さんだな。キャラが被りまくってる。そう考えると箒さんが普通の人間でよかった。ちなみにその普通の人間である箒さんの元にはわらわらと大量の女子が集まっていく。言っちゃ悪いけどアレだな。明かりに群がる……いや、やめとこう。なんでもないです。
「……確かに家族だが、私とあの人は別だ。関係ない。むしろ血縁関係も切りたい」
「えぇ……」
「なにがあったの篠ノ之さん」
「ちょっと現実に絶望してるだけだから大丈夫だ」
全然大丈夫じゃありませんね。ヤバイぞ束さん。あんた妹に果てしなく嫌われてるぞ。妹のこと好きじゃなかったんかい。ラボで生活していたときに「箒ちゃんはねー、箒ちゃんはねー」とひたすら妹自慢をしていたではないか。ちなみにあれは酷くウザい。食事中に「あ、おっぱい大きくなってるんだよあの子」とか言われてお茶吹いたわ。その時クロエさんから残念なものを見る目で見られたりもした。悲しい。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
ただ、果てしなく嫌われていても気まずさみたいなものは解消されているようで。いや、あれで本当に解消されているのかは分からないけど。とにかくそう考えればまだマシなんじゃないかと思いました(小並感)。女体化してなお箒さんと束さんの関係修復を無意識のうちに行うとかやっぱり一夏ってスゲー。
◇◆◇
「安心しましたわ。きちんとそちらに専用機が用意されるようで」
「そうっすね」
ですわですわなのですわー!(CV.ゆかな)休み時間に席の近くへやって来たオルコットさんが腰に手を当てながらそう言う。そのポーズ似合ってますねー、さすがはお嬢様。醸し出してる雰囲気が他とは違うぜ。なるほど、これが溢れ出るチョロイン感ってやつですね。
「まぁ、どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
あ、今回は早いのね。それだけ言って踵を返しながら立ち去るセッシー。途中で一夏との間にばちっと何かが飛び散ったような気もするが多分気のせいだろう。気のせいでありたい。いや、気のせいに違いない。このクラス代表決定戦、最早女同士の戦いみたいになってて俺が完全にいらない子なんだけど。やだ植里くんいらない子。やはり転生者はいらなかったか……。
「蒼、ご飯食べに行こう」
「お、おう」
「箒も。一緒にいかない?」
「あ、ああ。そうさせてもらう」
なんつーかあれだよな。この何事も無かったかのように接する態度とかなんか怖い。いや、さっきまで敵意丸出しだった奴の行動とは思えんよ。一夏ちゃん怖い。昨日はあんなに優しかったというのに。……思い出したらあの感触で俺のヴァンガードがスタンドアップしそうなのでやめておくが。静まれ俺の煩悩。
「学食、混んでるよなぁ」
「生徒数的に仕方ないって、多分」
「私は静かな場所で食べる方が落ち着くのだが」
ともあれ、なんとか生きていけてることに感謝。もし一夏がいなかったらもう既に死んでる。むしろ一日目で死んでるまである。つまるところ何が言いたいかといえば。ぽふんと一夏の頭に手を置く。
「……? どうしたの、蒼」
「いや、なんつーか。お前がいて本当良かったわ」
「……私の前であまりイチャつくなよ」
あ、はい。さーせん。
(物語の進行スピードが)おっそーい!
駆け抜けるために足りないのはやはり速さか……