俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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女の涙はISより強い。

 手に持っているお茶碗を一旦置き、目の前のしゅんとしている一夏ちゃんを見据える。今にも泣きそうでかわいいけど怖い。女の子の涙に弱いのは男の性よ。こいつ一応は男の筈なんだけどなぁ……。女の子一番の武器はISじゃなくて涙。はっきり分かんだね。

 

「……つまり、無理……らしい」

「そっ、か……はは。あれ、おかしいな。目から汗が」

 

 もう存分に泣けよ(慈悲)。ちょっとお行儀は悪いけれども、手を伸ばして一夏の頭へぽんと置いた。そのまま撫でる。今更だけどこいつ髪サラッサラじゃねえか。なにこれ、本当に同じ人間の髪の毛かよオイ。こんなところまで忠実に女の子にしなくてもいいよ天災。本当にありがとうございます。やっべ、一夏のくせにやっべ。これはもう市役所に行くしかありませんね! いや冗談。

 

「……やめろよ、お前。気持ち悪いぞ」

「いいから。今はゆっくりしとけ」

 

 なでこなでこ。ふわふわり、ふわふわる。それ千石。隣の千冬さんが虎でも殺せそうな視線を向けてくるけど、気にしたらいけない。つーか気にしたら死ぬ(確信)。あんたさっき頬っぺたスリスリしてたでしょーが。結構傍から見たら十分な量のスキンシップだと俺は思うわけですよ。だがあれは見てられねぇ。千冬さんテンションが最高にハイッてやつになってるから気付いてないけど、一夏ちゃんすっげえ濁った目をしてたんだぞ。あれはマジで駄目なもんだと思います。何故だろう、今の例えで千冬さんが時を止めるイメージが簡単に出来たぞ。

 

「……ふむ、植里か。吃る点さえ除けば何とか……」

 

 何とかってなんですか(震え)。ごめんなさい凄く怖い。どれくらい怖いかって言うと、深夜の二時に部屋で一人呪怨をプレイするくらい怖い。心臓の弱い人はあれ絶対やっちゃ駄目だから。マジで心停止するから。

 

「ぅ……蒼ぉ……」

「あーもうなんでお前は泣くのやめろよちょっとドキッとするから心臓に悪いんだよ男だろお前ちゃんとしろよほら胸ぐらい貸してやるから」

「早口で何言ってるか分かんねぇよぉ……」

 

 箸を置いて立ち上がってから此方へ回り込み、ひしっと抱きついてくる一夏。こいつ自分がどれだけ可愛いか絶対分かってねぇんだけど。そして何時からそんな泣き虫になった。女の子になってからですね。落ち着いたかと思ったけどやっぱまだ情緒不安定じゃねえか。こいつもこいつで無理してたのかもしれん。何だかんだ言って千冬さんを支えようとバイトしてたような奴だし。受験勉強するからって今はもう辞めてるけど。

 

「俺どうすればいいんだよ……女の子とかやってられる訳ないだろ……」

「あぁ」

「しかもなんでこの時期なんだよ……あと一年間中学生活を送らなきゃならないんだぞ……」

「そうだな、本当」

「なんでだよ……なんで俺なんだよ……束さんの馬鹿ぁ……」

 

 よしよし一夏。言いたいことは分かってる。分かってますとも。全部あの天災が悪い。そう、一夏がこうして泣いているのも、千冬さんがこうも壊れてしまったのも、俺が女性苦手なのだって全部あの天災のせいだ。一つ違うだろって? そんな訳ないだろ。全部全部あの人のせいなんだ。なんと盛大な責任転嫁ッ! 俺のシャツを弱々しく握りながら時折嗚咽を漏らす一夏ちゃんを安心させるよう擦る。さすさす。背中あたりを優しく撫でてやってればなんとかなるだろ。泣き虫な子供を持つ親ってこんな気持ちなのかなぁ……。

 

「うぇぇ……ひぐっ……」

「お前ホント泣きすぎだろ……(困惑)」

「ごめん……ごめん……」

「謝んなよ。……その、何だ。今日くらいは、めいっぱい泣いとけ」

 

 正直視覚情報的にキツいんですけど、一夏のためにも少しは我慢だ。一番キツいであろう一夏がここまで頑張ってたんだし、俺だって頑張らなきゃ男が廃るってもんだろ。女性相手にバリバリ吃ってる時点で男廃ってるとか言うな。自覚はしてる。だって女性経験とか一切無いんだもの。本当の本当に童貞中の童貞だと何度言えば。自分から傷に塩を塗っていくスタイル。辛いです。今世こそは魂レベルの童貞を卒業したい。無理だと思うけど。

 

「ぅ、うぁ……うあああああああっ! 束さんのバカァァァァァァァ! アホォォォォォォ! なんで俺なんだよぉぉぉぉ! 蒼じゃ駄目なのかよぉぉぉぉお!!」

「おいコラ」

 

 不吉なことを言うんじゃありません。この状況で俺までTSしたらもう収拾つかなくなるぞ。具体的にいうと発狂する。キエェェェェェェッエーイ☆(発狂)。セロリはちょっと落ち着いて。大丈夫大丈夫、ここISの世界だから学園都市最強(ガチ)なんていない筈。……断言できないってそれちょっとやべぇな。いいや断言しよう。この世界に能力者なんて一人も居ないのだよ(キリッ)。後にこれがフラグになると、この時の俺はまだ知るよしも無かった……何それもう手遅れじゃん。

 

「クラスの奴等になんて言えばいいんだよぉ……」

「それは俺も協力する。……つーか、出来る限りはしてやるから。安心しろ」

 

 根拠はない。けど、こういう時は心にゆとりを作るのが先決だってばっちゃが言ってた。どこの世界でもばっちゃは先人の知恵を話してくれるから有能。おばあちゃんが言っていた……それは天の道を往く人です。

 

「……うん。ホント、ごめん蒼」

「何年お前の友達やってると思ってんだ。これくらいの苦労ならもう慣れた」

 

 ほんっとこいつトラブルメイカーだからなー。特に多いのが女の子関係のやつ。なにそれ俺を的確に殺しに来てる。しかも一番付き合い長いせいか、一番振り回されてる希ガス。どうして俺なんだ。容姿的には月とスッポンだと自負しているんだが。現に全くモテませんし。前世と殆ど同じになってきてるこの体がいけない。コミュニケーションの方をどうにかしろだと? 馬鹿野郎これだけ喋れてたらいつかは女子とも話せるんだよ、多分。未来は不確定なんだ。そうさ、いつかは絶対。絶対は現在進行形でしか有り得ないんですけどね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「落ち着いたか?」

「あ、あぁ。……えっと、出来ればさっきのは忘れてくれると……だな」

 

 顔を真っ赤にさせながらそう言う一夏。頬を人差し指でかいているし、本気で恥ずかしいのだろう。まぁ、昔ながらの友人にあんな泣いてる姿を見られたらなぁ……。うん。俺だったら軽く自殺してるね。その場で手首スッパーまである。包丁持ってこなきゃ(使命感)。ちなみに美少女+包丁で思い浮かぶ事柄によってその人が正常かどうか分かるらしい。真っ先にヤンデレが思い浮かんだぼくは正常ですか? えぇ、女の子が料理なんてシチュエーションは欠片も想像出来ませんでしたよ。あ、朝にしっかりと経験してたわ。

 

「一夏ちゃんは泣き虫ですねー」

「うっ……」

 

 じわりと潤う瞳。つまり涙目。

 

「すまんマジですまん本当すまんかったいやそこまで脆くなってるとは思わないだろお前」

「蒼なんて嫌いだ……」

「ごめんなさい(本気)」

「ふむ。涙目の一夏もやっぱりいいな……」

 

 千冬さんお願いだからまともに戻って(切実)。これからのことを考えるとあんたの協力が必要不可欠なんだって結構真面目に。俺だけでこの事態をどうにか出来ると思ってんのか。無理に決まってんだろ常識的に考えて。前世知識を抜いたら何もない中学生ですよこっちは。国家権力動かせる影響力なんて欠片もありません。

 

「ち、ちち千冬さんも、そそそろそろ真剣におお願いしますよっ……」

「この点さえ無ければなぁ……」

 

 だから無かったら何だって言うんだ。もういいだろ。これは俺のポリシーなんだよ。ごめん嘘。こんな恥ずかしいポリシーなんて要らねぇわ。全力で拒否するわ。本当拒否したかった……。培ってしまったものだからね、仕方ないね。

 

「──それで、何だ植里。頼みがあるんだろう?」

 

 真面目な千冬さんキタァァァァァアアアア!! ヤッタァァァァアアアア!! よっしゃ、これで勝つる! 我々の勝利だ(フラグ)。いいや今はそんなふざけている場合ではない。さっきまでこれより酷い状況でふざけてただろとか言うな。思っても心に閉まっておいて。お願い。にしても流石は千冬さんだな、話が早くて助かります。

 

「あ、その、は、はい。えっと、い、一夏の服と下着の用意とか、あ、あああと肌の手入れとかけっ、化粧とか、そういうの、ぉお願いします。えと、俺じゃ無理なんで」

「……なるほど、確かに向こう三年は女のままとくれば、それらは必要になってくるか」

 

 ふむと顎に手をあてて考え込む千冬さん。なかなか様になっておられる。流石は世界最強のお姉ちゃん。この安心感を抱かせられる人はそういない。だからお願いします。いつもその貴女でいてください(懇願)。暴走したこの人の頼り無さはギャップを越えた何かを感じる。何だろう、こう、新しい扉を開いてしまいそうな。それって完全にヤバイ奴じゃないですかやだー。

 

「……ぁ、あと、言い難いですけど、そっ、そそその、トイレとか、女性特有の生理現象とかっ」

「ふふっ。なんだ、意外としっかり考えてたのか。お前らしいな、ふざけてるようで冷静とは」

 

 これでも保健体育のテストで百点を記録した男ですからね。別に変な意味でじゃないよ?  ただしっかりと事前に勉強をしていた結果そうなった訳で。別にやましいことなんてないよ。本当だよ。だから童貞なんだよとか言うんじゃねえよおいコラ。自覚あるつってんだろちくしょう。

 

「──だから一夏。あとは千冬さんに頼れ」

「えっ」

「そうだな。あとは私がフォローしておく」

「ちょっ」

「つー訳でじゃあな一夏、ちっ、千冬さんも。また今度」

「待っ」

「迷惑かけたな植里。邪魔した」

「お前逃げやがったな!?」

 

 バタンとドアが閉まる。ふぅ、やっと安息の時間が巡って来たぜ。静かになったところで食後のコーヒーでも飲むとしよう。昔は苦くて不味かったものが何故か美味いと思うのだから、本当コーヒーって不思議。やっぱ年取ると味覚が変わってくるのかね……なんか爺臭えな。何はともあれ、今日は午前中だけで凄い疲れた。お陰でぐっすり眠れそうです。

 

「逃げたには逃げたけど、俺が役に立たないのも事実だしなぁ……」

 

 ポットが沸き上がるのをぼーっと待ちながら、そんなことを一人呟く。女性の問題には女性が一番だ。ましてや俺みたいな女に苦手意識を持ってる男なんて、使えないにもほどがある。どれくらい使えないかというと、温度調節の効かないエアコン並みに使えない。何それほんまつっかえ。

 

「うん。今日もコーヒーがうまい」

 

 ちなみにブラックじゃありません。カッコ悪ぅ……。




なんかスッゴいお気に入り増えてんだけど(困惑)

こんなんじゃ、こんなんじゃ好きにふざけられないじゃないかっ!

俺はただオリ主と一夏ちゃんのイチャラブを書きたいだけなんだよ(暴露)

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